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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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22.財宝

 ステュアート王国訪問の二日目、ジョシュア・ライアン侯爵の工房を訪問する。


 アルテミスと同じ形の王宮騎士団の戦闘艇バルカンに乗り、景色を眺めながらライアン候の領地へと向かう。


 王都や商業地区は10階建て位の高い建物が林立していた。流石は金属の国だ。鉄骨での建築が当たり前の様だ。


 20分程飛んで、山の麓にあるライアン候の屋敷と工房に到着した。屋敷は城と言うよりはリゾートホテルの様で5階建てみたいだ。広い庭園の一角に船を降ろした。


「ウーラノスの大神にご挨拶を差し上げます」

「許します」

 神様扱いは嫌だけど、一々否定するのも面倒だから挨拶くらいは相手に合わせることにした。


「初めてお目に掛かります。私はこの地の領主、ジョシュア・ライアン侯爵に御座います。こちらは妻のエヴェリン・アルノー・ライアンと息子のジョセフ・ライアンです」


「初めまして。私はエリアス・アルカディウスです。こちらは侍従のレオン・バルデラスとグレース・ボナール。ご存じとは思いますが、帝国騎士団副団長オスカー・クラーク公。帝国騎士ヘンリー・ジョンソン侯とその子息キース・ジョンソンです」

「これは皆さま、錚々(そうそう)たる顔ぶれでいらっしゃいますね」


「ライアン候、本日は貴公の錬成する様々な剣を拝見したいと思い寄らせていただきました。そしてできましたら、私の侍従に合った剣を調達したいのです」

「左様で御座いましたか、この工房に揃えております剣はどれもミスリルで錬成したもので御座います。侍従のお方に合う剣が御座いましたら幸いで御座います」


 早速、工房に足を踏み入れ、壁に飾られた様々な剣を見せてもらった。


「こちらより、ロングソード、バスターソード、サーベル、レイピア、ダガーとなっております」

「なるほど、全てミスリル製なのですね」

 鉄やはがねではないのだな。ミスリルと本来の日本刀ではどちらが強いのだろう?やはりミスリルなのだろうか。まぁ、比べることはできないが。


 それにしても西洋の剣ばかりだな。この世界の騎士は皆、何故か身体が大きいから長く重い剣でも扱えるし、技術はそれほど必要ないということか・・・僕が興味を惹くのはフェンシングのフルーレの基となるレイピアくらいだな。


「レオン、どうだい?」

「そうですね。私には剣の知識が無いものでどれを選べば良いものか・・・」


「あぁ、そうだね。レオンの体格ならば、やはりロングソードが良いのではないかな?」

「皇子殿下、何故、その様に剣の知識をお持ちなので御座いますか?」

「ライアン候、私は別の世界から来た人間です。その世界にも種々の剣が在ったのです」

「左様で御座いますか。ではやはりその腰の剣は異世界のものなのですね?」


「えぇ、前の世界の剣をお母様に練成していただいたのです」

「おぉ!エレノーラ皇妃殿下に・・・その剣を拝見することは叶いますでしょうか?」

「どうぞ、ご覧ください」


 刀を抜いてライアン候に見せた。

「おぉ!こ、これはキレイカルコス。そしてこれはカタナという剣では?」

「え?刀をご存じなのですか?」

「はい。少々お待ちを・・・」


 するとライアン候は一度奥の部屋へ入り、戻って来ると手には一振りの刀が握られていた。

「え?刀もあるのですか?」

「はい。これは我が家に先祖代々伝わる家宝で、神が作らせた刀の予備として練成したものだそうです」

「つまり、アレクサンド・アルカディウスが作らせたものということですか?」

「左様で御座います」


「それは、ミスリルで錬成したものですか?」

「はい。左様です。我が家系には魔力が100に達する者が居りませんでした。よって錬成できたのはミスリルまでなので御座います」

「あ、あの!」


「キース。どうしたんだい?」

「ミスリルでしたら、刀を錬成できるのですか?」

「そうですね。できないことはないですね」

「お願いします!是非、この私に刀を錬成していただけないでしょうか!」


「あぁ・・・そうだね。キースには刀が合っているかも知れないね」

「神のご依頼で御座いましたら・・・」

「では、キースには刀を、レオンにはロングソードを錬成いただけますか?」

「承知いたしました」


 それから、レオンの身長と腕の長さ、体重を考慮して、長さや身幅を決めていった。キースはこれから成長することを考慮に入れて少し長目にした。更に僕とキースの訓練用に刃の無いミスリルの刀も依頼した。


「では、ライアン候。剣が完成しましたら、帝国城まで送っていただけますか?」

「承知いたしました」




 王城へ戻り、夕食を終えた頃、王国騎士団の騎士が走って緊急の知らせを届けた。

「緊急連絡で御座います!」

「どうしたのだ?」


「ウィリアムズ公爵領で怨獣が出現したとのことで御座います!」

「ローガン、夢幻旅団に連絡だ!王国騎士団も向かわせよ!」

「御意!」


 王国騎士団団長で王妃の兄であるローガン・イングラム公爵が席を立ち、走り出した。


「副団長、私達も行きましょう」

「仰せのままに」


 僕たち6人も走ってイングラム団長を追った。

「グレースはここに居ても良いのですよ?」

「いいえ、一緒に行きます!」

「まぁ、構わないけど」


 王国騎士団の戦闘艇バルカンに乗り、ウィリアムズ領へと向かった。

第一戦闘速度で現地まで向かった。こうしている内にも被害が広がるかも知れない。


 現地に近付いたところで窓から街を見下ろすと、あちこちに火の手があがり、民衆が集まって火を消していた。


 ウィリアムズ公爵の城に到着すると横の空き地に船を降ろした。銀の騎士服を纏った騎士たちがスワローに乗り、一斉に飛び出した。


 僕たちは援護のため、地上へ降りて現場へ走った。


 街を走るとそこは東京と変わらない街並みで僕は驚いた。違うのは頭の上を小型船と呼ばれるタイヤの無い自動車みたいなものが飛んで行く。未来の世界って奴だな・・・


 民衆の格好も東京の人とそうは変わらない服装だ。そうか、僕は帝都でも何度か見ていたのに、普段は王や貴族に囲まれた生活をしていたから、この世界のことを何か中世ヨーロッパの様な勝手なイメージを持っていたのだな。しかしここは現代の地球よりも数十年か百年は先の科学水準の様だ。


 そんなことを考えながら民衆が走って来る方へ向かう。そこら中を仕事帰りの民衆が、パニックになって怨獣から逃れようと走り回っている。幸い子供の姿は無い。


 だが、その先には何名かの人間が倒れていた。ある者は腕が無くなり、またある者は頭が無かった。


「既に被害が出ているぞ!」

「何故、夜にこんなに多くの一般人が街に居るのでしょう?」

「そうだな、変だね」

「スワローが飛ぶ方へ向かいましょう!民衆にぶつからない様に注意してください」

「急ごう!」


 僕とレオン、キースは日頃の鍛錬を活かし、民衆を避け、壁の上から建物に飛び移って走り、あっという間に現場に到達した。副団長、ジョンソン候とグレースは後から追いつくだろう。


「レオン、まずは怨獣を確認しよう」

 建物の屋上から3人で怨獣を探した。すると100m程先に黒い船が空に浮かんでいた。船は黒いのだが、今日はルナが満月でその月明かりに照らされているため、暗闇の中でもはっきりと見えたのだ。


「そういえば、今夜は満月だったね。怨獣が出る条件ではあったのだな・・・それであの船は!?」

「エリアス様、あれはカオスです。夢幻旅団の船です」

「夢幻旅団?もう着いていたんだ」


 カオス・・・混沌?無秩序?・・・凄い名前だな。船はアルテミスやバルカンよりも全長が短いけど幅が広いな。あ。いけない。そんなことよりも怨獣だ。


「それで怨獣は?」

「はい。既に怨獣も片付けた様ですね」


 レオンが指差す先を見やると、何体かの怨獣が既に絶命し腐敗の黒い煙を上げており、夢幻旅団の騎士たちは漆黒のマントをひるがえして撤退を始めていた。


「もう、撃退したのか・・・」

「夢幻旅団の戦闘はいつも数分で終わると聞いています」

「あ、あそこにまだ、バルデラス団長が居ますよ!」

「え?どこ?あ!本当だ。行ってみよう!」

「はい!」


 僕ら3人は建物から飛び降り、走ってバルデラス団長と王国騎士団団長の前まで行った。

伯父貴おじき!」

「ん?なんだ、レオンか・・・んんっ?もしや・・・エリアス皇子殿下で御座いますか?」

「バルデラス団長、ご無沙汰しております。お会いするのは9年ぶりですね」

「ということは、まだ14歳・・・それでもうそんなに成長されたのですか」

「どうも私の成長は早い様です」


「伯父貴!もう怨獣を倒してしまったのですか?」

「あぁ、獣型4体だけだからな。こんなものだ」

「凄いよ!」

「ところでレオン、馬鹿なことをしでかした様だな?」

 バルデラス団長はレオンを睨みつけた。


「あ、い、いや・・・その・・・」

「殿下、私の甥がとんでもないことを。誠に申し訳御座いませんでした」

 バルデラス団長はその場で深々と頭を下げた。


「そのことは、もう良いのですよ」

「レオン。話は聞いているぞ。折角、すくっていただいた命だ。その命は殿下に捧げ、生涯、尽くすのだぞ?」

「はい。心得ております」

「うむ。ではまたな。殿下、これで失礼いたします」

「はい」


 その時だった。上空から叫ぶ声が響き渡った。

「団長!後ろ!」

「むっ!」

 夢幻旅団の船カオスから呼び掛けられたバルデラス団長は、咄嗟に魔法の攻撃態勢に入った。


 僕は背後に何かの気配を感じ、それが何なのか確かめるまでもなく、バルデラス団長の攻撃に当たらない方向へ身体を飛ばそうとした。


「ちょいちょい」

「え?」


 身体を飛ばそうと全身に力が入る瞬間、僕の肩を何かが触れた。

僕は後ろに振り返ると、そこには得体の知れない大きな動物が居た。しかし怨獣ではない様だ。いつの間にこんなに近付いたのだ?全く気がつかなかった。


 その動物の頭は鳥だ。多分、猛禽類もうきんるいという奴だろう。この鋭い目とくちばしは、わしなのではなかろうか。そして身体の後ろ半分はライオンの様に見える。


 だが、頭から長い尻尾まで基本的に白い。でも翼には少し鷲らしい茶色とか小豆色あずきいろっぽい色の羽もあり、ペガサスやフェニックスと同様に風きり羽は金色だ。


「ま、まさか!グリフォンか!」

 バルデラス団長が叫んだ。え?ということは、金属の大陸の聖獣?


「バルデラス団長、これがグリフォンなのですか?」

「私も初めて見るのですが、上半身が鷲で下半身が獅子のようですから、これはグリフォンで間違いないですね」


「ピュルルルー」

 グリフォンは優しい鳴き声で鳴くと、フェニックスの時の様に首を僕の肩に乗せて来た。


「エリアス様!また聖獣ですか!」

 後から追いついて来た副団長が僕らを見て驚きの声を上げた。


「その様ですね。それにしてもいつの間に現れたのでしょう?」

「おい!上から見えていたか?」

「いえ、暗闇から突然現れた様に、気付いた時にはもうそこに居ました」

「そうだな。歩いて来る音は聞こえなかったし、羽音もしなかった」


「ピュルルー」

 グリフォンは猛禽類の前足を折り、ひざまずくと首をもたげ、乗れと催促した。


「乗せてくれるのかな?」

「ピュー」

「わかったよ」


 僕はグリフォンに跨った。すると首を起こし軽く走り出すと二度大きく羽ばたいた。

「バサッバサッ!」

 そのまま空中を滑空し、もう一度羽ばたくと急に高度が上がった。


「エリアス様!ちゃんと帰って来てくださいよー!」

「はーい」


 そういえば、フェニックスに乗った夜も満月の夜だったな。でも、ペガサスの時は満月だったか覚えていないな。帰ったら調べておこう。


 その辺を飛ぶだけだろうと思っていたら、グングン速度を上げ、真直ぐに飛んで行く。

「あれ?どこへ行くの?」

「ピィーピピピーッ!」


 鳴き声も高らかにどんどん速くなる。これって、かなり遠くに来てしまっているのでは?

そう思った頃、山に近付いて来た。とても険しく高い山だ。6000m級なのではないだろうか。


 その山々の合間を抜け、かなりの高度まで上がった時、前方の山の岩陰に洞窟が見えた。

あの中に入ろうというのかな。もしかしてグリフォンの住処すみかなのかな?


「バサバサッ!」

 グリフォンは大きく羽ばたくと黄金のマナが霧散して辺りを明るく照らし、一瞬で速度を殺して洞窟の入り口に着地した。

そのままトテトテと歩いて中に入って行く。だが、夜の洞窟の中は真っ暗だ。


「うわぁ、真っ暗で何も見えないな・・・」

 僕がそう言うと歩くのが止まった。そして、グリフォンの身体がゆっくりと白く光り出した。

「うわぁーっ!なんだこれ!」


 洞窟の奥は広い部屋となっており、そこには山の様な量の金銀財宝が光り輝いていた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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