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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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60.恐怖

 アニエスに唐突に言われ、僕は立ち止まり、アニエスを見つめた。


「あ、あぁ・・・そうだね。実は私も今、なんで私は他人ひとの心配ばかりしているんだろう。って思ったんだ」

「どうしてなの?」

 アニエスは更に顔を近付けて僕の顔を覗き込んだ。


「どうしてだろう?うーん。そうだな・・・家族が大切だから、かな?」

「リカルドは家族よね?でも、フィオナやミシェルは違うわ」

「アニエスは私の前世を見たよね?親子3人だけで、その家族もあんなことになってしまったし、こちらの世界でもお母様を失ってしまった。だから家族を大切にしたいんだ」


「家族から捨てられてしまったフィオナや、騎士の家に生まれて家族の思いに翻弄されているミシェル。自分がその立場だったら?って、そう考えてしまって見過ごせないのかな?それにリカルドがミシェルを気に掛けていたからね」

「そういうことなのね。解かったわ。エリアスは優しいのね」


 優しいのだろうか?自分では解からない。これも前世のトラウマなのかも知れないな。


 前世での母や自分の死の記憶、こちらでも3度も死んだと思った。他人の心配でもしていないと、一人になったら不安や恐怖に負けてしまうのかも知れない。


 あ!アニエスはそういう僕の不安や恐怖に気付いて声を掛けてくれたのかな?




 新学期も数日が経過し、皆が落ち着いて来た頃、ガブリエルが食堂で声を掛けて来た。

「エリアス様、二人目の聖女様がいらっしゃったのですね?」

「あぁ、そうだよ。紹介しないとね。レティシア、こちらは司祭の子息、ガブリエルだ」


「初めてお目に掛かります。私は神殿の司祭、ミハイロ・エヴァノフの息子、ガブリエル・エヴァノフに御座います」

「初めまして。私はアルフォンソ王国、ハビエル・アルフォンソの娘、レティシアに御座います」


 二人は挨拶が終わるとお互いの瞳を見つめたまま、動かなくなった。

周りの僕たちもあれ?と思い始めた頃、アニエスが声を掛けた。


「あら?やっぱり聖属性の魔力を持っているとお互いに通じ合えるのかしら?」

「え?あ!そ、それは・・・」

「あ、あの・・・これは・・・」

 ガブリエルもレティシアも耳まで真っ赤にして慌てふためいている。


「あ、あの、王女殿下に失礼をいたしました。申し訳ございません!」

「そ、そんな・・・司祭様のご子息様なのですから、お気になさらず!」

「そんなことはいいのよ。お互い気に入ったなら仲良くすれば!」

 アニエスは大胆に言い放った。


「え!そ、それは・・・」

「あの、それは・・・」

「それじゃぁさ。お近付きの印に今日からガブリエルも一緒に食事をしようか」

「え?私が皆さんと一緒に?」


「嫌なの?」

「そ、そんな!滅相もない!」

「それならいいでしょう?」

 もう、アニエスが突っ込みまくる。二人はタジタジだ。


 結局ガブリエルも一緒に食事をすることとなった。ガブリエルはレティシアの隣に座って真っ赤な顔をしている。


「レティシア王女殿下は聖属性の他に火属性もお持ちなのですね?」

「ガブリエル様、わたくしのことはレティシアとお呼びください。私の魔力は聖属性と火属性が50ずつなのです」

「え?レ、レティシア・・・と?」

「そうです。レティシアとお呼びください」


「あ・・・そ・・・えっと、レ、レティシア・・・」

「はい。ガブリエル様」

 色素の薄いガブリエルの真っ白な肌が、真っ赤になった。

「あ、あの・・・僕、ちょっと・・・トイレに・・・」

 ガブリエルはヨタヨタになってトイレへ向かった。


「ちょっと!あれ、大丈夫なのでしょうか?」

「ジュリア、きっと初めてのことで戸惑っているんだよ」

「初めてのこと?」

 レティシアが首を傾げる。


「初めて人を好きになった。ってことでしょ?」

「え?ガ、ガブリエル様が?私を?」

 レティシアが真っ赤になって両手を胸の前で組んでフリーズした。


「アニエス、それはもう少し、遠回しに・・・」

「遠回し?どういうこと?」

「当人がそれに気付いて、自分で相手に想いを伝えるべき・・・なんじゃないかなぁ・・・」

 恋の経験がない僕が言うのも変なのだけどね。


「あら、そうなの?ごめんなさいね。ではレティシアはどうする?」

「え?私で御座いますか?わ、私は・・・」

「あら?ガブリエルのこと、好きじゃないの?」

「そ、それは・・・」


「ちょっと!アニエス。ゆっくり考えさせてあげて」

「エリアス、だって!」

「あ!もしかして、同じ聖属性を持っているから、二人の心が読めてしまうの?」

「あぁ、そういうことなのかしら。あまりにも二人の声がはっきりと聞こえて来るから二人も通じ合っているのだと思ったの」


「レティシア、どうなの?」

「いえ、声が聞こえる様なことは・・・でも気持ちは・・・少しだけ・・・」

「あぁ、きっとガブリエルも同じなんだね。だからあんなに動揺していたんだな」

「聖属性の魔力って凄いのですね!」


「それじゃ、隠しても仕方がないね。少しずつ仲良くなって行けば良いのではないかな?」

「ガタッ!」

「痛っ!」

 トイレから戻って来たガブリエルは、僕らの話が聞こえてしまった様で、更に慌ててテーブルの角にぶつかった。


「あぁ、ガブリエル。聞いていた様だね。まぁ、そういうことだから。隠せないみたいだ」

「では、レティシアもアニエス様の心の声が聞こえるのですか?」

「え?い、いえ。聞こえません」

「ガブリエルも?」

「はい。アニエス様の考えていることは判りません」


「あれ?でもアニエスは二人の声は聞こえるんだね?」

「えぇ、聞こえるわ。聖獣たちと同じよ?」

「そうか。そしてレティシアとガブリエルは少しだけ通じ合えるんだね?」

「そうかも知れません」

「そうですね、少しだけ・・・」


「それって、嬉しいわね」

「えぇ、とっても羨ましいです!」

「素敵なことですね!」

 ジュリア、フィオナ、ミシェルは女性らしい反応をした。


「でも、それはお互いに好意があるから良かった。で済むんだ。どちらか一方だけの想いだったら戸惑うだけだろ?」

「レオン、それは確かにそうだよね」

「相思相愛で良かったですね!」

「キース、そこはもう少し遠回しにね!」

「アニエス様が言いますか!」

「てへっ」


「あーあ。エリアスの心の声も聞こえるといいのに・・・」

「ふふっ、流石のアニエスも能無しの私の心は読めないんだね?」

「もっとエリアスのことが知りたいのに!」


「はぁー、アニエス様はエリアス様を心から愛していらっしゃるのですね・・・」

 レティシアは陶酔する様に瞳をとろんとさせながらつぶやいた。


「うーん。愛って・・・良く解からないのだけど・・・でもエリアスは私の全てよ」

「キャーッ!」

 女子4人が思わず叫んでしまった。食堂に居た生徒たちが一斉にこちらに振り向いた。


「あ!いけない。皆さん、落ち着いて!」

「申し訳御座いません」

「失礼いたしました」

「ごめんなさい!」


「私の全て・・・そんなこと、いつか言ってみたいものね」

「あぁ・・・素敵ね。愛だわ・・・」

「もう、ふたりの間には誰も入り込めないのね・・・」

「そんな恋をしてみたいです!」

 ジュリア、レティシア、ミシェル、フィーネが次々に呟き、ため息をついた。


「ちょっと、みんな・・・」

 結局、僕とアニエスの話になってしまったな。


 それにしても、ガブリエルとレティシアか・・・とてもお似合いの二人なのだけど、司祭のことを考えるとこれから大変かも知れないな。


「ガブリエル。これから学校では私たちと一緒に行動してくれるかな?」

「え?どうしてですか?」

「この話がいつ司祭に伝わるか判らないだろう?」

「あ。はい。そうでした。よろしくお願いいたします」


 ガブリエルはかなり舞い上がっているな。帰ってからも平静を保てるだろうか?いや、無理だろう・・・司祭の反応が少し心配だ。




 ガブリエルは帰り道、今日の出来事を頭の中で反芻はんすうしていた。

レティシアが僕のことを想ってくれている。僕の気持ちもレティシアに通じている。こんなに幸せなことが起こるなんて・・・


 でも、どうしよう。晩餐の時にお父様に勘付かれたら・・・怖いな。




 静かな緊張、ナイフとフォークの音だけが響く晩餐の席。


 だが、今夜はいつも以上に緊張し、平静をよそおうとすればする程、緊張は増し、フォークを持つ手が震え、いつもより音を出してしまっていた。

「カチャリ!」


 司祭は動きを止め、マスクをしたままの顔をこちらへ向けた。

「ガブリエル、今日は学校で何かあった様だな?」

「と、特に何かあったということはないのですが・・・二人目の聖女が入学して来まして、挨拶をしました」


「あぁ、火の国の娘か。あれは聖属性が50しかないのだったな・・・」

「そ、そうですね。私と同じです・・・」

 そう言って、ガブリエルはうつむいた。


「ガブリエル・・・顔を上げろ」

「はい?」

 ガブリエルは父の顔を見て、ギョッとした。


「お父様!」

 司祭はマスクを外して真直ぐにガブリエルを見つめていた。初めてマスクを外した素顔を見たのだが、その瞳は両目が赤く光っていた。


「ガブリエルよ。お前はアニエスではなく、レティシアを選ぶと言うのか?!」

「そ、そんなことは・・・御座いません!」

 ガブリエルは震える心を抑え、なんとか絞り出す様に反論した。


「お前は私を裏切るのか・・・」

「ガブリエル!あなた!」

「お父様、お母様、私が家族を裏切ることなど御座いません」


「司祭様、ガブリエルを信じてやってくださいませ!」

「ふん・・・今日の所は良いだろう・・・」

「司祭様、ありがとう御座います!」

 司祭は静かにマスクを装着し、無言で食事を進めた。


 助かったのか?どうだろう・・・あの赤く光っていた瞳はなんだ?確か神眼は碧く光るのだったよな?では赤は?まさか・・・魔眼?お父様は闇属性魔力を持っているのか?


 そんなことが有得るのか?

ガブリエルは言い様のない恐怖に襲われ身体が震えた。


 エリアス様が心配された通りになってしまった。お父様を誤魔化すことなどできる訳なかったのだ。


 ガブリエルは自室に戻ってからも震えが止まらなかった。早目にベッドに入り布団にくるまったのだが当然のように眠れない。


 明日、エリアス様に相談しよう。そう思った時だった。

「ズシッ!ビリビリビリ」

「え?この振動は何だ?」

 ガブリエルは飛び起きると枕を抱きしめて座り込んだ。


「どうしよう・・・もしかして、お父様が何かしているのだろうか?」

 だが、5分ほどで振動は無くなり静寂が戻った。それはそれで恐怖が増してしまい、結局は朝方まで眠れず、翌朝は眠い目をこすりながらの登校となった。


 いつもより遅くなってしまい、教室に入ると直ぐに授業が始まってしまった。

エリアス様にお話しする時間がなかったな・・・昼食後に話してみよう。


 エリアスは授業が始まるギリギリになって登校して来たガブリエルの表情を見て心配になった。

「ガブリエル、大丈夫かな?」

「エリアス様、どうかされたのですか?」

「いや、ガブリエルの様子がね・・・少し心配なんだ」


 と、その時だった。

「フルフルフルッ!」

「エリアス様!」

「エリアス!」

 レオン、キース、ジュリア、アニエスが叫んだ。リヴァイアサンのネックレスが震えたのだ。


「怨獣だ!」

「先生!近くに怨獣が出現します!生徒を避難させてください!」

「え?エリアス皇子殿下、怨獣?で御座いますか?」


「ガシャーン!」

 遠くでガラスが割れる音がした。

「あれはどこだ?」

「西側の校舎でしょうか?1年生の教室の方ですかね?」


「先生!東側から逃げて騎士団の敷地へ避難してください!騎士を呼んでください!」

「承知しました!皆、後ろの扉から出て!急いで!」


「行くぞ!アニエスは私から離れないで!ジュリアはアニエスの横に!フィオナ、キース、後方に注意してくれ!」

「御意!」


「レオン、行くぞ!ガブリエル!ついて来て!」

「御意!」

「はい!」


 僕らは1年生の教室を目指し、全速力で廊下を走った。

「バキバキバキッ!ガシャーンッ!」

「キャーッ!」

「うわぁっ!助けてーっ!」


 教室の中へ飛び込むと目を疑う状況となっていた。既に教室の壁が外へ向けて破壊され、壁材とガラスが散乱していた。何人かの生徒が机の下敷きとなって倒れている。


「ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン!」

「キシャシャシャシャ!」


 教室の外には黒い霧の渦があり、その中心には見覚えのある奴が居た。

「まさか!あいつは・・・」

「エリアス様!ご存じなのですか?」


「あいつは・・・お母様を連れ去った奴だ!」

「え!あれが?!」


 何故、あいつがまた僕の前に現れたんだ?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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