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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
34/97

33.寝息

 アニエスに介添えをしてもらった入浴が終わり、夕食となった。


 アニエスは僕たち皇帝の家族と一緒に食事をすることとなった。


「アニエス、ようこそ」

「陛下、帝国城に住まわせていただきますこと、心より感謝申し上げます。アドリアナ様、リカルド様、よろしくお願いいたします」

「うむ。ここで好きな様に過すと良い」


「エリアス様と同じ様にお母様と呼んでくれても良いのですよ」

「お母様!?」

 アニエスは目をパチクリしている。


「私、お母様を知らないので嬉しいです!」

「そう?では是非、そう呼んで頂戴」

 アニエスは素直に喜んでいる様だ。良かった。


「お兄様、聖女様は僕のお姉様になられたのですか?」

「まぁ!お姉様?そうね。お姉様って呼ばれたいわ!」

「やった!お姉様!」

「なーに?リカルド。ふふっ」


「え?否定しないの?」

「ここで呼ばれるだけなら良いのでは御座いませんか?」

「アドリアナお母様、如何でしょうか?」

「良いと思いますよ!」


 え?良いの?結婚した訳じゃないのに・・・あれ?お父様、説明していないのかな?


「そうだな。そういうことにしておこう。アニエス、私のこともお父様で良いぞ」

「え?!陛下をお父様と?」

「アドリアナはお母様なのだろう?」

「は、はい。そうでした。では・・・お、お父様」


「ふむ。なんだかこそばゆいものだな?」

「そう言えば、娘が居ませんからね」

「娘が居るとこんな感じなのだな」

 お父様はまんざらでもない様だ。


「そう言えば、皇族は子を3人儲けなくても良いのですか?」

「うむ。できるだけ跡継ぎのひとりだけとしたいのだ」

「あぁ、息子が二人以上だと跡目争いが起きたり、娘だと光の属性を外に出さねばならないからですね」

「そういうことだ」


「でも、過去に娘が生まれたことはあったのでは御座いませんか?」

「大昔にはあった様だ。その時は嫁に出さずに婿を取り、子は作らせないのだ」

「そこまでして光属性を門外不出としなければならないのですか?」

「勿論だ。光属性を受け継ぎ、守ることが皇家に生まれた者のつとめなのだよ」


「役立たずな息子で申し訳御座いません」

「エリアスの役目は他にあるわ。気にすることなんてないのよ!」

「えぇ、アニエスの言う通りです。エリアス様は私たちに無いものをお持ちなのですから!」

「アドリアナお母様、アニエスも、ありがとうございます」

 余計なことを聞いて墓穴を掘ったな。でも、二人にフォローしてもらって雰囲気を悪くせずに済んで助かった。


 家族が増えて賑やかな食卓となった。そんな感じだ。ここにお母様が居たらどうされるのだろうな?あぁ・・・早くお母様を探しに行きたい。


 夕食が終わり、各々(おのおの)の部屋へ帰ろうとした。

「エリアス、この後は何かお世話の必要はないの?」

「うん。大丈夫だよ。アニエス、今日はありがとう。これからもよろしくね」

「えぇ、わかったわ」


 そして、就寝前にいつもの様に魔法書を少し読んでから眠った。


「ガチャ。キー」

 ひと眠りした後に眠りが浅くなっていたのだろう、ドアが開いた音で目が覚めた。

誰かが部屋に入って来た。誰だ?前に暗殺されそうになった時は眠りが深くて目覚めるのが遅れてしまった。


 いつも就寝中にはかたなの短刀を布団の中に置いている。その短刀に手を掛け、いつでも飛び起きることができるように身構え、目を凝らして相手を見た。

ん?白いドレス?忍び足でベッドに近付いて来る。あ。香りで判った。アニエスだ。


「アニエス?」

「エリアス」

「どうしたの?」

「眠れなくて・・・」


「あぁ、城に泊まるのは初めてだものね。ベッドや枕に慣れないのだね?」

「それもあるけど・・・エリアスはどうしているのかな?って考え始めたら気になって眠れなくなったの」

「私のことを?」


「起こしてしまってごめんなさい」

「どうしようか?何か話でもする?」

「うん」


「では、そちらのソファに行こうか」

「ベッドに入りたいわ」

「え?一緒に?」

「ダメ?」


「い、いや、駄目ではないけど・・・」

「嬉しい!」

「あ、い、いや・・・」

 アニエスは僕の戸惑いなど構うことなくベッドへいそいそと入って来た。


「わ。暖かい!」

「暑くない?」

「ううん。暖かいわ」

 そう言うとアニエスは僕に抱きついてきた。あぁっ!む、胸が当たるって!


「わわわっ!」

「どうしたの?」

「え?だ、だって・・・アニエスが・・・」

「くっついたら嫌?」


「嫌な訳はないけど・・・」

「良かった!」

「ねぇ、エリアス」

「うん?」


「エリアスとこうして一緒に居られるのって幸せだわ」

「え?幸せ?」

「うん。ルーナとはたまに触れ合うことができるけど、ずっと一緒には居られないもの」

「あぁ、そうか。アニエスは今まで寂しかったんだね?」


「私ね、お婆ちゃんの家に行く前は、暗い部屋にずっとひとりで居たの」

「え?3歳になる前の記憶があるのかい?」

「沢山はないの。あぁ・・・違うかも知れない。覚えているけれど思い出したくないだけなのかも知れないわ」


「そうか。今日、家族の様に呼び合ったりしたから、人恋しかった時のことを思い出してしまったのかな?」

「そうかもね。それでここへ来てしまったのね」


「エリアスはずっと私と一緒に居てくれる?」

「・・・アニエスが望むなら」

「エリアスはそうは思っていないのね・・・」

「違うよ。昨日、話したよね。僕は無能だから・・・」


「結婚の話ね・・・私、リカルドは弟なら良いけれど結婚はできないわ。ガブリエルは・・・何か嫌なの」

「それって直感みたいなもの?二人とはまだ、まともに話もしていないよね?」

「えぇ、でも私には判るの。レオンとキース。ベルティーナとグレース。みんな良い人で大好きよ。でも、ガブリエルは・・・」


「わかったよ。僕もアニエスと一緒に居たい」

「本当?」

「うん」

「嬉しい!」

 アニエスは僕を強く抱きしめた。

アニエス越しに窓の外へ目をやると、そこには大きなルナが満月となって輝いていた。


「アニエス、窓の外を見てごらん」

「え?あら。きれい!」

「今夜の月は特別にきれいだね」

「えぇ、本当に!」


「ねぇ、アニエス。ルナで思い出した。ルーナに聞きたいことがあるのだけどな」

「あ、そうね。私もエリアスの魔力のことを聞きたいわ。明日ルーナを呼びましょう」


「ねぇ、エリアス」

「なに?」

「今夜はこのまま、ここで眠っても良いかしら?」

「うん。良いよ」


「ありがとう!」

 そう言うとアニエスは僕の胸に顔を埋め、直ぐに小さな寝息を立て始めた。

「あれ?もう?・・・ふふっ、可愛いな」


 僕はアニエスの肩を包む様に抱いて眠りに落ちた。




 翌朝、いつもの時間に目が覚めた。するといつもはない感触が腕の中にあった。

あ!そうだ。アニエスと一緒に眠ったのだった。


 するとアニエスは既に目を覚ましており、僕の顔をしげしげと見つめていた。

「おはよう。エリアス」

「おはよう。アニエス」


 アニエスはまた僕に抱きついて腕に力を入れた。

「私を抱きしめるのが気に入ったの?」

「えぇ、とても」

「ふふっ、それなら私もアニエスを抱きしめても?」

「勿論、良いわ」


 では、とばかりに腕を回し、壊さない様にとゆっくりと優しく力を掛けて抱きしめた。

アニエスは僕より少し背が高いが、女性らしく細くて柔らかくて、花の様に良い香りがした。


「あぁ・・・」

「え?」

「なんか・・・幸せ・・・」

「それなら良かった」


「ねぇ、これから毎晩、一緒に眠るのは駄目かしら?」

「僕としては駄目ではないよ。でも、皆に知れたら・・・」

「結婚?」

「その判断を迫られるだろうね」


「エリアスはやっぱり、結婚は駄目なの?」

「うーん。難しい質問だな・・・」

「そうね。今はまだ・・・そういうことね」

「そうなるかな」


「わかったわ。急がないし、私は結婚にはこだわらないから」

「そう言ってもらえると助かります」

「でも、エリアスが他の女の子に向くのは嫌」

「それはないと思う」


「それなら良いわ。それじゃぁ、私が寂しくなった時だけ、ここに来ても良い?」

「うん。良いよ」

「もう!その顔。美し過ぎるわ。反則よ!」

「え?そんなこと言われても・・・」


 そして、僕は朝の鍛錬に出掛けた。

「おはよう御座います!エリアス様!」

「おはよう!レオン」


 城を出ていつものコースへ走り出ると途中でキースが現れる。

「おはよう御座います!エリアス様!レオン様!」

「おはよう!キース!」


 3人で走り出すと、直ぐにキースが僕の横に来て言った。

「あれ?エリアス様、何か良いことがあったのですか?」

「え?良いこと?別に何もないけど?」

「いーえ!そんなことはありません。顔が違いますもん!」


「そうか?俺にはいつものエリアス様にしか見えないけどな?」

「レオン様には判らないでしょうね」

「なんというか・・・充実した感じが溢れ出ています!」

 なんだ?キースはエスパーか?それとも僕がニヤニヤしていたのかな?


「え?いや特にはないけど、アニエスが昨日から一緒に居るからね。食事も一緒だし」

「あ!一緒に寝たのですね?」

「い、いや・・・」

「あ!図星だ!」


「そ、それは・・・だからさ・・・あの・・・違うんだって・・・」

「あーそうなんだ・・・」

「え!もう?俺はまだですよ?」

「レオンは早目にね」


「え?良いのですか?」

「婚約したのだしね。グレースは待っているかもね?」

「そ、そうなのかな?え?良いのかな?」

「良いんじゃない?」


「そうか、良いのか・・・どうしようかな・・・」

 レオンは真っ赤な顔をニヤニヤさせながらぶつぶつ言っている。うん。上手く誤魔化せたかな?まったく、キースは変に勘が良いんだから・・・


 鍛錬を終わらせて城の部屋へ戻ると、聖女の制服を着たアニエスが待っていた。

「エリアス、お帰りなさい」

「アニエス、ただいま」

「凄い汗ね、浴室へ行きましょう」

 なんだかアニエスが部屋で待っていてくれるのって良いな。


 アニエスの魔法でシャワーを浴び、汗を流した。




 学校へはアニエスとふたりで向かった。城から帝国騎士団の敷地を通り抜けるとそこは学校の校門だ。


「エリアス、歩くのが速いわ。手を繋いで引っ張って!」

「え?あ、ごめんね。それじゃ」

「あ。初めてエリアスの手を握ったわ。大きいわね。それにいつも剣を振るっているからちょっとゴツゴツしている所があるわね」

「そうだね。触り心地が悪くてごめんね」


「良いのよ。それがエリアスだもの。私、エリアスの全てを知りたいの」

「え?全て?」

「あら?また顔が真っ赤よ?」

「だって、アニエスが恥ずかしいことを言うから・・・」

 アニエスって本当に天然だな。それにやたらと距離が近いよな。僕のことを本当にルーナと同格に扱っているのではなかろうか?


 あ!そうか。男と意識していないんだ!ルーナに接する時と同じ感覚だから、平気で抱きついたり手を繋いだりするんだ!そういうことか。ということは、僕はそれを愛情と勘違いしてはいけないんだ。ふー、危なかった。


 学校の校門に入ると、そこにはガブリエルが待ち構えていた。

「あ!アニエス様!おは・・・よう・・・御座います」

 あらあら、アニエスが僕と手を繋いで登校したのを見て、いきなり意気消沈してしまった様だ。可哀そうに。


「おはよう御座います。ガブリエル様」

「あ、あの・・・どうしてアニエス様は殿下と一緒に登校されたのですか?」

「あぁ、昨日から私は帝国城で暮らすこととなったのです。これからはずっとエリアスと一緒に居られるのですよ」


「え?!そ、それは・・・」

「では、これで失礼します」

 ガブリエルはまだ何か聞きたかった様だが、アニエスは容赦なくきびすを返してその場を去った。




 今日はアニエスがルーナを呼ぶことになっている。午後の授業が終わる頃を見計らってアニエスがルーナに心の中で呼び掛けた。


 すると授業が終わり、皆が帰り支度を始めた頃、高い空に姿を現した。


「あ!あれ!ペガサスじゃない?!」

「本当だ!ペガサスよ!」

「アニエス様!ペガサスが来ましたよ!」

「えぇ、さっき呼んだの」


「え?呼んだらいつでも来るのですか?」

「えぇ、そうね」

「凄い!」

「流石、聖女様!」


 僕とアニエスは学校の庭へ出た。そこへルーナがゆっくりと降りて来た。

「バサッ!バサバサッ!」

「ヒヒーンッ!」

「ルーナ!久しぶりね!」

「ブルルッ!ブルッ」


「ルーナ、元気だったかい?」

「ブヒヒンッ!」

「元気だって言っているわ」


「すごーい!聖獣とお話ししているわ!」

「あぁ、なんて美しいのでしょう!」


「アニエス、ここではゆっくり話せないのではないかな?」

「そうね。別の場所へ行きましょう。ルーナ、乗せてくれる?」

「ブヒン」


 ルーナは前足を折って首を降ろし、僕とアニエスを乗せると、走り出して空へと舞った。


 僕らは郊外まで飛び、塀の向こうにあった丘の上へと降りた。倒木に腰掛け、しばらくまったりとしてからルーナに質問をした。


「ルーナ、君たち聖獣は人間の魔力を奪うことができるのかな?」

「ブヒヒン」

「できるって言っているわ」


「では、怨獣の怨念を浄化することも?」

「ブヒン」

「できるって」

「やっぱりそうなんだ!凄いな!」


「ねぇ、ルーナ。エリアスの魔力回路ってどうなっているのかしら?」

「ヒヒンッ!」

「え?ちょっと待ってって」

「え?」


 ルーナは空を見上げたまま、辺りをうろうろと歩き始めた。なんだろう?

あ、戻って来た。

「ブヒヒン、ブヒン!ブルルッ、ブルッ!」

「え?そうなの・・・わかったわ」

「どうしたの?」


「あのね。ルーナは知らないけど、知っている聖獣がエリアスの背が2mに達したら教えるって」

「え?僕の身長が2mになったら?」

「えぇ、そうみたい」


 ということは、僕の無能については何か理由があるってこと?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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