3節目
二人はシャール王からつい最近魔物の群れが現れたという北方の地を目指していた。あまり歩きなれていない傾斜の多い土地で、貝紫はすぐに疲れてなかなか進むことが出来なかった。
「徒歩の旅には慣れたつもりだったけど、ここはかなりきついな。いてて……」
早めの野営をしてる中、靴を脱いで素足になった貝紫は足先をぷらぷらさせながら独りごちる。慣れたといってもシノーメからしたら、ほっそりとした傷もないすべらかでキレイな脚だ。まるで貴族や内地の王族のように華奢に感じられる。
「だからこそ、騎士にとっては修行の地でもあるのです。鎧を着て馬を駆り、魔物の群れと戦う、そういう土地なのですよ」
「シノーメもここで修行してたのか?」
「ええ、その頃は魔物の群れも自分たち騎士が来る頃にはすぐに撤退して直接戦闘することは少なかったです。外見は人間に近いですが、人間とは違うものだと普通に思っていました」
そう言いながらシノーメは、焚火を起こす薪を集めて来た。木々も少なく燃料になる枯れ枝を集めるのも一苦労だ。
「今戦ったら、もしかしたら人間と同じように剣を向ける事はできないかもしれませんが……」
彼にとっては、人型の魔物も人間と敵対する様に感じてしまうかもしれない。でも、貝紫はそれが悪いことだとは思わなかった。
「来る前にも言ってたけど、人間みたいな姿をしてるなら、友好的に交渉できるかもしれないな。そうすれば余計な戦いをしなくて済むし」
「前にも言いましたが、いくら魔物が賢いといっても言葉が通じるとは思えません。私が見たことある連中も獣と同じ唸り声しか口にしない連中でしたし……」
シノーメは枯れ枝を組んで焚火の準備をしていたが、はっと何かに気が付くとすぐに盾を手に取った。
「主、私の後ろに……魔物の気配がします」
「魔物!?」
シノーメの背後から前方を確認するが、見晴らしのいい高原地帯には点々と大きな薮や茂みは点々とあるだけで、魔物の姿らしいものは確認できなかった。
「本当にいるのか? こんな見晴らしがいい場所で、全然影も形もないけど」
「しかし、明らかな敵意……殺気の様な物が感じられます」
貝紫が疑問に思い始めたその時、遠くに見える茂みから何かが飛び出てきた。魔物かと身構えたが、その正体はこぶし大の岩で、貝紫たちがいる所から半分も届かない所で落ちて、傾斜を転がっていった。
「何だ今の? まさか攻撃のつもりか?」
「主、こちらへ!」
シノーメにぐいっと引っ張られると、いつの間にか背後に迫っていた魔物が腕を振りかぶっていた。さっきのは囮で、既にかなり近くまで近づいてる魔物がいたのだ。
「ぐるる!」
シノーメが力任せの魔物の攻撃を受け流す。持ってる武器はこん棒で、原始的だが武器を使う知能はあるようだ。
「ぐあー!」
本命の攻撃が外れた事への驚きか苛立ちか、攻撃してきた魔物は飛び退くと雄たけびを上げる。すると、さっき岩が飛んできた茂みや、近くの藪から潜んでいた魔物たちが姿を現した。




