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無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
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13.聖女

 風の王国の調査から戻り、騎士団長と共にお父様へ報告した。


 会議室にはお父様と僕と騎士団長の三人だけが集まった。

「なに?エリアスが大型の怨獣を一人で倒した?どうやって?」

「このかたなで足と首を斬ったのです」

「はい。陛下、私が魔法で足を斬っても再生したのです。ですがエリアス様が斬ると再生せずに絶命したので御座います」


 お父様は言葉を失い、目を丸くして驚いていた。


「エリアスには確かに魔力は無いのだよな?」

「はい。僕には魔力は無いと思います」

「ですが、怨獣を斬る瞬間、黄金の剣が白く光ったのを見ました」

「剣が光った?」


「エリアス、その剣を抜いて見せてくれ」

「はい。こちらに」

「カチンッ!シュッ」

 僕はかたなさやから抜くと、お父様の目の前に水平に掲げて見せた。


「ふむ。いつ見ても細く頼りない剣だが、黄金に光り輝く様は美しいものだ。これが白く光ったと言うのか?」

「はい。ナタリーも同じ様に証言しております」

「お父様、お母様はこの刀を錬成し、最後に聖属性魔法の加護を付与されていました。そのせいかも知れません」


「ほう。エレノーラは剣に聖属性魔法を掛けていたのか・・・聖属性の力が怨獣の闇の力を封じた。そういうことなのか・・・そんな効果があるとは・・・」

「本当に、素晴らしい剣で御座いますね」

「そうだな。エレノーラはどうあってもエリアスを守りたかったのだろう」

「お母様が・・・」


 僕の胸の中に暖かいものが広がるのを感じた。そうか。この刀は僕を怨獣から守ってくれるのか。


 でも、そうであるならば、あの人型の怨獣が現れた時、この刀を持っていなかったことが悔やまれるな・・・だがもう終わったことだ。今更後悔しても仕方がない・・・


「他にもエリアス様が新しい魔法攻撃を編み出されました」

「新しい魔法攻撃だと?魔法を使えないエリアスがか?」

「はい。魔力の低い、ドミニクとマルティナが小型の熊の怨獣に苦戦していた際、ドミニクに高温の火の玉を射出させ、それにマルティナの水の玉を合わせたのです。すると大爆発が起こり、怨獣はバラバラに吹き飛んだので御座います」


「エリアス、何故、その様なことを知っていたのだ?」

「お父様、これは化学です。水は高温になると気化し、水蒸気となるのです。その特性を利用しました。高温の塊に水の塊を合わせると、一瞬にして気化し、爆発が起こるのです」

「な、なんと・・・」


「金属の玉を高温に熱し、水の中に入れるともっと強力な破壊力を生み出しますよ」

「あぁ、あの場には金属性の騎士は居ませんでしたね」

「今回、判ったこととして、怨獣はやはり獣を基にしていますから、物理攻撃は効果的なのだということです。爆発の様な大きな力であれば、再生能力のある怨獣にも効果は有るかも知れません」


「エリアス、それを騎士たちに教えてやることはできるか?」

「勿論です。できれば各王国騎士団の方たちにも広めたいですね」

「わかった。早々に召集を掛け、指導しよう」


「陛下、それと、今回の視察の最後にエリアス様がペガサスを発見されました」

「な、なに?ペガサスだと?聖獣は実在したのか!」

「はい。私もこの目で見るまでは、内心おとぎ話ではと思っておりましたが」


「それで、ペガサスをどうしたのだ?」

「それが、黒髪の少女がそのペガサスと話ができる様でした」

「黒髪?聖獣と話ができる?なんだ、それは!」


「申し訳御座いません。私どももその場では大変に混乱し、対処できなかったというのが正直なところなので御座います」

「エリアスはどうしたのだ?」

「はい。僕が初めにペガサスに近付いたのですが、向こうからも近付いてくれて触らせてくれました。そこにアニエスという名の黒髪で黒い瞳をした少女が現れたのです」


「アニエスは、ペガサスにルーナという名を付け、親しくしていました。彼女がルーナの声を聞き、僕を乗せて飛びたいと言っているとのことで、アニエスと一緒にルーナに乗って空を飛びました」

「聖獣に乗ったのか!それは見てみたかったな・・・アニエスといったか、その少女は何者なのだ?」


「風の国南端の塀の近くで祖父母と暮らしていると言っていました。それ以外は、聖獣と話ができ、僕の前世の姿も覗き見ることができた様です」

「なに?人の前世を覗き見る?神眼を持っているのか?」

「あぁ、僕のことを変わっていると。僕は空っぽだとも言っていました」


「空っぽ?魔力のことか?それに変わっている・・・と。・・・それは、エリアスが生まれた時、司祭にエリアスを神眼で見てもらった時に言われたことと同じだな」

「では、その少女は神眼をもっているのですか?」

「いや、神眼で人の前世が見えるという話は聞いたことがないな」


「僕の目を見つめていた時のアニエスの瞳は青や赤に光っている様に見えました」

「何だと!青は神眼だが、赤く光る?それは魔眼なのではないか?」

「え?では、アニエスは神眼と魔眼の両方を持っているのですか?」

「そうかも知れぬ。だが・・・神眼を持つ者の髪は聖属性の力で司祭の様な白髪になるものだが」


「あ。陛下、魔眼は闇の力。闇の力によって髪が黒く染まっているのでは御座いませんか?」

「なるほど、聖属性と闇属性の両方を持つために白は黒に染まってしまうのか・・・」

「何れにしてもその娘、放っておく訳にはいかぬな」

「はい。私としても身元の調査は必要かと思っておりました」


「お父様、彼女をどうされるおつもりなのですか?」

「いや、どうするつもりもない。聖獣と話せるのだからな。悪いものではないのだろう。だが、闇属性も持っているとするならば何か起こってからでは遅いということだ」

「エリアス様、アニエスは保護するのが良いかと思われるのですが」


「いや、彼女はいつでもルーナに会える環境に居たいのではないでしょうか。ここへ連れて来られても、閉じ込めておくのでは彼女にとって不幸なことになるだけと思います」

「まぁ、そうだな。風の国の南端に居るならば、周囲にはほとんど人も住まない地であろうからな。まずは身元の調査だけはしておくのだ」

「承知いたしました」


「騎士団長、くれぐれもアニエスには優しく接してください」

「エリアス様、お約束いたします」




 騎士団長は早速、アルテミスに魔力測定装置を積み込むと、ベルティーナをお供にアニエスの下へと向かった。


「団長、今日はアニエスのところへ行くのですね?彼女の何を調べるのですか?」

「そうだな。まずは彼女の出自だ。何故あんな辺境に祖父母と暮らしているのか。年齢はエリアス様と同じとのことだったので、教育をどの程度受けているかということ、それに魔力測定だな」


「聖獣と話ができるのですからね。魔力は何かしらあるのでしょうか?でもこの前会った時には魔力など感じませんでしたが」

「そうだな。私にも彼女に魔力がある様には感じなかった」


「それにしてもあの黒髪には驚きました。あんな色の髪があったなんて・・・」

「そうだな。でも、エリアス様は何も驚いていらっしゃらなかった様だな」

「えぇ、あの娘が皇子殿下を抱きしめた時、赤い顔をしておられましたね。殿下はあの娘を気に入った様に見えました」

「いや、誰だって突然、あの様に若い娘に抱き着かれたら顔を赤くするものだろう?」

「いえ、これは女の勘というものです」


「ほう、ではエリアス様はあの娘が好きだと?」

「はい。少なくとも嫌いではないでしょう。敬語も話せないあの娘にあんなに優しく接していたのですから」

「あぁ、確かに。先日もあの娘には優しく接してくれと念を押されたな」

「やっぱり・・・」


 ベルティーナは優しく微笑みながら言った。


 南端の塀まで来ると、まずは先日のペガサスが居た林の周辺を周回し、ペガサスやアニエスが居ないかを確認した。

見渡す限りには見えないことを確認すると塀の中に戻って民家を探した。


 すると壁から数百メートル離れた小高い丘にその家はあった。

平屋の小さな木造の一軒家で周りには畑があり、鶏やアヒルが闊歩していた。


 百メートル程離れた野原に音も無く静かにアルテミスを着陸させると、二人は台車に魔力測定装置を載せて、家に向かって歩き出した。


「この周りには誰も住んでいない様ですね。自給自足の生活をしているのでしょうか?」

「そうだな。見たところ乗り物も無い様だし、近くに街も無いからな」

「私には想像ができません。こんなところでひと家族だけで生活し続けることができるものなのでしょうか?」

「うむ。それは彼らに聞いてみなければ判らんな」


 家に近付くと、玄関のドアが外向きに開き、老夫婦とアニエスが出迎えた。

「これはこれは、珍しいお客だね」

「うむ。突然失礼をする。私は帝国騎士団団長、ニコラス・バーナード公爵である」

「私は、帝国騎士団ナンバー騎士、ベルティーナ・ロッシです」


「帝国の?そんなお偉い騎士様が、こんな辺境に住む田舎者にどんな用だい?」

「先日、この辺境の調査に赴いた際、我が帝国の皇子殿下である、エリアス様が聖獣のペガサスを上空から発見され、この地に降りたのだ」


「その際にアニエスと出会い、聖獣とも触れ合ったのだが、幾つか気になることがあったのでな、今日はアニエスについて聞きたいのだ」

「アニエスの?」


「アニエスは高貴なお方から預かったんだ。ここで15歳になるまで育ててくれと頼まれてな」

「ほう。その高貴なお方とは誰なのか?」

「それは教えてはくれなんだ。だから高貴なお方としか言い様がないんだよ」

「なるほど。そういうことか。では15歳になったらどこへ行くのだ?」


「帝国の学校へ入ると聞いているよ」

「帝国の学校?つまり貴族の娘なのであるな?」

「それも聞いてはいないな」


「アニエス、其方そなたの両親のことは何か知っているか?」

「両親?お父さんとお母さん?私は知らないわ」

「ふむ、そうか。ではアニエスとお主たちは血の繋がりもないばかりか、どこの誰とも知らぬのだな?」

「うん、知らないんだよ」


「ふぅ・・・そうか。ではアニエスの魔力測定だけさせてはもらえぬか?」

「魔力測定?ってなに?」

「これはね、アニエスに魔法の力がどれくらいあるのかを測る機械なのよ」

「ふぅん。私は構わないけど?」


「良いか?」

「帝国の騎士様に逆らうことなどできるはずもないだろう?」

「まぁ、そうか。では測定させていただくよ」

「アニエス、ここに座って頂戴」

「うん」


 アニエスは特に表情を変えることもなく、素直にベルティーナの指示に従った。

両腕に測定器を取り付け、測定を開始した。


 すると、聖属性のランプが白く強く光り、魔力量は100を示した。

他の属性は光属性以外が弱く光り10を示した。


「これは・・・聖女ではないか!それも魔力量が100ということはエレノーラ様と同じ、第一聖女になり得るということだ!」

「聖女?私が?」

「おやまぁ!アニエスは聖女様だったのかい?!」

 アニエスはきょとんとし、目を丸くしていた。老夫婦はその結果に大層驚いていた。


「アニエスは15歳になるまで、ここで暮らしたいのかな?」

「えぇ、私はここでルーナと過ごしたいわ。本当は15歳になってもここから離れたくはないの」

「それはどうして?ルーナと一緒に居たいから?」

 ベルティーナはアニエスに寄り添うように優しく尋ねた。


「そうね。この前まではずっとここに居たいと思っていたわ。でもエリアスに会ったから・・・」

「あぁ、エリアス様の居る帝国へ行きたいのね?」

「えぇ、エリアスのそばに居てあげたいの」

「まぁ!アニエスはエリアス様が好きなのね?」


「好き?よく判らないわ・・・でもエリアスは私が守るの」

「エリアス様をお守りする?・・・結婚したいの?」

「結婚?」

「ずっと一緒に暮らして、エリアス様の赤ちゃんを産むのよ」


「赤ちゃん?私が?お母さんになるの?」

「そうよ。どうかしら?」

「うーん。それは良く判らないわ・・・」

「そうね。これからゆっくり考えたら良いのよ」

「考えておくわ」


 二人の会話を聞いていた団長は眉をひそめた。

「お主たちはアニエスが何歳の時から育てておるのだ?」

「アニエスの3歳の誕生日からだったかな」


「それから教育はしてきたのか?」

「私らが教育というものを受けたことがないもんで・・・」

「それで15歳からいきなり帝国の学校へ入れようと言うのか?」

「私らにはわかりません」

「あぁ、そうだったな」


 騎士団長とベルティーナは互いに顔を見合わせ、呆れ顔となった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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