10節目
「馬鹿者! それでその魔物をみすみす逃したというのか!」
ゼンカー侯爵の下へ報告に戻った二人だったが、二人が受けたのは賞賛ではなく叱責であった。
「ですが、あの魔物は聖域の森の動物を守っているだけで、害意はないんです。だから……」
「我の命令あくまで魔物を退治しろという物だ。あの森に魔物がいるだけで我の権威に傷がつく! そう言っておるのだ!」
いくら説得しても侯爵は聞く耳を持たなかった。
「退治する以外の報告はいらぬ! でなければアロンズ王の謁見もなしだ!」
どうしたらいい物か貝紫が悩んでいると、ルーシーが部屋に入ってくる。
「主、申し上げたいことが」
「何だ貴様は! 魔物退治も出来なかった役立たずの部下ではないか! とっとと下がれ!」
「いえ、魔物退治の件で重要な事ですので、お聞きください」
ルーシーが手にしてるのは古い書類の束だった。その中の一つを手に取って差し出す。
「これは侯爵家に伝わる記録です。この中に聖域の森の魔物について書いてあるのです」
それは領地内の土地について記された記録だった。聖域の森についても書かれているが、あの魔物について書かれているという事は、古くからあの森に生息していたという事になる。突然どこかからやってきたわけではないのだ。
「これによると聖域には森を守る聖獣がいると書かれています。それゆえにあの森は禁猟区として定められているのです」
そしてルーシーはさらにもう一つの書類を取り出した。
「それから主、貴方は数日前、領内の視察という名目で城を離れていますが、この時、あの聖域の森近くで狩猟を行いましたね?」
ルーシーの報告で場が騒然となった。あの魔物が守っていた傷ついた鹿。それに刺さっていた矢はゼンカー侯爵の物だったのだ。
「貴様……何を言い出すのかと思えば……!」
「その時の護衛からも証言を得ました。まさか侯爵自身が、代々伝わる禁猟区の聖域で狩猟したという事であれば、下々の者に示しがつきません。これをアロンズ王が聞いたら……」
「ええい、もうよい下がれ! この件はこれで終わりだ!」
慌ててゼンカー侯爵はそれ以上の追及をやめさせる。自分の不手際で問題が生じたことをアロンズ王に知られたくないのだろう。
「主、このお二方には魔物の件で解決に多大な貢献をしてくれました。ならばこちらも約束を果たすべきです」
「アロンズ王への謁見でも何でも認めてやるわ! あの方はここから西の城塞にいる。証書もくれてやるからとっとと出ていけ。我は忙しいのだ!」
ルーシーの執り成しにより、二人はついにアロンズ王の居場所を突き止める事が出来た。




