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二章1 悩む天使

更新遅れました。

 ――『あのね氷空、天使あげるね!』

 氷空は入学以来初めて、ゆっくりと昼食を取っていた。

(このみー、今朝も来てくれた……二日連続会えた……ふふっ)

 一週間も会えなかったのが嘘みたいだ。空き教室で再会した今朝も、祥平は変わらず格好良かった。

 噛み締めた卵焼きから、ふわっと白出汁の味が広がる。毎日お弁当なのは高校が初めてだ。

 祥平は変わらなかった……。会えばぎゅうっと抱き締められ、抱きしめ返せば安心したように力が緩む。率直に言って溺愛されている。

 少し行き過ぎに思うこともあるが、昔から変わらないのだ。

「市谷お前……今日はやたら幸せそうに食うなあ、前の早食いよかよっぽどいーけどさ」

 そう言う京助は妙に表情が晴れない。というより、いっそ顔色が悪いと言って良さそうだ。たぶんこんな京助は初めてだ。

 目の前では珍しいものを見る目を莉桜が向けている。

「朝のこと? 英語の空き教室に、二人して呼び出されてたんでしょ」

「うん、あのね、このみーがね、天使くれた」

 京助がむせた。

 莉桜が両目を光らせる。昨日のことで、莉桜もここでお昼を食べることにしたようだ。当然のように同席している。

「天使? 氷空ちゃんに聞いてもわかんないよね? 佐野教えてよ」

 京助はまだ胸を叩いている。おかしなところに食べ物が入ったようだ。

 ……何故だろう? 氷空だって説明くらい簡単にできる。祥平が京助を下賜かししてくれたのだ。それだけだ。

 いきなり祥平主催の任命式になった。

「や、オレはちょっと……自分でも理解できねーんだ。ほとんど説明されてねーし」

「えっ、自分でも、ってそれつまり、佐野が天使なんだ……氷空ちゃんが貰ったの?」

 莉桜は表情をピクリとも変えない。

 京助も困惑を顔に浮かべた。誤魔化すようにパクパクとパンを食べる。だが祥平は兄神様だ。神様の部下は天使に決まっている。

 ――『なんじ、さのけいすけは神さまのしもべです。よって市谷氷空の守護天使に任命する。これよりただちに任務に従事し、氷空を色々と助けること! はいっ、どうぞ天使くん』

 渡された紙を見て、京助は目を疑うようだった。氷空以外の誰かに話しかける祥平は、見ている氷空にも新鮮だった。祥平もチラチラと氷空を見ては、居心地悪そうにそわそわする。まるで氷空に駆け寄るのを我慢しているようだった。

 ……目の前にいてぎゅーぎゅーされないなんて、正直氷空も落ち着かない。

 近づいて任命状を覗きこもうとしたが、京助には慌てて隠されてしまった。独占欲か。大事に思っているはずだ。

 祥平は氷空と目が合ったら破顔してにまにまして、熱を秘めた目で笑っていた。

「色々と助けること、っつわれてもなー……あの危ない文面、子どものままごとか……?」

「危ない? このみー、かっこいい、でしょ?」

 氷空はにこっと京助に笑いかけてみた。京助は若干視線を泳がせる。

「……なんか、納得行かねー……天使って言われた途端これかよ。あの人も……」

 京助はまた顔色を悪くする。なんだと言うのだろう。

 氷空が普通に話しているからだろうか。まあ無視したのは悪かったと思う。京助の諦めが悪かったから……でも祥平の天使なら無視はしない。

「良かったじゃん、氷空ちゃんと仲良くなりたがってたでしょ」

 視線を上げた京助が、微妙な表情で莉桜を見る。

 祥平がおかしい、と言いたいのだろうか。確かにあの格好良さは異次元だ。クラスに天使を用意してでも氷空を守る。さすがの兄神様だ。

 莉桜はふうんと目を逸らした。

「このみーね、あたしが大変な時も……いっぱい、助けてくれてね、ずーっと楽しそう、なんだよ」

 氷空を助けるのが生き甲斐みたいだ。

 祥平が抱きしめてくれると温かい。必要とされるのが嬉しくてふわふわする。

 京助も莉桜も何故か不審そうだ。

「あの人が楽しそう、ねー、確かに昨日もすっごい楽しそうだったね。ちょっと異常? 茶室まで色々聴こえてきたよ。襖開けてたし」

 茶室? 水月が出入りしていた方か。

「まあ……今朝の様子も、そんな感じだな。ちょっとこえーぞアレ、劇変っつーか、豹変? ヤクを手に入れたジャンキーみてーな」

 なんてことを言うんだ。

 氷空は困惑して思い返す。今朝だって結局、京助の前でぎゅうぎゅうされていた。氷空にはあれが普通すぎて、何がおかしいのかわからない……。

 祥平があまりに嬉しそうで、見られているのもどうでも良くなった。

「やっぱり? なんか変わんないねー、わかるけどさ」

「あれ、昔からか……? やばくね?」

 京助の方は何やら失礼だが、莉桜の言葉に氷空は嬉しくなって頷く。祥平は昔と変わらない。昔だっていじめられる氷空を、自分が通う中学の隣まで送ってくれた。

「このみーが、いなかったら……」

「色々酷かったよねぇ、あれは。うちは見てるだけだったけどさ」

 あの頃氷空は六年生だった。朝の教室に入れず引き返した時、祥平はとっくに中学に行ったと思っていた。校門で目を見開く祥平を見て大泣きしたくらいだ。

 祥平との思い出が詰まったヒールスポットは、町の至るところにある。小学校の校門も、何気ない道や草むらもそうだ。それくらい祥平は、氷空に愛情を注いでくれた。

 今もそうだ。

 ギリギリまで見守っていてくれたのが嬉しかった。笑顔で迎えてくれた祥平と手を繋いで、あの日は二人で家に帰った。欠席連絡は祥平がしてくれた。

 布越しでも脈打つ手のひらが心強かった。心を救われた気がした。

 母にも隠してくれた。

 父は既にいなかった。

(このみーがいたから、あたし……中学から学校に戻れた)

 すぐ別居になってしまったが、毎日電話で話したものだ。

 いつも兄妹一緒と笑われた。ずっと祥平といるからいじめられるのはわかっていた。それでも氷空を助けてくれたのは祥平だ。

 ――『氷空を不安にさせるやつの言葉なんて、聞かなくていーよ。俺が守ったげる』

 あの頃から祥平の目は熱を帯びていた。格好良くて頼りになって、唯一の味方だった。

「けどこれ、オレはどこまで〝色々〟やりゃいーんだ? なんもしねーとシバかれ……」

「そんなことしないっ! あのね、このみー、言ってたでしょ? 『天使くんに聞けば色々教えてくれるよ』って……だからね、昨日みたいに、色々聞きたい」

 重圧だろうか? 普段は氷空が黙っていても京助から話しかけてくるのに、どうも今日は口が重い。

「……それもこえーんだよ。昨日喋ったのオレじゃねーし。つか丸山、下請けやんねー? 天使の」

「いや、天使の下請けって何? 明らか地雷じゃん。まあでも良かった、サークルやるんでしょ?」

 京助が驚いたように瞠目した。氷空は思わず目を逸らす。

 見に行くだけのはずだったわけで。

「……なるほど」

 京助は呟くだけだった。逆に気になる。

「それで、氷空ちゃん何が聞きたいの? またサークルのこと?」

「へ? あ、えと、サークルは……別に」

 氷空は困ってしまった。

 確かにサークルは気になる。昨日もほとんど水月の話で、和室に行くまで祥平のこともわからなかった。祥平の二つ名ってなんだろう? あるのかな。

 でも祥平は秘密主義だ。ドッキリ大好きなのに、氷空が勝手に突き止めたら悲しむかもしれない。

 ……逆に反骨心の笑みを浮かべて、もっと驚かせようとしてくるかも。

「――それより、吸血鬼のこと、教えて」

 ざわっとあからさまに教室がざわめいた。妙に視線を感じると思っていたら、耳をそばだてられていたらしい。

 ……居心地が悪い。京助までまたむせていた。

「わあ、氷空ちゃんだいたーん。その心は?」

「えっ? だって、サークルは……別に、今聞かなくても……だし、吸血鬼の人……気になってた、から」

 祥平の聖地に、悪魔の種族で形容される人がいる。危険人物じゃなくても気にならないわけじゃない。祥平の手足だ。

 元々、例の吸血鬼が篠笛かと思ったのだ。階段で見かけたし、昨日は和室にも駆け込んできたみたいだった。

「昨日……和室来てた、よね?」

 なんで氷空が聞くだけで周囲がざわめくんだろう。もっと人目を憚るべきだった? 聞く相手がダメだっただろうか……?

 そういえば入学から一週間経つが、京助は一度も吸血鬼なんて話題にしなかった。

「……そういうことか。市谷なんも知らねーんだな? 道理であの対応か」

 物凄く苦々しい顔で、京助は目を逸らすと拳で口元を隠した。

「あの、対応……? ふぇ、佐野くん知り合い?」

「知り合い……どうだかな」

 京助は肯定も否定もしない。

 昨日は水月は敬語を使っていなかったし、教員じゃないだろう。でも上履きの足音じゃなかった。結局ずっと茶室にいたんだろうか。

「ま、氷空ちゃんは知らないよねー。確かに茶室に来てたけど、昨日は荒れきっててドントタッチ! って、話もしなかった。こっち来たのが吸血鬼って気づいてたんだ」

「……ヒールの音、吸血鬼、だよね? でも凄く、つらそうだった……」

 昨日の人は、ずっと過呼吸のように息を荒げていた。

「このみーは怖くないって言ってたけど、変な噂ばっかりだし、それって悪くないのに、嫌な風に言われてるってこと? 聖地に悪い人、いるわけない」

「聖地って何? まあそうとも限らないと思うけど、吸血鬼についてはねー、そう言われるとね」

 莉桜は気のない様子で机を軽く叩いていた。だが京助は、困ったように頭をかく。何かを思い出すというより、何を話すか考えているように見えた。

 まあ天使の役目が『教える』ことなら、情報の取捨選択も仕事のうちだ。

 やがて京助はため息をついた。

「――キス魔のナルシスト」

 ぽかんと、氷空は京助を見る。だが京助はずっと目を逸らしたままだ。

 莉桜は京助を凝視している。

「何それ、いやそんな噂はあるけど佐野、あんた……」

「……あの先輩ずっと黙ってんだよな。顔隠しててなんも見えねーし。話せば話したで超お喋りだし。けど……まぁ、うん、油断ならねーっつか、二人になると飲まれちまう」

 京助は若干疲れたように首に触れた。随分と曖昧でふわっとした話だ。

「今思うと、完全に場の空気握られてた。パフォーマーなのか素なのか、わかんねーな」

 吸血鬼の人は、相当に演技派ってことか? つまり祥平は、アルマジロのごとき仮面に分け入った神様……?

 京助はそんなに知り合いだったのか。

「佐野は素顔見たんじゃないの? 意外と普通でしょ、人間っぽいよ。自由人だし」

「いや明らか不健康だろ。ありゃモンスター呼ばわりされても……まあ、呼ぶ方が悪いか。けど言いたくなる気持ちもわかる」

 京助は視線を伏せたままだった。

「丸山、二人きりになったことねーだろ」

「そりゃ、あの人と二人きりとかどんな状況よ、向こうが避けるでしょ。佐野が特別なんじゃない?」

 そうか、京助は特別なのか。さすが天使だ。

「オレが特別かは知らねーけど、あの人はヤバい。市谷も、校内で黒い傘見つけたらぜってー逃げとけ。祥先輩も安心……嬉しそうだなあ」

 京助が苦笑いした。

 氷空は喜んで頷く。祥先輩! 祥平も呼ばれて喜んでいた。天使ならではの特別な呼び方だ。

「見た目は、黒スカーフとか黒セーターに、黒いショールも年中羽織ってんだ。黒いベールの黒帽子被ってチェーンとかつけてキラッキラで、アクセ多すぎてジャラジャラ鳴ってる。あと黒いヒールブーツな」

「全部黒いし、人違いだけはないよねー。近づけば絶対わかるよ。昨日みたいにねー」

 莉桜は面白そうに笑っていた。

「んで中身の方は……年齢千歳超えとか未来人とか」

 ……中身って、性格とかじゃなくて人種?

「やばい噂も色々あるよねー。先輩廊下で押し倒したとか、刺青いれずみとか援交とか。あと妹が大っ嫌いで、話題に気配感じるだけでブチ切れる。一方真逆の説もあって、弟が大好きすぎて囲ってる」

「……えと、凄いね」

 妹か弟がいるんだろうか。聞いた感じだと、寒がりキャラ? ハロウィンファンかな。

 京助はふっと目を逸らした。

「信じてやれよ、間違いなくガセだから」

 え、別に疑った訳ではないけど……そんなに不遇な人なんだろうか。

 未来人で千歳超えだったら、時を超えた生霊だ。千年経てば異文化摩擦も苦労しそうだ。

 ……まあ、好き放題噂されているってことだろう。

「けど色々やってんのはほんとなんだよねー」

「あー、丸山もだろ。次体育だけど、荷物そのままで平気か?」

 氷空はきょとんと目を見開く。

 逃げろと言ったのは実体験? 二人に何かしているんだろうか。

「……こないだ机に消えるボールペン置いといたらさー、ほんとにそれ使って落書きされてたの。吸血鬼ってあんま考えて動いてないよねー。血が足りなくて朦朧としてそう。今日も置いとかないと」

「……やめろよ、笑えねーから」

 きょとんと、莉桜が京助の言葉に首を傾げる。そのまま後ろ手に教卓の方を指した。莉桜の席は教卓の目の前だ。

 落書きされていたのか……え、なんで? 莉桜も知り合い? 笑えないって何?

「佐野もでしょ? 机の中身」

「ああ。さすがに一週間も机漁られてっと気味わりーわ。今朝は中身全部上に出てたし……。ま、神様っぽい後ろ盾も付いたし、そろそろ収まるんじゃね? 丸山は悪化しそうだけどな」

 京助は若干面白そうに笑った。莉桜も呆れた風ではあってもそれだけだ。なんだ、意外と余裕はありそうだ。

「……つーか、そのくらい特典ねーとやってけねーわ」

「佐野が切実なの初めて見た。天使ってそんなに嫌なんだ?」

 にしても落書きやら机漁りやら、吸血鬼は授業時間にふらついているのかな? そういえば廊下でもそんな噂があった。

「嫌っつーかさぁ。知り合ってそんな経ってねーだろ、あの人こえーんだよ。読めねぇし」

「……ふうん。会ってなんかされたの?」

 京助は黙り込んだ。

 氷空は箸を止めたまま、じっと俯いて思い返す。苦しいならなんで、嫌われるようなことだけするんだろう?

 京助の実体験といい、その人は警戒心が暴走して失敗していそうだ。

(佐野くんと莉桜ちゃん、だけが……? なんで?)

 さすがにクラス全員が被害者なら、いくら氷空でも耳に入るはずだ。

 祥平は絶対大丈夫と言った。実際氷空は何もされていないし、祥平のサンクチュアリを疑っているわけでもない。だが、何故か莉桜は悪化するらしい。吸血鬼を追い払うにはどうすべきだろう。

 ――吸血鬼……?

 氷空はぱんっと手を叩いた。

 顔を上げれば、きょとんと二人が目を瞬く。

「……お菓子、入れないの? 机に……トリックオアトリート」

 莉桜はぽかんと自分の顔を指差した。

 氷空は頷く。ハロウィンファンの悪戯なら、お菓子をあげれば退散するはず。

 京助は困惑したように眉をひそめた。

「トリックオアトリート……って、ハロウィンか? なんで急に――あ、吸血鬼……?」

「ぷっ……あははっ、何それめっちゃ笑える! 吸血鬼にお菓子! あはは! 氷空ちゃんのアイディアって書いといたら食べてくれるかな!」

 莉桜が唐突に手を叩いて笑い出した。口元とお腹を押さえては、隠しきれない笑い声が響く。気のせいか、他の席からも忍び笑いが漏れ聴こえる。

 言った氷空が困惑する。何が面白いかわからない。氷空の名前を書いても意味不明だろうし。

「あはは、まあ挑発する気はないけどさー、ありじゃない? 吸血鬼だからお菓子あげれば退散する、って、氷空ちゃんもお兄さんに伝えといてよ!」

「えっ、このみーに? なんで?」

 吸血鬼が祥平の手足だってこと、そんなに有名なんだろうか。

「やりすぎんなよ? ……でも、結構平和だなそれ、置いときゃ食うかな」

 京助は考えるようにミニサイズの菓子パンを見た。五個入りで最後に残っていた一つだ。

「つーかあの人、ガリガリだしな。こないだの身体測定とか体重操作してそうじゃね。水がぶ飲みとか、ポケットに物入れるとか」

「わっ、ちょっと発想がリアルすぎて怖いけど、さっすが天使は言うこと違うね」

 体重操作って。

 それ、本当にまずいやつじゃないかな。倒れたりしないんだろうか。

「天使は関係ねーだろ? うちは姉貴の知り合いがそういうのやってた時期あったんだよ。今は正気に戻ったけどな。……あの人は噂にも便乗するしさ、吸血鬼ってのが笑えねーから思い出した」

 吸血鬼の代名詞が不健康そうな見た目も意味するなら、確かに笑えない。不健康な噂に便乗して、ガリガリになるほど痩せ衰えてしまう? でも、さすがにそこまで操り人形みたいな人――。

 急に寒気がこみ上げて、氷空は軽く両腕に触れた。氷空は知らない。心当たりもないのに。

「ま、吸血鬼はそうだよね。あの格好もさ、中学の誰かが吸血鬼って言い出してからでしょ? 片耳にコウモリまでぶら下げて……って、氷空ちゃん大丈夫?」

「……大、丈夫……びっくりして……便乗? 吸血鬼? 操られてるみたい」

 なんだろう、全く知らない人の噂なのに……祥平の手足だから?

 陰口に便乗してイヤリングなんて。

「あー、そうだな、あの人はなんか、頭ん中と行動がバラバラみてーなヤバさが……見た目は騙されそうだけど、なんか怖いんだよ。オレは中学ちげーし、事情は知らねーけどさ。丸山は詳しそうだな」

「ま、小学校からだからね」

 えっ――?

 目が合った莉桜は肩をすくめた。じゃあ氷空と一緒じゃないか。吸血鬼なんて高校で初めて聞いた。

「うちが中一くらいの時かな、あの人は中二で、色々あったの。言ったらシバかれそうだし、頼まれても言わないけどね! あはは」

「吸血鬼の人、このみーの同級生……幼馴染、ってこと……?」

 手足なのは昔から仲良しだから――?

 でもいつもは三人一組で遊んでいた。氷空と祥平が一緒で、残りの一人は氷空の同級生だ。

 教室の友達……?

 京助が何か言いかけるように、視線を彷徨わせて眉をしかめた。

「顔色悪いってだけじゃ、吸血鬼にはなんねーよな。中二までは――オレの中学でも知られてたけど」

「普通じゃないし目立ってはいたけど、もっと大人しかったよ」

 京助も肩をすくめる。二人が教室の中央を見た途端、にやにや笑っていた男子が嫌そうに眉をひそめた。

 あれ? 随分周りから浮いているが、京助の友人じゃないか。他のクラスメイトたちは気まずそうだ。

「やっぱ何も教えてくれないか。ほんっと樋口って徹底して傍観者だよね。佐野の情報源でしょ?」

「アイツはひたすら野次馬だからなー。主人公のフラグはばら撒くけど、自分はそれを眺めるプレイヤーらしい」

 ……え、どういうこと?

 その男子は他のクラスだが、対面にはクラスメイトの女子がいた。

「イベント中に話しかけると、アイツは不機嫌になるからな。ゲームキャラがプレイヤーに話しかけんのは邪道らしいぞ」

「……何それ、佐野がゲームの主人公なの? 樋口がプレイヤー? 天使を操る神様?」

 例の男子が黙って吹き出した。クツクツと笑い声がする。そういえばさっきから聴こえていた気がする。京助は微妙な顔だ。

 ……神様は祥平だ。それで……京助は守護天使か。

 まさか吸血鬼の人と知り合いと思わなかった。おかげで随分色々と知れた。サークルのことも助けてくれるかもしれない。

 情報だけじゃなくて……。

「ん……? あっ、佐野くんもお箏? バランス考えると……それとも、跡継ぎで篠笛?」

 京助が眉をひそめた。

「や、何の話だよ?」

「あははっ、あーほんと平和、これっていつまで続くんだろ。頑張ってね氷空ちゃん」

 あ、やらないんだ……。

 氷空は悲しみを飲み込むように、最後の卵焼きを噛み締めた。吸血鬼……氷空もいつか直接会えるだろうか。

 ――莉桜の最後の台詞が、頭の片隅で妙に引っ掛かった。いつまで続くんだろう、とは……?

週一くらいのペースで、更新できればと思います。

数を書かないと、ちまちまぐるぐる直していても、大差ないんや……。

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