50.集合
滅茶苦茶になってしまった結婚式をなんとかしたい。
その想いでリヴァイアサンを呼んだ。でもまずは、今回の怨獣についてリヴァイアサンに判ることを聞いておこうと思う。
「リヴァイアサン、今日の怨獣について何か判ることはあるかな?」
「クゥォーン!」
「この前と同じ。人間に作られた怨獣。ただ、今日の3体には怨念が無かったのですって」
「怨念が無い?怨獣なのに?」
「クゥォーン!」
「知らない場所に送り出され、戸惑っているのを感じたって」
「え?では、殺してしまったのは可哀そうだったのかな?」
「クゥォーン!」
「彼らは身体を造り変えられてしまった。元に戻すことはできないし、あのままでも辛いだけだって」
「なんて酷いことを・・・」
「そうか。怨念を持たず、目的もないから直ぐに攻撃して来なかったのかな?」
「そうでしたね。初めは積極的に攻撃して来ませんでした。こちらの攻撃に対しては反撃して来ましたが」
「そうですよね。人型の怨獣があんなに弱い訳がないですよね」
「どうしたら、この首謀者を突き止められるのでしょうか?」
「リヴァイアサンにも判らないのだからね・・・」
皆が意気消沈してしまった。いかんな。気持ちを切り替えて結婚式を盛り上げないと!
「みんな!今は結婚式の最後を盛り上げようよ!」
「どうするのですか?」
「リヴァイアサン、水を噴き出せるかな?できるだけ霧の様に細かく」
「クゥォーン!」
「できるって、もうやっていいの?」
「うん。お願いするよ」
「クゥォーン!」
「ブシューッ!」
「うわぁー!」
「おいおい、これじゃ俺たちもびしょ濡れだ!」
「グレース、風の魔法で僕らに水が掛からない様にしてくれる?」
「はい!喜んで!風よ吹け!水を運べ!」
グレースは緑色の風のマナを集め、水を風に乗せて空へと霧散させた。
「ヒュルルーッ!シュワーッ!」
リヴァイアサンの背中にある鼻から噴気が出され、空気中の水分を纏い、霧となって空に広く散布された。すると空には大きな虹が現れた。
「うわぁー!大きな虹が出たわ!きれい!」
「素敵!私たちの結婚を祝ってくれているみたい!」
「見て、あそこにテレビカメラのドローンが飛んで来ているわ」
「マティアスとアリーチェを撮りに来たんだろう。さぁ、ふたりで並んで!」
二人の姿がスタジアムの大きなビジョンに映し出される。
「あぁ・・・なんて素敵な結婚式なんでしょう!」
「アリーチェ、良かった。エリアス様、私たちのためにありがとう御座います」
「いいんだ。あの怨獣が現れたのは私のせいでもあるのだからね」
「エリアス、あなたではなく、私なのでしょう?」
「アニエス。いいんだよ」
僕はアニエスにウィンクした。アニエスは僕の顔を見て笑顔になった。それでいいんだよ。
「リヴァイアサン、他の聖獣たちをここへ呼ぶことはできないかな?」
「クゥォーン!」
「できるって!直ぐに呼ぶ?」
「うん。今日、来賓の皆さんは恐怖を感じたと思うんだ。でも、最後に聖獣に会えたなら、幸せな気持ちで帰れるのではないかな?」
「そうね!リヴァイアサン、お願いできる?」
「クゥォーン!」
「よし!では、僕たちも会場へ戻ろうか」
リヴァイアサンがスタジアムへ降り、バルコニーへ僕らを降ろした。
僕たちは会場へ降りると、空に3つ、会場の端に1つ、白い魔法陣が現れた。
「あ!魔法陣だ!あれは何?」
「白い魔法陣?聖属性魔法だ!」
すると空の3つの魔法陣から、ペガサス、フェニックス、グリフォンが飛び出し、スタジアムの中をクルクルと飛びながら降りて来た。
地上の魔法陣からは、ユニコーンがその長い角からにゅぅーっと出て来た。
「やぁ、みんな!久しぶりだね!」
4体の聖獣たちは揃って僕とアニエスの下へと走って来た。
「ヒヒーン!」
「ブヒヒンッ!」
「クルルー!」
「ピュルルルー」
「うわぁ!5大大陸の聖獣がみんな集合したぞ!」
「あぁ、何て幸せなのでしょう!」
「アリーチェ、喜んでもらえて良かったよ」
「エリアス様、やはりあなた様は神様なので御座いますね?」
「いや、そんなことはないですよ。ただの無能な人間です」
「そんな筈は御座いません。この様に聖獣に慕われているのですから!」
「まぁ、良く解からないけれど懐かれてはいるね」
「絶対、神様です!」
ユニコーンがマティアスの下にやって来た。
「ブヒヒン!」
「マティアス、結婚おめでとうって言っているわ」
「え?ユニコーン様が?あ、ありがとう御座います」
「マティアス、ユニコーン様って・・・」
レオンが笑いを堪えている。まぁ、神の遣いと言われているのだからそう呼んでしまっても仕方がないかな?
「マティアスに魔力をお授けくださり、ありがとう御座いました」
「ヒヒーン!」
「え?なんて?」
アニエスはユニコーンの言葉を聞いてきょとんとした。
「あのね、早く子を産めって。女の子と男の子ができるって」
「え?本当に?嬉しい!マティアス。直ぐに作りましょう!」
「え?アリーチェ、もう?」
「学校は卒業したのだから良いでしょう?」
「それはまぁ、そうですが・・・」
この会話までテレビクルーがカメラに収め、大型ビジョンに映されている。
来賓のみなさんも笑顔で遠巻きに聖獣を見つめている。これで気持ちは落ち着いただろうか。
「ブヒヒン!」
「ユニコーンがマティアスとアリーチェを乗せるって」
「え?私が乗っても大丈夫でしょうか?」
「あぁ、重いもんね。でも大丈夫だよ」
「嬉しい!ユニコーンに乗れるなんて!」
アリーチェは素直に喜んでいる。
「アリーチェ、会場を回って来賓の皆さんに挨拶をして来ると良いよ」
「はい!そうさせていただきます!マティアス行きましょう!」
「わかりました」
ユニコーンは二人を乗せて会場を回り始めた。二人は来賓に声を掛け、お礼の言葉を掛けていった。
ふと気付くと、フェニックスは火の国の騎士たちに囲まれていた。皆、嬉しそうに写真を撮ったり、ちょっかいを出そうとする者も居た。
ペガサスとグリフォンの所にも同じ様に騎士たちや来賓が集まっている。
その時、グリフォンがキースにトテトテと近付いた。
「ピュルルー」
「ん?僕に何か用かい?」
そしてグリフォンは嘴を開くと、
「パウッ!」
グリフォンの嘴から白い光が放出され、キースを包んだ。
「うわっ!」
「キース!大丈夫?」
ジュリアが血相を変えてキースに駆け寄り腕を掴んだ。
「だ、大丈夫です。でも、何だか力が漲って来る様な・・・」
「グリフォン、キースに何をしたの?」
アニエスがグリフォンに尋ねた。
「ピュルルー」
「まぁ!そうなの?キースはエリアスを支えるから魔力を大きくしておいたって」
「え?僕に魔力を?それじゃ、マティアス様の様に強くなったのですね?」
「ピュルルー」
「特別だよ。だって」
「ありがとう御座います!あ!マナが・・・マナが見えます!やった!」
キースは空を見上げ笑顔となった。
「キース、でもそれはエリアスを守るための力よ?解かっているわよね?」
「アニエス様、勿論です。エリアス様とアニエス様をお守りします!」
「それ、いいなぁ、俺にも力をくれないかな?」
「レオンは直ぐに調子に乗るから、今のままでいいのよ」
「えーっ!でも・・・」
「クルルー!」
するとフェニックスがレオンの直ぐ後ろに立っていた。
「うわ!びっくりした!」
「クルルー!」
「レオンにも力を与えるって」
「え?本当に?」
「パウッ!」
フェニックスの嘴から白い光が放たれ、レオンはその光に包まれた。
「あ・・・本当だ。力が溢れて来る様だ!やったぞ!」
「レオン!解かっているわよね?」
「グレース。勿論だ。キースと同様に俺もエリアス様とアニエス様を守るよ」
「それならいいの」
「あ、あの・・・」
テレビクルーが恐る恐るといった感じで僕らに近付いて来た。
「何でしょう?」
「今の白い光は何だったのでしょうか?」
「あぁ、マティアスの時と同じで、聖獣が魔力を与えたのです」
「聖獣が魔力を!あ、あのお二人は?」
「二人は私の侍従です。赤い髪の男はレオン・バルデラス、もう一人がキース・ジョンソンです」
「では、エリアス皇子殿下の侍従のお二人は、魔力が100になったのですか?」
「そうですね。二人共元々、魔力は大きかったのです。でも人間が持てる最大の魔力を授かったのでしょう」
「素晴らしい!やはり、聖獣は神の遣いなのですね!そして神であるエリアス様の侍従には神を守る力を授けるのですね!」
「あ、あぁ・・・いや、それはどうなのでしょうかね?」
テレビクルーはひとりで興奮し舞い上がっている。そんなことを言われて自分から「はい、そうです!」なんて言える訳ないじゃないか!
「エリアス様、侍従の方がエリアス様をお守りするのは解かるのですが、今日のエリアス様のご活躍を拝見するに、エリアス様は誰の助けも必要としないのでは御座いませんか?」
「そんなことはありません。今日の怨獣は弱かったのです。いつもこうは行きません」
「弱かった?今日の怨獣は人型だったでは御座いませんか!」
「まだ発表できない事実があるのです。時機を見て皇帝陛下よりお伝えすることになると思います」
「今日の怨獣には何か秘密があるので御座いますね?承知致しました」
良かった。引き下がってくれた様だ。まぁ、当たり前か。でも、まだ発表できることではないからな。
聖獣たちとの触れ合いも落ち着いた様だ。来賓も満足げな顔をしている。
「さぁ、もう良いだろうか?聖獣たち、今日はありがとう。皆、もし、今日の怨獣について何か情報が入ったら教えてくれるかな?」
「ヒヒーン!」
「ブヒヒン!」
「クルルー!」
「ピュルルー」
「クゥォーン!」
「エリアス、みんなも久々に会えて嬉しかった。怨獣のことは調べてくれるって。また皆で会いましょう!」
「そうだね。皆、ありがとう!」
そうして幸せな結婚式は幕を閉じた。一時はどうなるかと思ったが、死人が出ずに済んで良かった。でも、これからは増々気をつけないといけなくなってしまったな。
それから2週間後、ロンバルディ王国城に各国の王が集まり、首脳会議が開かれた。
僕も新しい法案を引っ提げて出席した。会議にはお父様とアドリアナお母様、宰相、5大国の王と王妃が出席し、円卓を囲んだ。
「エリアス様、2週間前の結婚式ではご活躍でしたな。テレビ中継の録画をスローモーションで観なければ、殿下がどうやって動かれていたのか見えませんでした」
「本物の剣術とはあの様に速く動くものなのです」
「それでいて、あの人型の怨獣が弱かったとか?」
僕は予め、お父様に各国の王に人造怨獣のことを話す許可をいただいていた。
「あの怨獣は、人が人工的に創り出した怨獣なのです。特に今回の3体には怨念が宿っていませんでした。形だけ人型となっていて、実力は獣型の自己再生ができるレベルのものでした」
「人口的に怨獣を造れるのですか?」
「造り方は判りません。ですが聖獣たちがその異変に気付いたのです」
「では、聖獣がその様に指摘しているのですね?」
「そうです。あれはおかしい。今までには居なかったものだと」
「それは一体、どこの誰が造っているのでしょうか?」
「それはまだ、判っていないのです」
「見当もついていらっしゃらないのですか?」
「それは・・・」
お父様が王たちを見回しながら重い口を開いた。
「これは私の推測に過ぎないのだが、その様なことができる可能性がある者・・・それは司祭が怪しい・・・そう考えている」
「司祭?神の使徒である司祭が怨獣を造り、人を襲っているので御座いますか?」
「司祭は5代前から悪に身を染めているかも知れぬのだ」
「それでは・・・司祭をどうされるのですか?」
「いや、司祭が怨獣を造っていることは、まだ推測に過ぎず証拠も無いのだ」
「そうですね。まがりなりにも神の使徒である司祭を証拠も無しに真っ向から疑う訳には参りません」
「そういうことだ。今は尻尾を出すのを待つしかないのだ」
「はい。そこで今できる怨獣対策として、新しい法案を提出したいのです」
「エリアス皇子殿下自ら法案を?」
「はい。説明させていただきます」
僕はお父様たちにしたのと同じ様に各国の王と王妃たちに説明した。
「つまり、今、生きている人間の不平不満を解消し、怨みの元を断つと?」
「そうです」
「それでは、これからは無理に騎士を育てなくとも良いので御座いますか?」
「そうです」
「身分差のある結婚も認めると?」
「それは今までも法で決まっていた訳ではないでしょう。貴族の自負心がそうさせていたに過ぎません」
「しかしですな、子の怨みは減るかも知れませぬが、それが原因で家が没落したならば、今度は親が子を恨む様になるのでは御座いませんか?」
「やはり、そう思われるのですね?」
あぁ、やはりそこか。仕方がない。もう言ってしまおうかな。
お読みいただきまして、ありがとうございました!




