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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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37.推測

 事件の翌日、帝国城で会議が開かれた。


 出席者は皇帝と皇妃、僕とアニエス。それに騎士団長と宰相の6人だ。


「皆の者、昨日のことはもう知っているだろう。今日は今後の対応を協議したいと思う」

「まずはアニエスの出自についてお話ししないといけませんね」

「出自は不明なのではなかったのですか?」

 宰相はきつねつままれた様な顔で聞いた。

「モンテス、確かなことは判明しておらん。アニエスの記憶の話だ」


「アニエスは生まれてから3歳になりフォンテーヌ王国南端の家に預けられるまで、どこか暗い部屋にずっと閉じ込められていたそうです」


「昨日、神殿に入って直ぐ、閉じ込められていた時の記憶がよみがえったのです。その部屋と神殿の中は同じ匂いでした。恐怖を感じて我を忘れて走り出し、ルーナに助けを求めてしまったのです」


「それでアニエスの危険を察知したペガサスが転移して現れ、追っていた4人を殺してしまったのですね?」

「ん?何故、ペガサスは4人を殺したのでしょう?」


「宰相、何故って、アニエスを守るために決まっているではありませんか」

「殿下、守るだけならばアニエスを背中に乗せ、飛んで逃げれば良いのでは?殺す必要が御座いますか?」

「あ!た、確かに・・・」

 そう言われたら確かにそうだ。殺す必要なんてないはずだ。


「それはルーナに聞いてみないと判りませんね」

「もしかして・・・」

「ニコラス、なんだ?」

「いえ、4人を殺そうとしたのではなく、神殿を攻撃したのでは、と思いまして」


「あぁ、神殿はかなり破壊されていたな」

「そうなると何故、神殿を攻撃したのかという話になりますね」

「アニエスは神殿に入った途端に危険を感じた。聖獣も神殿に何かを感じたのではないか?」


「陛下、神殿で御座いますよ?神の遣いである聖獣が神殿に危険を感じるので御座いますか?」

「うーむ。これはまだ話さずにおこうと思っていたのだが・・・そうもいかんな」

「な、なんで御座いましょうか」

 宰相は自分で振っておきながら、ただならぬお父様の雰囲気に気圧けおされビビっている。


「司祭の息子ガブリエルは神眼を受け継いでいない。だがアニエスは持っている。つまり、アニエスは司祭の婚外子である可能性がある」

「な、なんですと!」

 宰相は大袈裟なんだよ。いちいちオーバーアクションなんだから。


「そしてこれからが本題だ。アニエスは魔眼をも持っている可能性がある。皆も知っての通り、人間は闇属性を持つことはない。つまり、アニエスの母親は司祭と人間ではない何ものかの子である可能性があるのだ」


「つまり、聖獣はその人間ではない何かに向けて攻撃した・・・と」

 宰相は顔面蒼白となって呟く様に言った。

「うむ。これはあくまでも推測ではあるがな」


「そんな・・・私は人間ではない・・・のですか?」

 アニエスもまた顔面蒼白となり、震え出してしまった。

「お父様!アニエスの前でそんなことを!」


「無論、私も言いたくはなかった。だが、この話が推測であったとしても、今回の事件の原因を探り、今後の対応を協議するためには知っておかなければならないことだ」

「では、最悪の事態としては、司祭には良からぬたくらみがあると踏まえておくべきなのですね」

「うむ。そういうことだ」


「ここまで話したくはなかったのだがな。5代前の神と呼ばれた皇帝アレクサンドの時代、司祭ジークムント・エヴァノフは、アレクサンドに愛する者を処刑され、常軌を逸した」

「それは噂とか昔話のたぐいかと思っておりました」


「いや、皇帝と結婚した後で密会し子を産ませ、皇妃が死刑となった後も執着し、墓をあばいて聖属性魔法で長年保存したと聞く」

「な、なんてことを!恐ろしい!」

「その後の話は表に出ていないが、あの神殿の中で何をしていたとしても不思議ではないのだ」

「も、最早、聖職者の所業では御座いません!」


「お父様、神と言われた皇帝と神の遣いでもある司祭が仲違なかたがいしていたのでは、お話になりませんね」

「うむ。その代より今に至るまで、100年に渡り皇帝と神殿は冷え切った関係のままだ。だから、今の司祭も何をしているのか、何かを企んでいるのか全く解からんのだ」


「それは危険ですね」

「やはり、聖獣が神殿を攻撃したと見ておく方が良い様で御座いますね」

「私もそう考えている」


「良かった。少なくともアニエスは悪くないということですね」

「エリアス、状況はそんなに良くはないぞ」

「そうですね。今の話はどれも表には出せないお話です。そうなればアニエスと聖獣は悪者のままです」


「あぁ、そうでした。特に亡くなった使用人たちのことがありますからね」

「まずは司祭がどう出るか話してみるしかないな」

「司祭としてもこの時点で、あからさまに聖女をよこせとは言えないでしょう」

「うむ。そうだと良いのだがな」


「では、表向きの対応はどう致しましょう?」

「そうだな。何もしない。言わない。アニエスも表には出さない。テレビも報道規制を掛ける。それしかないだろう」

「ほとぼりが冷めるまで放置するのですね」

「世間の興味など、そう長続きはしないものです。それに神殿側も騒がれたくはないはずですからね」


「では当面の間、アニエスはこの城に缶詰めとなるのですか?」

「いや、ずっとここに居ろとは言わん。人目につかない場所ならば行っても良い」

「船を使わせていただくことは可能ですか?」

「あぁ、ここへ聖獣を呼ぶ訳にはいかんだろう。私の船、ティーターンを使っても良い」

「ありがとう御座います」


「では、明日にでも司祭をここへ呼んで話をしよう。宰相と騎士団長は同席する様に」

「仰せのままに!」




 僕はアニエスと部屋へ戻り、ふたりきりで話をした。

「アニエス。大丈夫かい?」

「私は人間ではないかも知れないのね」

「アニエスはどう見たって人間だよ。それもとびきり美しい女性だ」


「でも、魔眼を持っているのは異常なことだったのね?」

「それって本当に魔眼なのかな?」

「あのね。人の怨念や恐怖、悲しみが見えるの。エリアスには憎しみや恐怖は無いわね。でも二人のお母様を失くした深い悲しみが見えるわ」


「では、学校の皆のそういったものも見えているの?」

「いいえ、私がエリアスにした様に瞳を覗き込まなければ、何があったのかまでは見えないわ。でも見なくても少し感じてしまうの。学校の皆と言うより貴族は皆、何かしら怨念や恐怖、悲しみを抱えている様ね。だから見ない様にしているわ」


「では、どうして私のことは見たんだい?」

「エリアスには、初めて会った時から何か惹きつけられて・・・全てを知りたくなったの。ごめんなさい。嫌だったわよね?」

「いや、そんなことはないよ。私もアニエスのことは知りたいし、私のことを全て知って欲しいと思っているよ」


「私のことを?私は人間ではないかも知れないのよ?」

「さっきも言ったでしょう?アニエスは人間だ。それもとびきり美しい女性だって」

「あぁ、エリアス・・・私、怖いわ」

 アニエスはそう言って僕に抱きついて来た。僕も抱き返して背中を擦った。


「大丈夫。アニエスは必ず守る」

「ありがとう。エリアス。私も何があっても必ずあなたを守るわ」

「アニエス。今は何か楽しいことを考えようよ。そうだ。お父様に船を借りてさ、旅に出よう」

「え?どこへ行くの?」


「そうだな。アニエスが行ったことがない所へ行こう。まだ会っていない聖獣に会いに行くのも良いのでは?」

「あぁ、フェニックスにグリフォン、それにリヴァイアサンは会ったことがないわ」

「うん。会いに行こう!」

「そうね、楽しみだわ」

「良かった。やっと笑顔が見られたね」

「エリアス、ありがとう!」

 そう言って、苦しくなるくらいに抱きしめられた。ちょっと嬉しかった。




 翌日、帝国城の会議室では皇帝と宰相、騎士団長の3人と司祭が向き合っていた。


 司祭は相変わらずのマスク姿で顔色はうかがえない。

「本日は先日の神殿での事件についてでしょうか?」

「うむ。その通りだ。事の経緯いきさつを聞かせてもらおうか」


 皇帝も一切表情を作らず、能面のまま淡々と質問した。


「私どもとしましても一切不明なので御座います。ガブリエルに聞いたところ、聖女を玄関から迎え入れ、ご案内差し上げようとしたら急に震え出し逃げ出したと。事故に遭ってはいけないと使用人に後を追わせ、保護しようとしたところへ聖獣が現れ、あの様な惨事になったとのことで御座います」


「そうなった原因として何か思い当たる節はないか?」

「何も御座いません」

「では仮説としてだが、聖獣は追って来た使用人に攻撃したのではなく、神殿を攻撃しようとした。そう考えた場合ではどうか?」


「聖獣に攻撃される様な覚えは御座いません。仮にも神殿は神のりどころで御座いますゆえ

「そうか。では司祭は聖女または聖獣が今回の悪人であると思うか?」

「いいえ、聖女も聖獣も神の遣いで御座います。悪であるはずが御座いません」


「ふむ。では悪がどこにも居ないのだな。だが、使用人たちは亡くなった。その処遇はどうするのだ?」

「神殿より保証金を遺族に支払います。遺族には何かの間違いがあってこの様な痛ましい事件が起こってしまったと話して御座います」

「それで遺族は納得したのか?」


「納得するより他はないでしょう。神に仕えて働き殉職し、その保証も十分に与えられるのですから」

「そこに怨みは発生しないと思えるのか?」

「その様に考えます」


 ふん!このたぬきめが!内心、腹が立ったが皇帝としても、変に腹を探られるのもアニエスを奪われるのも困る。ここは穏便に済ませるしかないとたける心を収めた。


「では、アニエスはこの城で当面の間、謹慎させ奉仕活動は中止とする」

「中止で御座いますか?」

「そうだ。原因が判らぬ限り、アニエスを神殿に入れることはできぬであろう?」

「さ、左様で御座いますね・・・」


 ほう、初めてこやつが慌てる様を見たわ。マスクの下の顔はさぞかし、悔しい顔となっていることだろうて・・・


「時に司祭よ」

「はい。何で御座いましょう?」

「其方は神の言葉を伝える者だ。それなのに何故、聖女も聖獣も神殿に寄り付かないのだろうな?」

「私も不思議に思っている次第で御座います」


 はぁ?のらりくらりと・・・つくづく食えぬ男だ。何を聞こうともまともな返事をする気など無いのだろう。


「そうか、下がって良いぞ」

「貴重なお時間をいただきましたこと、御礼申し上げます。では、これで失礼致します」


 終始表情を変えることなく、司祭は静かに去って行った。


「何ですか!あの男は!」

「いつもああだ。全く食えぬ男だ!」

「おっしゃる通りで御座います。ですがアニエスの奉仕活動の件、食い下がっては来ませんでしたね」


「あぁ、結局、あ奴は自分がしていることについて追及されたくないのだ」

「やはり後ろめたいことがあるのですね?」

「うむ。間違いないだろう」

「騎士団で調査を致しましょうか?」

「いや、調査をして尻尾を掴ませる様な間抜けではないだろう」

「左様で御座いますね」


「まぁ、良い。しばらく泳がせてみよう。見張りは付けておくのだ」

「仰せのままに」


「エリアスを呼んでくれ」

「かしこまりました」




「お父様、話し合いは終わったのですね」

「うむ。思った通り、何も話さず、聞いても来なかった。使用人の処遇も勝手に保証金を出し、口止めする様だ」

「では、アニエスのことも?」


「うむ。奉仕活動を中止すると言ったら、少し慌てた様だが食い下がっては来なかった。また別の機会をうかがうつもりだろう」

「このまま放置されるのですか?」

「どうせ尻尾は出さないだろう。見張りを付けて行動は監視するが、深く調査はしない」

「そうですね。こちらから刺激する必要はありませんね」

「そういうことだ」


「お父様、色々とご面倒をお掛けし、申し訳御座いませんでした」

「ふむ。いつからアニエスはお前の妻となったのだ?」

「い、いえ、妻にはしておりませんが」

「自分の妻が迷惑を掛けた。そう言った様にしか聞こえなかったぞ?」


「あ。おかしなことを言ってしまった様です・・・」

 僕は自分のおかしな発言に気付き赤面した。こんなこと初めてかも?


「エリアス。毎晩、アニエスと一緒に寝ているそうだな?」

「え?あ!気付かれていたのですか?」

「毎晩、エリアスの部屋へいそいそと小走りに走って行くアニエスを知らない使用人はおらんそうだぞ?」

「あー、そ、そうでしたか・・・」


「どうするつもりなのだ?」

「え?どうすると言われましても・・・」

「ふぅ・・・まぁ、急いで決めなくても良い」

 お父様はそう言うと、肩をすくめて小さく首を横に振った。


 あぁ、そうか。皆知っていたのか!これは参ったな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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