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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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53.役目

 司祭の呆れた行動が明らかになって来た。


 僕は罪のないガブリエルを司祭から切り離すべきだと考えた。


「エリアス様、本当にそんなこと、よろしいのでしょうか?」

「ガブリエル、司祭とは神の言葉を人に伝え、人を神の元へ導くのが役目ではないのかな?」

「はい。おっしゃる通りです」


「司祭は神の言葉を聞いたことがあるのだろうか?」

「私はその様な話を聞いたことは御座いません」

「では、人を神の元へ導くために何をされているかな?」

「いえ、神殿でその様な行いは存じ上げません」


「ふむ。病を治す聖属性魔力を持ち、医師でも見つけられない病気をも見通す神眼も持っていながら人を救おうとしない・・・」

「申し訳御座いません・・・」

「何故、君が謝るのかな?」

「私には何もできず・・・」


「そうか、君も苦しんでいたんだね」

「う、ううっ・・・」

 ガブリエルは目に涙を溢れさせた。気持ちの糸が切れてしまった様に。


「今まで辛かったね。でも、さっき話をした通り、君は神殿の跡継ぎのことは考えなくても良いよ」

「え?神殿をどうされるのですか?」

「ここだけの話だけど・・・神殿はもう要らないと思うんだ」

「えーっ!」

 皆が一斉に大声を上げてしまった。食堂に居た先生や生徒たちが一斉にこちらに振り返った。


「こら!声が大きい!」

「す、すみません!」

「申し訳ございません!」


「突然、驚く様なことを言った私が悪いんだ。すまない。でもね、さっき言ったことは本当にそう思っているよ」

「神殿を失くしてしまわれるので御座いますか?」

「だって、今の神殿はその役目を果たしていないでしょう。必要あるかな?」


「それに聖獣は躊躇ためらわずに神殿を攻撃したね?聖獣は間違いなく光の神に仕えている。今の神殿が本当に神と通じている場所ならば、聖獣が攻撃するはずがないと思うよ」

「おっしゃる通りです」

 ガブリエルは神妙な顔つきで言った。


「ガブリエルは、お父上のことを愛しているかい?」

「それは・・・ありません。だって、父上は僕をさげすみ続けて来たのですから」

「それは何故かな?」

「僕が神眼を受け継げなかったから。それに聖属性魔力も50しかありません。きっと父上にとって僕は、恥ずべき存在なのだと思います」


「残念な話だね・・・私も魔力を受け継いでいないから、ガブリエルの気持ちは痛い程解かるよ。でもこれからは自分のやりたいことをすれば良いと思う」

「ほ、本当に守っていただけるのですか?」


「勿論だよ。今までに身の危険を感じることがあったのかな?」

「直接暴力を受けたことは御座いません。小さな頃から父上には絶対に逆らわない様にと母上に言われて育ったのです。それに父上と接触する機会は多くありませんから」

「神殿で一緒に暮らしているのに?」


「父上はいつも神殿のどこかに籠って出て来ないのです」

「神殿のどこか?知らない部屋でもあるのかい?」

「判りません。自室以外のどこかに居る様なのです」

「そのことはお母様も知っているの?」


「それは母上から聞いたのです。僕は外へ出掛けていると思っていたのですが、そうではないと母上がおっしゃっていました」

「お母様も知らないのだね?」

「はい。母上も父上のことは知らないことが多いとおっしゃっていましたから」


「司祭は神殿のどこで何をしているのだろうね?隠し部屋があるということかな?」

「判りません。でも、神殿のどこかから獣の叫び声を聞いたことがあるのです。それに何の匂いかは判らないのですが、変な匂いがすることもありますし・・・」

「そうか。ガブリエル。私には前世の記憶がある。前世の父親は私を虐待していたんだ。母は私を守るために父を殺そうとし、逆に殺されてしまった。私の目の前でね」


「そして、この世界に転生したのだけど、今度は怨獣から私を守るためにお母様は戦い、怨獣に連れ去られてしまった」

「そ、そんなことが・・・」


「母親というものはね、自分の命に代えても子を守ろうとするものなんだ。だから、司祭から逃げなければならない事態となった時にはまず、お母様を守るんだ。ガブリエルはもう、その判断ができる年齢だよね?」

「はい。判ります」


「危険を感じた時は、司祭と戦うのではなく、お母様を守りながら帝国城へ逃げ込むことだけを考えるんだ」

「はい!必ず、その様にいたします」

 その時、ふとジュリアを見ると、目を伏せ口を結び、膝の上でこぶしを握り締めていた。

きっと目の前で母を亡くした情景を思い出しているのだろう・・・


「エリアス様、よろしければ私とガブリエル様で連絡先を交換しておきたいと存じますが?」

「キース、そうだね。そうしてもらえるかな?ガブリエル、私だと司祭に見つかった時に面倒なことになりそうだからね。これからはキースを通じて連絡を取り合おう」

「はい。よろしくお願いいたします」




 放課後に皆で城に戻り、会議室へお父様に来ていただいた。

「お父様、今日、ガブリエルと色々話ができまして、判ったことがありますのでご報告差し上げます」

「ほう、聞こうか」


「まず、やはりガブリエルはアニエスと結婚するように命じられていたそうです。そして結婚の新法案も無視し、必ずアニエスと結婚させようと考えているようです」

「やはりな・・・」


「司祭の役目である難病の治療も高位貴族の一部にしか対応していないそうです。それ以外には、どうも神殿に隠し部屋がある様で、ほとんどそこに籠っているとのことです」

「何?隠し部屋?ではアニエスが閉じ込められていたという部屋も?」

「あるのかも知れません」


「それで、何か行動を起こすつもりなのか?」

「それはまだです。ガブリエルには好きな結婚相手を見つけ、神殿を継ぐのではなく別の道を進ませてやりたいと思っています」

「では神殿の跡継ぎはどうするのだ?」


「お父様、私は今の神殿はもう、この世界に必要ないと思うのです」

「ふむ。それは司祭が本来の役目を果たしていないということだな?」

「はい。神事も祭事もせず、人の命を救おうともしていない。その上、神眼に執着しているくせに、その神眼を正しく使ってもいないのです」


「そうだな。実際の所、神殿が無くなって困ることは何も無いな。だが、だからと言ってもう要らんから出て行けとも言えないぞ」

「はい。勿論、それは承知しています。何か事が起こった際に一気に潰してしまえば良いと思っています」

「エリアス。お前、怖いことをサラッと言うのだな」


「いえ、このままではガブリエルとお母様が可哀そうですから。それに神殿に対する脅威は増すばかりです。一層の警戒をする必要があります」

「それで、司祭がその隠し部屋で何をしているのかは判ったのか?」

「それはまだ判りません。ですが、ガブリエルの話では神殿の中で獣の叫び声が聞こえたり、変な匂いがしたことがあるそうです」


「ほう。では奴が怨獣を創っている可能性はあるのだな?」

「はい。私はまず間違いないとにらんでいます」

「だが今はまだ、こちらからは仕掛けないのだな?」


「はい。アニエスがガブリエル以外の者と結婚する話が出ない限りは大きく動くことはないと思いますので、しばらくは様子を見ようと思います」

「わかった。こちらでも探りを入れてみよう」


「お父様。司祭の役目は判ったのですが、聖女の役目とは何でしょうか?」

「聖女の役目?」

「はい。聖獣に聞いたところ、光属性の魔力を受け継ぐのに聖女は関係ないことが判りました。では本来の聖女の役目とは何なのでしょう?」


「そういうことか。大昔は医学が発達しておらず、聖女が人の病気を治療していたのだ。だが今は重い病でも病院で治せるからな」

「では、役目という程のことはないのですね?」

「そうだな。皇帝の妻となる必要がないならば、役目と呼べるものはないな」


「私は・・・私の生まれた意味は・・・なんなのでしょう・・・」

 アニエスは今にも泣きそうな顔になってしまった。

「アニエス。人は皆、自分の生まれた意味など考えないし、持って生まれたものがなくても良いんだよ」


「そうだな。エリアスは何の魔力も持っていないからな」

「お父様!それを言っては身もふたもないでしょう!」

「あぁ、そうか。すまん」


「ふふっ」

「くくくっ」

「うぐっ、う、うわっはっは!」

「あははは!」

「みんな!笑い過ぎだぞ?」


「エリアス・・・ありがとう」

「そうだ!アニエス。神殿でできなかった奉仕活動を病院でやってみないか?」

「病院?」

「うん。本来、神殿で診るべき重い病を持った人が、司祭に断られて苦しんでいるかも知れない。そういう人の治療をしてみない?」


「ふむ。それは良いかも知れないな」

「えぇ、私、やってみたいわ!」

「素晴らしいです!アニエス様!」

「そうか、では各病院にその様な患者が居ないか調べさせよう」

「お父様、お願いいたします。もし、その様な患者が居るならば、一日でも早く治療して差し上げた方が良いでしょう」


「病院にはこの面子で行こうか。騎士団の護衛では物々しいだろう」

「お前たちだけで大丈夫か?」

「そうですね・・・レオンは怖がられるかな?」

「な!なんで!」


「そうね。グレースも連れて行きましょう!」

「いや!別にグレースは・・・」

「お目付け役ってことか。それが良いね」


「では早速、明日の放課後から行こうか。アニエス、それで良いかな?」

「はい。私、頑張ります!」




 翌日の放課後、校門の前にはグレースが待っていた。

「やぁ、グレース。突然呼び出してすまないね」

「エリアス様、大丈夫です。レオンから詳しく聞いて御座いますので」

「今日はどこへ行くのかな?」

「はい。帝都の帝国病院へ参ります。先方には連絡してあるそうです」

「では、行こうか」


 初めて訪れた帝国病院の玄関には、沢山の職員が立ち並んで僕たちを歓迎してくれた。

「ウーラノスの大神にご挨拶差し上げます」

「許します」


「初めてお目に掛かり光栄に御座います。私は帝国病院の主、アルフォンス・レフェーブル公爵に御座います」

「初めまして、エリアス・アルカディウスです。こちらが聖女、アニエス・クレール、そちらは私の侍従たちです」


「本日は聖女様が我が病院の患者を癒してくださるとか」

「はい。本来、神殿にて治療をいただく重病の方がいらっしゃるのであれば、聖女が治療を施したいとのことです」

「大変、ありがたいお話で御座います。どうぞこちらへ」


 僕らは地球の病院とほとんど違いがない病院の廊下を歩きながら説明を受けた。

「実は3年前から原因不明の病で苦しみ続けている騎士が居るのです」

「3年も?」

「はい。神殿には何度も治療の依頼をしているのですが、聞き届けてはいただけない様で」

「それは何故なのでしょう?」


「それが判らないのです。ライネリオ・アドルノ伯爵は高位貴族ですし、魔力も80と大きい騎士です。治療を受ける資格は十分だと思われるのですが」

「ふむ、そもそもですが、高位貴族だとか魔力の大きい者が優先されることがおかしいのです。本来、司祭は神の使徒です。治療する相手を選ぶ権利など無いのです」


「殿下のおっしゃる通りに御座います。そう言えば、先代の司祭まではどんな患者でも診ていただけておりました」

「やはり、そうなのですね」


 そしてアドルノ伯爵の病室に着いた。貴族用の豪奢な個室だった。


「おぉ!神よ!ウーラノスの・・・」

「アドルノ伯爵、挨拶は結構です。あなたは病人なのですからね」

「これは寛大なご配慮を賜り、感謝申し上げます」

 アドルノ伯はベッドに横たわったまま頭を下げた。


「早速ですが、アドルノ伯。どの様な症状なのでしょう?」

「はい。3年前から魔力を出力する器官が機能しなくなり、大きな魔法が使えなくなったのです。それに伴い、心臓の機能も落ちており人並みに動くこともできぬので御座います」

「司祭に治療していただけないと聞きましたが何故なのでしょうか?」


「理由は教えていただけないのです。ですが、私と同じ症状で治療していただけたのは魔力が小さい者でした」

「魔力が大きいと治療してもらえないのですか?」

「はい。私の知る限り、魔力が80以上ある者は皆、治療していただけておりません」

 ふむ。高位貴族でも魔力の小さい者しか治療していなかったのか・・・何故だろう?」


 僕は考え込みながら周りを見回すと、ベッドの横で泣きそうな顔をして立っているご婦人に気付いた。アドルノ伯の奥さまだろうか?


 更にはアニエスの瞳が少し赤く光っており、アドルノ伯と奥さまを見つめていた。

「アニエス、どうかした?」

「エリアス、ここで話して良いものか・・・治療をして良いのか迷います」

「治療して良いのか迷う?」


 どういうことだ?治療をしない方が良い病気なんてあるのだろうか?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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