表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
16/97

15.指導

 それから1か月後、5つの大陸の王国騎士団が招集された。


 各国の騎士団からはナンバー騎士の内、奇数のナンバー騎士だけが呼ばれている。偶数のナンバー騎士は母国の王と王都の警備のため、国に残っているのだ。


 お父様が転移魔法を使って招集した各国5人、合計25人の騎士が帝国騎士団の訓練場に整列していた。王国騎士団の騎士服は、その属性カラーの色がベースで白い縁取りとなっている。つまり帝国騎士団の色と反転した色使いだ。


 まずは、お父様から騎士たちへ挨拶をする様だ。

「皆の者、ご苦労である。今日、集まってもらったのは他でもない。先日、我が息子、エリアスと帝国騎士によってアイオロスの南端を調査した際、怨獣との戦闘の中でエリアスが新しい魔法攻撃を教え、一発の複合攻撃で怨獣を粉々にしたのだ。その技を伝えるためである」


「何だって?皇子殿下は無能なんじゃなかったのか?」

「なんで魔法が使えないのに新しい魔法を教えられるんだ?」

「そんなこと信じられないな」


 騎士たちは、僕にも聞こえるくらいの音量で明け透けと疑問を口にした。

まぁ、そうだろうよ。僕は無能ですからね。


「おい。お前たち!よく聞けよ!」

 無駄口を叩く騎士たちに腹を据えかねた帝国騎士団団長ニコラス・バーナード公が一喝した。顔は相当に怒っている。


「エリアス皇子殿下は8歳の時、私たち騎士団の獣狩りに同行し、たった一人で12頭の狼を120秒で全て仕留めたのだ。そして先日、体長3mに及ぶ大型で、再生能力もある熊型の怨獣をやはり一人で倒された」


「それだけではない。エリアス皇子殿下は生まれ出て直ぐにお言葉を発し、2週間後には帝国の国宝である古文書を解読され、怨獣の謎についても解き明かされたのだ」


「そして今もなお、怨獣をこの世界から根絶するためにあらゆる手を尽くされていらっしゃる、そのお方をだ。魔力が無いというだけでののしることは、この私が許さん!良いか!」


 一気に言い終えると、まるで歌舞伎役者の様な迫力のある睨みを効かせ、その場の騎士たちを威圧し、黙らせた。


 ばつが悪くなった騎士たちは下を向き、だがある者はまだ僕を睨む様に見つめていた。


「では、エリアス皇子殿下より、魔法の複合技について説明をいただく」


 僕は事前の打ち合わせで、ドミニクとマルティナに小型の熊の怨獣を倒した時の複合技を皆の前で見せる様に頼んでおいた。二人に目で合図を送ると二人が僕の横に並んだ。


「皆さん、騎士団長に紹介いただいたエリアスです。これから魔法の複合技について説明します」


 僕はお父様に説明した様に水を熱すると水蒸気になる話をして、直径50cmはある切り株を熊に見立てて攻撃を見せた。


「良いですか。ドミニクは火の魔力が60、マルティナは水の魔力が55です。一人で怨獣を倒すだけの攻撃力は生み出せませんでした。では、ドミニク、マルティナ。やってみて」

「御意!」


「オーケアノスの大地よ。我に水の恩恵を与えよ!」

「プロメテウスの炎よ。我にその力を預けよ!」


「火の玉よ!青い炎となって焼き尽くせ!」

「水の玉よ!火の玉の元へ!」

 二人が声を合わせて攻撃を放った。


「ゴォッ!」

「シュバーッ!」


 魔法陣から青い炎となった火の玉が切り株目掛けて飛び、その後から水の玉が重なっていく。

丁度、切り株の直前でふたつの玉が重なった時、

「シュバッ!ゴゥオッ!」

「ズパーンッ!」

「パラパラパラ」


「おぉーっ!」

 切り株は木っ端微塵に吹き飛び、木屑がパラパラと舞い落ちて来た。


「この様にして怨獣を一瞬にして爆死させたのです」


「水の代わりに金属の玉や石の玉を高温の炎と合わせれば、もっと大きな破壊力がありますので、大型の怨獣にも有効だと思われます」


「次に、土の魔力を持つ帝国のナンバー騎士、フランク・リヒター、それに同じく風のナンバー騎士、ナタリー・ローレン。お願いします」


「今度はあちらの15m程の太い木を怨獣に見立てます。では、お願いします」

「御意!」


「アイオロスの力を我に!風のマナよ、集まりて我のものとなれ!」

「ガイアの大地よ!我にその力を貸したまえ!」


「風よ!竜巻を起こせ!」

「ビュオーッ!」

「石のつぶてよ!敵を破壊しろ!」

「ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!」


 竜巻が樹木を覆い風が巻き上がる。そこへ石の弾が入り込み、速度を上げて木にめり込み破壊していく。


「メキッ!バキバキバキッ!」

「バラバラバラーッ!」


「如何でしたか?石の弾を直接当てるよりも、風の回転と併せることで更に威力が増すのです。この石を金属の剣にすることも可能ですね」


「す、素晴らしい!」

「これなら俺でも怨獣を倒せるぞ!」

「エリアス皇子殿下、万歳!」


 皆、調子が良いな・・・掌返てのひらがえしとはこのことか。まぁ、良いけどさ。


「ふんっ!こんなものは魔力の弱い奴を助けるだけだろ・・・」

「お、おい!レオン!何を!」

「あぁ、兄貴か・・・帝国へ行ってすっかり腑抜けたんだな・・・」

「何だと?」


「おい!止めんか!オスカル、レオン!」

「父上!?」

「ここは帝国だぞ、馬鹿者が!兄弟喧嘩は家でやれ!」


 どうやら、火の国の一家の様だ。父親は火の国の王国騎士団団長でA(エース)のアルフレッド・バルデラスだ。兄は帝国騎士団のナンバーⅣ、オスカル・バルデラス、弟は火の国の王国騎士団のナンバーⅨ、レオン・バルデラスだ。


 あれ?バルデラス?夢幻旅団の団長もバルデラスだったな。

あぁ、そうか、アルフレッドの弟だったっけ。この家族は皆、魔力が強いのだな。所謂いわゆる、武家という奴か。それでなくとも火の国の人間は血の気が多いというのに・・・


「いや、父上。俺ならば、この様な複合魔法など使わなくとも自分の魔力だけで十分に怨獣を倒せます。それに皇子殿下の様に魔法を使わなくともこの剣だけでも倒せますから!」

「ほう、レオン。お前はその剣一本のみで大型の怨獣を倒したことがあったかな?」

「いや、猪ならば倒したことはあります!」

「あぁ、小さい奴一頭をな」

「なっ!くっ!」

 あーあーあんなに追い詰めなくてもいいのに。増々ムキになってしまうじゃないか。


「兎に角!俺は無能の皇子殿下より数倍強いのです。そんな小手先の魔法ごっこなど不要です」

「ふーん。君は僕よりも強いんだ。その腰に下げた勇ましい剣で、僕など瞬殺できる。そう言うんだね?」

「皇子殿下!私の息子が申し訳御座いません!」


 あまりにもねちねちとしつこいし、僕のことを終始睨みつけてくるから、こっちも我慢ならなくなってしまった。レオンのお父様はかなり慌てている様だ。


「はははっ!若い者は元気があって良いな。ではレオンとやら、エリアスと剣を交えてみたらどうだ?」

 あー、お父様が乗ってしまったよ。


「ウォーッ!皇子殿下!痛い目を見せてやってください!」

「なにーっ!レオン、火の国の男の力を思い知らせてやれ!」

「おぉーっ!」


 全く、騎士という奴は・・・血の気が多いというか、馬鹿が多いというか・・・って、そもそも僕が焚きつけてしまったのか。


「本当にやるのですか?ケガをしても知りませんよ?」

「な、なんだと!俺は魔力90もあるんだぞ!」

「魔力?剣一本で戦うのでは?」

「い、いや、そうだが!」


 あーはいはい。俺様は強いんですね!仕方がないな・・・


「では、バーナード騎士団長、審判をお願いできますか?」

「仰せのままに」


「では、これより、エリアス皇子殿下とアルフォンソ王国騎士団ナンバーⅨ、レオン・バルデラスの決闘を行う。決着はこの私が判断する」


「構え!」


 決闘は随分と雑に始まってしまった。訓練場の真ん中で騎士たちが僕たちを丸く囲んで好き放題に野次を飛ばしている。いつの間に無礼講になったのだろう?僕は一応、無能ながらも皇子なのだが?


 帝国騎士団のメンバーは基本的に僕側に付いている様だが、火の国出身者と帝国以外の騎士たちはほとんどが、レオンの味方の様だ。


 やはり帝国に対しては、やっかみとか怨みの様なものもあるのだろうな・・・


 さて、どうしたものか。この間合いは剣道よりも少し遠いな。フェンシングの距離だ。でも、相手の剣は西洋剣の長剣だ、フェンシングの突きでは弱い。


 本気で刺し殺す訳にもいかないし、ここは思い切り踏み込んであの剣を薙ぎ払うしかないな。

「始め!」


「イィヤァーッ!」

「シュバッ!」

「キィーンッ!」


 僕は1歩の踏み出しでレオンの懐に入り、右下から左上に刀を一閃し、レオンの剣を薙ぎ払った・・・つもりだったが、レオンの剣をあっさりと真っ二つに斬ってしまった。折れた剣は見えないところまで飛んで行った。


「シーーーン」

 僕の踏み込みがあまりにも速かったために、何が起こったのか見えなかった様だ。

レオンもきょとんとして真ん中から先が無くなった剣をしげしげと見つめていた。

「これが剣術というものです」


「うわぁーっ!エリアス様っ!」

「凄い!動きが見えなかった!」

「なんて速いんだ!」


「い、今のは・・・なんだ?」

「レオンよ。皇子殿下の剣筋どころか踏み込みすら見えなかったのか?」

 騎士団長にそう言われ、我に返ったレオンは見る見るうちに顔を真っ赤にした。


「お、俺は魔力90だ!剣術なんてお遊びなんだ!本気でやっていた訳ではないんだからな!」

「ふーん。では魔法でなら僕に勝てるのかな?」

 あ。いけない。ついまた余計なことを言って煽ってしまった。


「なに?俺と魔法勝負をしようと言うのか?」

「ふー。まぁ、構いませんよ。そうは言っても僕はこの剣で戦うしかありませんけれど」

「エリアス様、本当にやる気なのですか?魔力90は帝国ならば副団長に匹敵するのですよ?」

「別に構いませんよ」


「ウォーッ!」

「本当にやるのか?魔法対剣術なんて。そんな決闘、見たことあるか?」

「そんなのやる前から判っているだろ?魔法が負ける訳はない。レオンは90だぞ?」

「皇子殿下は大丈夫なのか?」

「すんでのところで騎士団長が止めるのだろうよ」

「あーそういうことか!」


 皆、何で僕が負けると思っているのだろうか?変なの。


「それでは、2戦目を行う・・・構え!」


「始め!」


「プロメテウスの炎よ。我にその力を・・・」

「イャァーッ!」

「シュバッ!」

「ドスッ!」

「う、うぐっ!」


 僕はレオンが魔法の詠唱を始めた瞬間に踏み込み、刀の刃をレオンの首に当てると共につかの部分を胸にドスッと当てた。


「君はもう死んでいるよ・・・」


「それまで!勝者、エリアス皇子殿下!」


「ごほっごほっ!」

 レオンは胸を押さえてせき込み、その場で膝を付いた。


「この話もしようと思っていました。皆さんは怨獣と戦う際、呪文の詠唱から入ります。詠唱が終わるまで怨獣は攻撃せずに待っていてくれるのでしょうか?」


 僕は騎士たちを鋭い目で睨みつけながら言った。

「私は怨獣ではありませんが・・・待ちませんよ?」


「敵と相対したら、殺すか殺されるかです。大切なのは敵との間合いです。距離があって相手が飛び道具を使わないならば呪文詠唱をする時間もあるでしょう。でも近接戦闘だった場合、詠唱していたら間に合いません」


「それはそうですね」

「確かに詠唱している間に殺された仲間を何人も見たよ」

「どうしたら良いんだ?」


「間を取るのですよ。近いならば走る、飛ぶ。そうやって必要な距離を取るのです。その余裕も無い場合は、誰かがおとりになって引きつけて逃げるのです。その間に他の騎士が詠唱を完了して攻撃するのです」


「私は何度か獣狩りや怨獣との戦闘を見ましたが、皆さんがその様な連携をしているのを見ていません。さっきの複合魔法もそうですが、仲間の騎士と連携して敵を倒すべきだと思いますよ。そうすれば死者は減るのではないでしょうか?」


「お見事です!皇子殿下!」

「一人の魔力の大きさに頼るのではなく、咄嗟の動きができる様に己の体力を養うことが大切です」

「おっしゃる通りで御座います。我々は魔力の大きさに頼り切り、身体を鍛えることを怠っておりました」


「各王国の騎士団長は、改めて日々の鍛錬方法を組み直すことが必要ですな」

「あぁ、全くその通りだ。今日はエリアス皇子殿下に目を覚まさせていただいたな」


「それでは、今日の実技が今後の役に立つことを願っております」

「エリアス皇子殿下。本日はありがとうございました!」


 一通りの指導と挨拶を終え、僕は城へと向かって歩き出した。その時だった。


「クソッ!俺をコケにしやがって!お前だけは許さない!」

「隕石の炎よ!敵を焼き尽くせ!」

「ゴゥオッ!」

「殿下!」


 僕は後ろの騒ぎに何だろうと振り返ると、既に目の前に大きな炎の玉が迫っていた。


「ドスンッ!ゴォーッ!」


 僕は背中から突き飛ばされると同時に、全身が真っ赤な炎に包まれたのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ