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外伝Ⅰ 6.天空のオルゴール ~前日談~

天空の塔が静かにそびえ立っていた。塔の姿は夜空に溶け込むようにして、静謐な威厳を放っていた。その頂には、伝説の宝「オルフェウスのオルゴール」が眠っている。オルゴールは、かつて音楽家オルフェウスが作り上げたもので、その音色には人の心を操る力が宿ると言われていた。しかし、このオルゴールの存在を知る者はほとんどいなかった。それは数世代にわたって塔の中で守られ、外界と隔絶された場所に置かれていた。

しかし、最近になってそのオルゴールが危険な組織「ヘルモイラ」に狙われるようになった。その理由は、オルゴールが持つ力にある。オルフェウスのオルゴールの音色は、人々の意識に深く働きかけ、精神を操る力を持っているだけでなく、歴史的な秘密が隠されていると噂されていた。伝説によれば、その音色には世界を揺るがすほどの影響を与える力が込められており、特定の人間の意識を完全に支配し、予言のように未来を変えることができるとされていた。

ヘルモイラは、この力を手に入れれば世界の秩序を崩し、無限の支配権を握ることができると信じている。彼らは秘密裏に、オルゴールの存在を知り、その位置を突き止めるために動き出したのだ。オルフェウスの音楽家としての知識と技術は、高度な技術を要し、時間とともに失われていった。しかし、オルゴールそのものには、その力が未だに秘められていると信じられている。ヘルモイラは、この遺産を手に入れることで、新たな時代を築くつもりでいる。

アリスはそのことをまだ知り始めたばかりだった。だが、心の中で何かが引っかかる。父親が隠そうとしているもの、隠している理由が、アリスには理解できなかった。

「でも、お父さん。最近、ヘルモイラのことを聞いたわ。彼らがオルゴールを狙っているって。もし彼らがそれを手に入れたら——」

その言葉を聞いた瞬間、父親の表情が一瞬で硬直した。アリスはその変化を見逃さなかった。父親は深いため息をつき、窓の外を見つめながら言った。

「だからこそ、我々は塔を守らなければならない。このオルゴールの力は、ただの音楽の道具ではない。かつてそれを作った音楽家オルフェウスは、自らの命をその音色に捧げ、世界に対する力を与えるものとして、それを作り上げた。それに触れることは、決して容易なことではない。」

その瞬間、アリスの胸の内で何かが弾けた。父親がどれだけ真剣に語っているのか、そしてその言葉が意味するところが、彼女には理解できた。オルゴールが持つ力、そしてそれを手に入れようとする「ヘルモイラ」という組織の危険性。アリスは今、この塔を守ることがどれほど重要なのかを、初めて実感していた。

「私も手伝うわ。」アリスは決意を込めて言った。その言葉は、父親にとって予想外だったようだ。彼は目を細めて、少しだけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐにその表情を引き締めて静かに答えた。

「だが、無茶をしてはならない。あのオルゴールの力は計り知れない。お前の命がかかることを忘れるな。」

アリスはその言葉をしっかりと胸に刻みながら、父親とともに塔の中を歩いた。月明かりに照らされた石の床が冷たく、静寂の中で彼女の足音だけが響いていた。アリスはその時、ある決意を固めた。この塔を守るために、自分の力を尽くし、オルゴールの力を悪用させないために、どんな困難が待ち受けようとも戦う覚悟を決めたのだった。

その夜、アリスは父親から塔のセキュリティシステムや秘密の通路の位置など、あらゆる情報を教えてもらった。だが、彼女の心にもうひとつ、大きな疑問が浮かんでいた。最近、ヘルモイラがただの盗賊団でないことは分かってきた。彼らはただの野心を持った者たちではなく、何か背後に大きな力が働いているように思えた。そして、その力の中でアリスが知っている人物——アルトという名前が、ふと浮かんだ。

アルトは父親の古くからの知り合いであり、かつて塔の防衛の手助けをしていた人物だ。しかし、彼が一度塔から姿を消して以来、父親はアルトについて語ることを避けるようになっていた。アリスには、彼が塔の秘密を知っているのではないか、あるいは何かを隠しているのではないかと感じていた。

その夜、アリスはついにその疑問を父親にぶつけた。「お父さん、アルトのこと、少しだけ教えてくれない? 彼は本当に何をしていたの?」

父親の顔に、かすかな陰りが差し込んだ。目を細めて、静かに答える。 「アルトは、確かに信頼できる男だった。しかし、何かがあったんだ。彼はある時から、塔から離れ、姿を消した。それ以降、我々の間には距離ができてしまった。」

アリスはその答えに満足できなかった。アルトはなぜ離れたのか、そしてなぜ今、彼の名前を耳にすることがないのか。彼女の心に疑問が残り、解けることはなかった。


本編へ続く。

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