5節目
「兄上はいつも勝手だ……自分は聖教国との戦いに集中したいがため、私をこんな辺境の要塞に追いやって……」
シャール王の分身が語り出す。彼自身が胸に秘めている心の内を。
「私の活躍を見せれば、兄上も認めざるを得ないはずだ……もうすぐ兄上がこちらの視察に来る……」
「何だこれは? 止めろ、これ以上しゃべるな!」
「部下に手伝わせて魔物が兄上を襲ったことにして……それを私の指揮で解決したことにするんだ……そうだ、それがいい……」
やはり、あの襲撃は仕組まれたものだったのだ。それもアロンズ永世王の弟であるシャール王の企みだ。グラマトンの力でそれを証明した。
「シャール王、あの襲撃は全部あんたの企みだったんだな」
「……それが、それが何だと言うのだ御使い! いずれにしろ魔物どもは殲滅するつもりだった。それを利用したまでのこと!」
「魔物たち……オーディナの人たちは交渉の余地がある。彼らに開拓できる土地を提供し、和睦を結べば……」
「黙れ小僧、貴様に何が分かる! 人々に危害を加える蛮族どもに土地を明け渡す事なぞ出来るか!」
「戦争をしている自分たちもやっていることは変わらないでしょう! すぐには解決できなくとも、いずれ彼らも豊かになれば、生きるために襲撃する必要がないと分かるはずです!」
ハナカルタの地は農耕できる土地が少ない。農業の出来る場所と仕方さえわかれば、オーディナの人々も武器から農具を手にするようになるはずだと貝紫は考えていた。
「この事を知ったら、アロンズ永世王もきっとそう認めるはずです」
「今の話、誰が信じる? こんな魔術めいた力で私の心を読んだと? 討伐隊の部下たちはあのように呆けているし、お前たちが兄上に説明するのか? どれくらいかかる? その間に私がただ待っていると思うか? すぐに討伐隊を持ち直し攻撃を開始する!」
「確かに、俺たちが説明した所で証拠はない。今の貴方が言った言葉以外……」
「それ見ろ! お前たちのやっていることは時間の無駄に過ぎん! 無意味な事だ!」
「じゃあ、アロンズ永世王、直接お聞きになってどう思われましたか」
貝紫が横に動くと、彼がいた背後には空間に穴が開いていた。その穴の向こうに見えるのはアロンズ永世王の横顔だった。
「なっ!?」
シャール王は驚きのあまり言葉を失った。離れたジュノ要塞で待っているはずのアロンズ永世王の顔が、目の前に浮いて見えているのだから無理もない。少し前に貝紫は空間を越えて相手と連絡が取れるグラマトンの力を使い、アロンズ永世王と連絡を取っていた。グラマトンにによるこんな通信手段があったとはシャール王も想像だにしていなかったであろう。




