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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
聖都オズマの狂想曲 後編
53/114

8節目

「アンデクス猊下、それはいくら何でもご老体のキュニゲオス卿には酷かと……!」

「御使いを逃がすという教皇への反逆、そして自白によってその意志が判明したのだから妥当でしょう。次の審問官長は私の侍従から推挙します」

「猊下、傾聴審問官長である彼はその信仰心に嘘偽りはありません。どうか寛大な処置を」

「教皇に対する反逆は聖主に対する反逆。そのような者に傾聴審問官長という役職は相応しくありません。即刻処刑にしなかっただけでも温情と思いなさい」

 淡々と続けるアンデクスの言葉にレリク卿やローレン卿、他の枢機卿たちも言葉を失った。自身を聖主と同等の存在と言っているも同然だったが、誰もそれを警告することはできなかった。例え枢機卿であっても脅かす者は容赦なく切り捨てる。キュニゲオス卿に対する処分でそれを彼らは理解した。

 どうして彼女がここまで権力に固執するのか、枢機卿たちは不思議に思った。ここまで権力に固執したのは諸侯同盟発足の原因を作ったグイル6世のようだ。思えば、グイル6世をはじめとしたこれまでの教皇も、選ばれてからは人が変わったように諸侯同盟には強固な姿勢を取り続けた。それゆえに、停戦する機会がありつつもなお戦争を続けている。グラマトンを使う御使いを複数作り出す聖歌隊を考案したのも教皇だった。何が彼らをそうさせるのか、まるで伝わっている予言が実際に起こるのを待ち望んでいるかのようだ。枢機卿たちは言い知れぬ不安を覚え始めた。

「これで審問は終わりよ。衛兵たちはキュニゲオスを連行しなさい」

 キュニゲオスが議会から連れ出される。その眼にはアンデクスに対する深い憐憫が感じられたが、もはや彼の言葉は彼女に届くことはないだろう。

「キュニゲオス卿の処罰はこれで終わりだ。後は外に逃げたグラマトン使いの少年とその従者だが……」

 ジョイサムリバー卿が手を上げる。

「伝令の話によると、恐らくリッジ砦の方角へ逃げた物と思われます。途中ドルクア将軍の兵が追い付きましたが、道端で無力化されていた上、馬まで奪われておりました」

 ドルクア将軍は自身の不甲斐なさに顔を下げる。たった二人、しかも一人は少年にもかかわらず捕らえるどころか、足になる馬を与えてしまったのだ。

「少年たちはリッジ砦に匿われているものとみて間違いないでしょうが、どうやって彼らを渡していただきましょうか。あそこにはもう一人のグラマトン使いの少年もいるそうですから、力で制圧するのは難しいかと。それにあそこは諸侯同盟との大切な防衛線でもありますし……」

 しばらく沈黙が続いた。するとそこへ、どこから入ってきたのか一羽の鳥が舞い込んでくると、教皇アンデクスの指先に止まった。

「ドルクア将軍、リッジ砦と諸侯同盟の防衛線の間に野伏を急いで配置するのだ。奴らに気づかれないよう迅速に。ローレン卿は直接リッジ砦に向かい、もう一人のグラマトン使いの少年と交渉してくれ。失敗してもいい。これは逃げ場をなくすための手段に過ぎない。できるだけ引き延ばし、砦に逃げ帰る道をふさげ」

 命令を受けた二人は一礼をすると、すぐに準備に向かった。女教皇アンデクスによる狩りが着々と進んでいる。だが、聖教国は必ずしも一枚岩ではない事をキュニゲオス卿が証明していた。そのキュニゲオス卿の行いが、ローレン卿にある決意を持たせたことは誰もしらなかった。

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