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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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17.審議

 皇帝は空を見上げ、ゆっくりと降りて来るペガサスを目で追った。


「陛下!戻って来ます!」

「うむ。エリアスは助かったのだろうか?」

「聖女だけでなく聖獣も居るのですから・・・きっと大丈夫です!」

「そうだな・・・」


 固唾かたずを飲んで空を見つめる皇帝のもとへアドリアナ妃もマルティナと共に駆けつけ、担架も用意された。


「陛下!エリアス様は?!」

「おぉ、アドリアナ。あれを見るが良い。次の世代の聖女と聖獣がエリアスを助けに来てくれたのだ」

「あれがアニエス?・・・まぁ!あれがペガサスなのですね!」

 アドリアナ妃は息を切らせたまま空を見上げると、驚いて目を見開いた。


 そして、ペガサスは羽ばたきながら着地すると、ゆっくりと走って皇帝の前で止まり、前足を折ってひざまずいた。

地上に降りたアニエスの瞳と髪は、元の黒色に戻っていた。


 アドリアナ妃はほとんど裸のエリアスを見ると担架の上の毛布を持ってペガサスに近付き、エリアスを包んだ。そして皇帝がエリアスを抱き上げ、担架に寝かせた。


「アニエス、エリアスはどうだ?」

「皇帝陛下。エリアス様は完治しております。今は体力が落ちておりますので眠っております」

「そうか。エリアスを救ってくれたのだな。礼を言うぞ」

「私の様な者に勿体ないお言葉で御座います」

 アニエスは胸に手を当てて頭を下げた。


 その時、ルーナがアドリアナ妃を見つめて鳴いた。

「ブヒヒン!」

「まぁ!あなた様は聖女でいらっしゃるのですね?初めてお目に掛かります。私はアニエスと申します」

「初めまして。私は、アドリアナ・クルス・アルカディウスです」


「アニエス、あなたの聖属性の力はとても大きいのですね。そして聖獣を従えているなんて!」

「いいえ、従えているのでは御座いません。ルーナは私とエリアス様のお友達なのです。今日はエリアス様の危機を感じ、居ても立ってもいられず、二人で飛んで来てしまいました」

「まぁ!そうなのですね?!エリアス皇子殿下を救ってくださって、本当にありがとう御座います。私の力だけでは救えなかったかも知れません」


「はい。エリアス様はこれからも私がお守りします」

「まぁ!これからも?」

「はい。そう決めたのです」

「素晴らしいわ。アニエス」


「では、皇帝陛下。私はこれで失礼いたします」

「なに?もう帰るのか?礼もしなければならないし昼食でも一緒にどうだ?」

「いえ、ルーナをここにひとりにしておくことはできませんので」

 アニエスの力強い表情と声色に押され、皇帝はそれ以上強制することを断念した。

「そうか。残念だな・・・」


 アニエスが皇帝、皇妃と話している中、騎士たちはこそこそと話していた。

「おい、あれが聖女だって?」

「え?黒髪?あんな髪の色を見たことがあるか?」

「聖女なのに黒いって・・・何故なのだ?」

「黒の聖女か・・・」


「でも、瀕死の殿下を救ったんだ。本物の聖女なのだろう?」

「やっぱり無能の皇子には、普通の聖女は似合わないってことか?」

「おい!言い過ぎだろう?!」


「それより、あの聖獣だよ。あの旗の聖獣が本当に居たなんて!」

「私、本物のペガサスを見たって家族に自慢するわ!」

「それにしても聖獣を従えている聖女なんて・・・初めて聞いたな」

「あれこそが本物の聖女なのかも知れないわ!」


 勝手なことばかり話す騎士を横目に、アニエスは表情も変えずに真っ直ぐ前を向いて歩きルーナに乗った。ルーナは直ぐに走り出すと2、3度羽ばたいて飛び立ち、上昇気流をつかまえ空高く舞い上がると、マナが輝き漂う空を旋回した。


 アニエスは地上を見下ろし、エリアスを見つけると、見えなくなるまで目で追っていた。




 翌日、帝国城の会議室には皇帝の両側に皇妃と宰相。皇妃の隣から、帝国騎士団団長、副団長、ベルティーナがならび、宰相の隣からレオンの父である、アルフォンソ王国騎士団団長のアルフレッド・バルデラスと兄の帝国騎士団ナンバーⅣのオスカル・バルデラスが並んだ。


 僕はお父様の反対側に座った。僕は昨日の午前中から今朝まで起きることなく眠り続け、身体を回復させた。この会議には出なくて良いとは言われたのだが、ここでレオンの刑を決められてしまうのは不味まずいと思い、無理をして出席したのだ。


「皆の者、挨拶は良いぞ。今日は昨日のレオン・バルデラスの暴挙について審議を行う」

「陛下。この度は、不肖の息子が斯様かような暴挙を働いたこと。全てはこの私の不徳の致すところ。どの様な罰でも受ける所存に御座います」

 レオンの父親であるアルフレッド団長は神妙な面持ちで絞り出す様に述べた。


「一応、確認しておくが、あれはエリアスを殺そうとしたのだな?」

「へ、陛下!あ、あれは決闘の流れで・・・勢いであの様な結果となったのです!」

「モンテス。お前には聞いておらん!」

 ふぅ・・・宰相め。同郷の者は殺人未遂犯でもかばいたいのか・・・重症だな。


「陛下。レオンは二度の決闘が終わり、皇子殿下が背を向けて訓練場を去ろうとした、その無抵抗の背中に向け攻撃したのです。お命を狙ったと言われるのは当然です」

「そうだな。他に何か言いたいことがある者は居るか?」


「御座いません」

「ち、父上!」

「オスカル。何かあるのか?」

「い、いえ・・・その・・・レオンは馬鹿な奴で・・・でも」

「オスカル。黙れ」


 弟の命をどうにかして繋ぎたい兄を父は静かにさえぎった。そう、皇帝に逆らえる訳はないのだから。


「僕からひとつ、よろしいでしょうか?」

「エリアス。なんだ?」

「このままですと、レオンは死罪でしょうか?」

「まぁ、それしかあるまいな」

 お父様は終始、渋い顔のままだ。


「古文書にもあった通り、生前に強い憎しみや怨みを抱えた者が怨獣に成れ果てるのです。レオンを死罪とした場合、決闘で恥をかせた僕か、または死罪を言い渡した父上か。またはその両方をさぞかし怨むことでしょう。そして、90もの強い魔力を引っ提げ、人型の怨獣となってこの城を襲うのではありませんか?」


「な、なんと!」

「お、恐ろしい!」

 宰相とアドリアナ妃は自らの口を手で覆い恐怖を口にした。


「レオンはまだ子供です。今年、貴族学校を卒業し、高い魔力を買われて火の国の騎士団のナンバー騎士となり、調子に乗っていたのでしょう」


「またそれ以前に、父上は王国騎士団の団長でA(エース)。赤の騎士と呼ばれた名のある騎士です。兄も帝国騎士団のナンバー騎士。その上、叔父が夢幻旅団の団長、黒の騎士なのです。自分が小さく見え、気が焦っても仕方がないでしょう」


「彼のあの態度は自己顕示欲じこけんじよくと呼ばれるものです。自分を大きく見せたかったのです。自分も役に立てる、力を認めて欲しい。そんな承認欲求もあったのではないでしょうか。その様な思いから勢い余っての行動を起こした。それだけのことなのです」


「エリアス。言っていることは解からんでもない。しかしな・・・」

「帝国の威信が許しませんか?」

「エリアスはその様なことも理解できているのか・・・」

「お父様のおっしゃることは解かります。ですが、始めにレオンを煽ったのは他ならぬ私です。余計なことをして復讐されたのです。その私が許さずに誰がレオンを許せるというのでしょう?」


「エリアス、お前は殺されそうになったのだぞ?その相手を許すと申すのか?!」

「私はこうして生きています。死んでいたら彼を許すことはできないのです。生きているからこそ許せるのです!」

 前世のお母さんを守れなかったことを、どれだけ許しを乞おうとも、死んでしまったお母さんに許してもらうことはできないんだ。今世のお母様だって・・・もし、死んでしまっているならば・・・


「まぁ、それは確かにそうなのだがな・・・」

「お父様、バルデラス団長。レオンのことは僕に任せていただけないでしょうか?」

「あ奴をどうしようと言うのだ?」

「僕の役に立っていただこうと思うのです」


「それは罰として、エリアス様の侍従となれ。ということで御座いましょうか?」

「バルデラス団長、簡単に言うとそうです。まずはレオンに僕の提案を受け入れてもらえないと始まりませんが、要は僕の訓練に付き合ってもらいたいのです」

「あぁ、稽古相手ということで御座いますか?」


「でも、エリアス様の方が格段にお強いのです。レオンに稽古相手が務まるのか、些か疑問に御座います」

「あぁ、剣術に関しては僕がレオンを鍛えます。僕が相手になって欲しいのは魔法攻撃の研究です」

「魔法攻撃の研究?」


「はい。怨獣もその魔力は貴族の持つ魔力から来ているのです。ですから魔法についてもっと知りたいのです。レオンは魔力も強いので色々なことが実験できると思うのですよ」

「なるほど。それで侍従とは身の回りの世話もさせるのか?」


「いえいえ、基本的には帝国騎士団に所属させます。生活としては、朝から晩まで僕の鍛錬に付き合い、その合間に魔法の研究をしたいと思っています」

「バルデラス。エリアスの提案はどうなのだ?」


「はい。思ってもみなかったことで御座います。息子の命を繋いでいただけるのであれば、喜んで皇子殿下にお預けいたします」


「オスカルはどうだ?」

「はい。ありがたいお話です。帝国騎士団に置いていただけるのであれば、私の目も届きましょう。ただ、レオンが皇子殿下の説得を素直に聞くのか・・・正直言いまして不安に思います」


「では、お父様。まずは私に任せていただけるのですね?」

「うむ。そこまで考えているのであれば任せる他はないだろう」

「レオンは昨日から投獄されているのですよね?」

「そうだ」


「では、1週間はこのまま、何も伝えずに投獄しておきましょう」

「ん?それに何か意味があるのか?」

「直ぐに出してしまえば、気が立ったまま、また暴れることも考えられます。1週間頭を冷やし、これからどうなるのだろう、やはり死罪なのだろうか。そう不安になった時に声を掛けるのです」


「なるほど・・・あの・・・皇子殿下。殿下は12歳なのでは・・・」

「あぁ、各国には公表していないのですよね?私はウーラノスではない別の世界で生き、その記憶を持ったままこの世界に転生したのです。前世では21歳まで生きていましたから、精神的にはレオンやオスカルよりも年上なのです」

「異世界のお方・・・なのですか!つまりそれは・・・」

「あぁ、神様ではありませんよ?」


 異世界の話をするとこの世界の人は皆、神様に繋げてしまう。人とちょっと違うことをしただけであがたてまつられるのは面倒だ。


「そ、そうなのですか?」

「いえ!私は、エリアス皇子殿下は神様だと信じております!既に聖女と聖獣を従えておられるのですから!」

「副団長!いい加減にしてください!」

「でも!エリアス様!」


「兎に角。あまり私を神様と担ぎ上げるのはお止めください。それより、レオンは私に任せていただけるということでよろしいですね?」

「あぁ、良いぞ。ただし、エリアス。レオンを許してしまったこと、他人は美談と受け取る者だけではないことを覚えておくのだぞ」

「はい。肝にめいじます」


 お父様の言うことはもっともだ。甘い量刑で済ませたことで帝国を良く思わない者たちを焚きつけることとなる可能性もあるだろう。僕自身も無能な上に甘ちゃんだとめられることも・・・


 だが、レオンは使える人間だ。僕だって無能なりにも皇子として人脈は作って行かなければならない。まずは信頼のできる仲間が必要だ。レオンにはその一人になってもらいたいのだ。まだ上手くいくかは判らないが。


「エリアス皇子殿下、レオンを何卒、よろしくお願い申し上げます」

「私からもお願いいたします」

「承知しました」




 そして、レオンは僕がもらい受けることとなった。1週間が経ち、何も知らされずに放置されていたレオンのろうまで会いに行った。


 お父様と騎士団長、副団長とベルティーナにレオンの父と兄もついて来て、レオンから見えないところで僕らの会話を聞いてもらうのだ。


「ギ、ギィーーッ!」

「カツン、カツン、カツン、カツン」

「うん?誰だ?」


 牢獄が連なる暗い地下室の廊下に入り、一番奥にあるレオンの牢の前まで進んだ。

ベッドに座り項垂うなだれていたレオンは僕の顔を見るなり、目を見開き驚いた顔をした。彼の首には魔力を封じる金属製の首輪が鈍く光っていた。


「レオン・バルデラス。こんにちは」

「お前・・・あ、あなたは・・・」

「えぇ、あなたが殺そうとした男です」

「い、生きて・・・いたのですね・・・」

 レオンの顔はゾンビでも見ているかの様に強張こわばり引きつっている。


「えぇ、意外ですか?」

「死罪を・・・つ、伝えに来たのですか?そ、それともここで、こ、このまま・・・殺されるのですか?」

「あなたの人生がこれで終わるのか、それとも続くのか。それはあなた次第ですよ」

「私次第?選べると言うのですか?」


「えぇ、私は今からレオンにひとつの提案をします」

「提案?・・・罰ではなく?」

「あぁ、罰の様なものですかね」

「そうですか・・・」

 レオンは口を堅く結び、覚悟を決めたかの様な表情となった。


「私の侍従になって頂くのです」

「侍従?」


 侍従と言われて余程意外だったのか、レオンはキョトンとしてしまった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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