第16話 私をさらった怪物さん
私がこのスキルに気が付いたのはいつだったのか、あまり覚えていません。
頑張って思い出してみればあれは確か、お母さんと一緒に料理をしていた時に誤って熱い鍋に触れてしまったときだったような気がします。
とっても熱くて反射的に、一瞬前に戻ってなかったことにしたいと、そう願ったのが最初だった気がします。
そしたらホントにやけどの跡がなくなったんです。
鍋に触れる前に戻ったんですね。
それを伝えてもお母さんとお父さんは信じてくれませんでした。
でも、それでもよかった。
当時の私はとんでもない力を手に入れたことに恐怖は感じていませんでした。
むしろ、この力を使ってどんなことができるのか、いや、どんなことでもできる! と心の底からワクワクしていましたから。
それからは少しずつ、誰にもばれないようにこのスキル『時間転移』の力を試しました。
まずは数日過去に戻ってみたり、それができた後は数か月、その後は数年という具合に。
次は未来にも飛んでみました。翌日、数か月後、数年後って感じで。
ここまでやってみて、いくつか気が付いたことがありました。
一つ目は、どうやら私の転移に限界はないということです。確かに遠くにいけば行くほど体力は消耗するのですが、私の持って生まれた魔力量が膨大だったせいか、それほど気にはなりませんでした。
二つ目は、私がその時間軸に存在しない場合、幽体離脱するようにしてその時間を観測することになるということです。これに関しては考察の余地があるとは思いますが、私は頭がそれほど良くないので、とは言っても怪物さんよりは良い自信があるのですが、とにかく、どうして幽体離脱した状態で観測することになるのかはよくわかりません。器としての身体が存在しないからでしょうか?だから、あまり遠くに時間転移すると五感を使うことができないんです。ただ、その光景を見るだけ。あまりエキサイティングな体験とは言えませんね。
そして最後、三つ目。私はどうやらすぐに死ぬらしい、ということです。先ほど述べた通り、私の身体が存在しない場合、その時間軸では幽体離脱状態の観測者となります。私が生まれる前の時間に飛んだ時もそうでした。そして、それと全く同じ現象が、数年後に飛んだときに起こったんです。
驚きました。
だっててっきり、私はこの力を最大限利用して、最強の魔女にでもなって一生不老不死のまま生きるものだと思っていましたから。
そして世界に伝説を残しておとぎ話になると思っていましたから!
それなのに、その辺の同い年の子たちよりも長生きできないなんて……。
この時の衝撃が理解できますか? 絶望ですよ、絶望。
親に言っても信じてもらえないし、私は一人、悩みました。
その後、何度か時間転移を利用してこの人生のバッドエンドを回避すべく動きました。
どうやら私は不治の病でなくなるようなのですが、不治っていうくらいだから治らないわけですよね? でも、未来ならその病を治す方法が見つかるかもしれない!
そう思い、幽体離脱して未来を彷徨いました。
そして見つけたんです! 治療薬を!
でもここで重大な問題が。
そもそも、その治療薬を過去に持ってくることはできないし、私の身体も未来には存在してないし、っていうかその治療薬に使う薬草も今の内地では見つかっていないし。
つまりどういうことか。
詰みました。
バッドエンド確定です。
そしてさらに悪いことに、何度も何度もスキルを使ったせいで、病の進行が早くなってしまったみたいなのです。
オーマイガー! なんということでしょう。
私は自分で自分の首を絞めた挙句、結局は何も解決策を吐き出すことはできなかったんです。
さらに悪いこともありますよ?
聞きたいですか?
聞きたいですよね?
これは私がバッドエンドに気がつく数ヶ月前の話です。
私が住んでいた町では、優秀な子供を育成する機関のようなものが存在しています。
町に住む子供はそこで一度検査を受けなければいけないのです。
私も例外ではありませんでした。
そしてその検査を受けた結果、スキルがバレたのでしょうね。
スキルを看破するスキルを持つ人もいると聞きますし、その時点で私は国に目を付けられました。
そして半年後、私の家は焼き払われ、両親は死にました。
おい!その未来は見通せなかったのかって?
あのですね。
私もスキルを常時使用しているわけではないのですよ。
それにその時点では、スキルを使って未来を見すぎるのはそれはそれで面白くないということに気がついて使用を控えてたんです。
だから私は何も悪くない!
悪いのは国の豚どもだ!
でもここで嬉しい発見? というか成長? みたいなものがありました。
焼き払われる家から全力で逃げているとき、私のスキルが覚醒したみたいなんです。
子供の足では大人から逃げ切ることなどできなかったのですが、捕まって袋詰めにされるとき、私の足をつかむ男の未来が見えたんです。
そう! なんと私は、触れた者の未来すら見えるように進化しました!
やっぱり私って凄い! って感じですよね。
まあ、どうあがいても数年以内には病で死ぬのですが。
ま、それは置いといて。
その時私の脚を掴んだ男が、仲間と共に裏路地でボッコボコに殴られる未来が見えたんです。
あれは容赦のない連打でしたねえ。
人を殴ることを心の底から楽しんでる人間じゃないとできない顔してましたよ、怪物さん。
袋詰めにされた私は考えました。
国のお偉いさんたちが何を考えていたのかは分かりませんが、どんな力があったとしても、どんな病にかかっているとしても、結局選択するのは自分だと。
私の人生は最後まで私が選択してやると、吹っ切れた私はそう考えました。
だからあの人に頼んだんです。
「私をさらって、怪物さん」と。
後悔はしていません。
未来が見える私にとってエキサイティングなことというのはあまり多くはないのですが(だって未来が見えるから)、それでも怪物さんと一緒にいるのは楽しかった。
何と言っても彼自身の行動原理がまったく意味不明で、何考えてるのかわからないし、その癖腕っぷしだけは強いので毎日が波乱万丈でしたよ!
あんなに濃密な時間を過ごしたことはありませんでした。
病にかかっていなければ、あんなに危険な道は渡らなかったと思います。
きっと逐一未来を見て、石橋を叩いて渡っていたことでしょう。
そういった意味ではある意味感謝なのかもしれませんね。
怪物さんと旅をしているうちに、思ったよりも病の進行が早まっていることに気が付きました。
それもそのはずです。
毎日心臓をバクバクさせながら、長い道のりをほぼ徒歩で進んでいたのですから。
たまに担いでもらったりしましたが、あの人には配慮というものが足りませんね。
子供があの距離を普通に歩けるわけがないんですよ! ましてはこっちは病人ですよ!? (それは伝えていないので怪物さんが知る由はないのですが)
今思い出しても面白い襲撃者ばかりでした。
ナイフをペロペロしてたビリー君は、怪物さんに絞られてミイラになっちゃいましたし(あれは傑作でした)、その後現れた聖剣使い? さんは怪物さんに腕を折られて心も折られたみたいでしたし(ボコボコにされた泣き顔が面白かったです)、その後集団で襲撃してきた人たちは血祭りにあげられてました(文字通りの血祭りに私は大興奮です!)
その後は……なんだか寝ているときに蜘蛛に襲われる夢をみたのですが、あれは気のせいですよね。
最後は戦略級? とかいう人と一騎打ちです!
あの時私は怪物さんと離れていたので間近で見れないのが悔しかった。
だからスキルを使っちゃいました!
たぶん数回くらいは観戦したと思います。
でも全部怪物さん負けてました。
あのファルムンドとかいう人はそれだけ強かったということですね。
私は初めて他人とスキルを使用して怪物さんごと過去に飛びました。
それからは皆さん御存じの通りです。
病が末期まで進行した私は、ベッドに寝ながら怪物さんとの日々を思い出しました。
部屋に押しかけたり、ベッドに寝転んだり、ふざけすぎて頭蹴り飛ばされそうになったり、お風呂を勝手に頂いたり、怪物さんの頭で本を読んだり、アマネと一緒にスイーツを食べたり、それで怪物さんに怒られたり、ギャンブルをしたり……思い出せることはその他にもたくさんあった。
ベッドの中で視力が落ちないうちにちまちま手紙を書いていたのですが、書きたいこと、伝えたいことが多すぎました。
でも、怪物さんは絶対全部読まないだろうし、渋々簡潔な文章にしました。
今の私は手紙を書き終えて、最後に残った搾りかすみたいな余力をどう使おうかと悩んでいました。
怪物さんに触れる度、怪物さんの未来が少し見えました。
そこでは怪物さんはどこかに幽閉されて、面白いことにそこにやってくる少年と殴り合いの喧嘩をしていました。
意味が分かりませんでした。
しかし、意味が分からなければ分からないほど面白くてエキサイティングであることは、経験上もう分かっていました。
だから私は、怪物さんとその周辺の未来を見ることに最後の力を使いました。
結果。
まさかあんな最後になるとは……!?って感じのラストでした。
流石に怪物さんの寿命が尽きるまでは見られなかったのですが、いやー、世の中って何が起こるかわからなくて面白いですね!
どんなラストだったのか教えてくれって?
そうですね……。
あれは確か……。
「あ、戻ってきた」
部屋の外から足音が聞こえてきます。
部屋から出て水を汲みに行っていた怪物さんが、戻ってきたみたいです。
皆さんには申し訳ありませんが、私の物語はここまでということで。
私には最後に伝えなければいけない、大切なお願いが残っていますから!
料金はもちろん先払いしていますよ。
え?
そこまで視えていたのか、ですって?
さあ、それはどうでしょうね。
ただ、この先の未来は私にもわかりません。
敢えて視ませんでしたから。
果たして、怪物さんは私のお願いを聞いてくれるのでしょうか?
いえ、聞いてくれていたのでしょうか?
一抹の不安と希望を胸に、私は頼みます。
「こっちに来て、この本を一緒に読んでもらえませんか?」
と。




