7節目
「シノーメ!」
貝紫は弾き飛ばされた彼の下に向かう。まだ生きてるがかつてないほど傷を負っている。その強さはこれまで会った魔物や敵の比ではなかった。
「この野郎!」
もはや周囲の被害など構わずに攻撃的なグラマトンを使おうとするが、魔物の次の攻撃が来ない事に貝紫は気が付いた、森から離れた途端、魔物は攻撃するのをやめて再び元の位置に戻っている。二人の事などもう相手にもしてないようだった。
「魔法の心得があるみたいだが、そんなものであの魔物を倒すことなど無理みたいだな」
ルーシーが近づいてくる。初めから結果が分かってたかのように、二人を見下ろす。
「この傷じゃ、しばらくは動けんだろうな。その腰抜けを連れて侯爵に伝えろ。自分たちでは手に負えないとな」
冷たく言い放つルーシーを憎々しげに貝紫はにらみつけた。うめき声を上げるシノーメに気が付くと、まず彼の傷を治さなければならないことを思い出した。
「待ってろシノーメ……サン ヲ ノリアニマ ルミスト クァバー」
気持ちを落ち着かせ、傷を癒すグラマトンを唱える。シノーメの身体が淡く光り、みるみる傷が癒えていく。曲がった腕さえも元に戻る様子に、魔法に懐疑的なルーシーも驚いた。
「ほう、こうも傷が簡単に治せるとは……」
傷が治り終えると、シノーメが目を覚ます。すぐに身を起こして貝紫の方を見る。
「主、大丈夫ですか? 私は一体……」
「あの魔物にやられたんだ。お前の主は魔法を使えるようだが、そんなものに頼ってるから腑抜けになるんだ」
「魔法じゃないやい。聞いたことあるだろうグラマトンっていう神の言葉の力だ」
「グラマトン? 昔話に聞いたことがあるが実在していたのか? 本当に?」
魔物にやられる瞬間の事を思い出したのか、悔しそうにシノーメは拳を地面に叩きつけた。
「安心しろシノーメ、次は俺が本気で行く。少し荒っぽいかもしれないけど、とにかくあの魔物を倒すことが先決だから……」
「いえ、主。もう一度私に行かせてください」
貝紫は驚いた。さっき魔物にやられたばかりだというのに彼はまたあの魔物とやり合うというのだ。
「あの魔物の挙動……何か不自然だと思いませんか? まるで森に近づかれたくないような……その理由が分かるまでは、攻撃的なグラマトンは使わない方がいいと思います」
「でも、体験して分かっただろう? あの魔物の強さ、とても耐えられるものじゃない」
「主、私が傷ついたらその都度グラマトンですぐに治してください。そうすれば受け止め続けられると思います」




