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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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8.会議

 今日は帝国の要人を招集し会議を開催する。


 帝国城の会議室に招かれたのは、帝国騎士団団長のバーナード公爵、副団長のクラーク公爵と動物学者のテレーズ・ロジェ伯爵。そして得体の知れない漆黒のマントをまとった男性が着席していた。


 帝国の出席者は皇帝と二人の皇妃と僕。そして宰相のモンテス公爵だ。

会議室に後から入室し上座へ歩いて行くと、招かれた4人が僕を驚いた顔で見ている。


 動物学者と黒い騎士は初めて会う。でも騎士団長と副団長は何度か顔は合わせている。

何をそんなに驚いているのだろうか?


 皆の驚きの顔には構わず、お父さまは会議を始める。

「皆の者、ご苦労である。あぁ、挨拶は良いぞ。今日は怨獣について明らかになったことを共有しようと思う」

「怨獣?」

「怨獣・・・で御座いますか?」


 皆、きつねつままれた様子で口をぽかんと開けたままとなった。

「うん?どうしたのだ?議題が怨獣で何かおかしいのか?」

「あ、あの、陛下・・・恐れながら・・・怨獣のお話で何故、皇子殿下が同席されているので?」

 椅子にちょこんと座る僕を見つめながら、騎士団長が皆の疑問を代表して質問した。


 あぁ、そうか。お父様は騎士団長に僕が転生者であることや古文書を解読したことを話していないのだな。


「おお!そういうことか。これは失念しておった。実はな、エリアスは古文書を解読し、怨獣の正体を突き止めたのだ」

「え?古文書を?た、確か殿下はまだ5歳では?」

 ロジェ伯爵は未だに狐に抓まれたままだ。


「ロジェよ。解からぬか?古文書が読めるということは、エリアスはこの世界の人間ではないのだ」

「ガタンッ!」

「ま、まさか!」

 副団長が急に立ち上がり、顔面蒼白になった。


「まさか・・・か、神様!・・・神様が再び降臨されたのですか!」

 最後は声が裏返り、叫ぶ様に言った。


「神様?再び?僕がですか?」

「クラークよ。落ち着け。まだそういうことについては何も判っておらんのだ」

 お父様が、その場に立ちすくんで震える副団長に声を掛けた。一体どういうことだろう?


「エリアス、お前には言っていなかったのだが、先日話した5代前の皇帝がその人だ。この星に文明をもたらし、科学技術を教えたのだ。よって、神とたたえられたのだ」

「なるほど。どの歴史の本を読んでも神が発明したとか、神が名付けたとか、実名が書いていなかったのです」

「うむ。それは・・・まぁ、そういうことだ」

 お父様は微妙な表情で目線を逸らしながら言った。


 あぁ、アレクサンド・アルカディウス皇帝は元日本人だったのか。そして地球の文明を持ち込んだから神とあがめられたのだな。しかし悲劇があったから実名を残せず、神と表現された訳か。


 え?でもおかしいな?百年以上も昔のことだよね?今のこの世界の科学技術は僕の生きた地球の文明よりも、かなり進んでいるものを結構見るのだけどな・・・


 やはりこの世界は謎が多いな。これからゆっくりと謎解きしていくとしようか。


「では、エリアス。始めてくれるか」

「あ。はい。承知しました」


「まず始めに、古文書にあった記述では、怨獣は強い魔力を持つ貴族たちの成れの果てだと書いてありました」

「我々貴族の成れの果て?」

「皆さん、貴族が全員、怨獣になるのではありません。生前に強い憎しみや怨みを抱えたまま亡くなった者が怨獣に成れ果てるのです」


「つまり、人の怨みや憎しみが獣に憑依ひょういして怨獣となる。そういうことですか?」

「はい。その通りです」

 騎士団長が冷静に質問をした。


「そ、それでは獣型と人型の違いは?」

 動物学者のテレーズが興奮気味に食いついて来た。


 彼女は風の国の貴族だが、魔力量が低いのだろう。アホ毛が数か所飛び出た茶色を基本に緑がかった髪に薄い緑色の瞳。言っては悪いのだが、学者然とした野暮ったいドレスを着ている。


 ロジェ伯の名誉のために言っておくが、顔立ちはとても綺麗だ。


「それは生前の魔力量の違いです。少なければ獣型に留まり、多いと獣から人に近い形まで変化へんげできる様です」

「ふぅん。だからか・・・」

 一人、冷静に相槌を打ち、つぶやいたのは黒い騎士だ。


「随分前だが、人型が人の言葉を話したのを聞いた。化け物なのに何故、人の言葉を話すのか解からなかったがこれでに落ちた」

「あの・・・」

 僕は黒い騎士の顔を覗き込む様に声を掛けた。


「あぁ、エリアス。その男は、帝国騎士の夢幻旅団むげんりょだんの団長、コンラード・バルデラス公爵だ」

「夢幻旅団とは?」

「帝国騎士団は主にこの城と帝都を守備しておる。夢幻旅団は対怨獣部隊なのだ」

「なるほど!では、怨獣と数多く戦っている部隊ということですか!」

「そういうことだ」


「騎士服は騎士団と同じ白なのに、何故マントは黒いのですか?」

「怨獣は基本的にですが多くは夜に出現する。だから我々も闇に紛れるためにこの色なのです。だが、騎士服も黒くしてしまうと怨獣との区別がつき難くなる。だからそれは白なのです」

「理にかなっていますね!良く解かりました。ありがとうございます」


「では、お話を進めますね。皆さんにお配りした資料をご覧ください。これはこの10年間の月齢と海の潮位、それに怨獣が出現した日時を表にまとめたものです」

「こ、これを皇子殿下が作成されたのですか?」

 副団長はまた面食らった顔をしている。


 あぁ、そうか。お父様は僕のことを古文書が読めると言っただけで、前世の記憶のある大人だということは知らないのだったな。


「皆さん、僕にはこの世界ではない異世界で生きた記憶がそのまま残っているのです。前世では21歳まで生きましたので、学問や科学の知識、格闘技術はある程度持っているのですよ。だから、この姿は5歳の子供に見えるでしょうが頭脳は大人なのです」


「ふむ・・・既に前世の知識で身体も鍛えておるのですかな?5歳でその身の丈、そして腰に下げたその剣・・・」

「えぇ、何時何が起こるかわかりません。それに僕は無能ですから。いざという時のためにできることを準備しているのです」

「なるほど・・・」

 バルデラス団長は鋭く、冷めた眼差しで僕の品定めをしている様だった。


「では、資料の説明を差し上げます。この星にはルナ、エウロパ、タイタンと3つの月があります。この内、ウーラノスに一番近くて大きい月、ルナの満月と新月の日を見てください」

「なに!怨獣は、ほとんどが満月か新月の時に出没しているではないか!」

「はい。そうです。必ず出現している訳ではありませんが、この10年では89%とかなりの確率で出現しています。ただし、これは獣型の話です。人型については必ずしもこれに当てはまりません」


「それは何故なのでしょうか?」

「動物学者のロジェ伯であれば、お解かりになるのではありませんか?」

「そうですね。これは推測ですが、私の知るところでは動物は満月と新月の時に異常行動を起こす場合があります」


「ロジェ、それは何故なのだ?」

「恐らく、月の引力に影響を受け狂わされるのかと・・・」

「月の引力?それはなんだ?」


「お父様、この表に潮位も併せて記録してあります。満月の日、月が真上に来た時、海の水面の高さが月に引っ張られて高くなるのです。そして月が水平線の位置にくると水平に引っ張られ、潮位は下がるのです。これを潮の満ち引きと言います。この様に月はこの星に影響を与えているのです」


「月が?あんなに遠く、ちっぽけな月がか?」

 ちっぽけ?ルナは地球の月に比べたら、見た目だけでも百倍は大きく見える。落ちて来ないのが不思議な程にね・・・


「お父様。人間の女性はこの月の影響を受けて生理の周期が決まっているのですよ」

「まぁ!エリアスこんなところで何を言い出すのですか!」

 お母様が血相を変えていきり立った。アドリアナお母様も顔が真っ赤になった。


「エレノーラ皇妃殿下。恐れながら申し上げます。皇子殿下のおっしゃったことは科学にもとづく動物の生理現象のお話です。恥ずかしいお話では御座いません」

「ロジェ伯、補足をいただき、ありがとう御座います。お母様そういうことですので悪しからず」

「わ、わかったわ。余計なことを言ってごめんなさい」

「良いのです。お母様」


 お母様は25歳の娘らしく、そんな話で顔を赤くする可愛らしくも美しい、本当に素敵な女性だ。怨獣の話をするこの席に似つかわしくない程に。


「まとめますと、満月や新月の時、動物の行動は不安定となります。そこにつけ込んで、元貴族の悪霊となった魂が動物に憑依するのではないかと推測します」

「なるほど・・・確かに思い出してみれば、怨獣と戦っていたのは満月の明るい夜か、そうでなければ新月の真っ暗な闇の中のどちらかだったのかも知れぬな・・・」

 バルデラス団長はそう答えた後、目を閉じ、手を顎に添えて考え込んだ。


「勿論、満月や新月でも満潮や干潮は日中でも起こります。日中の怨獣討伐を担当する帝国騎士団では覚えのないことでしょう」

「確かに、我々では気付けませんね」

 僕の補足に騎士団長は腕組みをしてうなずき、副団長は確認する様に答えた。


「では、人型がその条件を必要としないのは、魔力が強いから獣が不安定になるのを待つ必要がない、ということですね?」

「はい。その様に推測します」

「うむ。理解し易いですね」

 騎士団長や副団長も僕の説明に納得してくれた様だ。


「ですから、今後は満月と新月の潮位が満潮や干潮になる時間に特に警戒を強めて警備すると効率が良いのではないでしょうか」

「まずはそういうことだな。だが、それでは人型には対応できないのだな?」

「お父様、人型はここ10年でも数える程しか出現していません。それに完璧に対応するためには夢幻旅団が幾つも必要になってしまうと思います」


「いや、夢幻旅団は増やせないな」

「そう言えば、夢幻旅団は何旅団あるのですか?」

「いや、夢幻旅団は一旅団だけだ」

「え?それで、どうやって怨獣に対処していたのですか?」


「怨獣が出現する度に、私が転移魔法で現場へ送っているのだよ」

「あーなるほど。つまり、夢幻旅団は戦闘経験値が高く、魔力量の多い精鋭だけで組織されているのですね?」

「ふむ・・・」

 バルデラス団長は、僕の話を腕組みしたまま聞いていると思ったら最後にひとつ相槌を打った。


「今わかっていることはそれくらいですか?」

「はい。それで是非、バルデラス団長にお聞きしたいことがあるのですが?」

「なんでしょう?」


「獣型の怨獣は、熊、虎、狼、猪、牛、山羊、羊などが多い様ですね。これらを倒す際の致命傷として、どんな攻撃が有効なのでしょうか?」


「ふむ。今日の話から思い出してみると、獣の種類や大きさの違いではなく、やはり魔力の大きさで違うのだと思います。斬る、刺す、焼く、凍らせる。どれかで倒せるものも居れば、足を斬ってもまた生えてくるものも居る。何が致命傷となるかは戦ってみるまで判らないのです」

「なるほど。それは厄介ですね」


 怨獣が何ものであるのかは判ったものの、その対処については新たな情報が無いので、皆の表情が明るくなることはなかった。


 だが、僕としては収穫があった。生前の魔力が高くない獣型の怨獣であれば、能無しの僕でも倒せる可能性があることが判ったのだから・・・


「戦闘は今まで通りにやるしかないのだな・・・だが、出没の可能性が高い時期が判明しただけでも警備はし易くなる。そうだな?バーナード、バルデラス」

「おっしゃる通りに御座います。皇子殿下、本当にありがとう御座います」

 帝国騎士団団長のバーナード公は子供の僕に丁寧に礼を述べた。


「今日の内容は即刻、各国へ通達致します」

「あの・・・」

 ロジェ伯は遠慮がちにお父様の顔色を覗いながら声を出した。


「ロジェ、何だ?」

「このことを広く世の中に伝えるのにテレビ番組を制作しては如何でしょうか?」

「うむ。そうだな・・・いや、それは止めておこう。何故なら、怨獣が貴族の成れの果てであることを知ったら、一般民衆は貴族をどう思う?」

「あぁ、おっしゃる通りに御座います。私が浅はかで御座いました」


「お父様、それでは貴族の意識は改善されません。一般民衆から責めを受けようとも、まずは事実を受け止め、原因を追究し、根本の意識から変えて行きませんと!」

「陛下、エリアスの言う通りだと思います。ご再考をいただければと思います」

 お母様はそう言うと僕を真直ぐに見つめてうなづいた。やはり、お母様は僕の味方だ。


「そうか・・・うむ。我々貴族も覚悟を決めねばならぬということだな。では、ロジェよ。テレビ番組の方は任せたぞ」

「仰せのままに」


 だが、バルデラス団長はまだ何かを考えている様子だった。


「では、今日の会議はこれにて閉会とする。皆の者、ご苦労であった」

「陛下、ひとつ皇子殿下にお願いがあるのですが?」


 バルデラス団長は無表情のまま、お父様に申し出た。そんな彼をじっくりと観察すると、燃える様な深紅の髪に赤い瞳。余程、火の魔力が強いのだろう。年の頃はバーナード公やお父様と同年代といったところか。


 お父様にお願いがと言いながら、バルデラス団長の目つきは人にお願い事をする時のそれではない。


 元々、そういう目つきなのか、常に怨獣と対峙していてそうなったのか、兎に角、目つきが鋭いのだ。まるで獲物を狙っている肉食獣の様だ。


「ん?珍しいな。コンラード、何だ?申してみよ」


「皇子殿下の剣の腕前を見せていただきたいのです」


 な、何だって?僕の剣の腕前を見せろだって?!

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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