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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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71.遺言

 エレーナは怨獣と成って現れた母からの言葉に呆然とし、動かなくなってしまった。


「お姉様!大丈夫ですか?」

「エレーナ、良く考えて!」

 再度、母に促され我に返った。


「エレーナ、私はもう行かなければ・・・幸せになるのですよ」

「お母様!お父様は・・・」

「ブラウリオは・・・あの人は私が連れて行きます。アウレリオ、家のことは任せます」

「お母様!」


「ロレーナ殿、今は親が子の結婚を決めて命ずることは法でできなくなっています。エレーナ嬢のことは心配要りません。カタリーナ殿も望むならば私が責任を持って離婚させましょう」

「あなた様は・・・あぁ・・・神様でいらっしゃるのですね。ありがとう御座います。これで安心できます」

「えぇ、お任せください」


「ブラウリオ、行きましょう」

 ロレーナである怨獣は、ブラウリオの首に腕を回し、顔を覗き込んだ。

「ロ、ロレーナ・・・すまなかった・・・本気で殺すつもりは・・・無かった・・・のだ」

「解かっています。もう良いのです。それでも・・・あなたを愛しておりましたよ」

「あり・・・がとう・・・」

「バタッ!」


 ブラウリオは息を引き取り、抱かれていた腕が床に落ちた。ロレーナは真っ白な光の中に消えて行く様に姿を消した。


「お母さまーっ!」

 エレーナは父の前にひざまずき、大粒の涙をこぼしながら叫んだ。

勿論、エレーナの父の命を救おうと思えばできた。でも、僕はしなかった。


 ブラウリオは欲に駆られ、娘たちの人生をないがしろにしたのだ。これが因果応報というものだし、エレーナの母が連れて行くと言ったのだから・・・




 しばらくしてから使用人たちが集まり、父親の遺体を寝室へ運んだ。

「ペドロ、これからはアウレリオがこの家の当主です。あなたが支えて行って頂戴」

「承知致しました」

「お姉様、これからどうされるのですか?」

「私は・・・このまま騎士を続けます」


「それは駄目ですよ。私は母上と約束してしまったのですからね。さぁ、これからお姉様の所へ行きますよ」

「え?今からですか?」

「こういうことは時間を空けない方が良いと思います」

「クルーッ!」『エリアス、その娘の姉の所へ行くのね?一緒に行くわ』


「ありがとう。フェニックスも一緒に行ってくれるそうだよ」

「え?フェニックスが?」

「団長、カオスを私的に使わせていただいても構いませんか?」

「仰せのままに」


「アウレリオも来てくれるかな?」

「私もお連れくださるので御座いますか?」

「久しぶりにお姉様に会いたいでしょう?」

「はい!」


「あ、あの!アウレリオ様?」

 エレーナだけでなくアウレリオも連れて行くと聞いてペドロが慌てふためいた。

「あぁ、直ぐに戻りますよ」

「え?メンドーサ公爵の城へ行かれるのでは?」

「そうですが?あ。そうか。転移魔法で行きますから。瞬時に行って直ぐに戻ります」

「おぉ!」

 そりゃぁ、驚くのだろうな。


 そして、皆でカオスに乗船した。フェニックスもしっかりと乗り込んでいる。

「エリアス様、フェニックスの炎で船が燃えたりしませんよね?」

「バルデラス団長、大丈夫です。炎に見えますが実際には熱くないのですよ」

「そうなのですね・・・」

 団長はフェニックスを見つめ呆然としている。


「副団長、その操舵装置にメンドーサ公爵邸の位置を出せますか?」

「はい。こちらがメンドーサ公の城の座標です」

「よし」


 次の瞬間、僕の髪と瞳は金色に輝くと、カオスがみるみるうちに金色のマナに包まれた。

「ブゥーーン!」

「シュンッ!」


「な、なんと!もうメンドーサ公の城の前だ!魔法陣も現れなかったぞ?!」

「あぁ、お父様とは根本的に魔力の出力の仕方から違うのです」

「そう言えば!エリアス様って呪文を詠唱していませんね!」

「えぇ、私やアニエスの様に魔力が強いと詠唱は必要ないとドラゴンが言っていましたね」

「そ、そう・・・なの・・・ですか・・・」


 エレノアが驚嘆して言葉も出なくなっている。エレノアってクールそうで意外に表情豊かなんだよな・・・


 漆黒の船、カオスが突如として出現したことでメンドーサ城からは使用人や私兵たちがわらわらと出て来た。


「む、夢幻旅団!な、何故?!」

「おいおいおい!あれは!フェニックス!聖獣も一緒だ!」

「あ!あぁ・・・あれは!神様!それに聖女様も!」

 城から出て来て僕らの姿を見るなり、地面に膝を付いて頭を下げた。


「エリアス・アルカディウスです。当主のフレディ・メンドーサとその妻、カタリーナをここへ」

「ははっ!」

 使用人のひとりが走って城へ入って行った。


 程なくして、二人が血相を変えて走って来た。

二人は突然のことに驚き、周囲を見る余裕もないまま僕の前にひざまずいた。


「ウーラノスの大神にご挨拶差し上げます」

「許します」


「初めてお目に掛かります。私はこの地の主、フレディ・メンドーサ公爵に御座います。こちらは妻のカタリーナ・ノリエガ・メンドーサです」

「カタリーナ・ノリエガ・メンドーサに御座います」


「初めまして、エリアス・アルカディウスです。二人共、顔を上げて」

「あ!エレーナ!アウレリオも!」

「な、なんと・・・夢幻旅団!そ、それにフェニックス!」

 二人共、大変な驚きようだ。


「お姉様、先程お父様が亡くなりました」

「亡くなった?どういうことなの?」

「それは私から説明差し上げましょう。先程、ノリエガ侯爵邸に怨獣が現れ、夢幻旅団が出動しました。私は今、旅団に同行しているのです。聖女アニエスと共にね」


「ノリエガ邸に到着するとこのフェニックスも現れました。そして言ったのです。その怨獣はノリエガ候が殺したロレーナの成れの果てだと」

「お、お母様が怨獣に?!え?まさか、お母様がお父様に復讐を?」

 カタリーナは両手で口を押え、震えながら聞いた。


「お母様は、取引であなたをメンドーサ公に渡したことが許せなかった。そして恋人の居たエレーナ嬢を無理矢理に騎士にしたこともね」

「そ、それは・・・」

 メンドーサ公はそれを聞いて大いに慌てふためいた。


「怨獣となったお母様は、ノリエガ候を殺し連れて行くと言いました。そしてエレーナ嬢には、まだ待っている恋人と結婚を、そしてあなたにはメンドーサ公と離婚し、望む道を歩ませたいと・・・その遺言を私に託し、ノリエガ候と共にこの世を去りました」

「そ、そんなことが・・・」


「そういう訳です。メンドーサ公。親が子の結婚を決めることはできない。その法はカタリーナ殿を妻に迎えた時には無かった法ですし、カタリーナ殿は借金の形に売られた訳でもありません。つまり、二人の結婚は合法です」


「ですが、あなた方の結婚は、カタリーナ殿の母君を死後に怨獣に成らし得る程の怨念を背負わせたのです」


「若い娘をもらってさぞかし幸せだったのでしょうが。このむごたらしい物語の基を創った者として如何ですか?」

「そ、そこまでのことになろうとは・・・想像もしなかったことで御座います」


「想像もしない?それはつまり、若い女性の夢や未来など聞かずとも自分の財力で何でも与えられる。だから結婚を望んでいるか否かなど、考えるにも値しないことだった・・・そういう意味ですか?」

「そんな!滅相も御座いません!」


「では、カタリーナ殿は今、幸せであると?」

「も、勿論!そうであるな?カタリーナ!」

「わ、私は・・・人生を諦めましたから・・・」

「な!」


 その時、後ろに控えていたフェニックスがメンドーサ公へにじり寄った。

「クルル・・・」『エリアス、こいつ、消す?』

「フェニックス、殺すのは待ってくれるかな?」

「ひーっ!い、命ばかりは!お、お許しをーっ!」

 メンドーサ公は地面にひれ伏し、おでこに土を付けて情けない声を出した。


「メンドーサ公、どうでしょう。カタリーナ殿に第二の人生を、夢を与えてやることは叶いますか?」

「も、勿論で御座います!今まで私の力になってくれたこと、感謝して報奨金と共に送り出します!」

「報奨金?慰謝料の間違いでは?」


「あ!も、申し訳御座いません。い、慰謝料で御座います」

「そうですか。良い返事が聞けて安心しました。これで、カタリーナ殿の母君より託された遺言のひとつを叶えることができましたね」


「カタリーナ殿、何か持って行くものはありますか?」

「あ!母の形見の品だけ取りに行っても構わないでしょうか?」

「えぇ、勿論です。不足するものは全て帝国城にて用意しましょう」

「え?帝国城?私は帝国城へ行くのですか?」


「まずは、そこでゆっくりと今後のことを考えたら良いでしょう」

「あ、ありがとう存じます!どれ程の感謝を捧げたら良いのか・・・」

「そんなものは要りません。さぁ、早く支度を」

「はい!」


「メンドーサ公、もう下がって良いですよ。あぁ、そうそう。後妻が欲しいのであれば、年の頃の合った未亡人から当たって行けば良いのではありませんか?」

「そ、それは・・・」


「なんでも金にものを言わせれば良いというものではありません。こんなことを続けるのならば、次はあなたの所へ怨獣が現れますよ?」

「ひぃっ!は、はい!肝に銘じます!」

 立ち上がることもままならなくなったメンドーサ公は、侍従に支えられよろよろしながら城へ入って行った。


「さて、次はエレーナ嬢の番だね」

「え?私?で御座いますか?」

「何をとぼけているんだい?お母様の遺言を聞いていなかったのですか?それとも、エミリアノ・シルバのことは、もうどうでも良いのですか?」

「そ、それは・・・」


「エレーナ、素直になった方が良いわ。エリアスもフェニックスも何でもお見通しなのですよ?」

「え?アニエス様・・・」

「クルー」『アニエス、この娘、良い子だからいじめちゃ駄目』

「あら、そうなのね。ごめんなさい」

「二人は何を話しているんだい?大丈夫、エレーナ嬢はちゃんと解かっているよ」


「それより、確認しておきたいのですが、団長」

「は?私ですか?」

「はい、エレーナ嬢は夢幻旅団の騎士なのですからね。エレーナ嬢は希望すればいつでも旅団を退団できるのでしょうか?」


「あぁ、そういうことでしたか。それは勿論、構いません。代わりは帝国騎士団から徴用可能です。希望者も多く居りますので」

「それは良かった」


 そんな会話をしていたら、カタリーナと使用人一人が鞄を二つ持って走って来た。


「荷物はそれだけですか?」

「はい。あの人のドレスの趣味は私には合わないのです。当面の着替えだけあれば問題御座いません」

 なるほど。確かに派手で趣味の悪いドレスだな・・・


「では、参りましょう」

「帝国城へ向かうのですね?」

「いえ、まずはシルバ伯爵家へ参ります」

「シルバ伯爵家?え?それって・・・エレーナ!」


 カタリーナはエレーナを見つめ、見る見るうちに笑顔になった。エレーナは顔を真っ赤にした。いつも凛々しいエレーナが恥じらうなんて初めて見た。




 ここはシルバ伯爵家。丁度、昼食の時間だ。

食堂でシルバ伯爵と妻、それに息子のエミリアノは昼食をいただきながら会話していた。


「エミリアノ、次のお見合いは断らないで頂戴ね」

「お母様・・・もういい加減にしてください!」

「いい加減だと?エミリアノ、お前はシルバ家の未来を考えているのか?」

「それは・・・考えては・・・います」

 父は鋭い目を向けエミリアノを非難し、エミリアノはぼそぼそとつぶやき視線を反らした。


「お前の弟が騎士を希望したからこそ、お前は稼業を継ぎ、次期当主となれるのだ」

「そうよ、エミリアノ。セシリオが王国騎士団の騎士となった様に、あなたも立派な跡継ぎとなるべく、妻を迎えなければならない歳なのよ?」

「それは・・・解かっています」


「お前まさか!未だにノリエガ様のご息女のことが忘れられないのか?」

「い、いや、そんなに結婚は急がなくても大丈夫でしょう?」


 その時だった。使用人たちがそわそわし、窓の外をしきりに気にしている。

厨房からも何人も顔を出し、ガタガタと音を立て始めた。


「ん?お前たち何だ?食事中なのだぞ?」

「あ、あの・・・申し訳御座いません。旦那様、外を見ていただけませんでしょうか?」

「うん?使用人が走って行くな。何だと言うのだ?」


 シルバ伯爵はその先に視線を移すと漆黒の船が庭園に着陸しており、フェニックスが庭をトコトコと歩いている。

更には見覚えのあるやたらと大きな男と真っ黒い髪をした女性が並んで立っていた。


「あ!まさか!あれはエリアス皇子殿下と黒髪の聖女!そ、それに夢幻旅団の船だ!」

「なんですって?神様が我が家の庭園に?」




 カオスに乗船すると今度はシルバ伯爵家の座標を出してもらい瞬時に転移した。

例によって、こちらでも使用人たちがぞろぞろと屋敷から出て来た。


 そして、その後を追う様にしてこの城の主であるらしい親子3人が血相を変え、大慌てで出て来た。


「ウ、ウーラノスの大神にご挨拶差し上げます」

「許します」

「初めてお目に掛かります。私はこの地の主、ロドリゴ・シルバ伯爵、こちらは妻のナタリア・ブエノ・シルバ、息子のエミリアノに御座います」

「初めまして、エリアス・アルカディウスです。こちらは聖女アニエスと夢幻旅団団長のバルデラス公、そしてそちらはご存じですね。エミリアノ」


「エレーナ様!」

「エミリアノ様・・・」


「ま、まさか・・・ノリエガ候のご息女が・・・何故?」

「あぁ、シルバ伯、エレーナ嬢のことはご存じだったのですね?」

「は、はい。しかし・・・何故?」


「今日はいろいろとあったのですよ。ね、エレーナ嬢。余計なお節介をさせていただいても?」

「エリアス様・・・」

「クルー!」『エリアス、さっさと片付けてしまいなさいな』

「そうだね」


「エミリアノ、エレーナ嬢を妻に迎える気はありますか?」

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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