9節目
「主、お疲れでしょうからそろそろ眠りましょう」
「ああ、シノーメもありがとうな。お前の案が上手くいったから成功したんだ」
「ありがたきお言葉です。お役に立てたなら何より」
シノーメは恭しくお辞儀をする。ふと戦争が終わったら自分たちはどうなるのだろうと貝紫は思った。もし元の世界に帰る事になったらシノーメとは別れなければならない。それは寂しい事だ。ここまでの旅で何度も彼に助けられた。シノーメはそんなことはないと言うかもしれないが、助けられた貝紫が一番それを理解している。
「なあ、シノーメ……」
「何ですか主?」
「もし、この戦争が終わって、俺が元の世界に戻ることになったら、シノーメはどうするんだ?」
戦争が終わったら騎士の生活はどうなるのだろう。領主として土地を治めるのか、それとも騎士という身分が無くなって平民として生きる事になるのか。改めてシノーメが今後どうするつもりなのか貝紫は不安になった。諸侯同盟では一度戦場から脱走した者として彼を知っている人間が他にもいるかもしれない。その人間に告発されたらシノーメは罰を受ける可能性がある。そして、聖教国では山賊に身を奴していた。そこでは下っ端として奴隷のような扱いを受けていたが、元山賊と聞いていい顔をする人間はいないだろう。なにより聖教国からしたら敵国の一員だ。どちらに着いてもきっと、それが後に原因でトラブルが起きるかもしれない。そうした点を踏まえて、シノーメ自身がどうするつもりなのか、彼の主として考えを知りたかった。
「急に何を? 主がいなくなったら、私はそうですね……妹と少し話をしてみると思います。そう簡単には許されはしないでしょうが、もし命があったならばその後はもっと自分の身の丈に合った生活をしていくと思います」
「どんな?」
「騎士ではなく、平民として農地を開拓したり……オーディナたちと一緒に生活するのも悪くないかもしれません。彼らなら私の身分も過去も無関係ですので」
少なくとも一人になっても彼なりに前向きに考えているようで、貝紫は少し安心した。
「それに、例え誰かの下に就くことになっても、私にとって一番の主はカイ殿だけです」
「そこまで言われると何かこそばゆいけど、ありがとうなシノーメ……じゃあそろそろ寝るか! 久々にベッドで眠れるよ」
「ではお休みなさい主」
明かりを消して二人は各自のベッドに入った。これからやがて起こることが、スプリジョンの命運そのものを決める重大な出来事の前触れだと二人はまだ知る由もなかった。




