5節目
場を静めるように永世王が手を上げる。それに気づいた諸侯たちはぴたっと話すのをやめた。
「予言の話はご存じであろうか? 聖教国との戦、審判の火、御使いによる楽園創造の事を」
「はい。その予言を止めるために私は戦争を止めて欲しくて貴方に会いに来たのです」
「何故、予言を止めようと?」
「え?」
何故と聞かれて貝紫は逆に返答に詰まった。
「予言の通りに時が進めば、最終的にこの世に御使い殿による楽園が出来ると言うではありませんか。それなのに、何故御使い自らその予言を否定するのか」
確かに予言によると最後は現れた御使いによって楽園が出来るとある。それは結果的に言えば、予言が成就すれば争いはなくなるという事ではないだろうか。
「だって……それまでに多くの人が死んでしまうんですよ! 審判の火が何か知らないけれど、それだけじゃなくこの戦争でもたくさんの人が亡くなっているはずでしょう!」
「それは至極当然の事。我々は戦争をしているのだから。私が言いたいのは、どうして御使いである君が、予言をわざわざ否定するのかという事」
「人が亡くなることが分かっているのに、ただ指を咥えて見ているだけなんてできません!」
貝紫は思わず感情的に言葉を荒げた。
「俺はこの世界でいろんな人を見てきました。優しくしてくれた人が傷つくのは見たくないです。そりゃあ悪い人もいたけど、だからって傷ついていいはずがない!」
この世界に突如連れてこられて、どうしていいか分からない自分を助けてくれたミッカジ村の人々、恐怖で戦場から逃げたシノーメや山賊たち、沼地で村の人々を操っていた魔術師、聖教国でいい人間も悪い人間も見てきた貝紫だったが、その誰でも傷つく姿は見たくなかった。平和な世界で生きてきたからこそ、貝紫は人が争う事自体を嫌っていた。
「そりゃあ戦う事にも理由があるだろうけど、だからって俺はそれをただ見ているだけなんてできない。だからせめて自分の周りだけでも争いを止めようと努力したいんです!」
貝紫はずいっと前に出て円卓を叩いた。
「そのためなら戦争や予言でも何だって止めてやります。御使いにはグラマトンの力がある! そのために俺は力を使います!」
自分がどうしてグラマトンの力を使えるのか、それは今起きてる戦争を止めるためだと貝紫は思っている。その使命感を胸に、今までもずっとやってきたのだ。それが予言に背いてでも行動し続ける理由だと自覚した。
「ほう」
少なからず貝紫の思いはアロンズ永世王に感心を起こさせるものではあったようだ。




