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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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1.輪廻

 アルカディウス帝国城は怨獣に襲撃された。


 だが、まだ終わった訳ではない。城の最下層では戦闘が続いているかも知れないのだ。


「陛下、私は最下層へ加勢に参ります!」

「私も行こう」


 あ!そうだった!結界は城の最下層で破られたのだ。そこではまだ戦いが続き、お母様が居るかも知れないのだ。


 僕は一瞬で判断し、お父様と騎士団長よりも早く駆け出した。


「エリアス!お前は行くな!お前にできることはないのだ!」


 お父様は僕の背中に向かって叫んでいたが、そんなことには構わず走った。


「殿下!エレベーターには乗らないでください!エレベーターシャフトに怨獣が潜んでいるかも知れないのです!」

「わかった!」


「ダダダダーッ!」

 謁見の間は城の3階だ。最下層は地下3階なので5階層を一気に走り下りる。


 最下層に辿り着くと、その光景に愕然がくぜんとした。

「う、うう・・・う」

「い、痛い・・・足が・・・」


 そこで見たものは獣型の怨獣のしかばね数体と直ぐには数えられない騎士の死体と引きちぎられた腕や足、そして頭が転がり、辺り一面血の海と化し、生き残った騎士も負傷者が多く、皆うめき声を上げていた。

「うっ・・・そ、そんな・・・お、お母様は・・・お母さまーっ!」


 薄暗い地下のマナの釜が在る広い部屋の中を、目を凝らして見回すのだが、どこにもお母様の姿は無かった。

僕の後を追って来たお父様と団長は、部屋を見渡してため息をついた。


「オスカーは居るか?!」

 団長が声を掛けると奥の方で座り込んでいた副団長のオスカー・クラーク公爵がゆらりと立ち上がった。


「団長、何とか食い止めました・・・しかしこちらの被害も甚大じんだいです」

「うむ。オスカーよ。良くぞ耐えてくれた」

「陛下!勿体ないお言葉です!」


 騎士は扱える魔力の大きさと実力により、上位10名のみにナンバーが与えられている。

最下層に降りたナンバー騎士は、ナンバーⅡの副団長とⅦからⅩの4名だったが、生き残ったのは副団長とⅦのヘンリー・ジョンソン侯爵、Ⅸのフランク・リヒター伯爵家長男の3名だった。


 ナンバーⅧのパトリシア・アルバ侯爵家長女とⅩのヴィオラ・マリーノ侯爵家長女は亡くなった。謁見の間で亡くなった、Ⅳのカルロス・グラシア侯爵家長男とⅤのメリッサ・マイヤー伯爵家長女の2人を合わせて4名のナンバー騎士を失った。ナンバーの無い騎士については、何名亡くなったのか直ぐには確認できない。


「怨獣は全て退けたのだな?」

「はい、陛下。獣型8体が出現し、5体を倒し、3体は瀕死の状態まで追い詰めたのですが、黒い渦の中へ逃げられました」

「そうか。動ける者は城内を調べてくれ」

「御意!」


 生き残った騎士たちに安堵あんどの表情が見られた。それはそうだろう。だが、僕は再び絶望に落ちた。


 確かに僕にできることはなかった。魔力属性を持たず、魔力を扱えない無能の僕には。

それでも僕にはお母様を守りたい理由があった。


 しかし何もできず、目の前でお母様がさらわれて行くのを見ていることしかできなかったのだ。


 僕は自分の運命を呪った。




 僕が母を失うのはこれで二度目だ。


 と言っても一度目は前世の話だ。前世はこの世界から見れば異世界である、地球という惑星の日本で、僕は両親と3人で暮らしていた。


 父親は建築系の職人だった。昔気質むかしかたぎ喧嘩早けんかっぱやい気分屋。

仕事の疲れかストレスか知らないが、仕事から帰るとちょっとしたことで機嫌が悪くなり、僕を殴ったり蹴ったりしていた。


 そんな父親から母は懸命に僕を守ろうとしてくれたが、母も一緒に殴られた。

小さい時は一方的に虐待を受けるだけだったが、僕も父親と似た気性を持っている様だ。僕が小学6年生になった頃は身体も大きくなって来ており、父親の乱暴に刃向はむかう様になっていた。


 そうなると父親の暴力はエスカレートし、ある日僕の反撃にキレた父親は僕の首を絞めてきた。僕は面食らってしまい動けなくなったところへ、とうとう堪忍袋の緒が切れた母が包丁を持ち出して父親に斬りつけた。


 だがそれは子供のチャンバラごっこの様に包丁を振り回しているだけで殺意など皆無だった。


 父親は咄嗟に僕を離し、2人はもみ合いとなった。父親は包丁を奪い取り、母を取り押さえようとした時、誤って母の首に包丁の刃が当たってしまった。


 ざっくりと斬り込んでしまい頸動脈けいどうみゃくが切れ、動脈性出血を起こしてしまったのだ。

ピューピューと勢い良く吹き出す血に我を失った父親は、包丁を握り締めたまま、ふらふらと外へ出て行ってしまった。


「お母さん!お母さん!」

 僕は泣き叫びながらお母さんにしがみつき、血が噴き出す首を手で押さえようとした。

しかし、出血は止まらずお母さんは見る見るうちに血の気を失い、全身が震えだした。


ひかる・・・あなたは大丈夫?」

 お母さんはけだるそうな表情で僕を見つめ、僕の頬に手を掛けて言った。


「お母さん!僕は大丈夫だよ!」

「ごめんね・・・ひかる・・・」

 その言葉を最後にお母さんは力を失い、腕が床にボトリと落ちた。


「お母さん!お母さん!いやだ!いやだよ!死んじゃダメだ!」

 僕は血まみれの手でお母さんの頭を抱え泣き続けた。




 父親は逮捕され刑務所へ収監された。父の親戚は皆、縁を切り、僕の保護を拒否した。

その時初めて知ったのだが、母は孤児院出身の天涯孤独だったそうだ。


 そして僕は児童養護施設で暮らすこととなった。


 僕はいずれ刑務所から出てくるであろう父親に対抗できる術を持とうと考え、中学に入ってからは剣道を始め、高校へ進学してからはフェンシングに転向した。剣道もフェンシングも一心にそれだけに打ち込んだ結果、全国大会で優勝するまでに成長した。


 文武両道を貫き、国立大学に入ってからも寄り道せずに精進し、ついにはフェンシングのサーブルで日本代表となり、世界選手権大会で優勝もした。


 大学4年生になり、世界選手権での連覇が懸かった大会が開催される南米の某国に到着し、代表団で夕食を取り宿舎へ帰ろうとした時、街の暗い裏通りで若い女性が男二人組の盗賊に襲われているところへ出会でくわした。


「おい!何をしている!」

 日本語で叫んだところで盗賊に通じる訳はないが、奴らはこちらへ振り向いた。

僕は剣道とフェンシングでつちかった踏み込みのスピードで、一瞬にして女性から奪った鞄を掴むと一人を突き飛ばした。


「シュタッ!ドカッ!」


 盗賊の一人はもんどり打って倒れたが、もう一人はズボンに隠していた銃を取り出すと躊躇ちゅうちょせずに僕に向かって発砲した。


「パンッ!」

 一発の乾いた銃声が暗い裏通りに響き、僕は胸に熱い何かを感じながら後ろへ倒れていった。


「キャーッ!」

 女性の叫び声を合図に盗賊二人は暗闇の中へ走って逃げて行った。僕は何が起こったのか理解できないまま自分の胸に手を当てると、ヌルッとした温かい血の感触を感じた。


「あ・・・僕・・撃たれたんだ・・・そうか、ここは日本じゃないんだもんな」


「光!大丈夫か!」

「ひかる!」

「しっかりしろ!光!今、救急車を呼ぶから!」

「おい!光!目を開けろ!」

「必ず連覇するって約束しただろ!」


 コーチや仲間たちが駆け寄り、必死の形相で僕に向かって交互に話し掛けてくる。

僕はうんうんとうなずいて応えていたが、徐々に反応できなくなってきた。


 あぁ、僕はここで死ぬんだな・・・まだ、これからだというのに・・・僕はお母さんを守れなかったどころか自分の命も守れなかったのだ。


 まぁ、仕方がない。これはお母さんを守れなかった罰なのだろう。


 でもこれで、お母さんは僕を許してくれるのだろうか・・・


 そして、加賀見かがみ ひかるの地球での人生は21歳で幕を閉じた。




「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

 うん?この鳴き声は?


「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

 あれ?これって僕自身の声?


 もやの中に居た様な、ぼーっとした感覚から徐々に目が覚め、感覚がはっきりしてくると身体中の痛みが襲って来た。


 痛たたっ!なんだこれ?全身がしびれ、燃える様な痛みに包まれている。あ!そうだ!僕は銃で撃たれて死んだのだった。あれ?ではこの全身の痛みはなんだ?


 それにしてもこの痛みは尋常じんじょうではない。僕は両手が動くか確認しようと目の前に差し出した。あぁ、なんとか腕は動く様だ。


 あ、あれ?何、この小さな手は?


 え?あれ?もしかして・・・僕は生まれ変わったのか?それじゃぁ、さっき死んだと思ったのはもっと前のことなのかな?

い、いや、そんなことはどうでもいい。それよりもこの全身の痛みだ。


 い、痛い・・・痛いよ。誰か・・・


 あ!よく見たら、僕の周りには大人たちが大勢立っている。皆、何か話し合っている様だ。


 すると僕の隣に横たわっている女性が目に入った。その女性は肌の色が真っ白で絹の様に輝く白髪。瞳の色は鮮やかなあお色。あれ?外人さんだ。この人が僕のお母さんか?僕は外国の子に生まれ変わった様だ。外国で死んだからかな?


 そのお母さんらしい女性が僕の胸の辺りに手をかざし、何か呪文の様につぶやいていた。すると周囲に白い光の粒が集まり、女性が光に包まれた。でも、何も起こらなかった。


「今にょ光はにゃに?どうしてこんにゃにいちゃいにょ?生みゃれたばきゃりの赤ちゃんって、きょんな風にいちゃいきゃら泣いているのきゃな?」


 あれ、やっぱり舌が上手く回らないや。うん?視線に気付き見上げると、大人たちが皆、驚愕の表情で僕を見つめていた。


「あ。僕、赤ちゃんにゃにょにきょえに出してはにゃしちぇる。でゃからみんにゃ、おどりょいてるんだ!」


 しばらくしてようやく冷静さを取り戻した大人たちが話し始めた。しかしそれはスペイン語やポルトガル語、英語でもない。何語か判らない。全く聞いたことがない言葉だ。これはどうしたことか?




「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

「おめでとう御座います。陛下!元気なお世継ぎで御座います!」

「うむ。エレノーラ。大義であったな。さてこの子の名は?」

「ありがとう御座います、陛下。この子の名はエリアスとしたいと存じます」

「エリアスか・・・うん。良い名であるな」


「エリアス皇子殿下!おめでとう御座います!」

「おめでとう御座います!」

 そこに居た宰相、産婆や皇妃の侍従たちは揃って祝辞を述べた。


「ところで・・・髪の色が・・・金色では御座いませんね・・・」

「瞳も碧い・・・まさか・・・光属性を持たぬ子なのか?」

「ま、待ってください!エリアスはまだ、生まれたばかりなのですよ!」

 祝辞の次に出た言葉は皇子の髪の色についてだった。


「それにしても、泣き止まないな」

「そうですね。顔も真っ赤ですし、呼吸も苦しそうに見えないこともないですね」

「ふむ・・・どうかしたのか」

 やっと皇子の様子がおかしいことに気付いたようだ。


「私が治癒を掛けてみましょう」

「エレノーラ、出産直後なのだ。無理をするでないぞ」

「我が子のためなのです。その様なことを言っている場合では御座いません」


「聖なるウーラノスの光よ、我に聖なる力を与えたまえ」

「我が息子を苦しみから癒したまえ」

 呪文を詠唱すると、エレノーラの手に聖なる白いマナが集まり始めエリアスを包んだ。

しばらくそれは続いたのだが皇子は苦しみ続けている。


「おかしいですね。聖魔法が効かない様です」

「そ、そんな・・・」

「エリアス皇子殿下・・・」

 乳母や侍従たちが不安な声を上げた。


 すると、皇子は聞いたこともない言葉で話し始めた。何を言っているのかは判らないが言葉を話しているのは判る。そこに居た者全員が凍り付く様に身動きできなくなり、皇子を見つめた。


 しばらく皇子が話しているのを聞いてから皇帝で父親であるアンドレアが口を開いた。


「モンテス、至急、神殿に参り司祭を連れて来るのだ!」

「ははっ!仰せのままに」

 宰相のラファエル・モンテス公は足早に部屋を出て行った。


「診察の準備に掛かれ!エリアスを子供部屋へ、他の者は司祭の補助を。診察に必要なものを揃えるのだ」

「仰せのままに」

 乳母のカミラ・モロー子爵夫人は、エリアスを抱くと皇妃の部屋を出た。


「陛下、エリアスは大丈夫でしょうか?」

「うむ。司祭の神眼で見れば何か判るであろう。病気なのであれば司祭にも治癒魔法を施してもらおう」

「はい。よろしくお願いいたします」

「エレノーラ、今は身体を休めるのだ」

「はい。ありがとう存じます」

 皇帝は皇妃のベッドの横に置かれた椅子に座り、皇妃の手を取って労わる様に諭した。




「エリアス皇子殿下、湯とタオルを持って参ります。直ぐに戻りますので!」

 僕は乳母の部屋でベビーベッドに寝かされると、乳母は何かを取りに行くのか僕に何か話し掛けてから足早に部屋を出て行った。


 僕は部屋にひとり残され、引き続き痛みに耐えていたのだが、この小さな身体には限界が来ていた。


 あぁ・・・折角、生まれ変わったというのに・・・もう死んでしまうのか・・・意識ももう持たないな・・・


「ガシャーン!」

 そう思った時、部屋の窓ガラスが外から割られ、白い物体が飛び込んで来た。


 あれは何だ?


 だが、それが何者かも確認できぬまま、僕は意識を失ってしまった。


お読みいただきまして、ありがとうございました!

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