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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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75.救出

 お母様との再会を果たしたのも束の間、周りが騒がしくなって来た。


「エレノーラ様!黒い霧がそこまで迫っています!」

「あぁ!そうだったわ!エリアス、死の霧が迫っているの」

「えぇ、わかっています。皆はリヴァイアサンの背に乗って離れてください」

「エリアスはどうするのですか?!」


「私は司祭と戦います!」

「司祭?やっぱりそうなの?」

「話は後にしましょう。お母様、アニエスと一緒にリヴァイアサンに!」

「で、でも!あなたには魔力が!」


「心配しないで。魔力なら戻っています」

「戻っている?魔力が?では、あなたは生まれつきの無能ではなかったのですね?!」

「そういうことです!」

「さぁ、エレノーラお母様、こちらへ」

「お、お母様?」


 お母様は驚きと戸惑いで複雑な表情のまま、アニエスに手を引かれてリヴァイアサンの背を登って行った。


「さて、あの霧からは何が出て来るのだろうか?」

 僕がそうつぶやいた途端、正面の黒い霧が大きくゆらめき、霧の中から何体もの怨獣が出現した。


 その個々の姿は闇の魔力で着ぶくれているかの様に大きく、禍々しい姿をしていた。

頭には最早、何の角なのか判らない形状の角を生やし、瞳は赤く鋭く光り、口は耳元まで裂け、鋭い牙が覗いていた。


 全身の骨格が皮膚に浮き出し、ゴツゴツとしたシルエットを作り、長い尾っぽがゆらゆらと左右に揺れている。熊の様に野太い前足のものが居れば、蛇の様にクネクネと長く伸びているものも居る。


「これは、司祭の作品の集大成でも見せられているのだろうか?」

「クゥオーン!」『エリアス、私たちは空で見守っているわ』

「リヴァイアサン、アニエスとお母様を頼んだよ!」

「クゥオーン!」『こちらのことは任せて!』


 リヴァイアサンは皆を乗せて海から離水し、空へと浮かぶと高度を上げて行った。

その空にはどこからともなく、7色のマナが大変な勢いで流れて来て空を覆っていった。


 僕はそれを確認すると、怨獣たちに向き直って右手を差し出した。


「消えろ!」

 そう言った僕の顔は、怖い表情をしているのだろうか?アニエスが見たら怖がるかな?

瞳と髪が金色に輝き、右手から光の束が放たれた。


「パウッ!」

「ゴウッ!」

 黄金の光が目の前に居た20体程の怨獣を瞬時に蒸発させ、その向こうにあった黒い霧も一直線に消し去った。


 数秒の静寂の後、大陸の手前から気配が立ち上がり、おびただしい数の大きな鳥型の怨獣が一斉に飛び立った。最早、黒い霧なのか、鳥の群れが霧に見えるのか判別できない程だ。


「ギャー!ギャー!ギギーッ!ギギーッ!」

 怨獣たちは群れで、地獄の叫び声の様な鳴き声を上げながらこちらに迫って来る。


「エリアス!」

「エレノーラお母様、エリアスなら大丈夫です!」

「そ、そうなの?」


 アニエスはエレノーラの手を握り、微笑み掛けた。そのアニエスの背中にはサンドリーヌがぴったりと抱き着いて震えていた。


 あの鳥型がお母様たちに襲い掛かっては厄介だな。僕は刀をさやからすらりと抜くと、左下から振り上げた。


「燃え落ちろ!」

「シュバッ!」

 刀が風を切り裂く音と共に青い炎が刀から噴出し、空を覆い尽くさんとしていた怨獣たちを焼き払っていった。


「ギィエーーーッ!」

「ギィヤァーーッ!」

 怨獣は断末魔と共に黒い霧の中へと燃えカスとなりながら落ちていった。

これで終われば良かったのだが、今度は怨獣が落ちて行った霧の中から新たな霧が盛り上がって来た。


 今度は何だ?


 それを見つめていると、黒い霧からまずは2本の角が出て来た。あんなに遠いのに角だと判る。ということは?


 そう、巨大な頭が出現した。それはほとんど骸骨がいこつに見える肉のほとんどない頭だ。形としては牛なのだろうか?


 瞳は赤く光り、鋭い牙を有する口元には煙を上げるよだれが流れ出ている。

次に身体が姿を現すと、まるで屈強なボディビルダーの様な大きな肩と胸板が見て取れた。その身体は真っ黒い霧の様な妖気を纏い、それが黒い体毛なのか見分けがつかない。


 腰から下はゴリラの様にしっかりしている。そして背中の辺りがもぞもぞしていると思ったら、ゆっくりと羽を広げていった。その羽はコウモリの様な羽だ。


 その姿のほぼ全てが霧から出現すると、全高は10mに及ぶ大きさだった。


 これは・・・まさしく悪魔と呼ぶに相応しいな。こんな巨大な怨獣も創れるのか。


「などと、のんびり見学している場合ではなかったな・・・さて、どうやって倒すか」

 あの巨大な怨獣はここからだと上半身しか狙えないな。空から攻撃して地上の黒い霧も一緒に吹き飛ばすのが良いかな?


 そう考えた瞬間、僕の背中には純白の翼が出現し、大きく一度羽ばたいた。

「バサッ!」

「ヒュゥオッ!」


 一瞬で空へと浮かび上がり、怨獣と距離を保ちつつ、高度を上げて行く。

そして怨獣の全身とその下に広がる黒い霧の大陸が見えたところで、怨獣に向けて両手を差し出した。


「地獄へ帰れ!」

「パウッ!」


 両手の1m先から金色の光が放たれると、その2つの光線はねじれ合い眩い光を放ちながら巨大な怨獣を包み込んで霧散させると、光はそのまま大地を広がって行き、見える範囲の半分程の面積の黒い霧を消し去った。


 僕はそのまま空に滞空し、次の怨獣に備えたが、数分待っても大陸に変化はなかった。

黒い霧が消え失せた陸地には建物も植物も一切無く、黒い岩がゴツゴツとした平地が続いているだけだ。


 だが、霧を晴らした大地を良く見ると、至る所で小さな黒い霧が立ち上っている。

そこからまた怨獣が出現するのかと見守ったが、何も起こらなかった。


 ふむ・・・これで終わりなのだろうか?怨獣はそれほどの手応えはなかったし、司祭は出て来なかった。このまま僕とアニエスのお母様を手放して良いのだろうか?


 うーん。だが今はお母様の救出が先だ。司祭のことは戻って考えよう。

僕はそのまま飛びながらリヴァイアサンの背中へ乗り翼を消した。


「エリアス!よく無事で!」

「お母様こそ。よくご無事で。生きていてくれて・・・」

「あぁ・・・エリアス・・・瞳が・・・髪も金色になっているわ」

 僕はお母様を抱きしめ、お母様も僕をきつく抱きしめた。そうしている内に瞳と髪の色は元に戻っていった。


「さぁ、お母様、城へ帰りましょう」

「えぇ!」

「リヴァイアサン、城へ送ってもらえるかな?」

「クゥオーン!」『直ぐに飛ぶわね』


 目の前に白い魔法陣が出現し、そのままリヴァイアサンは魔法陣を通過した。

そして次の瞬間、目の前には帝国城があった。


 リヴァイアサンは城の食堂のバルコニーに右の胸びれを着けて僕らを下ろした。

「リヴァイアサン、ありがとう!」

「クゥオーン!」『エリアス、アニエス、良かった。またね』

「ありがとう!リヴァイアサン!」


 皆で空の魔法陣に消えて行くリヴァイアサンを見送った。


 食堂には、次々と人が集まって来た。お父様、アドリアナお母様、リカルド、宰相に帝国騎士のナンバー騎士、夢幻旅団の騎士全員、そして僕の侍従たち。


「おぉ!エレノーラ!よく無事で!」

「陛下!ご心配をお掛けしました」

 お母様が獣で作った服のまま、貴族のカーテシーで挨拶をした。

「ガバッ!」


 お父様は頭を下げていたお母様を力いっぱい抱き寄せ、抱きしめた。

「あっ!陛下!」

「エレノーラ、心配したのだぞ!」

「は、はい。申し訳御座いません」

「謝るな。全ては私の力不足で起こったことだ。すまなかった」

「いいえ、こうして帰って来られたのですから・・・」


「うむ。エリアス、感謝するぞ」

「自分のお母様なのですから。当然のことです。それよりも8年もお待たせしてしまって申し訳御座いません」

「エリアス、何を言うのですか!あなたが私を救い出してくれたのです。助けに来てくれてありがとう!」


「さて、詳しい話を聞きたいところだが、まずは風呂と着替えが先であろうな」

「ありがとう存じます」

「エレノーラの部屋はそのままだ。衣装も全てな。だが、衣装は全て新調せねばな!」


「宰相、この者たちの風呂と着替えの準備を頼む」

「承知致しました。直ぐにご用意致します」


「エリアス、サロンで待とう。騎士団とエリアスの侍従も来るが良い」

「ははっ!」


 お母様たちの入浴と着替えが済み、サロンにはお母様とアニエスのお母様が入った。


 サロンには、お父様、お母様、アドリアナお母様、リカルド、僕とアニエス、アニエスの母、騎士団長二人と宰相が座り、他の騎士たちと侍従たちは周りに立ち並んだ。


「それで、エリアス。エレボスはどんな所だったのだ?」

「大陸はほとんど全てが黒い霧に覆われ、全景は見えませんでした。上空にはほとんどマナが飛んでおらず、一番北側にあった半島の一部が結界に覆われ、緑の大地となっていました」


「その半島にエレノーラたちが居たのだな?」

「はい。そうです。そして私たちが到着するとその結界が破られ、黒い霧に吞まれそうになっていました。お母様たちは、その黒い霧から逃れようと半島の先端へ避難していたところでした」


「ギリギリ間に合った訳だ」

「いえ、私が行ったからそうなったのだと思います。そしてその黒い霧からは何十体という怨獣が次から次へと出て来たのです」

「何十体?それをエリアスが一人で?」

「はい」


「い、一体、どうやって?」

 帝国騎士団団長のニコラス・バーナードが顔を強張らせながら聞いてきた。


「それはですね」

 そう言いながらアニエスは立ち上がると、髪が白く輝き、全身を聖属性マナが覆って光り、瞳も碧く輝いた。その顔は真顔で笑みは無く、まるで神の遣いの様なたたずまいであった。


 そこに居た者たちは、その美しさと荘厳さに息を呑み、誰一人として口を開けなくなった。

お母様とアニエスの母も驚いた表情でアニエスを見つめていた。


「エリアスは神の力を行使したのです」

「神の力?」

「神の光、その一閃で怨獣たちを薙ぎ払いました」

「か、神の光!」


「良いですか。この話は他言無用。この城から外に口外してはなりません。エリアスは神となり、光の神であるドラゴンと同等の力を有しているのです」


「この力は安易に人に見せて良いものでも、知られて良いものでもありません」


「エ、エリアスは神・・・なのですか・・・」

「エレノーラお母様、エリアスは元々、生まれる前から神を継ぐ者として選ばれ、異世界より召喚され、その力を持ってこの世界に生を受けました。ですが、人間の赤子の小さな身体では、強大な魔力を受け止めることができなかったのです」


「そこでドラゴンは、生まれて直ぐにエリアスの魔力を魔力器官毎預かり、身体がそれに耐えられる大きさになるのを待ったのです」


「先日、ドラゴンから呼ばれ、ルミエールにて本来の力を返されました。そしてこれまでの経緯とこれからの役割について説明を受けたのです」


「役割・・・エリアスにどの様な役割が?」

「それは、神のみぞ知ることです」


「アニエス、あ、あなたは・・・」

「私のことが判らず不安に感じられるのですね?私は神であるエリアスを守護する者。常に寄り添い離れることはないでしょう」

 そう言うと、アニエスはマナを解放し、いつもの黒髪のアニエスへと戻った。


「そ、そう・・・なのですか・・・」

 お母様は変化するアニエスを見つめたまま、動けなくなってしまっている様だ。


「お母様、色々と驚かれていることでしょう。今はこのくらいにして、ゆっくり休まれては如何ですか?」

「え、えぇ・・・そうね。少し、疲れたわ・・・」


「エレノーラ、大丈夫ですか?」

「サンドリーヌ、私は大丈夫よ。あなたは?」

「そうね・・・少し、戸惑っているわ」


「お父様、少し、アニエスとアニエスのお母様と話をしたいのです。夕食の時間にまた集まりましょう」

「あぁ、構わない。では他の者も一時解散してくれ。今夜は皆を晩餐に招待しよう」

「ははっ!」


 僕はアニエスとアニエスのお母様と3人でアニエスの部屋へ行った。

「お母様、今夜からこの部屋をお使いください」

「え?ここはアニエスの部屋なのでしょう?」

「私はエリアスの部屋へ移るから大丈夫よ」

「そ、そうなの?」

 アニエスのお母様はまだ、僕らの事情が理解できていない様だ。それはそうだろうな。


「サンドリーヌお母様、と呼ばせていただいても構いませんか?」

「え、えぇ、構いません」

「あなたは司祭、ミハイロ・エヴァノフとアニエスを儲けたのですよね?」

「はい。おっしゃる通りです」


「あなたのお身体は、まだ完璧ではない様です。少し、お手伝いをさせていただいてもよろしいですか?」

「私の身体?どうなさるのですか?」

「いえ、少々、光と聖属性の魔力を流し、健康な身体にさせていただければと思うのです」

「エリアス様は神様でいらっしゃるのですものね?お任せいたします」


「アニエス、良いね?」

「お願いします」

「では、魔力を流しますね」


 僕はソファに座るサンドリーヌの背後に回り、両手を肩に置いて魔力を流した。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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