23.代償
僕は突然現れたグリフォンに連れ去られ、その先で洞窟の財宝を見せられた。
「これは・・・凄い!」
「ピュルルー」
「ん?」
グリフォンは金貨の山から幾つかの金貨を咥えると僕の手に乗せ翼を広げた。
「私にくれるのかい?」
「ピュゥ!」
「もしかして、全部?」
「ピュー!」
そう鳴いて頭を下げた。いちいち可愛い奴だな・・・
「ん?こ、これは・・・まさか!」
「ピュ?」
「これって、もしかして地球の金貨では?それも16世紀とか17世紀のヨーロッパの!」
金貨には十字、国旗、城や甲冑を纏った騎士、アルファベットが刻印されているものもあった。
「ピュゥ!」
「え?そうだよ、ってこと?」
「ピュー!」
「うーん。アニエスじゃないから解からないな」
本当なら何故この世界に地球の物があるのだろう?でも僕がこうして転生しているのだから物だって転移していてもおかしくないのかな?僕には解からないな。
「でも、金貨なんて貰ってもこの世界では使えないのだけど・・・」
この世界には紙幣も硬貨も無いのだ。全てデジタル決済らしい。皇子に生まれてしまったから、お金を使ったこともないので良くは知らないのだけど。
「ピュウ!ピュウ!」
「ん?なに?」
今度はネックレスのチェーンを咥えて僕に差し出した。
「これは?ネックレス?」
それはシルバーに輝く十字のペンダントトップだ。その十字は青い宝石で形作られており、その十字の周囲にダイヤモンドの様な透明に輝く宝石が十字を囲む様に配置されている。
シルバーに輝くチェーンネックレスが2本掛けとなっているかなり大きなネックレスだ。
これってキリスト教の十字だよね。やっぱり地球のものなのかな?
「ネックレスか・・・私はあまりこういった装飾品は身につけないのだけどな」
「ピュルゥ・・・」
グリフォンが項垂れる。あ。いかん!がっかりさせてしまった。
「あ!そうだ。これ、アニエスにプレゼントしよう!私の命を救ってくれたのだからお礼をしないといけないって思っていたんだ!」
「ピュルーッ!」
あぁ、良かった。機嫌は直った様だ。でもこれ、僕の話していることが解かっている感じだよな?人の言葉が理解できるのかな・・・
「グリフォン、そろそろ皆の所へ戻らないと」
「ピュルー!」
そう言うと、頭を下げて僕を乗せてくれる体勢となった。
「ありがとう!では、帰ろうか」
「ピュルルー」
すると身体の光が消え、洞窟の外へと走り出した。
洞窟を出るとそのまま空中へ飛び出し、翼を広げて滑空すると、上昇気流を捉えて高度を上げた。
「ピィーピピピーッ!」
高らかに笛を吹く様な鳴き声を聞きながら満月の夜空を飛んだ。グリフォンが羽ばたく度に自分の周囲には金と白のマナが霧散して行った。
速度を上げ、ステュアート王城の方角へ飛んで行く。もう、かなりの時間が経ってしまっているだろう。皆、同じ場所で待っているのだろうか?
すると先の方に怨獣が現れた現場が見えて来た。だが、船が見えない。カオスもバルカンも帰ってしまった様だ。
「グリフォン、もう皆、城へ帰ってしまったみたいだ。王城まで送ってもらえるかい?」
「ピュルー!」
「ありがとう!」
更に速度を上げて城へ向かうと、前方にカオスとバルカンが飛んでいるのが見えて来た。
2隻の船が並んで飛んでいる。するとグリフォンはその2隻の間に入って並んで飛んだ。
バルカンの方を見ると、船の窓から皆がこちらを見て笑顔で手を振っている。
カオスの方はバルデラス団長しか知らない。でも、こちらは皆が驚いた顔をしている。
そうこうしているうちに王城が見えて来た。近付いて行くと、バルカンから連絡が行っていたのだろう、城の人たちが総出で出迎えてくれる様だ。
夢幻旅団はそのまま帰る様でカオスは城の裏の転移台へと消えて行った。
バルカンと僕らは庭園に降り立った。
「バサバサッ!タタタッ!」
「ウォーッ!」
「神様!」
「エリアス様!」
「グリフォーンッ!」
使用人や騎士たちが庭園を取り巻き、ピョンピョン飛び跳ねながら僕らに声を掛ける。
バルカンから降りて来た副団長やレオン、グレース、キースや王族たちもこちらに向かって歩いて来た。
「おー!神よ!我が大陸の聖獣を使役し、連れ帰ったのですね!」
「いやいや、皆が先に帰ってしまったから、送ってもらっただけですよ。それより、何で待っていてくれなかったのですか!」
「あーそれは・・・クラーク公がエリアス様ならば、グリフォンを我が物の様に使役し、送らせるのだから大丈夫だと・・・」
「副団長!グリフォンは私の言うことが解かるみたいなので良かったですけれど、言葉が通じなかったら今頃困っていましたよ?」
「いえいえ、エリアス様ならば大丈夫です!」
「なにその変な自信は・・・」
相変わらず副団長のエリアス信仰は高まるばかりだな・・・
「ところでこの世界では、一般民衆は夜間外出禁止だと聞いていたのですが、何故、あの地ではあれほど沢山の民衆が外に居たのですか?」
「エリアス様、ただ今、帝都に居りました、セオドア・ウィリアムズ公に登城させ問い質していたところで御座います」
「伯父様、私に敬語は不要です」
「え?あ、そうでしたな・・・ゴホン!えー、ウィリアムズよ、それで?」
「あ、あの・・・誠に申し訳御座いません。私の指示を無視して社員に残業をさせていた者が居た様で御座います」
ウィリアムズ公は誰とも目を合わせようとせず、そっぽを向きながら白々しく言った。
「ほう。お主の領では、領主の指示を無視する者が居るのだな?と言うことはだ。お主は舐められているということで良いのだな?」
「い、いえ!そ、その様なことは御座いません!」
「もう良い。どちらにしても民衆を犠牲にしたことは事実だ。我ら貴族は民衆を守ることが務め。それを蔑ろにし、その責を部下に擦り付けるとは!」
その時だった。音も無く背後から近付き、いつのまにかウィリアムズ公の直ぐ後ろまでグリフォンは迫っていた。
「うわぁーっ!」
ウィリアムズ公はグリフォンに驚き、立ったまま硬直してグリフォンを見上げた。
グリフォンはウィリアムズ公に迫ると、至近距離で目を見つめた。
「ポウッ!」
グリフォンの身体が洞窟の中に居た時の様に白く輝き、辺りを照らすと同時に目が青く光った。
「あ。あ・・・あ」
ウィリアムズ公は、グリフォンに目を見つめられると身体の力が抜けていく様にへなへなと地面に倒れた。
「ピュィー」
グリフォンはフイッと向きを変え、僕の所へ戻って来た。そして最初の様に僕の肩に首を置き、頬擦りすると僕から離れ、空へと飛んで消えて行った。
「おい、ウィリアムズ。大丈夫か?」
「え?あ、は、はい・・・」
ウィリアムズ公は顔面蒼白だ。グリフォンは彼に何をしたのだろうか?
「身体は何ともないのですか?」
「はい。何か力が抜ける様な感覚はありましたが、どこにも痛みはありませんし・・・」
そう言いながらゆっくりと立ち上がった。しかし、瞳と髪の色が白銀からゆっくりとくすんでいき、薄茶色となった。
「おい!瞳と髪の色が・・・お主、魔法は?魔法は使えるのだよな?」
「え?それは勿論。私は魔力80ですので・・・」
王にそう聞かれ眉間にしわを寄せると魔法の呪文を詠唱し始めた。
「レムノスの大地よ、この私に力を与えよ!」
「・・・」
「ん?」
「どうしたのだ?」
「い、いや・・・レムノスの大地よ!この私に力を!」
幾ら呪文を詠唱しても何も起こらなかった。ウィリアムズ公の顔は更に青くなり、身体は小刻みに震えていた。
「まさか、聖獣に魔力を奪われたのか?」
「聖獣がそんなことを?」
「先程、グリフォンがウィリアムズを睨んで目が光った時、ウィリアムズは力が抜ける様に倒れたではないか!そして瞳と髪の色も一般民衆の様になってしまったのだぞ!」
「え?瞳と髪の色が?一般民衆の様に?そ、そんな・・・」
「まぁ、そういうことだ。お主は神の怒りを買い、魔力を失った訳だ。それでは公爵の地位に留まることはできぬな」
「そ、そんな・・・」
「因果応報であろう?欲に目が眩み、法を破って民衆を夜まで働かせ、怨獣の犠牲にしたのだからな。その罪は余りにも重い。それを身をもって知るがよい」
「く、くくっ・・・」
ウィリアムズ公はその場で膝を付き、がっくりと肩を落とした。
その後、城の応接室へ移り、王族と僕、騎士団長、副団長が集まり今日の報告をした。
「それにしても驚きました。フェニックスは伯爵を瞬殺しましたし、グリフォンは公爵の魔力を奪うとは・・・」
「やはり、聖獣は神の遣いなのですね。弱きを助け強きを挫くのです!」
「まぁ、事実として、そうなってはいますね・・・」
「それも、エリアス様がいらっしゃる時だけですから!」
「それを結び付けられても・・・」
「エリアス様、シュナイダー王国とロンバルディ王国にも足を運ばれますよね?」
「それって、土の大陸のユニコーンと水の大陸のリヴァイアサンに会いに行くってこと?」
「勿論、左様で御座います!」
「僕よりも副団長の方が見たいのでしょう?」
「そ、そんなことは・・・あるかも知れませんが・・・」
「ユニコーンはまだ、怖くはないですけれど、リヴァイアサンは要するにクジラですよね?」
「くじら?とは?」
「あぁ、こちらの世界にクジラは居ないのですか?私の前の世界ではクジラと呼ばれていたのです」
「え?リヴァイアサンが居たのですか!ではあの大きなリヴァイアサンが空を飛ぶのを見ていたのですね?!」
「ん?空を飛ぶ?リヴァイアサンは空を飛ぶのですか?」
「えぇ、普段は海の中に居る様ですが、人間界に干渉する際は空を飛んで来るという言い伝えとなっておりますよ」
「へぇーそうなんだ。あんな大きなものが空を飛ぶ・・・それは見てみたいかな?」
「そうでしょう!それで、どちらを先にいたしますか?」
「え。そうだな・・・考えておきますよ」
帝国に戻り、お父様や騎士団長へ報告をした。
「エリアス、また聖獣が現れた様だな?」
「はい、お父様。グリフォンです」
「今度は悪事を働いた公爵から魔力を奪ったそうだな?」
「えぇ、驚きました」
「聖獣は人間の悪事を知っているということか」
「そうですね。でも、今まではこの様なことは無かったのですよね?」
「そうだな。どれもこれも、エリアスが起こした様なものではないか?」
「え?私は何もしておりませんが?」
「その場へ赴いておるだろう?」
「私がそこに居るから・・・ですか?」
「勿論、そうに決まっております。どの聖獣もエリアス様にお会いしたい一心で現れ、エリアス様に忠誠を誓うために悪を挫いて見せたのでしょう」
「また副団長は、良い様に解釈してしまうのですから・・・」
「でもどの国でも、貴族も民衆も皆、既にエリアス様は神様だと認識しておりますよ」
「え?騎士団長まで?」
「昨晩はテレビで特集番組を組んでおりました。如何にもエリアス様が神様の再来であるかの様に編集されておりました」
「あぁ・・・困ったな・・・」
「しかし、それは問題もあるな」
「陛下!エリアス様が神様と崇められて何が問題となるので御座いましょう?」
「オスカー、エリアスが赴く先々で、悪事を働いている貴族が殺されたり、魔力を奪われたりしているのだ。次にエリアスがどこへ行き、どの貴族が同じ様な目に遭うのかと恐怖に震える者の姿が目に浮かぶ様だ」
「でも、それは自分の蒔いた種。ということでは御座いませんか?」
「ニコラス。それは良いのだ。その通りなのだからな。そちらではなく、エリアスが来ることを歓迎されなくなることを憂いているのだ」
「あ。あぁ・・・」
うーん。確かにそうだよ。僕は怨獣の調査で各国へ行っているだけなのに、貴族の悪事を暴くために行っていると思われてしまう訳だな。
「各国への調査に行き難くなるのは困りますね」
「エリアス様は何も悪くないのです。正義を行使することのどこがいけないというのでしょう?」
「そうだな。それよりも同じ目に遭わぬ様に貴族が襟を正す契機となることを願おうか」
「仰せの通りで御座います!」
「そうは言っても、力の大きく悪意ある貴族がエリアスの入国を阻もうと策を練る可能性も否定はできぬ。よって1年は帝国を出ぬ方が良いだろうな」
「え?出国禁止ですか?」
「まぁ、そう悪く取るな。貴族たちに改心させる時間を与えるということだ」
「なるほど。それは必要ですね。そうすることで貴族が恨まれることが減り、怨獣も減ると思いたいですね」
その後、世界中のテレビ番組で、貴族が悪事を働くと聖獣からその代償を払わされる。という趣旨のドキュメント番組が放映された。
そして、僕は1年間の謹慎生活の様な状態となってしまった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!