21.家族
僕は14歳になり、身長は170cmを越えた。
レオンは195cmあるので、並び立つと僕はまだ子供の様に見えるだろう。
今日も早朝から帝都を二人でランニングだ。
すると、後方から僕らについて走って来る者が居ることに気付いた。
その内にへばってついて来られなくなるだろうと思っていたのだが、つかず離れず、一定の距離を保ってついてくる。
途中、塀の上を走ったり、木に飛び移ったりしてもしっかりついて来る。
「レオン、気付いているかい?」
「あの後ろについて来る者のことでしょうか?」
「あぁ、気付いていたんだね。よくついて来られるよね?」
「騎士でしょうか?」
「騎士見習いかな?若いと思うよ。私と同じくらいの歳ではないかな?」
「一人で鍛錬をしているだけかも知れませんよね?」
「まぁ、そうだね。追い付いて来る訳でもないし、放っておこうか」
それから毎日、ついて来るようになった。そして途中でへばることなく、しっかりついて来ていた。
「レオン、もう2週間になるけど、問題なくついて来るね。大したものだよ。ちょっと気になるな」
「何者か確認しましょう」
「そうだね」
僕らはそう言うと目で合図をし、壁から木の上へと飛び移った。
そのまま木の上を飛び移り、ついて来る者を前後で挟み撃ちにする形で木から飛び降りた。
「トスッ!」
レオンは彼の目の前で腕組みをし、仁王立ちとなった。僕は彼の直ぐ後ろに立つと肩に指でトントンと触れた。
「ひゃぁー」
彼は素っ頓狂な声を上げ、僕に振り返った。
「やぁ、おはよう!君は誰かな?」
「あ!あ、あの・・・わ、私は、キース・ジョンソンと申します。父は帝国騎士ヘンリー・ジョンソン侯爵で御座います」
「あぁ、なんだ。ナンバー騎士、ジョンソン候のご子息か」
「それで・・・お前はなんで俺たち・・・いや、皇子殿下を毎朝つけ回しているんだ?」
レオンが凄んでキースに迫った。
「い、いえ、つ、つけ回すなんて!そんな・・・た、ただ、エリアス皇子殿下に憧れて少しでも近付きたいと、強くなりたいと考え、せめてランニングだけでもついていける様にと考えたので御座います!」
「ふぅーん。本当か?」
「ふふっ、そうなんだ。でもちゃんとついて来ていたね。大したものだよ。キースは何歳なのかな?」
「はい。僕は14歳です」
「なんだ。私と同じじゃないか。では来年、帝国の学校へ入学するのだね?」
「はい。その予定で御座います」
まじまじとキースを見つめると、親父さん譲りの白銀の髪に銀の瞳。金属性の魔力が強いのだろう。身長はまだ、160cm程だが、既に体力は備わっている様だ。
そして腰には帯剣していた。見たところ細身の西洋剣の長剣だ。
「キースは剣術ができるのかい?」
「はい。金属の国ステュアート王国には多くは御座いませんが、剣を扱う者が居ります」
「そうか。流石、金属の国だけはあるのだね」
「お、恐れながら・・・エリアス皇子殿下の剣も素晴らしいものだとお聞きしております」
「あぁ、これかい?見たい?」
「え?よろしいのですか!?」
「カチンッ!」
刀を鞘からすらっと抜き、キースの目の前に掲げた。
日本刀は朝日に照らされ黄金色に輝いた。
「あぁ・・・なんて素晴らしい・・・」
キースは、うっとりと日本刀を見つめると思わず呟いた。
「キースの剣も珍しいね。西洋剣にしては身幅が細いのだね?」
「はい。私はまだ、身体が成長し切っておりませんので、身体に合わせまして軽くするためにこの様に細く錬成しているのです」
「そうか。金属の国はお母様の母国だが、まだ一度も訪問していなかったな。その様に種々の剣があるのならば、一度見に行きたいな」
「そうですね。私も自分に合った剣を探してみたいものです」
「そうだね。レオンの剣は自分に合わせたものではないのでしょうから」
「え?では、ステュアート王国へ行かれるので御座いますか?」
「そうだね。行ってみたいな」
「ぜ、是非!自分もご一緒させてはいただけないでしょうか?」
「キースも?」
「そうだな・・・私がステュアート王国を訪問するとなれば、必ず副団長が随伴するだろう。ついでにジョンソン候とキースも伴えば良いのだね」
「本当で御座いますか?!」
「あぁ、副団長に言っておくよ」
「あ、ありがとう御座います!」
「やったぁーっ!」
キースはそう叫ぶと走って帰って行ってしまった。
「エリアス様、よろしいのですか?」
「良いんじゃないかな?身元はしっかりしているのだし、来年からは学校でも一緒なのだから」
「まぁ、そうですね」
ステュアート王国へ訪問の連絡をし、それから2週間後にお父様の転移魔法で金属の国へ飛んだ。
今回、騎士団長は残り、副団長とジョンソン親子、それにレオンとグレースの6名だ。
ステュアート王国の転移部屋に6人が現れると、沢山の人が待ち構えていた。
「おぉ!いらっしゃったぞ!」
「ようこそ!ステュアート王国へ!」
打ち合わせしたのか、使用人たちが一斉に声を上げた。
「うわっ!な。なんだ?」
「大変な歓迎ぶりで御座いますね」
「それは当然です。神様がご訪問くださったので御座いますから」
副団長の僕への崇拝ぶりは相変わらずでぶれることがない。
「ウーラノスの大神にご挨拶差し上げます」
恐らく、ステュアート王国の王と思われる男性が頭を深く下げたまま言った。
ウーラノスの大神?何それ?僕がきょとんとしていると副団長が耳打ちした。
「エリアス様、許しを与えませんと・・・」
「え?私が?・・・えっと・・・ゆ、許します」
「ようこそ我が、金属の大陸レムノス、ステュアート王国へ。私は国王、アーサー・ステュアートで御座います。こちらは王妃スカーレット・イングラム・ステュアート、王子ジョージ・ステュアートに御座います」
「更に私と我が妹エレノーラの両親であります、前王チャーリー・ステュアート、前王妃エリザベス・クラーク・ステュアートも是非一度、お目に掛かりたいと馳せ参じております」
「あなた様がエリアス様・・・エレノーラにそっくりなので御座いますね・・・」
「お婆様なのですね。私はお母様のこと、決して諦めてはおりません。必ずや探し出してみせます」
「おぉ・・・感謝します。神様」
「お婆様。私は神様では御座いません。お婆様の孫です。エリアスとお呼びください」
「そんな・・・勿体ない・・・」
「エリアス・・・其方、まだ14歳なのでは?」
「はい。お爺様。私は14歳です。まだ自由にお母様の捜索に行かせていただけないのですが、学校を卒業しましたら直ぐにでも国を出るつもりです」
「そうですか・・・誠に申し訳御座いません。我らステュアート王国が未だにエレノーラを見つけ出せぬこと、心苦しく思います」
王ステュアートが沈痛な面持ちで答えた。それはそうだろう。実の妹が怨獣に攫われたままなのだ。それこそ血眼になって探してくれている筈だ。
「伯父様、ありがとう御座います。各国や夢幻旅団でも捜索はしてくれているのですが、未だに糸口さえ掴めないのです」
「あ、あの・・・ここでは・・・そろそろ応接間の方へ」
「あぁ、そうでしたな。ではこちらへ」
「ありがとう御座います」
応接間へ通されると、皆、少し表情が柔らかくなった。
「それにしても、エリアス様。あの聖獣とは素晴らしいものですね?」
「伯父様、エリアスと呼び捨てに願います。私は甥なのですから」
「え?甥?しかし・・・それは・・・」
「アーサー、エリアスがその様に言ってくださるのですから・・・」
「母上、そ、そうですね」
祖父母も伯父さんも僕とは家族だというのに、僕は既に神格化されていた様だ。もっと早くに顔を出しておくべきだったな。
「聖獣のお話でしたね。アルフォンソ王国のフェニックスには私も驚きました。悪人とは言え伯爵を躊躇なく殺しましたし、怨獣の怨念を浄化し、元のねずみに戻すこともできたのですから」
「そうでしたな。ところでペガサスもフェニックスもエリアスの行くところへ現れている様でした。やはり聖獣は神の遣いなのでしょうな」
「エリアス、この国へはグリフォンに会いに来られたのですか?」
「え?いえ、それは考えていませんでした。皆さん、ご存じの通り、私は無能です。ですからそれを補うために、前の世界でやっていた剣術を究めようとしているのです」
「剣術?その腰に下げた剣ですね?」
「はい。これはお母様に練成いただいた刀という前世の世界の剣です」
「見せていただいてもよろしいですか?」
「はい。こちらです。どうぞ」
皆に見える様に刀を抜いて掲げた。
「おぉ!その色はキレイカルコス!」
「流石、エレノーラの鍛えた剣。美しい・・・」
「その剣で怨獣を倒したのですね?しかも12歳の時に」
「はい。この剣にはお母様の聖属性魔法の加護が付与されているのです。身体を斬っても再生する怨獣でしたが、この剣で斬ると再生されずに絶命させることができました」
「素晴らしい神の剣だ!それをエレノーラが!」
「えぇ、えぇ、エレノーラの聖女の力がエリアスを守ったのですね!」
まぁ、ここはお母様の国だ。家族を褒め称えるのは当然だな。
「今回、ステュアート王国に訪問したのは、この国には様々な剣があると聞き、私の侍従の剣を選びがてら見学したいと思いまして」
「そうでしたか、剣でしたらジョシュア・ライアン侯爵に頼むのが良いでしょう。連絡しておきます」
「ありがとう御座います」
「ところで、オスカー」
「はい」
「何故、エレノーラを守れなかったのですか?」
「そ、それは・・・わ、私は陛下の指示で獣型の怨獣に対応しておりましたので・・・申し訳ございません」
あぁ、副団長はお婆様の甥なのだったな。
「お婆様、あの怨獣の力は途轍もないものでした。お父様とお母様、それに騎士団長の3人で攻撃してやっと退けたのです。そして、お母様は私を守るため敢えて犠牲となったのです」
「そうですか。エレノーラは今、どこに居るのでしょうか」
「お母様はきっと生きています。あの怨獣は人の言葉を話しました。何か考えが有ってお母様を拉致したのだと思います」
「ということは、闇の大陸エレボスに居るというのですか?」
「エレボスの情報が全く無いのでどんなところなのか判らないのです」
「エレボスは南極に位置する大陸なのですよね?南半球にはマナがほとんど無いから船で渡ることができないとか・・・」
あれ?それは本当なのかな?アニエスとルーナに乗って飛んだ時、僕らに向かってマナが流れて来る様に見えたのだけどな。
「そうなのでしょうか?マナは空に大量に流れています。そして魔力の強い人間はマナを引き寄せられるのです。つまりお母様の様に魔力の強い人間が居れば、エレボスでもそこに向かってマナが流れるのではないかと思うのですが?」
「何?エリアスにはマナが見えるのか?」
「えぇ、私に魔力はありませんが、何故か生まれた時からマナは見えていたのです」
「ほう。やはり、エリアスはただ者ではないのだな」
「それはどうか判りませんが、私は5つの大陸でお母様が見つからなければ、エレボスへ行ってみようと思っています」
「エ、エレボスへ?!」
「エリアス様、その時は私もお供いたします」
「私も是非、ご一緒させてください!」
「レオンはわからないでもないけど、キースもかい?何故?」
「だって、面白そうじゃないですか!」
「これ!キース!何てことを!」
「お父様、僕は家督を継ぐより、冒険がしたいのです。もっと言えば夢幻旅団に入りたいのです」
「な、何だと?夢幻旅団?」
「はい。怨獣を根絶やしにして世界を平和にしたいのです!」
「いいね!キース。それは私も同じだよ。多分、レオンもね」
「えぇ、勿論です!」
そうきっぱりと言い、ニヤリと笑った。そしてその向こうに立つグレースの顔は曇った。
「ではお前は、ジョンソン家は継がずに神の従僕となるのだな?」
「はい。家は弟に任せます。ハリーの魔力はお父様より少し多いのですから問題はないでしょう?」
「それはまぁ、そうだが」
「おいおい、キース。私はまだ、君を侍従にするとは言っていないのだけど?」
「えー!駄目ですか?」
「ふむ・・・では私と模擬戦をして、一撃入れることができたら認めよう」
「本当で御座いますか?!やったぁーっ!」
「おい。キース。エリアス様に一撃って・・・」
まぁ、レオンは経験しているからそう思うよね。でもやってみなければ判らないだろう。
それにキースの底抜けの陽気さは嫌いじゃないしね。
お読みいただきまして、ありがとうございました!




