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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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57.借金

 フィオナが身売りされることが決まっているって?そんな馬鹿な!


「身売りだって?」

「わ、私は・・・」

 フィオナは泣きそうな顔でうつむいた。


「どういうことだ?まだ人身売買が横行しているのか?それにフィオナは魔力も大きいではないか!」

「エリアス様、そういうことでは御座いません」

「ジュリア、だってアニエスが・・・」


 フィオナは俯いたまま、絞り出す様に話し始めた。

「はい。正確には人身売買ではありません。契約で私の卒業後の就職先が決まっているのです」

「就職?では身売りではなく、その会社に就職するということ?」


「うーん。それは良い言い方をすれば・・・ですね」

「レオン、どういうことだい?では、悪く言ったら?」

「奴隷・・・でしょうか?」

 レオンは真顔で不穏な言葉を並べた。


「なんだって?」

「フィオナ、あなたの親はその就職先に借金があるのかしらね?」

「はい、マルティーニ様。多額な借金があるので御座います」


「娘を借金の形に奴隷として差し出すってこと?」

「その様です」

「この世界でそれはよくあることなの?」

「いえ、そう多く起こることでは御座いません」


「それで、その就職先でフィオナはどんな仕事をするの?」

「それは・・・」

 フィオナは言葉に詰まり、瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。

その時、レオンが僕の耳元でつぶやく様に言った。

「主人のなぐさみ者となるのです」


「なんだって?!その相手とは誰なんだ?!」

「それを聞いてどうされるので御座いますか?」

「ジュリア、勿論、助けるのさ」

「でも、同じ様な境遇の者は少ないとは言え、この世界で数十人、いや百を超えるのかも?」


「そうだとしてもだ。そんな目に遭った女性は必ず、その主人や自分を売った親を憎むことだろう。それを知った上で放置することなどできないよ」

「そういうことだそうだ。フィオナ。相手の貴族は誰なんだ?」

「そ、それは・・・マルティン・ワグナー公爵様で御座います」


「ワグナー公爵?あの穀物王と言われている?確かシュナイダー王国の穀物畑の3割を所有しているのだったな」

「はい」

「それでシュルツ侯爵は何故、借金を?」


「3年前からワグナー公爵様から穀物を売ってもらえなくなったのです。それで今まで扱って来なかった鉱物に手を出したのですが、騙されて不純物の多い鉱石を買わされたのです。結局買った値段の半分にもならず大損を・・・」


「何故、ワグナー公から穀物を買えなくなったのかな?」

「金属の国、ステュアート王国への輸出が増えたのです」

「キース、何故ステュアート王国は穀物の輸入を増やしたのか知っているかい?」

「はい。人口の増加と昨年の天候不良による農作物の不作が原因と思われます」


「そうか。それでその鉱石は誰から買ったんだ?」

「ワグナー公爵様から紹介された業者です。穀物を売ってやれないからと・・・」

「まさか、初めからフィオナを狙って騙したのか?」

「それは・・・判りません」


「ふむ。見かけ上は疑われない様につくろっているのかな・・・」

「エリアス様、証拠が無ければ公爵閣下を裁くことは難しいかと」

「さて、どうするか・・・」


「キース、金属の国出身の君に聞きたいのだけど、この世界で金という金属の価値は如何ほどなのだろうか?」

「金は滅多に出土しない金属ですので大変希少価値が高いのです。ネックレスや指輪に使われることはあるのですが、余りにも少ないため私はほとんど見たことが御座いません」


「あれ?キースは金属属性の魔力が100になったのだろう?キレイカルコスも錬成できるのだから金だって錬成できるのでは?」

「この世界にほとんど無い金属は錬成できないのです」

「そうなんだ。では金は高価なものなんだね?」

「はい。恐らくこの世界では宝石よりも高価です」


「それは良いことを聞いた。ではあとはお父様と話をつけるよ」

「陛下と?一体、どうされるのですか?」


「実はね。金は沢山あるんだ」

「え?金が沢山?ど、どこにあるのですか?!」

「それは内緒だよ。その金を売ってお金を作り、借金の形となった女性を買い戻せば良いでしょう。駄目かな?」

「い、いや、私にはとても考えつかないお話ですので良いも悪いも・・・」


「流石、エリアス様です。神であるエリアス様が慈悲を与えると言うならば、逆らえる者は居ないでしょう」

「よし、ではそれで話を進めよう」

「あ、あの・・・それは・・・」

「フィオナ、安心していいよ。君を奴隷になんかさせないよ」

「あ、あ、あぁ・・・う、うぅ・・・エリアスさま・・・」


 アニエスが床に膝を付いて泣くフィオナを抱きしめて聖属性魔法を掛けた。

二人は真っ白な光に包まれ、フィオナは驚きの顔から徐々に笑顔になっていった。


「フィオナ、エリアスに任せておけば大丈夫。あなたは自分の将来の夢を見ながら学校生活を楽しめば良いのよ」

「ありがとう御座います。エリアス様。聖女様」




 城に帰るとアニエスと共にお父様に謁見を求めた。

夕食前の応接室にアドリアナお母様とリカルド、宰相が集まった。


「エリアス、今日はどうしたのだ?」

「はい。お父様に相談が御座います」

「また、新しい法案でも思いついたのか?」

「法案ではありませんが、この世界の歪みのひとつを是正し、苦しんでいる女性を救いたいと思っています」

「ほう、何があったのだ?」


 僕はお父様に学校でのフィオナの話をした。

「エリアス様、その様な話はこの世界全体で考えれば、ほんの少しの過ちなのでは御座いませんか?」

 宰相め・・・こいつ、人の心があるのだろうか?自分とアルフォンソ王国のことしか考えていないのかな?


「宰相殿、この世界でその様な境遇に陥っている女性が今は百人だけなのだとしても、今、救ってやれば、将来怨獣に成り果てる者を百人減らせるのです」


「そしてそれは今現在の話です。今後もそれを見過ごし続けるのであれば、やはり怨獣を根絶やしにすることはできないのです」


「エリアスの言いたいことは解かる。だが、借金を肩代わりしてやるのはどうなのだろう?未熟で無謀な計画で商売をした結果の借金であろう?その失敗の責任を取らせることも必要だろう」

「勿論です。私は子供を借金の形としている場合だけ、私が借金の肩代わりをすると言っているのです。ですがその借金は代替わりし子に引き継がれようとも返していただくつもりです」


「あぁ、代わりに払ってやると言っているのではないのだな?」

「はい。そうです。人身売買の様な真似は許さないということです」

「それは解かったが、肩代わりする金はどこから捻出するつもりだ?」


「実はグリフォンから金貨と宝物ほうもつを貰ったのです。それらは全て私の前世の世界のものなのです」

「何?この世界にエリアスの前の世界の宝物があるのか?」

「はい。それも大量に。この世界で金はとても希少なのだそうですね?」

「私、指輪をひとつ持っているだけです!」

 アドリアナお母様が笑顔で答えた。


「そう言えば、アニエスに贈ったネックレスはグリフォンからもらったと言っていたな」

「お兄様、その金貨はどうやってお金に換えるのですか?」

「リカルド、それはね。テレビで番組を作ってもらって、私の前世の世界の宝物だと言って購入希望者を募るつもりだよ」

「一体、どれだけの金額になるのでしょうね」


「売れると良いのですが・・・」

「エリアス様、売れるに決まっています!私も欲しいです!」

「アドリアナお母様には差し上げますよ」

「え!本当ですか?!嬉しい!」

「おい、エリアス。私の妻を口説かないでくれるか?」

「あはははっ!」


「ちょっと、お待ちください」

 宰相はまた、ケチを付けたい様だ。聞くまでもない。顔がそう言っている。

「なんでしょうか?」


「フィオナ嬢の件は相手が判っています。ですが、既に借金の形に娘をせしめている貴族と娘を売って借金を帳消しにしてもらっている親は、名乗り出ないのでは御座いませんか?」

「そうだな。売られた娘はテレビも観られなければ外にも出してもらえないのだ。この話を知ることができなければ、訴え出ることもできぬだろう」

「それには考えがあります。まぁ、見ていてください」


「ほう」

「まぁ!」

「流石!お兄様です!」




 そして1か月後、僕が仕込んだ特別番組がテレビで放映された。

「皆さま、こんばんは!今日はウーラノスの大神、エリアス皇子殿下がお贈りする特別番組を放映いたします」


「皆さん、こんばんは。エリアス・アルカディウスです。こちらは聖女アニエス・クレール。それに聖獣のグリフォンです」

「こんばんは、アニエス・クレールです」

「ピュルルルーッ!」

「グリフォンは、こんばんはって言っています!」

 グリフォンの通訳はアニエスの担当だ。


「エリアス皇子殿下、聖女アニエス様、聖獣グリフォン様。本日は、ようこそお出で下さいました。今日の特別番組なのですがどういった内容なのでしょうか?」


「この世界では貴族が借金を負った場合、その借金の形に娘を差し出すという、人身売買の様なことが行われていると知りました」


「その情報はどちらからお聞きになったのでしょうか?」

「それは、私の友人である女性の父親が事業で失敗し借金を負ったそうなのです。その借金の肩代わりとして、彼女はある会社に就職させられることが決まっているそうです」


「そして、彼女は就職という隠れ蓑の中で、雇い主である貴族に好きな様に扱われると」


「そんなことが許されて良いのでしょうか?以前、魔力の少ない子を捨てたり売ったりすることを禁じる法が制定されました」


「更に、親は子の結婚相手を強制できないとの法も制定されました。それなのに、子を就職という隠れ蓑でその実、借金の形に売り飛ばす様な真似は到底許されることではありません!」


「借金の形にされた子は、売られた先でしいたげられ、奴隷の様な扱いを受けたならば、その主人を怨むことでしょう。そして自分を売った親のことも怨むでしょう。その怨念は死後、怨獣へと成り果て、その子孫に襲い掛かることとなるのです」


「本来、このようなことは法で定めるまでもなく、人として許されることではありません。よって、子を借金の形に渡した親と受けた者に、この私と聖獣が裁きを与えます!」


「エリアス皇子殿下、どの様に裁かれるのでしょうか?」

「これから5つの大陸で、聖獣たちが巡回し、子を借金の形に売った親、借金の形として受け取った者を見つけ出します」


「聖獣が見つけ出す前に申し出た場合は、貸し付けた者にはその額を私が肩代わりして支払い、子は返していただきます。借金をした者には私が一時的に肩代わりした金額を代替わりしようとも必ず完済していただきます。そして子は親には返さず、帝国が一時的に保護し、希望する仕事に就かせます」


「エリアス皇子殿下、申し出ずに聖獣に見つけ出された場合はどうなるのでしょうか?」

「親も貸し付けた者も双方とも聖獣が魔力を奪い、帝国の命により爵位をはく奪します!」

「魔力と爵位をはく奪!で御座いますか?!」


「特権と栄誉を持つ貴族が、人としてあるまじき行いをしたのですから当然です!そして魔力を奪うのは、私や帝国を逆恨みして将来怨獣と成り果てることを未然に防ぐためです」


「聖獣が巡回を始めるのはいつからでしょうか?」

「本日より1週間の猶予を与えます。よく考え正しい答えを出すことを望みます」

「ピュルルー!」

 その時、グリフォンの目が碧く光り、テレビカメラのレンズを真直ぐに見つめた。


 当事者たちはグリフォンの碧く光る目を見て震え上がっていることだろう。


「それと、この借金を肩代わりするのは帝国ではなく、この私です」

「エリアス皇子殿下が自ら借金を肩代わりされるのですか!」

「そうです。そこで今回、その資金を用意するために、私の持っている金貨や宝物を皆さんに紹介し、買っていただこうと思っています」


「エリアス皇子殿下の私物の宝物をお売りいただけるのですか!それはどの様なものでしょう?」

「では、こちらに」


 僕らはスタジオの中を移動し、カメラがターンする。その先のテーブルには積み上げられた金貨の山と宝石、宝飾品がぎっしりと並べられていた。


「なんて美しい黄金!それに宝石や宝飾品!素晴らしいものばかりで御座いますね!」

「これらは全て、私の前世の世界。ウーラノスではない異世界の品です。その世界で大昔に使われていた金貨、そして宝石と宝飾品。どれも高い価値のあるものばかりです」

「素晴らしいですわ!」


「この番組の後で、それぞれの商品とその売値を紹介いたします。買いたい商品が御座いましたら、番組まで申し込みをお願いいたします。金貨については希望者が販売枚数を上回った場合は抽選とし、宝飾品につきましてはオークションとなります」


 この放送は録画を放送したものだ。帝国城では食後にサロンで放送を観た。

「エリアス、良く考えてあるな。あの金貨と宝物には驚いたぞ」

「皆さんに金貨と宝飾品をプレゼントしますよ。これをどうぞ!」


 僕は家族一人ひとりに金貨と宝飾品を手渡していった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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