1節目
貝紫たちは諸侯同盟の地、スプリジョン中央部まで数日かけて進んでいた。護衛騎士シノーメが元々所属していただけあって、彼の土地勘を頼りに最も近場の城塞都市イリンカに到着した。その間に聖教国と諸侯同盟の大体の戦況も見えてきた。
「自分がいた頃はこの辺りでも何度か聖教国との交戦が続いていましたが、今では諸侯同盟の完全な統治下にあります。リッジ砦まで前線が押し上げられてるのを見ても、諸侯同盟がとても有利な状況だと考えられます」
「今はロッソがいるから何とか持ちこたえてるけど、聖教国はかなり攻め込まれているんだな。通りであの女教皇が戦争をまだ止めたくないか、分った気がするよ」
今の不利な状況で自分から戦争の和平を求めたら、こちら側の負けを認めているようなものだ。あの女教皇としては絶対に負けを認めたくないのだろう。
「聖歌隊という存在を作っていたことからも、どうにかここから戦況を持ち直したいと焦っているのだと思います。しかし、既にその力も維持するのが難しい状況」
「ロッソ以上に負けず嫌いだなあの女教皇は……これだと説得はまず無理だろうな」
「幸い今は大規模なぶつかり合いは起きてません。その前に諸侯同盟の方を説得できればいいのですが」
まずは諸侯同盟の実質的な指導者であるアロンズ王に会う必要がある。そして、その為には王がどこにいるかを見つけ出さなければならない。
「アロンズ王は自ら戦場に赴くお方です。勇敢で行動的、だから多くの貴族や王が彼に一目置いていました」
これから向かうイリンカの統治者ゼンカー侯爵は、アロンズ王直属の幹部でもあるらしい。なので、彼からアロンズ王の居場所を知っているし、その謁見も取り次いで貰おうという事だった。
「そんな上手くいくかな?」
「諸侯同盟は騎士道精神を重んじるアロンズ王の影響もあって、魔法の様な力には懐疑的な考えが多いですが、主のグラマトンの力を知れば、きっと上手くいくはずです」
グラマトンを使う御使い……予言に伝わる救世主として諸侯同盟ではどう扱われるのか、貝紫はそれが気になっていた。戦争そのものにはどちらにも加担したくはなかった。誰も傷つけたくない、人を守るためだけにグラマトンの力は使いたいというのが貝紫の思いだ。それはシノーメにもわかっている。
「主を利用とする輩には、このシノーメがお守りします。だから、主は安心してやりたいように歩みを進めて下さい」
聖教国でのこともあって、まだ貝紫には不安があった。その不安を払しょくするかのように端正なその顔を両手でたたき、気合を入れなおすとゼンカー侯爵のいるイリンカの城へと向かった。




