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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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7.悲恋

 この世界の貴族が死後に怨獣へと成れ果てている理由を調べたい。


 貴族の結婚や恋愛に絡む悲しみや怨みが、その成れの果てとして怨獣となっているかも知れない。


 侍従のアリスの歌について、もう少し掘り下げて聞いてみた。

「アリス、そのご先祖は誰なのか聞いたことはある?」

「あ。はい。ご高名こうめいなお方ですので・・・」

「高名?どんな人なの?」


「はい。私からは4代前にさかのぼるそうで、今では遠縁とおえんとなっておりますが、現在の司祭様の5代前の奥方様。第二聖女のクローディア・ルイス・エヴァノフ様で御座います」

「え?聖女?」

「はい」


 聖女が愛の歌を作ったのか。昔には貴族にも恋愛があったということだな。

「では、その聖女は司祭をとても愛していた、ということなんだね?」

「あ。それは違うらしいのです。この詩は叶わなかった恋を悲しむ歌なのだそうです。でも私はそれ以上のことは存じ上げないので御座います」

「あぁ、何か事情があったのだね」


「私にはよくわからないのですが・・・」

「そうか、アリス。色々と教えてくれてありがとう」

「いえ、とんでも御座いません。お役に立てたならば嬉しいのですが・・・」




 僕は昼食の席で早速、お父様とお母様に話してみた。

「お父様、お母様、今朝、アリスから恋愛の話を聞いたのです」

「あぁ、前に言っていたな、異性を愛する気持ちのことを」

「はい。アリスが口ずさんでいた愛の詩は、クローディア・ルイス・エヴァノフという聖女が作った詩だそうです」

「何?クローディア?それは・・・」


 お父様は明らかに顔色が変わった。何だろう?

「クローディアという聖女には何かあるのですか?」

「エリアス、それを聞いてどうしようというのだ?」

「いえ、関係があるのかは判らないのですが、アリスは今、望まない相手との結婚を強いられようとしているのです。貴族同士のそういった恋愛に関わる想いや怨みも、もしかしたら怨獣と関わるものがあるのではないかと考えたのです」


「そ、そうか・・・それならば母上から話を聞いてみるとするか・・・」

「お父様もご存じないお話なのですね?」

「うむ。噂話は知っておるよ。だが、5代も前のことであるし、父上からは知る必要はないと教えていただけなかったのだよ」

「そうですか。もしお伺いできるならばお願いしたいと思います」

「わかった」


 そしてその日の晩餐に火の国から前皇帝と前皇妃が招かれた。その席には第二皇妃と第二皇子も列席した。席順は長いテーブルの短い端に皇帝が座り、右隣に第一皇妃、僕が続き、左隣に第二皇妃とリカルドが並んで座った。


 皇帝に相対する席に前皇帝ガブリエーレ・アルカディウス。金髪の髪に金の瞳。身長はお父様より少し低い190cmだ。その右隣に前皇妃のヴィクトリア・アルフォンソ・アルカディウスが座った。お婆様は薄い赤毛に赤い瞳、身長は170cm程だ。


 やはり、皇族だからか上半身は着物の様な衣装だ。落ち着いた赤と金色を多用したデザインとなっている。やはり火の国をイメージしたものなのだろう。


 前皇帝は顔色を変えていないのだが、僕と対角線上の近い位置に座る前皇妃は僕の顔を見てから明らかに機嫌が悪い様だ。やはり、僕が無能なことが気に入らないらしい。

やはり、赤と金色を多用した扇子せんすを持つ手にイラつきを感じる。


「母上、エリアスは古文書を解読し、怨獣の正体を突き止めました。そして今、怨獣が発生する原因を探っていることはお話し差し上げた通りです。今日はその糸口になるやも知れぬと推測される件につき、話を伺いたいのです」

「なんと!無能であるのに、まだ5歳にしてその様なことが・・・」


 むむっ。何て露骨な・・・元々、性格のキツさが顔に現れている様な人だが、まるで奴隷でも見る様なさげすんだ眼差しで僕を突き刺して来る。お母様もその不快さに能面の様な顔になってしまった。


 まぁ、元々、火の国の王女で聖女でもあるのだから、当然の様に帝国の皇妃となった人なのだ。この世界に怖いものなど皆無なのだろう。もう余計なことは言わずに核心だけ聞くことにしよう。


「お爺様、お婆様。お父様から5代前の時代、司祭様の奥方様で第二聖女のクローディア・ルイス・エヴァノフ様についてご存じのことがあればお伺いしたいのです」

「ク、クローディアだって?」

「まぁ!」


 その名を聞いた途端に二人の表情が曇り、険しくなった。

「其方たちは、その話は知らなくて良いのだ」

「いえ、父上。これは怨獣に関わる重要な手掛かりなのです。帝国を継ぐ者としてお話を聞く義務があると存じます」

「むむっ」


「実は私の側仕えがクローディア様の遠い親戚に当たる方なのです。そしてクローディア様が創ったという悲恋の詩が代々、伝わっているのです」

「そうですか。そこまで言うのならば良いでしょう・・・5代前の皇帝、アレクサンド・アルカディウス様とクローディア様は恋仲にあったのです」

「え?恋仲?」


「それだけでなく、ジークムント・エヴァノフ司祭は第一聖女のイヴォーン・クレメント様と恋仲でした」

「え!そんな!」

「えぇ、そしてクローディア様は聖属性の魔力が大きくなかった。結果、第一聖女であるイヴォーン様が皇妃となり、クローディア様は司祭と結婚。二人の恋仲は引き裂かれたのです」


「そ、それは・・・お互いに愛し合っている者同士で結婚させることは叶わなかったのですか?」

「アンドレア、何を今更。その辺の貴族や一般民衆とは違うのです。少しでも魔力の大きい者と結婚し、確実に光属性の世継ぎを授かる。この星全ての人間の暮らしを守ることが皇帝の務めなのですよ?」

「・・・」


 お婆様の勢いに押され、お父様は何も言えなくなってしまった。そしてお婆様は淡々と話を続けた。


「イヴォーン様は皇帝の世継ぎを生んだのだけど、クローディア様は子を授からずに精神を病んだわ。それなのに司祭は隠れてイヴォーン様と逢っていました。そしてイヴォーン様は二人目の皇子を産んだのです。父親違いのね」

「え?それは・・・皇妃が司祭の子を産んだということで間違いないのですか?」


「アンドレアも知っているでしょう。光属性を持つものは瞳と髪が金色になるのです。あなたも、そしてリカルドもね」

 金髪に金の瞳を持つ、お父様とリカルドを笑顔で順番に見た後、白髪に碧い瞳の僕を、何か異物でも見るかの様な目で見た。


「第二皇子の髪は白髪で瞳は碧かったのです。そして、神眼を持っていたのよ」

「あぁ・・・それならば・・・それで、皇妃はどうなったのですか?」

「死罪となったのだ」

「え?死罪?第二皇子は?」

「本来であれば死罪であるが、神眼を持つ者として特別に許され、司祭が引き取ったのだ」


「これは噂であるが、イヴォーン様の遺体は司祭が墓をあばき、聖属性魔法で長く保存していたと聞く」

「そ、そんなことを・・・」

「それだけではない。その10年後、クローディア様は苦しみの果てに自殺し、それを聞いた皇帝は半狂乱となって神殿を破壊し、自ら命を絶ったのだ」


「で、では、司祭も?」

「いや、司祭はその時、地下室にこもっており命は助かり、その後、帝都から追放されたのだ」

「では、今の司祭は・・・」

「そうだ。第一王妃のイヴォーン様とジークムント司祭の子の曾孫ひまごに当たるのだ」


 壮絶な過去だな・・・そうか。僕は白髪と碧い瞳だから、その司祭を思い浮かべてしまって嫌悪感一杯になるのかな・・・


「それでは、その4名は相当な怨みや憎しみを抱えていたのでしょうね」

「我らには想像できぬ程にな・・・」

 お爺様はそう言って口を真一文字に結んだ。お婆様は物思いにふける様に表情なく壁を見つめていた。


「お爺様。この様なことが再び起こらぬ様、お父様にはこの話をせず、光の魔力を受け継がせるために魔力量の多い聖女と結婚することが当然だと教えて来られたのですね?」

「その通りだ。私もその様に教えられヴィクトリアを迎えたのだからな」

「ありがとう御座います。良く解かりました」


「エリアス、その様に賢い其方であれば、もう解かっておるな?」

「はい。勿論です。そのために僕の弟、リカルドは生まれたのですから」

「解かっているならば良いのよ」


 氷の様に冷たい目で見つめられながら、祖父母から突きつけられた運命。解かっていたから悲しくなることはなかったけれど、この世界の貴族社会は相当に歪んでいることを確信した。




 晩餐の翌日、昼食の席でお父様とお母様と話した。

「昨夜のお話なのですが・・・」

「母上はああいうお方だ、人の心など考えたことがないのかも知れぬ。私から掛けてやる言葉も見つからぬよ」

「エリアス、あなた大丈夫ですか?」


「お父様、お母様。無能である僕に対する態度については、あらかじめ予測できていましたし、帝国の在り方、考え方からすれば、ああなる他はないと思います」

「エリアス、あなたという人は・・・」

 お母様は今にも泣きそうな悲しい表情でつぶやいた。


「それよりも、昨日の話ではその4人は怨獣に成り果てていても不思議ではありません。結果として望まぬ結婚が招いた悲劇です」


「大昔のことは今更どうすることもできませんが、今、目の前でアリスが同じ様なことで苦しんでいるのです。これは何とかならないものでしょうか?」

「そうね・・・陛下から命を下せば簡単に望む相手と結婚させることは可能でしょうけれど」

「そうですね。今度は結婚相手を横取りされたルーゼル候が怨みを持つかも知れません」


「そうだな・・・では一度、ルーゼル候にどの程度、アリスを望んでいるのか聞いてみよう。他の魔力の強い相手を紹介すればそれで済むならば、それで良いのではないか?」

「あぁ、おっしゃる通りですね。アリスに対して恋心が無いのであれば、他のお相手でも納得いただけるかも知れません」


 そして、アリスよりも少し上の魔力を持つ伯爵令嬢が見つかり、皇帝自らが推薦したところ、ルーゼル候は大喜びで伯爵令嬢を受け入れたのだった。

拍子抜けしたが、始めから魔力量ありきでの嫁選びであるので、この結果は不思議なことではないのだな。




 アリスはアダム・マシューとの結婚が決まり、半年後に帝国城を去ることとなった。

「アリス、アダムとの婚約が決まったそうだね。おめでとう!」

「殿下!全て殿下のお陰で御座います。本当にありがとう御座いました!」

「良かったね。元気な赤ちゃんを産んで幸せになってね」

「まぁ!もう赤ちゃんだなんて!でも、ありがとう御座います。このご恩は生涯忘れません!」


 今回は、ルーゼル候もアリスも皆、怨みなくまとまったのかな。あれ?でも伯爵令嬢はお相手がルーゼル候で大丈夫なのかな?

あ。そうだ。伯爵令嬢は騎士上がりで、年齢も32歳なのだった。それなら年齢的にも合うし、騎士だった者同士だから大丈夫だろうか。




 その後、僕は歴史の中で怨獣に関わる情報がないかを探し始めた。

歴史の文献を読み漁り、怨獣が出現した地域、時間、場所、種類をデータ化していった。

すると、怨獣の出没する頻度に規則性があることに気がついた。


「怨獣は、ほぼ15日毎に出没している・・・15日毎?地球で言ったら月の満ち欠けかな?」


 僕は一人でブツブツとつぶやきながら図書室へ向かう。

帝国城の図書室の蔵書量はとんでもない数だ。読みたい本がどこにあるのか全く判らない。


「皇子殿下。いらっしゃいませ。今日はどんな本をお探しでしょうか」

「あぁ、クララ。月の月齢の記録はあるかな?」

「月の月齢?で御座いますか?」

「うん。月の満ち欠けの周期を記録したものだよ」


「それでしたら、気象に分類されていると思われます。ご案内差し上げます」

「ありがとう」

 図書室の司書、ブーシェ子爵の次女のクララは明るいブルネットの髪に緑色の瞳をしている可愛らしいだ。風の魔法を巧に操り、蔵書されている本に埃がつかない様に管理している。僕が1歳の時からの付き合いだ。


 初めて僕が図書室に来て歴史の本が読みたいと言った時には、驚き過ぎて腰を抜かしたものだ。今では僕が望む本を直ぐに見つけてくれるし、図書室で読む時はお茶を淹れてくれる。


「殿下、この本は毎年1年分の天気と気温、湿度。それに月の満ち欠けと海の潮位が記録されたもので御座います」

「それは丁度良い。僕が見たかったものだ。今日はこれを10年分借りていくよ。クララありがとう」

「殿下!10冊も!私がお持ち致します!」

「クララ。僕は毎日、身体を鍛えているんだ。これくらいなんでもないよ」

「はい。仰せのままに」

 クララは笑顔で挨拶した。


 部屋へ帰って、この星の月の満ち欠けの周期を調べ始めた。

この星には月が3つある。一番大きな月がルナ。二番目がエウロパ。三番目がタイタンだ。

何故か全て地球のギリシャ神話に関わる名で、ルナは月の女神、エウロパは木星の衛星で王女の名、タイタンは土星の衛星で巨人の名だったな。


 これは偶然なのだろうか?それとも古文書を書いた元日本人の転生者が名付けたのだろうか?まぁ、今は良いか。それよりも怨獣の調査だ。


 そして月の満ち欠けと怨獣の出没の関係を調べた。


「あ!これは!怨獣の出没はルナの満月と新月の日とほぼ一致しているじゃないか!」

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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