第十一話 月の傾くころ
月が傾きだし、空がほんのりと青く染まっていきだしたころ、突然わたしは目を覚ました。
ごそごそっと音を立てながら布団をまくり、体を起こすとその隣に昨日は一緒に寝たはずの純花の姿がない。
トイレに行ったのかとも思ったがそれにしてはすでに温もりがなくなっている。
わたしは気になっていまだおぼろげだった意識を起こしながらベッドから降り、扉の方へ向かい静かに部屋を出る。
トイレの方に向かうがそこに人気はないので不思議に思っていると、足元に朝の少し冷たい風が吹き抜ける。
どこかの部屋の窓でも空いているのかと思い、その場所を探すことにする。
いくつか部屋を探していると、その風がリビングからやっているとわかった。
リビングにやってくるとそこにはソファーに座り眠っている純花の姿を目にした。
曽於の姿を目にすると、少し寒そうにしているので、まずわたしは空いている窓を閉め、近くの部屋から毛布を持ってくる。
それから、わたしは眠くなってきたので純花の隣に座り同じ毛布にくるまってもう一度眠りに落ちる。
コトコトっていう音によって目が覚める。
「やぁ、やっと起きたのかい。」
「あれ~、千夏?何しているの。」
「いや、こんな時間になっても誰も起きてこないから、私がご飯を作ろうとおもってね。」
「あぁ、ごめんね。ありがとう、ご飯作ってくれて。」
すると、ううんっという声をあげながら隣で純花が目を覚ます。
「あれ、飛鳥?千夏?なんでここに居るの?」
「純花、ここはリビングだよ。」
「え…そっか昨日夜中に起きちゃって、それでか。」
「それで、千夏、朝ごはんに何を作るの?」
「そうだな~、まぁ無難にトーストにしようかな。二人は向こうの二人を起こしてきてもらえるかな。」
「はーい、了解。起こしてくるね。」
「行ってくるわ。」
「行ってらっしゃーい。」
わたしは純花と一緒に廊下に出て、寝室の方へ行く。
二人並んで進んでいると、当然というかすぐについた。
わたしは扉のドアノブを捻り、扉を開けると、とんでもない光景がそこには広がっていた。
後ろにいた純花はいきなりわたしからドアノブを奪い、バンっと大きな音を立てて占める。
「飛鳥はちょっと後ろ向いていて。こっち見ちゃだめだからね。」
「う、うん、わかった。」
そう言うと純花はガチャっと音を立てながら部屋の方へ入っていく。
すると、部屋の方から、
「もう、二人ともなんて格好しているのよ。さっさと服を着なさい。」
「あれぇ、純花おはよう。」
「朝からうるさいよぉ、純花ぁ。」
「いいから、早く着替えなさい。というか、隠すべきところをさっさと隠しなさい。」
「わかったよぉ。ところで、あっくんと千夏はどこ行ったの?」
「千夏は朝ごはん用意してくれているわ。飛鳥はあなたたちがあんな格好しているものだから部屋から追い出したわ。」
「えー、そんなこと気にしないよ。桃ちゃんは。」
「私も気にしないわよ。」
「気にしなさいよ。一応、飛鳥は男の子だったのよ。」
「えー、もう昔の話じゃん。」
「そ、れ、で、も。」
という会話が聞こえてくる。
もう、うちの部屋の壁は薄いんだから気を付けてほしいよね。
それからしばらくして、純花と一緒に私服に着替えた眠そうな二人が部屋から出てくる。
「あれぇ、あっくんもまだ着替えてないじゃん。」
「そりゃ、私が着替える前に追い出したからね。飛鳥、使っていいわよ。」
「ああ、うん、ありがと。」
純花から許可をもらい、部屋に入って自分の着替えを探す。
今、わたしの部屋のタンスには上段に男物が下段に女物が入っている。
わたしは今でも時々男物の服が少し恋しくなって着てしまうことがある。
やはり、今でも男の自分に欠片の未練が残っているのだろうか。
そんなことを考えんながら女物の服にそでを通す。
それから部屋を出ていくとまだ、三人はそこで待っていてくれた。
三人そろってダイニングの方へ向かう。
「で、今日の朝ごはんは何なの?二人は知っているんでしょ。」
「今日は、トーストらしいわよ。それ以外はわたしたちも知らないわ。」
「そっか、楽しみだね。」
「それと、飛鳥、あとで髪の毛直してあげるわ。」
「え、なんで?」
「寝ぐせ、すごい跳ねているわよ。」
「うっそ、本当に?」
「うん、すごいよ。」
「髪が長いと大変ね。」
他の二人もうなずくので純花の言っていることは本当なのだろう。
でも、楓も髪が長いのだけど何を他人事のように言っているのだろうか。
「やあ、お帰り。桃ちゃんたちは自分で起きられた?」
「起きれたよう、失礼だなぁ。」
「まあまあ、ほら、朝ごはん出来ているよ。ごめんね、飛鳥、台所借りちゃって。」
「いやいや、作ってくれてありがたいよ。」
そう話しながら私たちは席に着く。
そのまま雑談をはさみながら千夏が作ってくれた朝ごはんを口にする。
「そういえば、今日はどうするの?」
「うーん、どうしようか。」
「いやいや、今日は飛鳥君の恋愛相談をしなくちゃ。そのダメに集まったんだから。」
「そういえば、そうだったわね。」
「ひどい、楓忘れていたの?」
「えへへ、昨日楽しかったから。」
「まぁ、というわけだから、ご飯食べ終わったら飛鳥の恋愛相談をすることにしよう。」
全員がご飯を食べ終わってコップ一杯の飲み物をのどに流し込んだ後、リビングの方へやってきて全員がわたしの方を向くような形で各々ソファーや椅子に座った。
「じゃあ、さっそく初めて行こうか。で、いったい誰に告白されたんだい?」
「あ、桃ちゃんもそれ気になってた。」
「誰にも言わないから、教えてほしいな。」
「ええ、私も約束するから教えてほしいわ。」
全員からそう言われて、仕方なく話してしまう、わたし。
「えっとね、五組の蔵元玲音っていう男の子。知ってる?」
「私は知っているよ。」
そう声を上げたのは千夏だった。
「後輩の女子の中では結構人気のある男の子だったと思うよ。」
「へえ、有名な子なんだ。」
「人気があるのは後輩からだけどね。」
「そっかぁ。」
自分事の話のはずなのにどこか他人事のことのように感じてしまう。
「ねぇ、飛鳥はどうしたいの?その人と付き合いたいの?」
「いやぁ、正直男の人と付き合う気はないんだよね。」
「じゃあ、やっぱり女の人がいいの。」
「そうだねえ。でも、そうだな、女の子っていうのも実感がないんだよね。やっぱり今が女の子だから。不思議な感覚なんだよね。みんな、どうしたらいいと思う。」
「うーん、まずは今目の前のことを解決しようじゃないか。彼とは付き合う気はないんだよね。」
「そうだね。そうしようと思ってる。」
「じゃあ、休み明けにちゃんと伝えましょう。どっちと付き合うかとかの話はまた飛鳥が恋愛に興味を持ったり、また告白されたりしたらこうやってまた集まりましょう。」
「楓~。ありがとう~。」
「え、もしかして今日の相談はこれで解決かい?この後どうしようか。」
「街に行こうよ。前に一緒に行ってからだいぶ時間が経っちゃったからさぁ。」
「いいねいいね。そうしようよ。」
「何見に行くの?」
「それは向こうに着いてから決めよう。」
町へ進出することに決めたわたしたち一行は、街へ向かうため準備に取り掛かった。
女の子になってからわかったことだがやっぱり女の子はいろいろ準備に時間がかかるものなのだ。
みんなに化粧などをいろいろ教わりながら、わたしたちは楽しく準備をするのだった。
準備も終わり、わたしたちは街に繰り出していた。
「わぁ、人がいっぱいだぁ。」
「もぉ、はしゃぎすぎだよ。桃ちゃん。」
「相変わらず、あの二人は仲がいいね。」
「あの二人の仲の良さは以上だと思うけどね。」
春にしてはまぶしすぎる日差しの下、湯気立つアスファルトの上、きらびやかなオシャレをして街を歩くわたしたち五人。
周囲の人間からはどのように映っているのだろうか。
わたしたちみたいなかわいい女の子たちが集まっている絵面というものは。
「飛鳥、今、自分のことをかわいいって思ったでしょ。」
「はあ⁉なんで分かっちゃうの?」
「やっぱり思ったんだ~」
「あ」
純花なんで分かるんだろうか。
やっぱり女の子の勘ってすごいんだなぁ、そんなバカみたいな感想だけが頭に残っていた。
わたしたちが最初に向かったのは映画館だ。
ちょうど、人気のアニメーション映画がやっていたので、そのチケットを高校生五人分買って来た。
「ありがとう、飛鳥。」
みんなからそう言われる。
そのあと、千夏と楓が売店でポップコーンを二つと飲み物を五つ買ってきてくれた。
もうその時には開場五分前になっていたのでわたしたちはチケットとポップコーンと飲み物をもってシアターの方へ足を向ける。
シアター内では五人が横一列に並んで座る。
端から純花、飛鳥、千夏、桃、楓の順番で座り、純花とわたし、千夏と桃ちゃんと楓でポップコーンを分け合った。
映画自体は久しぶりに見るシリーズの作品だったので、知らないキャラクターが登場してきたりして、最初は戸惑ったが徐々にそのキャラの個性がわかってくると、次の展開が気になってくるようになった。
知らないうちに飲み物からズズズッという音が立つようになっていた。
ポップコーンが空になっているころには、映画も終盤に差し掛かっていて微笑ましいようなシーンが流れており今まさに主人公が大好きな幼馴染に告白する場面である。
映画が終わり、わたしたちはシアターから出てくる。
すると、楓がグッズ売り場に行きたいというのでついていく。
わたしたちがポスターなどいろいろ見て回っている間に、楓はジグソーパズルを買っていた。
楓曰く、ジグソーパズルが趣味なのだという。
やっぱり、買い物というのはその子のいろんなところを知ることができるものなのである。
買ったジグソーパズルを映画のイラストが印刷された袋に入れてもらった楓。
その後、映画館から出てくる。
「いやー、映画面白かったね。次はどうする?」
「お腹がすいたからご飯にしたいわ。」
「そうねぇ、私もその意見に賛成ね。」
「じゃあ、ファミレスにでも行こうよ。」




