表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
62/97

61.魔眼

 お母様を連れ去った怨獣が再び目の前に現れた。


 頭は二つあり、ひとつには山羊の様にくるっと巻いた角が二本ある。もう一方の頭には鹿の様な枝分かれした角が二本あった。


 身長2mを超える身体の背中には、首から脊椎せきついにかけて骨の突起がそのまま浮かび上がっている。


 全身が漆黒の闇の様に黒く一見、人間の様な身体なのだが腕が左右三本ずつあり、その腕は木の枝かむちの様に長く、ゆらゆらとしなって揺れている。


「皆、あいつは今までの奴とは段違いに強いぞ!斬っても再生するし、斬った部位から蛇の頭が出て来て毒を吐くんだ」


「キース、フィーネ。壁を作ってアニエスとガブリエルを護ってくれ!」

「御意!」

「アニエス様!こちらに!ガブリエル様も!」

「はいっ!」


「皆、呪文の詠唱を!あの触手に気を付けろ!長く伸びるぞ!」

「お兄様!」


 僕を呼ぶ声に振り向くと、リカルド、レティシアと二人を守るバーナード兄妹が居た。

「リカルド!そこから動くな!ミシェル!風の壁で二人を護れ!」

「御意!」


「レオン、ジュリア。あいつに近付くのは危険だ。この距離から二人の複合攻撃を!」

「御意!」

「ジュリア!行くぞ!」

「任せて!」


「劫火の玉よ!超高温となりて敵を焼き尽くせ!」

「ゴゥォッ!」

「水よ!火の力を得て爆散せよ!」

「ギュゥオーーーッ!」


 青い劫火の玉と水の玉が怨獣に向かって飛んで行く。

怨獣の直ぐ手前で二つが合わさり、大爆発が起きる瞬間、怨獣は地面の黒い霧の中へ逃げ込んだ。

「ドッカーーーンッ!」


 直ぐにこちらまで衝撃波が迫って来る。僕らは土やミスリル、風の壁に隠れてやり過ごした。すると黒い霧がリカルドとレティシアの方に現れた。


「リカルドの方に出るぞ!フェリックス、風の刃だ!出た瞬間を狙え!」

「御意!」


 そう命じながら僕は全速力で走る。正面にリカルドたちが居るが、その間に黒い霧がある。このままではこちらに風の刃が飛んで来る。走りながら左に回り込み、刀を抜いた。


 すると予想通りに怨獣はリカルドたちの方を向き、迫って行く。

「風の刃よ!敵を切り刻め!」

「ビュゥォッ!ビュゥォッ!ビュゥォッ!」


「ズサッ!ビシィッ!スバッ!」

「ギィヤァーッ!」


 怨獣の山羊の頭の首や触手に深い切込みが入ったが致命傷ではない。

「イヤァーッ!」

「ズバッ!」

「スパーン!」

「キシャーッ!」


 僕は切込みの入った首に飛び掛かり、力任せに斬り落とすと、返す刀で右側の触手3本を一気に斬り捨てた。

「ボトンッ!ボトボトボトッ!」


 そこから後方宙返りをしながら怨獣から離れ、距離を取る。

「ジュリア!最大魔力でウォーターカッターを!逃げられぬ様に足元を狙え!」

「ウォーターカッター!最大出力!連弾!」

「シュバババババーッ!」


「キシャシャシャシャーーッ!」

「ズバッ!ビシッ!グシャッ!」

 怨獣の足がグシャグシャに切り裂かれ、倒れかかっている。


「よし!レオン!焼き払え!」

「隕石の炎!敵を焼き尽くせ!」

「グゴォーーーッ!」

「ドーーンッ!」


「キシャーッ!グヘッ!」

「やったか?!」


「エリアス様!」

 そこへ騎士団の騎士たちが走って来た。


「ま、まさか!あいつは!」

「騎士団長、そのまさかです。お母様を連れ去った怨獣です」

「倒されたのですか?」

「どうでしょう・・・」


 するとその怨獣は黒い霧の様に身体が崩れ出し、息絶えた。

その代わりと言わんばかりに、その周りに3つの黒い霧が出現した。


 熊と虎、そして狼の人型怨獣だ。どれも巨大で目が赤く光っている。

今まで見たことがない程に屈強そうで背中からは触手の様なものが出ていてうねうねとうごめいている。


「まだ出てくるぞ!ベルティーナ!オスカル!ジョンソン!散開して個々で撃て!」

「御意!」


「あの触手は伸びるぞ!斬っても再生するだろう、毒も吐くかも知れない。気をつけろ!」


「兄貴!こいつら強いぞ!」

「おぉ!レオン!行くぞ!」

「あぁ!」


「ロッシ様!」

「ジュリア!もう、一体倒したのね?!」

「はい!」

「では、続けて倒すわよ!」

「御意!」


「キース!」

「お父様!」

「ミスリルの籠を出すのだ!」

「はい!」

「ミスリルの籠よ!狼の怨獣を閉じ込めろ!」

「ギュイーーンッ!」


 キースの出した銀の魔法陣が大きく広がると狼の頭上から包む様に落ちて行き、ミスリル製の籠に閉じ込めた。


「ミスリルの剣よ!敵を切り刻め!」

「シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!」

「グサッ!ブスッ!ズバッ!ビシッ!」

「グゥオーーーッ!」


 怨獣は何か所も突き刺され、苦しんでいる様に見えた。しかし、ミスリルの剣を身体から黒い煙と一緒に抜き出した。そして両腕を広げて突っ張ると、ミスリルの籠はミシミシと音を立て始めた。

「まさか、ミスリルの籠を壊すのか?壊せるというのか!」

「ベキベキッ!バキバキッ!バッキャンッ!」


 とうとう狼の怨獣は籠を壊し、背中から立ち昇る黒い霧を揺らめかせながら立ち上がった。

「ウォーーーッ!」

 遠吠えとも叫びとも言える様な雄叫びを上げた。


「ひっ!」

 その叫びを聞いてレティシアは震え上がり、ミシェルにしがみ付いた。

「大丈夫!帝国騎士が揃っているのです。エリアス様も居ますから!」

「え、えぇ・・・」

 引き続き、キース親子は狼の怨獣に攻撃を加えた。


 僕は3体の怨獣を皆に任せ、リカルドとレティシアの下へ駆けつけた。

「リカルド、もし怨獣がこちらに来たら、光の魔力で攻撃するんだ。訓練はしてきているだろ?できるな?」

「はい。お兄様。やります!」

「よし、レティシアは任せたぞ!」

「はい!」


 僕は全速力で走り、3体への攻撃の合間を縫って、一撃ずつ入れていった。

まずは狼だ。キース達の金属の槍や剣の攻撃が止んだ瞬間、前方宙返りから高く飛び上がり、着地と同時に刀を振り下ろし、右肩から腕を斬り落とした。


「ズバッ!」

「ドサッ!」

「グゥオーッ!」

「次っ!」


 狼型から離れ、虎型に迫る。

虎の怨獣はベルティーナとジュリアの水の攻撃で、数十か所切り刻まれていた。


 僕はベルティーナ達に対峙する怨獣の後ろから迫り、フェンシングの踏み込みで足を延ばし、低い体勢から後ろ足二本を薙ぎ払った。


「スパーンッ!」

「ズサッ!」

「グゥアーッ!」

「次っ!」


 最後に熊型の怨獣だ。レオンとオスカルが既に焼き尽くそうとしていた。

そこへ割って入って左から足を斬り捨てた。


「シュパーンッ!」

「ボトッ!」

「グガァーッ!」

「ドサーンッ!」

 怨獣は片足を失って倒れ込んだ。


「レオン!とどめを頼む!」

「御意!」

 レオンは特大の火の玉を落とし、影も形も無くなる程に焼き尽くした。


 レオン、ジュリア、キースがそれぞれに止めを刺し、3体の怨獣は黒い霧へと霧散した。

「ふぅー、終わったか・・・」


 終わったと思ったその時だった。

レティシアとリカルドの目の前に黒い霧が現れると同時に怨獣が現れた。


「ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン!」

「キシャシャシャシャ!」


 それは最初に現れたお母様を攫った怨獣と同じに見えたが、頭が違った。

角の形を見るに、どうやら水牛と羊だ。


「リカルド!」

「ルミエールよ、我に力を与えよ!」

「ヒュオーッ!」

 金色に光るマナがリカルドに集約して行く。さながら後光の様に明るく輝いた。


「裁きの光を受けよ!」

「カッ!」

 金色に輝く魔法陣から光の束がレーザー光線の様に怨獣を貫いた。


「ボンッ!」

 怨獣の胸が爆発する様に貫かれ、大きな風穴が開いた。


 やった!誰もが勝利を確信した瞬間、身体のほとんどが崩れ落ちながら、黒い大蛇へと形を変え、頭からレティシアへ飛びついた。

「シュルッ!」


 あっという間にレティシアの胴体に巻き付き、一気に黒い霧の中へと引きずり込んだ。

「キャーッ!」

「レティシア!あぁ・・・レティシア・・・」


「ヒュー、ヒュー、ヒュー」

 その瞬間、頭上にはどこかで見た黒い船が帝国城の方からやって来た。


「あの船は・・・カオスか!」

「夢幻旅団!」


 カオスは僕らの上空で停止するとデッキからバルデラス団長が顔を出した。

「バーナード!状況は?」

「恐らく落ち着いた。だが、レティシア王女が拉致された」

「なんだと?」


「10年前に城を襲い、皇妃殿下を拉致した怨獣だった」

「くそっ!遅かったか!」

「バルデラス、どこへ行っていたのだ?」

「20分前にアルフォンソ王国で怨獣が出たのだ。15分で片付けたのだが・・・」


「まさか・・・アルフォンソは陽動だったのか・・・」


「くそっ!僕の攻撃が甘かったんだ!」

 リカルドは片膝を付いて地面を拳で殴りつけ、悔しがった。

「リカルドは良くやったよ。自分を責めてはいけない」

「お兄様、でも!」


「あぁ・・・全ては僕のせいだ。僕が・・・」

 地面にへたり込み泣いていたのはガブリエルだった。

「ガブリエル、残念だ」


「エリアス様、申し訳御座いません!僕が今朝、寝坊したばかりに・・・」

「寝坊?あぁ、遅刻ギリギリだったね。それがどうしたというんだ?」

「お父様が・・・昨夜、私の心を読んだのです」


「心を読む?どういうことだ?」

「マスクを外したその眼は赤く光り、僕の考えを読み取りました。そして、お前はアニエスではなく、レティシアを選ぶのか。お前は私を裏切るのか・・・と」


「な、なんだって?」

「お父様は最早、人ではありません。闇属性魔力を持ち、魔眼を操り、怨獣を創り出しているのです!」

「ガブリエル!それは本当なのか?!」

「はい。その時に感じたのです。お父様は人間ではないと・・・禍々しい憎しみに支配されていたのです」


「バーナード団長!バルデラス団長!私はこれから神殿に乗り込みます」

「エリアス様、これから直ぐにで御座いますか?!」

「レティシアの命が懸かっているのです。一刻の猶予もありません」

「わかりました。ベルティーナ。このことを陛下に知らせよ!我らはエリアス様と共に神殿へ向かう!」

「御意!」

 ベルティーナは返事と共に城へ向かって走り出した。


「行くぞ!」

「御意!」


 全員が神殿へ向けて走り出すと後ろからバサバサと羽音が聞こえた。

振り向くとそこにはルーナが飛んでいた。


「ルーナ!」

「ヒヒーンッ!」

「ルーナも一緒に行ってくれるって!」

「え?ルーナも?」


「ヒヒンッ!ブルルルッ!」

「レティシアを取り返すって」

「あぁ、もう判っていたんだね?」

「えぇ、そうみたい」


 ルーナはひざまずくと僕とアニエスを背中に乗せ走り出した。

騎士たちは皆、走って僕らの後を追って来た。


 城と神殿が並ぶ道へ出ると、まだ離れているが神殿までは一直線の位置だ。

「パウッ!」

 ルーナが口から白い光を放った。その光は神殿に真直ぐに向かい、神殿の上部半分程を吹き飛ばした。


「ドカーンッ!」

「ガラガラガラッ!」

 崩れた瓦礫が地面に落ち、土煙を上げた。


 そのまま神殿へ向かい50m程手前で止まり、僕たちはルーナから降りた。直ぐに皆が追い付いて来て神殿前に並んだ。

すると、神殿の表玄関が開き、中から使用人と思われる者たちが血相を変えて飛び出して来た。


 その最後に服装の違うご婦人がひとり青褪めた表情で出て来た。

「あ!お母様!」

「その声は!ガブリエル!」

「ご無事でしたか!お父様は?」

「司祭様?わかりません。またどこかの部屋に籠っているのかと・・・それよりも今の振動は何だったのですか?昨夜のより大きかったのですが」


「お母様、お父様は人ではありません。神殿の隠し部屋で怨獣を創り出していたのです!」

「司祭様が?そんな馬鹿な!ガブリエル!何てことを言うのですか!」

「お母様!先程、学校が怨獣に襲われ、聖女のレティシア様が攫われたのです!」

「レティシア王女殿下が?」


「はい!昨夜、お父様が魔眼を使って僕の意識を読み取り、レティシアを選ぶのかと怒っていたではありませんか!」

「あ!あぁ、それは確かに・・・そうですが、でも・・・」


 その時だった。意識を失ったレティシアを左腕に抱いた司祭が玄関から出て来た。もう一方の手には鋭い剣が握られている。その剣をレティシアの首に当てた。


 そして、驚いたことに司祭の髪はアニエスと同じ様に黒く、いつものマスクはしておらず、瞳は赤く光っていた。

全身からはうっすらと黒い霧の様に見えるものが立ち上っている。


 これが司祭の本当の姿なのか・・・最早、人間ではないのではないか?


「どうやら察知された様だな?」

「司祭、あなたが怨獣を操り、レティシアやお母様を攫ったのか?」

「エリアス。この世界の者ではない人間。120年前の再来か・・・どうしても私の邪魔をしたい様だな?」

「120年前?邪魔?そんなことは知らない。それより、お母様はどこだ!」


「エレノーラか。アニエスを差し出すならば、教えてやらんこともないがな」

「馬鹿な!そんなことできる訳がない!」

「では、エレノーラもこのレティシアも諦めるのだな?精々、後悔するが良い!」


「パウッ!」


 その時だった。僕の横に居たルーナが再び光を放った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ