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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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79.運命

 久しぶりの学校だ。城の玄関に集合すると、ガブリエルが暗い顔をして出て来た。


 あ。しまった。アニエスとの幸せにかまけて彼のことを忘れていたよ。

「おはよう御座います。エリアス様、アニエス様、皆さまも・・・」

「おはよう!ガブリエル」


「ガブリエル、司祭の悪行は発表されたが、君とお母様は関係ないことも記されていた。気にするなと言っても無理だろうけれど、君は前を向いて歩くしかないんだ。私にできることは何でもするから、元気を出してくれ!」

「エリアス様、私などのために・・・ありがとう御座います」

 ガブリエルは聖アニエス病院の貴重な医師の一人だ。守らないとな。


 皆で学校へ登校すると、校門には全校生徒が集まっているかの様な人だかりだった。

「エリアス皇子殿下、アニエス様。ご婚約、おめでとう御座います!」

 皆が一斉に声を合わせてお祝いの言葉をくれた。


「皆さん、ありがとう!」

「皆さま、ありがとう御座います」

 僕たちはふたり並んでお礼を述べ軽く会釈した。


 教室へ行くと、皆が僕らの席に集まって来て、嬉しそうに話し掛けてきた。

「エリアス様、それでは来月のダンスパーティーはアニエス様と踊るのですね!」

「うん。練習しないといけないね」


「あ!キース様は?どなたをお誘いするのですか?もう、お相手はお決めになっていらっしゃるのですか?」

「え?私ですか?私は・・・そうですね。もう決めなくてはいけませんね」

「えーっ!私、まだ、どなたにもお誘いを受けておりませんの!」

「私もです!」

「わ、私も!」

 キース狙いのご令嬢たちが興奮して、我も我もと迫って来た。


「ふーん。キースってやっぱりモテるんだね」

「エリアス様ほどでは御座いません」

「そうか、お相手はまだ決めていないんだね?」

 僕は白々しくジュリアにも聞こえる様に聞いてみた。

「えぇ、それはまだです」


 そう言って、キースは僕越しにジュリアの顔を見つめた。ジュリアは、ハッと気付くと、少し頬を赤く染めながら視線をずらして誤魔化した。


 そう。そうやって誤魔化せるって、ちょっと羨ましさを感じてしまうな。男女のそういう気持ちって、ちょっと気恥ずかしいものだよね?


「キース、今夜から夕食後にダンスの練習をしようと思うのだけど、一緒にどうだい?」

「あ。いいですね。是非、ご一緒させてください」

「勿論だよ」


「それはそうと、フェリックス様を侍従、いや、旅団に勧誘されるのですよね?」

「あぁ、そうだね。今日の昼食の時に返事を聞こうと思っているんだ」

「きっと、承諾しますよ」

「レオン、そうだと良いのだけれどね」


「だって、光の神様の侍従ですよ?断る方がどうかしています」

「そうね。なりたくてもなれるものではないのですからね」

「では、ジュリアは一生、エリアス様に仕えるということ?」

「勿論!」


「え?結婚は?」

「それは・・・判らないわ」

「ほう。結婚はしない。が口癖ではなかったのかな?いつ心変わりしたんだ?」

「レオンのくせに!あなたなんて、いつも鼻毛が一本飛び出して恥ずかしい思いをすればいいんだわ!」

「なんだそりゃ?!」


 ジュリアは一瞬、キースの顔を見つめると、口を尖らせ、頬を赤くしてそっぽを向いた。

これは照れ隠しだな?・・・脈はあるのかな?


『エリアス、ジュリアはもう、キースのことが気になって仕方がないのね』

『アニエス、やっぱりそうなんだね。でも、それは愛なのかな?』

『うーん。もう一押し、かしら?』

『そうか、キースも頑張らないとな』

 僕たちは心で会話して見つめ合い、笑顔を交わした。


「あぁ、エリアス様とアニエス様、幸せそうです!」

「本当に!素敵なカップルですわね!」

「やっぱり、皇子様と聖女様。絵になるわ!」

 ふふっ、皆にはそう見えるのか、それは悪くないな。


 昼休みとなり、食堂にある皇室の特別席に集まった。

リカルドの護衛のフェリックスに事前に打診していた件の返答を聞いた。


「食事をしながら聞くのもおかしいけれど。フェリックス、この前打診した件はどうかな?」

「はい。是非、お受けしたいと存じます」

「そう、それは良かった。皆、今後、フェリックスは私の侍従となることが決まったよ」

「フェリックス様、どうぞ、よろしくお願いいたします!」

 皆が声を合わせ歓迎した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「学校に居る間は、今まで通りにリカルドの護衛を頼むね。朝の鍛錬と放課後は私の侍従だ」

「承知いたしました!」


「早速だけど、今夜はダンスの練習をするんだ。フェリックスも先輩として指導をお願いしても良いかな?」

「私がダンスの指導ですか?どなたに?」

「そうだな・・・それは・・・フィオナかな?」

「え?私で御座いますか?」


「あれ?フィオナにはお相手が居るの?」

「そ、そんな・・・滅相も御座いません!」

「居ないのでしょう?それならフェリックスにダンスを教わっても良いでしょう?」

「フェ、フェリックス様に・・・失礼・・・なのでは・・・」

 フィオナは真っ赤な顔をして蚊の鳴くような声でつぶやいた。


「フィオナ嬢、私が相手ではお嫌ですか?」

「そ、そんな!」

「ガタンッ!」

 フィオナは席を立ちあがり、大きな声で叫んだ。食堂に居た生徒たちが、一斉にこちらに振り返った。


「あ!し、失礼いたしました!フェリックス様、申し訳御座いません。嫌などということは決して御座いません」

「そうか、では、お相手をさせていただきます」

「あ、あ、ありがとう・・・御座います」

 あーあ、フィオナは真っ赤な顔でガチガチに緊張してしまっているな。意識し過ぎだよ。


「あ、あの!レティシア、私のダンスの練習のお相手をお願いしてもよろしいですか?」

「はい。勿論!喜んで!」

 こちらはすんなりだ。あ、そうだ。レティシアの両親にガブリエルのことを根回ししておかないといけないな。司祭は指名手配犯だ。その息子と王女を結婚させるのは難しいだろうからな。何か手を考えないと・・・


「あー!みんな、決めてしまうのですね!では、私も・・・ジュリア様。私だけお相手がいないのです。どうか可哀そうな私のお相手をお願いできないでしょうか?」

 キースはまるで仔犬の様な視線でお願いポーズを決めた。ちょっとあざといぞ、キース。


「え?私?そ、そうね・・・誰も相手がいないのなら・・・仕方がないわね。わかったわ」

「ありがとう御座います!ジュリア様」

「もう!可愛いんだから!断れないじゃない!」


 ジュリアは真っ赤な顔をしてプリプリ怒ったフリをしていた。そんなジュリアの方が可愛いよ。でも、これでダンスを口実に形だけなら全てのカップルが成立した。


 その夜、夕食後に侍従に集まってもらい、ダンスの練習をすることとなった。


 ダンスの先生はお母様とグレースにジュリアとフェリックス。僕とアニエス、キース、フィオナ、ガブリエルとレティシアが生徒だ。


 アドリアナお母様、サンドリーヌお母様、リカルドとレオンが見学している。

まずはお母様の手拍子で基本のステップを繰り返し覚えていく。


 ある程度覚えたら音楽を流して踊ってみる。上手く回転できずによろけたり、相手の足を踏んでしまったりして、すんなりと踊れる様にはなれない。グレースが座ったまま、ぎこちない動きの者にアドバイスを送る。


 僕はアニエスをリードしながら、なんとか形にしていく。

「どうだろう?結構、形にはなっているのでは?」

「えぇ、そうね。とても楽しいわ!エリアスはリードが上手ね」

「そうだね。剣術では相手の動きを見切るからね。アニエスの動きに合わせるのはできているかな」


「でも、見てごらん、ガブリエルたちが一番上手に踊れているかな?」

「そうね。あのふたりは息もピッタリだわ!」

「あとはどうやって、アルフォンソ王を説得するかだな」

「あのふたりの結婚ね。司祭のことがあるものね」


「親なら反対するのが当たり前だものね。どうしたものかな」

「それをエリアスが考えてあげないといけないの?」

「おかしいかな?」

「とても面倒見の良い神様なのね?」


「そういうこと!あ、そうか。その手で強引に持って行っても構わないかな?」

「どうするの?」

 僕は心での会話に切り替えた。


『アニエス、ここからは口に出せないな。ふたりを僕の侍従にして、聖アニエス病院に取り込むんだ』

『あぁ、神の使徒として手元に置き、アルフォンソ王に有無を言わせない戦法ね?』

『アニエス、良く解かっているじゃないか!』

『エリアスの考えることですもの』


『それで、キースとジュリアはどうするの?』

『あのふたりは放っておいていいよ』

『自然に結ばれるってこと?』

『今のままでは時間が掛かるかも知れないけれど、ジュリアにはもう少し、時間か何かのきっかけが必要じゃないかな。無理に進めても良い結果にならない気がするな』


『そうね。そう言われるとその通りだわ。では、フィオナたちは?』

『私の見立てでは、フェリックスはもうフィオナを気に入っているのではないかな?フィオナはフェリックスから申し込まれたら必ず受け入れるだろう』

『エリアス、あなたって愛の神なの?』


『そんなことないさ。自分のことではダメ駄目だったでしょう?』

『ふふっ、そうかも!だけど、他人ひとのことは良く見えるのね?』

『そうだね。前世でつちかった処世術って奴だよ』

『それなぁに?』


『私に関係する人間が、自分に敵対するのか、害を与えないのか、自分をどう思っているのか。まずは見極め様とするクセがついてしまっているんだ』

『相手がどんな人間か良く観察するということね?』

『そう。それを無意識に繰り返しているうちに相手の考えることが読める様になってきたのかな?』


『そう・・・でも私のことは良く解からないって言ったわよね?』

『アニエスは聖獣と同じだからね』

『私が聖獣?』

『存在自体が夢の様って言うか幻想的な存在なんだ。なにかふわふわしていて、つかみどころがないんだ』

『それって、良いことなのかしら?』

『私にとっては愛しい存在だよ・・・』

『まぁ!エリアスったら!嬉しいわ』

 そしてどちらからともなく、抱きしめ合っていた。


 いつの間にか、音楽は止んでおり、皆が呆然と僕らを見つめていた。その視線に気付き、僕は慌てた。


「あ!いけない!やってしまった!」

「あら?なんでみんな私たちを見ているの?」


 僕らはフロアの真ん中で皆が見ている中、踊るのを止めて黙って長いこと見つめ合い、そして抱き合ってしまったのだから。


「エリアス、今はダンスの練習中なのだけど?」

「あぁ、お母様、すみません。つい踊りながらアニエスと心の中で会話している内に踊っていることを忘れてしまいました」

「あーあ。お熱いことで!」

「あ~羨ましい!」


「それでは、今日はあと一曲だけ踊って終わりにしましょう。皆、自分がどこまでできているか確認しながら踊ること」

「はい!」


「アニエス、やってしまったね」

「ふふっ、続きはベッドの中で話しましょう」

「ベッドの中・・・か」

「あ。お話ではなくて、他のことをしたい?」

「そ、それは・・・」


 フェリックスとフィオナは苦戦していた。フィオナが緊張し過ぎて思う様に動けないのだ。

「フィオナ嬢、緊張し過ぎているのではないかな?」

「あ!も、申し訳御座いません!」

「フィオナ嬢、謝る様なことではありませんよ」

「でも、私・・・上手くできなくて」

「だから練習しているのでしょう?もっと気楽に!」


 フェリックスは物腰柔らかく、常に紳士らしく接し、笑顔でフィオナをリードした。


「で、でも、フェリックス様は公爵閣下のご子息様です。私の様な者を相手にさせるなんて・・・」

「フィオナ嬢は侯爵令嬢ではありませんか。何故、その様に自分を卑下されるので?」

「もうご存じでしょう?私は借金の形に売られようとしていた娘です」


「貴族にはままある話ですし、そのお話はあなた自身が望んだことではないはずです」


「それであなたの価値が地に落ちた訳ではありません。それを承知しているからこそ、神があなたを救い、側に置いているのでしょう?」

「フェリックス様、その様におっしゃってくださるのですか・・・」


「私はエリアス様を神と信じて疑いません。その神の旅団に迎えていただけたことも幸せでしたが、そこにフィオナ嬢が居ることを知っていたから二つ返事で承諾したのですよ」

「え?」

「信じられませんか?」

 フィオナはきつねつままれた様な顔できょとんとしていた。


「では、こう言ったら如何ですか?フィオナ嬢が1年生の時、私は3年生でした。学校の魔術の授業の実習で何度かフィオナ嬢を見掛けていたのです」

「私を?2年前に?」

「えぇ、とても真面目に楽しそうに魔法を操るあなたから目を離せなくなったことを今でも覚えています。そしてリカルド様の護衛に選ばれ、学校に戻った時、エリアス様の侍従となっていたあなたを見てこれは運命だと悟ったのです」


「え?運命・・・で御座いますか?」

「私もあなたもエリアス様の侍従となったのです。レオン様とグレース様の様に夫婦となって共に仕えることができたらと・・・」

「そ、それって・・・わたしと・・・け、結婚するということ・・・で御座いますか?」

「私では不足でしょうか?」

「そ、そんなこと!」


「良かった。では私を受け入れていただけるのですね?」

「わ、私で・・・本当に私で良いのですか?」

「フィオナ嬢が良いのです」


「し、信じられません・・・」

「信じてはいただけないのでしょうか?」

「あ!い、いえ、そんなこと!失礼しました」


「では、改めて。私と結婚していただけますか?」

「は、はい。ありがとう御座います。よろしくお願いいたします」


 ダンスが終わると、フェリックスはフィオナの手を握ったまま僕に向き直った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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