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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
諸侯同盟の前奏曲
64/114

8節目

「正気か? さっきのあいつは恐らくまだ本気じゃない。もしかしたら次は一撃で殺されるかもしれないんだぞ!」

「……わかった。俺はシノーメを信じるよ」

 貝紫にもあの魔物の様子が不自然なのは感じていた。だからこそ、シノーメの言う通りにあの魔物の攻撃を耐えつつ、聖域の森に向かうことにした。

「何故そんなことができる? 戦場から逃げた腰抜けの癖に!」

「ルーシー……私が不甲斐ない兄だという事は十分理解している。だが今は、主に仕える騎士として、この戦争を止めようとする貝紫殿のために、この命を捧げると誓ったのだ」

 シノーメは立ち上がると、身を引き締め再び魔物の方へと向かっていく。

「私があの魔物の攻撃を引き受けます。その間に主は私の傷を癒しつつ、森の方へ向かって下さい」

「よしわかった。行くぞシノーメ!」

 貝紫も彼の後に続いて歩き出す。魔物の攻撃を受けるシノーメとつかず離れずの距離を保ちながら、森へ向かう。言葉にするのは簡単だが、息の合った動きでなければ、貝紫が魔物に狙われることになる危険な作戦だ。

「さあ来い!」

 再び魔物の攻撃してくる範囲に入った。ずんずんと地面を震わせながら魔物が向かってくる。

「ごあああああ!」

 振り下ろされた腕をシノーメは受け止める様にいなす。盾が魔物の力に負けて簡単に捻じ曲がる。まともに受ければ命さえ奪われかねない。

「シノーメ!」

「主、私はまだ大丈夫です! そのまま進んで下さい!」

 魔物に言葉は分かるのだろうか、今度は貝紫に向かって腕を伸ばす。

「させるか!」

 シノーメがいち早く気づいて魔物の腕を弾いて攻撃をそらす。間一髪で貝紫への攻撃を防いだ。だが、彼自身の守りががら空きになっている。その隙を魔物は逃さなかった。

「うぐっ!」

 鋭い爪でシノーメの腹部を抉る。とっさに身を引いたが衣服に血がにじむほどの重傷だ。

「サン ヲ ノリアニマ ルミスト クァバー!」

 治癒の力ですぐに傷を治す。完治するのに時間はかからないが、容赦なく魔物は攻撃を繰り出してくる。傷が治るや否やシノーメはすぐにまた貝紫を護衛する

「はぁはぁ……」

 動きながらグラマトンを唱える事は予想以上に体力を使った。息を整えて詠唱に備えるが、そのわずかな時間を稼ぐのもぎりぎりの戦いだった。

 魔物が地面を抉りながら腕を振り上げる。あまりの威力に防いだシノーメの身体が浮き、貝紫のいる方へ吹っ飛ばされる。

「しまった!」

「うわっ!」

シノーメはすぐに身を起こすが、ぶつかった拍子に貝紫はその場に尻もちをついた。身動きが出来ないその状況で、魔物が両手を振り上げて二人まとめて叩き潰そうとする。この一撃は何としても受け止めなければならない。シノーメは死を覚悟した。それでも主だけは守らんと防御の姿勢に入る。

「無茶だ兄上!」

 無意識にルーシーが叫ぶ。魔物が渾身の力で腕を振り下ろせば受け止めたシノーメごと貝紫も潰される。これはそういう攻撃だ。

 魔物の腕が振り下ろされる瞬間、貝紫の脳裏に新たなグラマトンの言葉の羅列が浮かび上がった。咄嗟にその言葉を貝紫は呟いた。

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