9節目
「お待ちしておりました兄上……アロンズ永世王殿」
「うむ」
流石に身内と言えど上下関係ははっきりしており、シャール王は恭しく頭を垂れた。
「これほどの兵を連れて来たという事は、ついに魔物どもを滅ぼすことにしたのですね」
「聖教国との戦いも控えておるのだ。いつまでも憂いを残しておくわけにはいくまい。本当であればもっと早く赴くべきであったな」
「永世王殿も忙しい身なればこそ、我々臣下に任せていただけたいのですが、お力になれず……」
どうやらアロンズ永世王が直接赴いたのは、いつまでもハナカルタに魔物が残っている事に業を煮やして、すぐに武力で解決するためなのであろう。
「聖教国との戦には、この地の資源が不可欠。これ以上時間も資源も浪費させるわけにはいかぬのだ」
「……ではこちらへ」
シャール王自らが先頭となってアロンズ永世王を案内する。アロンズ王が要塞の門をくぐる直前、突如その目の前に矢が突き立った。驚いた馬が後ろ足で立ち上がったのをアロンズ永世王が何とか御そうとする。さらに、そこへ矢が数本飛んでくる。
「敵襲だ!」
「永世王を守れ!」
周囲の兵たちが騒然となって永世王を守ろうと動き回る。突然の出来事に、貝紫たちもあわてて動こうとするが、辺りは混乱で人の波に流されずにいるのが精いっぱいだ。
「あの岩壁の方から飛んできたぞ!」
「魔物どもめ、永世王殿を直接狙ってきたな!」
まさか、こんな事になるなんてこれではよりアロンズ永世王やシャール王たちの怒りを買ってしまっただろう。フランツは魔物たちがこんなことをするのを知っていたのだろうか。
「永世王を要塞へ! 我々は狙撃手を追うぞ!」
シャール王が声を荒げて指示する。徐々に混乱は収まり、すぐに兵たちが命令の通りに動き出した。
「大変なことになりましたな主……」
明らかな魔物たちからの宣戦布告だ。もはや交渉の余地などない事は子供である貝紫にもすぐにわかった。しかし何故、魔物たちはこんな無謀なことを? 急いで問いただす必要がある。しかし、例え馬を使ったところで時間がかかり過ぎる。ましてやこの混乱の中、下手に動いては自分たちも怪しまれる。
「悪いなロッソ、先にこっちに使わせてもらうぜ」
急いで貝紫は要塞から少し離れ、シノーメに周囲に誰もいないことを確認してもらう。意識を集中してフランツの事を思いながら、グラマトンを唱えた。
「ヴォイ・ド マス!」
すると、貝紫の目の前の空間に亀裂が走り、ガラスの様に砕けると、フランツの横顔がその割れ目に映し出されていた。




