5節目
イリンカ周辺の領地はゼンカー侯爵の一族が代々治めてきた土地という。そして問題の森は、古くから聖域として手をつけず管理されていたのだが数日前から突如、その付近で魔物を見かけるようになった。聖域とされる土地を魔物に荒らされては、統治者としての権威も失う可能性がある。そのため部下であった騎士のルーシー・セヴァンと兵たちに退治が依頼されたのだが、その魔物が予想以上に手ごわく、未だ追い払えていないという。
「そして今日、侯爵からこの二人が新たに派遣されてきた」
駐屯地についた貝紫とシノーメの二人は説明を受けつつ、他の兵たちに紹介されたが彼らの視線も歓迎してるとは言い難かった。
「わざわざ送ってくれた助っ人だ。何かしらの役には立ってくれるはずだろう。質問はあるか?」
誰も手を上げない中、貝紫がさっと手を上げる。
「魔物がいる場所、今すぐ教えてくれる? さっさと俺たちが退治してやるからさ」
周りの視線が貝紫に集まる。明らかにルーシーと兵たちは自分たちの事を見くびっている。ならば、その考えが間違いであることをすぐに思い知らせてやりたかった。
「やる気だな。いいだろう、すぐに連れてってやる。お手並み拝見させてもらおうか」
貝紫たちはルーシーとその護衛の兵の案内を受け、魔物の下へ案内されることになった。
「何でこの辺りが聖域って言われてるんだ?」
道すがら貝紫はルーシーに尋ねてみた。
「既に感じているだろうが、元々この辺はとても穏やかでしばらくいるだけで、清らかな気持ちになれるような不思議な場所であった。だから、侯爵の一族とこの辺りの人々は聖域としてこの森を崇めていた。この辺りでは狩猟も禁止にされている。そういう大事な土地なのだ」
もしかしたらグラマトンとなにか関係あるのかもしれないが、そこまでは口に出さなかった。
「見つけたぞ。あれが問題の魔物だ」
開けた空間に着くとそこには明らかに普通の獣とは異なる異様な存在が目に見えた。牛のように鋭い角、獅子の様な牙、毛むくじゃらの巨体でありながら人間のように直立している。既にこちらの存在に気付いているようで、貝紫たちの方をじっと見ているが、近づくようなそぶりは見せなかった。
「襲ってこないのか?」
「少なくとも、近づかなければ向こうから襲ってくることはほとんどない。だが、一度離れた場所から弓で追い払おうとしたが、その時は普段と違って向こうから積極的に突進してきた」
魔物はまるでこちらの事など意に介してないようにぼりぼりと頭を搔いたり、呑気にあくびをしている。
「そんな凶暴じゃないなら、べつに無理に退治しなくてもいいんじゃないか?」
「だから言っただろう、あそこは聖域とされる森なのだ。そのような神聖な土地に魔物がいるというだけで問題で、それにいつ突然暴れ出して被害を出すかもわからない。そんな存在を野放しに出来るか」




