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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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67.旅団

 お父様が驚き過ぎて動けなくなってしまったので、しばらく付き合っていた。


 お父様は窓の外の一点を見つめ、やがて大きく息を吸ってから話し始めた。

「エリアス、それで・・・これからどうするのだ?」

「まずは、お母様を迎えに行きたいのですが、アレクサンド様が言うには、私は実戦経験が不足しているそうです」


「それは司祭が襲って来るということか?」

「えぇ、私の実力を測るために戦いを挑んでくるのではないかと」

「だが、魔力が一万もあるのなら負ける訳があるまい」

「いえ、魔力一万をそのまま出してしまえば、この星がただでは済まないのだそうです」


「あ!そう言えば・・・エリアスが暗殺されそうになった時、外から飛び込んで来てお前を助けたのはドラゴンなのか!」

「えぇ、その様です。私は記憶にないのですけれど」

「あの時の魔力量は途轍とてつもないものだった。炎の一撃は海を渡り、隣のシュナイダー王国の山に穴を開けたのだからな」


「あぁ、それなら既にルミエールで練習している時にやってしまいました」

「つまり、ドラゴンと同じ魔力を撃てるのか!」

「その様ですね。魔力は大きければ良いというものではない様です」

「それでは、どう戦うのだ?」


「お願いがあるのですが、2週間、夢幻旅団に同行させていただきたいのです」

「あぁ、怨獣との戦い方を参考にするのだな?」

「はい。その後、エレボスに向かいます」

「エレボスにはどうやって行くのだ?」


「私は世界中のどこへでも転移することができます。ですが突然、お母様の前に出現したら驚かせてしまいますので、リヴァイアサンに乗って行こうと思います」

「リヴァイアサンでも驚くのではないか?」

「アレクサンド様が、リヴァイアサンに一度エレボスへ行かせて、お母様たちに姿を見せてあるそうです」


「あぁ、お膳立てはしてくれているのだな・・・わかった、コンラード団長に話は通しておく。いつから同行するつもりだ?」

「明日からでお願いします」

「明日?少しは休んだらどうだ?」

「お母様には一日でも早く、ここへ戻って安心していただきたいのです」

「あぁ、それを言われたら返す言葉が無いな。わかった」




 それからレオンたち侍従を集めた。

レオン、グレース、キース、ジュリア、フィオナ。それにアニエスが会議室に集まった。

「皆、久しぶりだね」

「お帰りなさいませ!ルミエールは如何でしたか?」

 お腹が少しだけ膨らんで目立ってきたグレースが柔和な表情でたずねた。


「ふふっ、大変だったよ。訓練がね」

「訓練?」

「魔法の訓練よ」

 アニエスがあっさり話してしまう。まぁ、いいけど。


「魔法?魔力を授かったのですか?」

「返してくれたんだよ。預かってくれていたんだ」

「エリアスは強大な魔力を持って生まれて来たの。でも赤子の小さな身体では耐え切れず、命を落とすところをドラゴンが救ってくれたの」


「その強大な魔力を返してもらえたのですね?」

「キース、そうなんだよ」

「それで、属性は何が強いのですか?やっぱり光属性ですか?」

「いや、それがね。闇属性以外、全部持っているんだ」


「全部?!凄い!それがみんな、大きいのですか?」

「ジュリア、そうだね。どれも100以上あるよ」

「えーっ!」

 全員が声を揃えた。やっぱり100でも驚くのだな。一万なんて、とても言えないな。


「では、エリアス様が皇帝の地位を継がれるのですね?」

「いや、それはリカルドに任せるよ。私にはドラゴンから託された役割があるからね」

「役割?!それは何ですか?」


「それは追々話すよ。まずは明日から夢幻旅団に2週間同行して修行かな。そしてお母様を取り戻しにエレボスへ行く」

「エ、エレボスへ?!それは、我々もお供させていただけるのですよね?」

「キース。連れて行く約束だったのだけれどね、危険が大き過ぎるんだ。私とアニエスだけで行くよ」


「えーっ!一緒に行けないのですか?」

「ドラゴンに言われたんだ。お前ではまだ力不足だと」

「それなら私たちも力になります!」

「ジュリア、その申し出はありがたいのだけどね。色々、事情があるんだよ」

「そう・・・なのですか。残念です」


「その後のことなのだけどね。お母様を取り戻し、学校を卒業したら、私は旅団をおこそうと思っているんだ」

「え?夢幻旅団みたいなものですか?」

「そうだ。船はグリフォンが預かってくれているんだ。そして私は船ごと世界のどこへでも転移ができる様になったんだ」

「転移魔法?あ。光属性ですね!凄いです!」

 フィオナが両手を組んで神様に願う様なポーズをして言った。


「では、私たちはその旅団の一員となるのですね?」

「勝手に決めてしまって申し訳ないのだけどね。良いかな?」

「勿論です!」

「私、夢が叶ったわ!」

「僕もです!世界中を飛び回るのですね!」


「あの・・・私も入れていただけるのでしょうか?」

「フィオナ、君にも入って欲しいな」

「ありがとうございます!嬉しいです!」


 一人だけ、少し心配顔となっているのはグレースだ。

「グレース、レオンのことが心配だよね?グレースは子が生まれたら、旅行気分で世界を回る時だけ同行すれば良いよ」

「はい。お気遣いをいただき、感謝申し上げます」


「そうだ。私は神殿の在った場所に病院を建てようと思っているんだ。旅団の屋敷を兼ねたものをね」

「え?僕たちもそこに住んでも良いのですか?」

「あぁ、レオンとグレースもそちらへ引っ越すと良い。そこは強固な結界で守るから絶対に安全だよ」


「結界?それも光属性魔法ですね?」

「そうだね。今回、城と学校の結界も私が張り直したんだ。もう怨獣に入り込まれる様なことにはならないよ」

「それは安心ですね!嬉しいです!」

 グレースは心底安心した顔で嬉しそうに言った。


「だけど、風属性の騎士が居ないんだ。ひとりは欲しいな。誰か良い人は居ないかな?」

「エリアス様、旅団は何名の騎士で構成するのですか?」

「8人かな?あとひとりだね」

「え?あと2人ではありませんか?」

「あぁ、グレースは人数に入れているからね」

「エリアス様、ありがとうございます!」


「では、風属性を強く持つ騎士ですね」

「それなら、フェリックス・バーナードが良いのではないでしょうか?」

「レオン、やっぱりそうかな?」

「でも、リカルド皇子殿下の護衛を別に探さないといけませんね」


「キース、それは帝国騎士団の中から適切な人が選ばれるだろう。まずはフェリックスが来てくれるかどうかだよ」

「きっと、来ますよ。だってエリアス様の旅団なのですから」

 ジュリアは来て当然だという顔をして言った。そうだと良いのだけど。

「まずは騎士団長に打診してみるよ」


「エリアス様、それでその旅団の名前は?」

「あぁ、まだ考えていないんだ。何か良い名があったら提案してくれるかな?」

「私たちが考えても良いのですか?」

「私たちの旅団だからね。自分たちの気に入る名前が良いでしょう?」


「よし、格好良い名前を考えるぞ!」

「レオン、変な名前にしないでね」

「それなら先に良い名前を考えることだな!」

「早い者勝ちではないからね?皆の多数決で決めるよ。良いね?」

「はい!」




 翌日の夕方。僕とアニエスは夢幻旅団の船、カオスへ向かった。

帝国城の裏手の転移場に上がると、漆黒の船が鎮座していた。


 バルデラス団長と団員が船のタラップの前で僕らを迎えてくれた。

「エリアス皇子殿下。ご無沙汰しております」

「バルデラス団長、お久しぶりです。2週間、お世話になります」

「エレボスへ行かれるそうですね?」


「お父様からお聞きになったのですね?」

「はい。魔力も戻ったとか?」

「えぇ、これでやっと一人前です。と言いたいところなのですが、魔力制御もまだ不安定ですし、ドラゴンから司祭と戦うには経験不足だと言われまして」


「あの男の魔力はどんなものなのでしょう?」

「聖属性を持ちながら闇属性も使えるのです。しかも闇属性を操るすべがある様なのです」

「闇属性魔力を操る?」

「えぇ、その力で怨獣を創り出し、操って闇の転移魔法で好きな場所へ送り出せるのです。そして闇の魔力は人間の怨念が源です。世界中から絶えることなく、いくらでも集められるのです」


「では、その魔力は強大なのですね?」

「そういうことです」


「では団員を紹介致しましょう。団員は皆、高位貴族の子息、令嬢ではありますが、家とは距離を置く者が多いのです。親の名は割愛させていただきますので悪しからず。では、順番に挨拶を」


「夢幻旅団副団長、エンツォ・リナルディに御座います」

「ナンバーⅢ、エレノア・オランドに御座います」

「ナンバーⅣ、イグナーツ・サドラー」

「ナンバーⅤ、メイソン・スペンサーだ」

「まったく、お前たちは。「に御座います」だ!イグナーツ!メイソン!」

 副団長が訂正した。


「ナンバーⅥ、エレーナ・ノリエガに御座います」

「ナンバーⅦ、バティスト・ジラール・・・に!ございます・・・」

「ナンバーⅧ、クリスティン・エドワーズに御座います」

「ナンバーⅨ、ゾーイ」

「ザックス・・・だろ?」

「フンッ!」


「ナンバーⅩ、キアラ・ビアンキに御座います」

 どのメンバーも不機嫌と言うか、敵対心丸出しと言うか、なんだろう?

まぁ、いいや。帝国かそれとも僕に不満があるのかな?


「皆さん、エリアス・アルカディウスです。初めまして。今日から2週間よろしくお願いします」

「初めてお目に掛かります。アニエス・クレールです。2週間お世話になります」


「挨拶が済んだなら船で待機だ。皆、中へ入れ!」

「へーい」

「今日は出るのかなぁ・・・」

「今日も2,3匹殺してぇなぁ・・・」


 何やら物騒なことを呟きながら船に入って行く者も居るな。


 船の中に入って驚いた。旅団の戦闘艇なのだが、中身は生活感が丸出しだった。

まず、船に入った途端、珈琲のいい香りが漂い、目に入ったのは服が脱ぎ散らかしてあったり、カップや皿、お菓子の袋や箱があちらこちらに散らばっている。


「バルデラス団長、もしかしてずっとこの船の中で生活されているのですか?」

「あぁ、いつ何時、怨獣が出るか判りませんからな」

「あれ?お休みは?」


「今日は殿下が来るってことで休みの者も出させたのです。毎日、二人ずつ交代で休んでいますよ」

「それは申し訳ないことを。お休みだった方はもう帰っていただいて構いませんが?」

「いや、中途半端に出させてしまいましたから、この分は他の日に休ませますよ」

「そうですか」


「殿下、部屋を二部屋ご用意しました」

「あ、部屋は一部屋で結構です」

「ヒューッ!お熱いことで!皇子と聖女はもうできてたのか!」


「おい!メイソン!さっきからなんだ?お前、不敬罪で死刑になりたいのか?」

「あー、副団長。良いのですよ。好きに言えば良いのです。我慢などすることはありません。私は気にしませんから」

「流石、ウーラノスの大神だ!心が広いと来ている。俺らとは真逆だな!」

 ははは、もう言いたい放題だな。


「殿下、部下の非礼をお詫び致します」

「バルデラス団長、構いませんよ。なんたってこの船は「カオス」なのですからね!」


「なんでカオスだといいんだ?」

「そういやぁ、カオスってどういう意味だ?」

「え?意味なんてあるの?誰か人の名前なんじゃないの?」

 船のあちらこちらから声が上がる。


「殿下、カオスに意味があるのですか?」

「あれ?皆さん、ご存じなかったのですか。カオスとは、世界の天地が創造される前の秩序がなく、あらゆるものが混沌としていた状態を意味するのです。これは私の前世の異世界の言葉です」


「なるほど。神様が我々の様を見てそう名付けたのですな?」

「夢幻旅団はそんなに昔からあったのですか?」

 すると、何かしながら話していたバルデラス団長が、マグカップを2つ持って来た。あぁ、珈琲を淹れてくれていたのか。


「お口に合うかわかりませんが、珈琲でもどうぞ」

「ありがとうございます」

「この船は神が造り、対怨獣部隊専用にと授けられたものだと聞いています」

「アレクサンド様が?」


「神様は殿下と同じ世界から来たお方なのでしたね?」

「えぇ、国や船の名前は全て異世界の言葉ですね」

「え?国の名前も?」

「では、神様が全てを創造されたのですな」


 その時だった。船の無線のアラームが鳴り響いた。

「ヒュィーン!ヒュイーン!ヒュイーン!」

「こちら夢幻旅団!なに?わかった、直ぐ出られる。送ってくれ」


「アルフォンソ王国クルス公爵領に怨獣が出たそうだ。直ぐに出るぞ!」

「御意!」


 クルス公爵領?え?アドリアナお母様の実家ではないか!

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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