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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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48.恋愛

 僕とアニエス、キースは帝国貴族学校の2年生に進級する。


 僕の身長は195cm、キースは193cmとなり、198cmのレオンにもう少しで並ぶ。それでも188cmのアニエスとジュリアはヒールの高い靴を履いているから、僕らと同じ位の背丈に見える。


 2年生に進級する前の春休みにレオンとグレースの結婚式が開かれる。

結婚式はバルデラス家の帝都の屋敷で執り行う予定だったが、僕とアニエスも出席すると聞いたお父様が帝国城の大広間を使えと命じた。


 帝国城で開かれる結婚式はテレビ中継されるのがお決まりとなっているらしい。それにより招待客の人数も増え千人を超えた。


 結婚式の衣装は、レオンは真っ白な騎士服、グレースは白がベースで風属性の緑をあしらった豪奢で美しいウエディングドレスだった。


 参列客は、既婚者と結婚相手を見つけたい者はスーツやドレス。独身で結婚は後回しという騎士たちは騎士服だ。


 僕は勿論、騎士服を着て帯剣していた。これは絶対に譲れないのだ。

アニエスはグレースに見立ててもらった清楚な真っ白いドレスを着ていた。地球ならば新婦でない者が真っ白いドレスを着ることなどないのだろうが、この世界の聖女は特別らしい。


 そのドレスは日本で見る様なAラインのウエディングドレスの様だった。そして胸元には僕が贈ったネックレスが輝いていた。


「アニエス、今日のドレスはとても素敵だね。言葉では言い表せない程に美しいよ」

「まぁ!エリアスったら。今日はグレースを褒める日よ?でも嬉しいわ」

「アニエス、そのドレスは私の前の世界の花嫁衣裳そのものだよ」

「え?これが?それではエリアスには、私が新婦の様に見えているの?」


「うん。とても美しい花嫁だ」

「私が?」

「あぁ、本当に綺麗だ・・・」

「エリアス・・・」


 僕は恥ずかしさを感じることもなく、美しいアニエスを見ていたら自然に言葉が出て来た。アニエスは真っ赤な顔になって両手を頬に当ててうつむいた。


 そして結婚式はおごそかな雰囲気の中、進んでいった。

貴族の結婚を認めるのは神父ではなく、その国の王だそうだ。


 帝国城での結婚式は、身分が高い者の場合は皇帝が務めるそうだが、レオンは家長でもないので、グレースの母国であるフォンテーヌの王が努めてくれるそうだ。


「レオン・バルデラス、グレース・ボナール。ここにふたりが夫婦となることを認めるものである」

「誠にありがとう御座います」


 盛大な拍手の中、ふたりは向かい合って誓いの口づけを交わした。

「キャーッ!素敵!」

「おめでとう!」


 レオンは真っ赤な顔になった。グレースはとても幸せそうだ。目尻には涙が光っていた。


 来賓の挨拶では始めに僕が指名された。僕はレオンの主でこの場で一番身分が上なのだから仕方がないか。

「ウーラノスの大神であるエリアス皇子殿下にお言葉を賜ります」

「ザッ!」


 会場が静まり返り、皆が低く頭を下げた。壇上から見下ろすと壮観な眺めだ。


「皆さん、面を上げてください。エリアス・アルカディウスです」


 さて、折角の機会だ。何を言ってやろうかな。こんなこと、きっと僕にしかできないのだろうからな。


 僕は一度、深呼吸をしてから来賓に向けてスピーチを始めた。

「この世界の結婚式に出席するのはこれが初めてなので、勝手が判らず失礼がありましたらお許しを」


「レオン、グレース。結婚、おめでとう。ふたりが結婚したこと、心から嬉しく思っています。この世界、特に貴族では結婚相手に魔力が強いことが望まれると聞きました」


「魔力を持たない私が言うのはどうかと思いますが、私はこの世界の貴族が魔力の大きさで結婚相手を決められる習慣を・・・良いことと思っておりません」

「おぉ・・・」

 皆、突然の話に面食らっている様子で思わず驚きの声が漏れる。


「愛する者との結婚を否定され、好きでもない相手と無理やりに結婚させられる。それはどれほど辛いことでしょうか」


「その悲しみが憎しみや怨みへ変わり、死後、怨獣へと成り果てることもあるのです。あなた達の息子や娘が怨獣となり人々を襲う姿が想像できますか?」


「私は今後、魔力の大きさを重視した結婚を子に強いることを禁ずる法を制定しようと思っています」

「おぉ!」

 反応は半々だな。若者は嬉しそうだが親たちは複雑そうな表情だ。まぁ、仕方ない。これからだ。


「レオンとグレースは偶然にも二人共魔力が強いのですが、二人はそんなことには関係なく、お互いを想い、愛し合って結婚するのです」

「うわぁー!」


「素晴らしいことではありませんか。私は魔力の強弱だけでなく、貴族と一般庶民との結婚も認められるべきだと思います」


「きっと皆さんは心配するでしょう。貴族が魔力の強い者を産み出しているからこそ怨獣の魔の手から守られているのだと。それが無くなれば怨獣に蹂躙じゅうりんされてしまうだろうと」


「その心配も理解できます。しかし、これだけはきもめいじてください」


「元を正さない限り、怨獣は淘汰とうたできないのです。どうしたら人の怨み、怨念を減らせるのか。私はこれから父上と共にこの世界の問題をできる限り改善して参る所存です」

「おぉ!」

「神様!お助け下さい!」

「ウォーッ!エリアス皇子殿下万歳!」


 まぁ、こんなものかな。結婚式なのだしこの辺にしておこう。僕はレオンとグレースに振り向くと小声で謝罪した。


「レオン、グレース。結婚式でこんな話をしてすまないね。でも、テレビ中継もしているし、良い機会だと思ってね」

「とんでも御座いません。エリアス様のお言葉を生涯忘れません」

「はい。私たちの結婚が、家柄や魔力量だけで決められたものでないことを伝えられたのは良かったと思います」


「それならば良かった。今日は本当におめでとう!」

「ありがとう御座います」

 ふたりは声を揃えて頭を深々と下げた。


 それから来賓の祝辞が続き、食事やダンスの時間となった。

僕は舞台を降り、アニエスたちを探した。すると窓越しにバルコニーに居るアニエスとジュリアの姿が見えた。


 僕が声を掛けようとした時、二人の会話が聞こえ、僕はそのまま柱の陰から聞いた。

「アニエス様、どうされたのですか?」

「胸がいっぱいになったの。グレースが本当に幸せそうで・・・愛する人と結婚するってああいうことなのね?」


「そうですね。今までは私にも良く解からなかったのですが、グレースを見ていたら胸が熱くなりました」

「結婚ってどんな感じなのかしら?」

「アニエス様は15歳まで老夫婦に育てられたと聞きました。その夫婦の様子は如何でしたか?」


「そうね。幸せそうだったわ。料理を作って美味しくいただいて、ふたりでのんびりと暮らして。私も料理を教えてもらって、最後はよく私が作っていたのよ」

「アニエス様もそんな結婚生活ができたら良いですね?」


「うーん。そうね。でも・・・私は駄目ね・・・」

 アニエスは庭園をうつろな目で見つめたまま、ぽつぽつと話した。

「何故、駄目なのですか?」

「私は・・・人間ではないかも知れないのだし・・・それに・・・」

「それに?」


「エリアスも・・・無能だから・・・子を残せないって・・・」

「あら、エリアス様と結婚はしたいのですね?」

「え?それは・・・でも・・・きっと駄目よ」

「何故、駄目なのでしょう?愛しているならば一緒に暮らすだけでも良いのでは御座いませんか?」


「一緒に暮らすだけ?」

「はい。子を儲けなくても良いのです。人は結婚したら必ず子を作らなければならないものでもありませんし、欲しくても子を授からない夫婦だって居るのですから」

「そうなの?でも・・・私は両親も居なければ、それがどんな親かも判らないのよ?」

「アニエス様、結婚するのは親とではありません。ふたりが愛し合っているならば結婚すれば良いのです。先程、エリアス様もそうおっしゃっていたではありませんか」


「さっきの話はそういう意味なの?親は居なくても良いの?」

「えぇ、良いのです。愛があれば!」

「そう・・・愛があれば・・・」

 アニエスは深く考えている様だった。


 僕は二人に声を掛けずにその場から離れた。今のアニエスにどんな言葉を贈れば良いのか判らなかったから。


 僕も愛を知らない。経験がない。だから今のアニエスへの気持ちが愛なのか確信が持てないのだ。しかも結婚となれば、僕は曲がりなりにも帝国の第一皇子だ。簡単なことではないだろう。


 あれ?でも・・・さっきは自分で結婚は自由だ!と言ったのだよな?


 はぁ・・・自分のことって解からないものなんだな・・・




 レオンとグレースの結婚式が終わり、ふたりは帝都に屋敷を構えるのかと思ったら、引き続き帝国城の侍従の部屋で暮らすそうだ。レオンは公爵家の息子だが次男だ。家を継ぐ訳ではないので先のことはゆっくり考えるそうだ。


 ふたりは朝から僕の部屋へやって来る。レオンは朝の鍛錬に参加し、一度夫婦の部屋へ戻って風呂と朝食を済ませてから一緒に登校する様になった。


「エリアス様、二週間後にはマティアスとアリーチェの結婚式ですね」

「そうだね。お父様にティーターンを使う許可はいただいてあるよ」

「リヴァイアサンは来てくれるでしょうか?」

「エリアスがロンバルディ王国に入れば、きっと直ぐに現れると思うわ」


「ジュリアは従姉の結婚式なのだから早目に帰国するかい?」

「いいえ、私は騎士服で出席しますので特に準備も御座いません。アニエス様の護衛を務めたいと存じます」

「従姉の結婚式くらい、家族と一緒に過したら?」

「いえ、私は・・・」


「そう、ジュリアがそれで良いならば構わないよ」

「勝手を申しまして、申し訳御座いません」

 ジュリアは目を伏せたまま、低い声色で謝罪した。お父様と何かあるのかな?今は深く追及しないでおこう。


「結婚式の間、このリヴァイアサンにもらったペンダントが反応しなければ良いですね!」

 キースが気を使って話題をすり替えた。本当に気が利く男だな。そういう才能ってうらやましいよ。


「本当ですね!レオンとグレースの結婚式の様に素晴らしい式になると良いですね」

「アニエス様、今度のドレスも素敵なのですよね?」

「えぇ、また真っ白なドレスなのだけど、少し大人っぽいデザインかしらね」

「それは楽しみですね!」




 僕は先日の結婚式で話した新しい法案について、お父様とアドリアナお母様、リカルドと宰相に話す機会をいただいた。


「エリアス、レオン達の結婚式で話していた法案の話か?」

「はい。将来の怨獣を減らすために、この世界の不均衡や不条理を正して行きたいのです」

「ですが、貴族の魔力が落ちていくのは問題なのでは御座いませんか?」

 当たり前の様に宰相は反対意見を述べて来た。


「ご存じの通り、5代前の皇帝と司祭が絡む恋愛が発端となった大きな怨念は、今もこの世界に暗い影を落としています。今の司祭が未だその影響を受けているかも知れないのです。それでもこの問題を放置するのですか?」

「それを言われてしまうと返す言葉がないな」


「魔力の大きさは、必ず遺伝するものでもないと思います。それにマティアスの様に後天的に魔力を与えることも可能な様ですから」

「それは解かるが、問題は貴族たちをどうやって納得させるかだ」

「全ての貴族を納得させることは初めから不可能だと思います。法で縛り強制しても言うことを聞かない連中はどの世界でも必ず居るでしょう」


「その通りだな。それでどうするんだ?」

「恋人たちに救済案を用意するのです」

「救済案?それはどんなものなのですか?」


「兎に角。原則として結婚は全て自由です。魔力量も身分も関係ありません」

「全て自由?随分と思い切ったな。それでも反対する親をどうするんだ?」

「そこで救済案です。貴族の場合、結婚を反対された二人を帝国城で受け入れます」

「何?ここへ受け入れる?どういうことだ?」


 お父様は面食らい、宰相はぐうの音も出ない。アドリアナお母様も口に手を当てて驚いている。リカルドだけはニコニコして聞いている。


「ふたりで駆け落ちし、この城へ逃げ込むのです。そしてこの城で仕事を与え、結婚生活を支えます。そうなれば親は見放すか、後悔して結婚を許すかどちらかとなるでしょう」

「あぁ、皇帝陛下に文句を言える貴族は居りませんからね。それを恥と考える者ならば結婚を許して引き取るでしょう」


「そうだな・・・普通に考えれば許さざるを得んだろうな。それならば城に残る夫婦はそう多くはならんだろうし、まぁ、その位の人数はどうにでもなるだろう」

「はい。お父様ならば、そうおっしゃると思いました」

「エリアス様、素晴らしい法案で御座いますね」

「アドリアナお母様、ありがとう御座います」


「それともうひとつ、これから生まれる子の魔力は大きくなくても良いのです」

「なんと!それはどういうことですかな?」

「前にも帝国騎士団の集まりでお見せしましたが、魔法の複合攻撃があります。魔力が100に近くなくとも、50の者二人で複合攻撃をすれば、強力な怨獣が相手でも撃退できるのです。この研究はもう2年目に入りますが、既に数多くの攻撃が編み出されているのです」


「そうか。一人の大きな力より、複数での多彩な攻撃の方が有効なのだな?」

「はい。その通りです。今、学校では騎士志望の学生だけでなく、文系の者にも教えていますから、来年以降に成人する者たちは従来の魔法をくつがえす攻撃ができる様になっているのです」

「それは素晴らしいな!良くやってくれた!感謝するぞ。エリアス!」


「お父様、新しい法案はどの様にして作るものなのでしょうか?」

「各国の王を集めた会議で議場に上げ、討議して5人の王の賛成多数となれば可決成立となるのだ」

「その席に私も出席することは叶いますでしょうか?」

「そうだな。発案者であるのだからな。構わんぞ」

「ありがとう御座います。次の会議はいつでしょうか?」


「1か月後だな。今回はロンバルディ王国での開催だ」

「毎回、各国を回るのですね?」

「うむ。そうだ。そして新たに創設した法律は、会議後の記者会見で全世界に向け発表される。エリアスの法案が通ったなら、エリアス自ら記者会見を開くが良い」

「承知しました」


 よし、これでまたひとつ、この世界の歪みを是正できそうだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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