表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能皇子と黒の聖女  作者: 空北 直也
12/97

11.調査

 今日は帝国騎士団と一緒に風の大陸の調査に行くこととなった。


 風の国がある大陸は、そのほとんどが北半球に位置している。マナが少なくなる赤道以南を調査するのだ。そこはほぼジャングルとなっていて人は住んでいないということだ。


 調査に参加するのはナンバー騎士は騎士団長、ナンバーⅢとⅤの3人と団長により選ばれた7人の騎士の合計10名。それに僕だ。


 アルテミスに9台のスワローを積み込み、アイオロス大陸の南を目指す。

帝都を抜けると城壁の向こうは風の国、フォンテーヌ王国だ。王国の土地は長い城壁で囲われ、外から獣が入り込めない様になっている。


「騎士団長、あの城壁は獣や怨獣が入って来られない様にするためのものですか?」

「はい。その目的で大昔に築かれたものです。ただ、怨獣は黒い渦から出て来ることが多いので、今ではあまり意味のないものとなってしまいましたが」

「そうですか・・・」


 王城を越えて王都上空に入る。帝国も王国も貴族の住む帝都と王都は似た様な造りで、高位貴族の館は城の様に大きく広い。男爵の家でも地球の家と比べたらかなり大きく豪華だ。


 王都と一般民衆の街の間に会社や工場らしき近代的で大きな建物が並んでいた。

この世界は地球の文明よりも明らかに進んでいる。


 そこを抜け一般民衆の住む街に入ると、アメリカとかイギリスの郊外に在る様な一軒家が建ち並んだ風景となった。つまり、マンションとか団地も無ければスラム街も無い。そしてその向こうには広大な農耕地が広がっていた。


 この辺まで来ると大きな池や溜池、水路も見えるし、林や森も点在している。

小高い山や谷も多く、そんな場所には決まって大きな風車があった。流石、風の王国だ。


 農耕地に入ると少し高度を上げ、速度も格段に上がった。景色の流れ方を見ていると地球のジェット機よりも速い様だ。


 帝都から2時間飛んだ頃、騎士団長が声を掛けて来た。

「エリアス皇子殿下。そろそろフォンテーヌ王国を出るところです」

「あぁ、あそこの塀が国の最南端なのですね」

「そうです。その向こうには深い森が点在し、その先はジャングルとなっております」

「では、そろそろ着陸するのですね?」


「えぇ、森の合間に降り、そこからはスワローで飛べる範囲を探索する予定です」

「わかりました」


 アルテミスに操縦士2名を残し、騎士団長以下8人の騎士と僕でスワローに乗って調査に出発した。


「エリアス皇子殿下、基本の訓練はしたとは言え、ここは外界です。それに今日はルナが満月となる日です。十分にご注意をお願い致します」

「騎士団長、エリアスだけで良いですよ。長くて呼び難いでしょう?」

「では、エリアス様と呼ばせていただきます」


「怨獣に出くわすために満月の日にしたのです。行きましょう!」

 僕はスワローの羽の付け根にあるシートに跨りハッチから飛び出した。スワローは首から左右2本のハンドルが生えている。それを握り、左のスロットルを手前に引けば上昇し、奥に回せば高度を下げる。右のスロットルは地球のモーターサイクルと同じで手前にひねれば速度が上がるのだ。


 スワローは音も無く浮いてゆっくりと飛んだ。そして騎士団長の後ろについて飛んで行った。景色を眺めていると、やはり塀の中とは違う様だ。植物が大きく成長しており、森は深く、昼間だというのに中は薄暗い。


「騎士団長、どの様に調査していくのですか?」

「まずはこの深い森を外から見てみましょう。危険が無さそうであれば少し中にも入ってみましょうか」

「わかりました」


 森の外周を飛びながら中の様子をうかがうのだが、やはり暗くて良く見えない。

「このまま見ているだけでは調査になりませんね・・・少し中に入ってみましょう」

「そうですね」

「ベルティーナ、ここで待機し、辺りを警戒してくれ。ナタリー、ドミニク、マルティナ。私と一緒に森へ入るぞ。エリアス様を4人で囲むんだ」

「御意!」


 3人の騎士が声を合わせた。ナタリーはナンバー騎士で、帝国城に人型の怨獣が現れた時に戦い、怨獣の毒で右足を失ったが、義足で騎士に復帰した。

まぁ、僕の様に身体一つで戦う訳ではないから大丈夫なのかな。そして、ドミニクとマルティナはまだ若く、魔力も大きくないためナンバー騎士ではない。


「良いか、周囲の特に動くものに十分に注意するのだぞ」

「はい!」

 僕の前を騎士団長が行きドミニクとマルティナが僕の両脇を固め、殿しんがりをナンバーⅤのナタリーが務める。


 高度は地上4m位をゆっくりと進む。たまにいのしし鹿しかと出くわし、ビクッと反応してしまうが、今日は狩猟に来た訳ではないので普通の獣には手を出さず、直ぐに警戒に戻る。


 鬱蒼うっそうとした森の先、少し開けた場所へ出た。そこには暗い池があった。

池があっても、その周囲の高い木々が密集して生えているため、昼間だというのに薄暗く、不気味な雰囲気だった。


「池のほとりに降りてみますか?」

 ナタリーがそう言って先行し、高度を少し下げた時だった。僕の身体に悪寒が走り、鳥肌が立った。


「待って!」

「え?」

 ナタリーが動きを止めた瞬間。池の向こうの草木の間から獣型の怨獣が現れた。


「怨獣だ!」

「高度を上げろ!」

 高度を上げようとしたところ、直ぐ近くの木の幹にも怨獣が居た。


「グルグルッ!シャーッ!」

 口を大きく開いたそいつはとらの怨獣だった。

「お、怨獣だ!」

「木から離れろ!」


「グォーッ!」

 虎型の怨獣は、体長が4mはあるだろうか?色は勿論黒いのだが、グレーの縞模様も見て取れる。背骨が浮き上がりゴツゴツとしていて、四肢ししからは黒い毛なのか鞭の様な長い紐状のものがたなびいている。


 口からは長い牙が飛び出し、その間から酸と思われるよだれが垂れ流され、落ちた先で煙が上がっている。あんなのに噛みつかれたら一瞬で腕が溶け落ちてしまうな。


 地上にはアナグマだろうか、少し小型のくま型の怨獣が2体うろうろしながら、こちらを見上げている。この熊も口から長い牙が突き出し、四肢の爪がナイフの様に長く光っている。後ろ足はとんでもなく太く、背骨はイボの様に外へ向けて浮き出ていた。


「エリアス様、私の後ろへ!私は虎を、ナタリーは熊を、もう一頭はドミニクとマルティナでやれ。散開して攻撃に入れ!虎の酸の攻撃には気をつけろ!」

「御意!」


 騎士団長とナタリーが呪文の詠唱を始め、同時に両腕を回転させた。

「アイオロスの力を我に!風のマナよ、集まりて我のものとなれ!」


 風の属性を持つふたりの周りに緑に光るマナが急速に集まり、辺りを緑色に染めていく。

同時に他の2人の騎士も呪文を詠唱し始めた。


「オーケアノスの大地よ。我に水の恩恵を与えよ!」

「プロメテウスの炎よ。我にその力を預けよ!」

 マルティナが水のマナを集めて青色に染まり、ドミニクは火のマナで赤く染まった。


 まずは騎士団長が虎の怨獣に。その後に続いて3人が熊へ攻撃を開始した。


「風の刃!無限弾!」

「ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!」

 円形ののこぎりの刃の様な形をした風の塊が魔法陣から飛び出し、虎の怨獣の身体を次々と切り裂いていく。

「ドスッ!グサッ!グサッ!グサッ!ビシッ!ズサッ!」

「グォーッ!」


 虎の怨獣は叫びながらもんどりうって木から地面へと落ちた。

「ドサッ!」


 息も絶え絶えとなった怨獣に騎士団長は更に攻撃を加える。

「風のつるぎよ、とどめを刺せ!」


 特大の透明な剣が騎士団長の右手の魔法陣から射出され、怨獣の頭に突き刺さった。

「グエッ!」

 虎の怨獣はそのまま動かなくなった。


 一方、ナタリーも風の魔法の使い手として、騎士団長を見倣みならい攻撃を開始した。

「風よ!竜巻を起こせ!」

「ビュオーッ!」


 空中の魔法陣から発生した小さな竜巻は、熊の怨獣目掛けて降りていき、身体をすっぽりと巻き込むとその肉を引き裂き始めた。

「ギィァーッ!」

「ドスンッ!」


 急に竜巻を止め、空中から自由落下した怨獣に更に攻撃を加える。

「風のやいばよ!怨獣を斬り裂け!」

「シュバッ!」

「ボトッ!」


 目に見えぬ風の刃が怨獣の首を斬り落とした。


 ドミニクとマルティナは、熊の怨獣に対し交互に魔法攻撃を打ち込んでいる。

「火の玉よ!怨獣を焼き尽くせ!」

「ゴォッ!」

「ブオッ!」


「キェーッ!」


「水の刃よ!怨獣を切り刻め!」

「シュバババーッ!」

「ビシビシビシーッ!」


「キェーッ!」


 ドミニクとマルティナの魔力はそれ程大きくないのかも知れない。火の玉の大きさも驚く程ではないし、水の刃も相手に傷を付ける程度に留まっている。


「うん?あ!そうだ!ドミニク!火の玉を出来る限り高温にして怨獣にぶつけてみて!」

「え?殿下?あ、は、はい!やってみます!」


「マルティナは、ドミニクの火の玉が怨獣に当たる時に水の玉を重ねて当てるんだ!」

「は、はい!やります!」


「マルティナ!行くぞ!」

「はい!」

「火の玉よ!青い炎となって焼き尽くせ!」

「水の玉よ!火の玉の元へ!」

 ふたりが声を合わせ、魔法陣を出現させる。


「ゴォッ!」

「シュバーッ!」


 青い炎となった火の玉が怨獣目掛けて飛び、その後から水の玉が重なっていく。

丁度、怨獣の直前でふたつの玉が重なった時、

「シュバッ!ゴゥオッ!」

「ズパーンッ!」


「うわぁっ!」

 大きな爆発音にドミニクとマルティナは耳を手で覆った。


「バラバラバラーッ!」

 怨獣の身体は、高温の火の玉と水がぶつかり水蒸気爆発を起こしたことでバラバラに吹き飛んだ。


「やったのか?」

「やったのね?」

「うん。上手くいった様だね」


「エリアス様、今のは?」

「騎士団長、二人の魔力が個々の量では足りない様に見えたので、高温の火と水で水蒸気爆発を起こさせたのです」

「そ、そんなことが・・・」


「これで、怨獣を撃退できましたね」

「皇子殿下!ありがとう御座います!」

「良いのです」


「それにしてもこの虎の怨獣の足から出ている触手の様なものは何でしょうね?」

 そう言いながら高度を落とし、スワローを地面に着地させた。

他の騎士たちも地面に降り、自分が仕留めた怨獣をしげしげと眺めていた。


「ガサガサッ!」

「グルルルッ!」


「なに?!」

 音がした方へ皆が振り返ると、巨大な熊の怨獣が立ち上がった。


「グオーッ!」

「な、なんて・・・デカい!」

 不味い、ドミニクがビビってしまっている。マルティナも震えながら後退りしている。

もうスワローに乗って飛び上がる時間は無いな・・・


「下がれ!」

 騎士団長が叫び、前に出ると体長3mを超える山の様に大きい怨獣に向かって攻撃を始める。


「風の刃!無限弾!」

「ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!ビュオッ!」

 騎士団長は怨獣の足を止めるべく、風の刃を足に集中させた。


「ドスッ!グサッ!グサッ!ビシッ!ズサッ!」

「ドスーンッ!」

 怨獣は右足がズタズタになり、後ろへ仰向けに倒れた。


「やった!」

 皆の顔に明るさが戻った次の瞬間。


「シュル・・・シュ、シュ、シュルシュル、ジジジッ、シュー」

「な、なに!足が復元していく!」

「気をつけろ!こいつ魔力が強いぞ!」


 その時、エリアスの闘志に火が点き、かたなを抜き、怨獣に向かって走り出した。


「こいつ!」

「シュバッ!キンッ!ズバーッ!」

 繋がり始めた右足の更に上の根本辺りに刀を一閃させ、鮮やかに右後ろ足を斬り飛ばした。

その時一瞬、エリアスの刀が白い光を放った様に見えた。


「グゥオーッ!」


 エリアスが熊の左側をすり抜けようとした刹那、怨獣は10cm程の鋭く長い爪を光らせながら右前足を振り上げた。


 エリアスは一瞬で反応し、左足で踏み切ると前方宙返りで避け、回転しながら怨獣の首の位置を確認すると、自身の回転の遠心力と落ちてくる重力を刀に乗せて振り切った。


「イヤァーッ!」

「ズバーッ!ゴキッ!」

 やはり、今度も刀が白く光りながら、熊の怨獣の首を斬り落とした。


「やった!首を落としたぞ!」

 ドミニクが歓喜の声を上げた。

「い、いや、待て。また復活するかも知れん!」

「あ。そ、そうか・・・」


 エリアスも刀を構えたまま数m後ろへ飛び、怨獣が再び動き出すのに備えたが、他の怨獣と同様に身体の腐敗が始まった。


「ブスッ・・・ブス、ブスッ・・・」

 身体から黒い霧の様なガスが漏れだし、身体の形が崩れていった。


「な、なんと・・・これだけの怨獣を魔法無しに倒してしまうなんて・・・」

 騎士団長もほうけた様な顔でつぶやいた。


「エリアス皇子殿下!獣だけでなく怨獣も・・・それもこれ程に強い怨獣を倒すなんて」

 ナタリーはその場にへたり込んであきれる様に言った。


「倒せ・・・ましたね・・・」


 僕は無我夢中で動いただけだ。それは本能というものなのだろうか・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ