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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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78.婚約

 ジュリアは、キースからダンスに誘われたらどうするのか聞かれ頬を赤く染めた。


「え?キース?」


「で、でも・・・普通は学校の生徒を誘うものでしょう?既に卒業した私を誘うなんておかしいわ!」

 ジュリアはそう言いながら目が泳いでいる。

「いいえ、前例はあるわ。だって、このダンスパーティーは婚約者披露の様なものでしょう?」


「まぁ!キース様が?そうなのですか?グレース様」

「あら?フィオナは気付いていないの?」

「私・・・そういうこと、全然考えていませんでした!」

「そう。今度、良く見てみたら?」

「そうします!」


「それで?ジュリア、どうするの?キースの気持ちに気付いていない訳はないわよね?」

「それは・・・まぁ、そうなのだけど。うーん。断ったら可哀そうよね?」


「あら、可哀そうだから相手になってあげるの?それで、ダンスだけ踊って結婚を申し込まれたら断るってこと?」

「うーん。そうか。そうよね。やっぱりダンスも断るべきかしら?」

 そう言いながらも顔は困り顔ではない。

「断るの?本当にそれでいいの?」

「だって、グレースが婚約だって言うから!」


「こちらは初めからそういう意味で聞いているのだけれど?あのダンスは結婚するつもりのない人は出ないものでしょう?」

「あぁ、そうだったわ。私はフラヴィオ王子からの誘いを断ったから出席しなかったわね」

「そう。だから聞いたのよ?」


「うーん。キースのことは・・・好きよ・・・好きだけど・・・」

 ジュリアは目を泳がせながら真っ赤な顔でつぶやく様に言った。

「好きだけど、まだ結婚は考えられないのね?」

「あー、好きなのかしら?」

「もう少し時間はあるわ。ゆっくり考えるといいわ」


「グレース様も、アニエス様も、ジュリア様も!羨ましいです!」

「フィオナには好きな人はいないの?」

「そんな!私なんて!いるわけないです!」


「そうよね。スケベじじいに売られそうになっていたのですものね?それどころじゃなかったわよね」

「ジュリア!言い方!」

「あ。ごめん!」

「大丈夫です。本当のことですから。私は父に縁を切られた様なものですから、もう侯爵令嬢でもありません。結婚なんて・・・」


「あ!そう言えば、グレースの代わりに風属性の騎士をエリアス様の侍従に加えるって言っていたわよね?」

「あぁ、そうだわ。フェリックス・バーナード様ね」

「彼はどうなるのかしら?」

「レオンが入ることになるだろうって言っていたわ」


「フェリックス様は独身よね?フィオナ、どう?」

「い、いえ。フェリックス様は公爵閣下で帝国騎士団団長でもいらっしゃるお方のご子息です。そんなおそれ多いお方と私なんて・・・とてもつり合いがとれません!」

 フィオナは真っ赤な顔をして、両手を顔の前に掲げて勢い良く振って否定した。


「でも、フェリックス様は次男だから。公爵家は継がないでしょう?」

「そうよね、ジュリア。フェリックス様が生涯エリアス様に仕えることになるのであれば、フィオナが相手でも何も問題はないのよ?」


「そう思うわ。それにね、フィオナ。あなたは借金を負わせてまで手に入れたい程、魅力のある女性なのよ?」

「それは私も認めるわ。魔力が強く、美人で可愛い所もあって器量も良いのですからね。フェリックス様に見初められても不思議ではないのよ?」


「そんなこと!あぁ!どうしましょう!私、フェリックス様のお顔を普通に見られなくなってしまいそうです!」

「ふふっ、フィオナって可愛い!きっと好かれるわ!」

「そうね。楽しみね」


「あ!ちょっと待って。エリアス様とアニエス様、ジュリアとキース、フェリックス様とフィオナが結婚したら、私たちって4組の夫婦の旅団になるのね?」

「それは流石にあり得ないわね・・・」

 そう言いながら、何故かジュリアは赤い顔をしていた。


 グレースは思った。もしかしたら、これもエリアス様の神様の力で、いつの間にかジュリアの固く閉ざされていた心が開かれて来ているのかも知れない、と。




 アニエスは走ってエリアスの部屋へ飛び込んだ。

「バタンッ!」

「うわっ!」

「エリアス!お帰りなさい!」


「ドサッ!」

 アニエスはエリアスの胸に飛び込むと、首に腕を巻き付け抱きしめた。

「アニエス!」

「エリアス~」


「どうしたんだい?」

「ねぇ、エリアスは我満しているの?」

「え?我慢?何を?」


「私と一緒に眠る時、本当は眠るだけじゃなくて、色々したいのではなくて?私と赤ちゃんを作りたい・・・とか?」

 アニエスは全く色気のない茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべて僕の顔を覗き込む。

「え?・・・え?ど、どうしたの?急に。誰にそれを聞いたの?」

「今日、グレースから赤ちゃんの作り方を教えてもらったの」


「あぁ、そういうことか。では、赤ちゃんの作り方は解かったんだね?」

「えぇ、本当に驚いたのだけれど・・・それでね、グレースとジュリアが、エリアスが私に何もしないのはエリアスが我慢しているからだろうって」

「なるほど・・・隠しても無駄だものね。そうだね。我慢しているかな?」


「どうして我慢するの?」

「それは・・・今まではアニエスの気持ちが見えなかったから。私の一方的な気持ちで進めて良いことではないと思ってね」

「私の気持ち?」


「そう、私のことをどう思っているのか、結婚する気持ちはあるのか、私との子を欲しいと思っているのか・・・そういうことが判らないまま、私の気持ちだけで勝手に進めて良いことではないんだ」


「私は・・・エリアスを愛しているわ。結婚もしたいし赤ちゃんも欲しいわ」

「本当に?」

「今、私の心が読めなかった?」

「いや、聞こえたよ。心の声が・・・そうか。少しも誤魔化せないんだね」


「私は誤魔化すことなんてできないわ。どんなことでも」

「うん。知っているよ。ではもう、私のアニエスへの想いも、もう判るよね?」

「判るわ。でも、声に出して言って欲しいの。聞きたいわ」


 僕はアニエスの細い腰に手を回して抱き寄せた。アニエスは僕の顔を見上げた。

「あ!」


 そしてアニエスの耳元で囁く様に伝えた。

「アニエス、愛しているよ。君とずっと一緒でなきゃ嫌だ」


 アニエスはその言葉を聞いた途端、身体が熱くなり、全身が白く発光し始め、髪が白く染まっていき、瞳が碧くなって輝いた。

「あぁ、エリアス。嬉しい・・・嬉しいわ!」


 そして、前にエリアスが「愛」について説明してくれた時、その言葉に胸がきゅんとしたことを思い出し、心が打ち震え涙がこぼれた。


「エリアス、私も・・・あなたでないと・・・駄目なの。愛しているわ」

「アニエス嬉しいよ・・・」


 ふたりはお互いを深く抱きしめ合い、頬を合わせた。


 しばらく抱きしめ合ってから、少しだけ身体を離し、僕はアニエスの碧く輝く瞳を見つめながら言った。


「アニエス、私と結婚してくれますか?」

「はい。嬉しいです」

「今は、婚約だけどね。結婚は学校を卒業してからだね」

「はい。それで構いません」


「随分と長く掛かってしまったね」

「私が何も解かっていなかったからなのね・・・」

「いいんだ。私にも時間が必要だったし、経験も無かったから」


「エリアス、私たちはこれからどうなるの?」

「うん?どうなる?未来のこと?」

「全部よ。明日からのこと、学校を卒業してからのこと、住まいができてからのこと、そしてその先の未来のこと」


 僕はアニエスを抱き上げお姫様抱っこすると、ベッドに静かに降ろし、ふたりで手を繋いで横になって天井を見上げた。


「そうだね・・・まずはアニエスを学校のダンスパーティーに誘うよ。それは世界中に婚約を発表するのと同じことだね。次に学校の卒業までに、この城の隣に僕らの城を建てる」

「お城を建てるの?」


「そう、だけど名前は聖アニエス病院だ。聖属性魔法でないと治せない病気の患者だけを対象とした病院だね。そこでは私とアニエス、サンドリーヌお母様、たまに私の二人のお母様も手伝ってくれると思う。それにガブリエルが医師として患者の治療に当たるんだ」

「素晴らしいわ!」


「その城は私たちの家でもあるんだ。そこにはサンドリーヌお母様やガブリエル親子は勿論、侍従であるレオン、グレース、キース、ジュリア、フィオナと夢幻旅団の騎士たちも一緒に住むんだ」

「素敵ね!」


「でも、心配事もあるな。司祭がアニエスのことを諦めずに襲って来ることも考えられる。常に警戒していないといけないね」

「そうね。それだけは怖いわ」


「それは、アレクサンド様とも相談しながら、こちらから決着が着けられるならそうしたいと考えているよ。それが収まらないと安心して子を育てることができないでしょう?」

「では、赤ちゃんはまだ先のことなのね・・・」


「アニエスは早く僕らの赤ちゃんが欲しいの?」

「私はね。でも、赤ちゃんの安全が優先ね。仕方がないわ」

「それなら、早いうちにアレクサンド様に相談した方が良いね。でも、まずはダンスパーティーかな?」


「あ!大変!」

「どうしたの?」

「どうしましょう。私、ダンスなんて踊れないわ!」

「大丈夫。私もまだ練習していないよ。一緒に練習しよう」

「本当に?嬉しい!」




 善は急げだ。大体、アニエスには一切の誤魔化しがかないのだから。

僕はまず、お母様に報告に行った。


「お母様、少しお時間よろしいでしょうか?」

「まぁ!改まってどうしたのかしら?」

「アニエスとのことなのですが」

「あぁ、そういうことね」


「もう、判っているのですね?」

「きちんとお話を聞きましょう」

「はい。お母様。僕はアニエスと結婚しようと思います」

「えぇ、わかりました。良く考えた上での決断なのでしょう。喜んで賛成しますよ」

「ありがとう御座います。お母様」


「では、陛下にも報告するのですね?」

「はい」

「私から謁見を申し入れておきます」

「お願いいたします」


 それから程なくして、フィオナが僕の部屋へやって来た。

「エリアス様、陛下とエレノーラ皇妃殿下がお待ちです」

「うん。ありがとう。では、アニエス、行こうか」

「はい」


 僕とアニエスは皇帝陛下の謁見の間に参上した。フィオナも侍従として付き添った。

謁見の間には、玉座を護る様に両側の壁に帝国騎士団のナンバー騎士たちが並び立っていた。


「お父様、お時間を賜り、感謝いたします」

「うむ、エリアス、アニエス。面を上げよ」


 玉座にはお父様が、その隣にお母様が座っていた。

「お父様、私はアニエスを妻に迎えようと思います」

「うむ。決めたのだな?」

「はい。ふたりで考えて決めました」

「良かろう。では、ふたりの婚約を発表せねばなるまいな」


「え?発表するのですか?」

「ん?いけないのか?帝国の第一皇子の婚約なのだぞ?」

「あ。それは・・・そうですよね」

「エリアス、そんなに気にすることでもないでしょう」


「お母様、そうですね。私は少し過敏になっていた様です」

 あぁ、そうだよな。アニエスと婚約したからと言って、司祭がすぐさまアニエスを奪い返しに来るという訳でもないのだからな。


「皇帝陛下、皇妃殿下、エリアス皇子殿下との婚約を承諾くださり、誠にありがとう御座います」

「アニエス、これまで通り、エリアスを支え守ってくれることを期待する」

「はい。陛下、生涯エリアス様を支え、お守りすることを誓います」

「うむ」


「アニエス、ありがとう。エリアスをよろしくお願いします」

「はい。皇妃殿下」

 お父様もお母様も笑顔で見守ってくれた。ついでに騎士団長やベルティーナたちも生暖かい笑顔で見守ってくれていた。


 その夜、皆が寝静まった頃、アニエスはひとり目を覚まし、身を起こすと眠っているエリアスを表情の無い顔で見下ろしていた。


 しばらくしてベッドから降りると、そのままバルコニーへ出て空を見上げた。

空には大きな満月を迎えたルナと二つの月、沢山の星とマナが輝いていた。


 アニエスの瞳は赤く光り、黒い髪はぞわぞわとうごめき波立ち、手足の指がピクピクと不規則に痙攣けいれんしていた。


「ジークムント・・・」

 心の見えない顔で大きな満月のルナを見つめ、アニエスは5代前の司祭の名をつぶやいた。


 そして、数十秒後には彼女の異変は全て収まり、いつものアニエスに戻った。




 翌日、帝国より発表があり、僕とアニエスの婚約と司祭の悪行と指名手配。それに神殿の在った場所に僕の住まいである城、聖アニエス病院の建設計画が世界に向けて伝えられた。


 そのニュースが世界中を騒がせた翌日、僕とアニエスは約半月ぶりに学校へ登校する。

レオン、キース、ジュリア、フィオナと一緒の朝の鍛錬も久しぶりだ。


 5人で走りながら話した。

「皆、おはよう!朝の鍛錬も久しぶりだね!」

「エリアス様、おはようございます!」

「それよりご婚約、おめでとうございます!」

「あぁ、それね。ありがとう。特にグレースとジュリアには感謝するよ」


「まぁ!では私たちの作戦が功を奏したのですね?」

「ジュリア、作戦って何だい?」

「ふたりをとっとと結婚させる大作戦?」

「なんだそれ!」


「でも、その通りになったのですよね?」

「まぁ、そうだね。感謝するよ、ジュリア。レオン、グレースにもお礼の気持ちを伝えてくれるかな?」

「はい。グレースも喜びます!」


 皆の笑顔が今までのどんな笑顔よりも輝いている様な気がして嬉しくなった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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