5節目
後ろから来る足音を聞きながら、下水道を奥へ奥へと進んで行く。やがて、頑丈そうな鉄格子で塞がれた突き当りへと出てしまう。
「こんな鉄格子、グラマトンで……!」
「主、こんな狭い場所で力を使うのは危険です。壁や天井が崩れるかもしれません!」
もはや逃げ場はないかと思われたが、老人が鉄格子の前で急いで懐から何かを取り出した。それは重厚そうな鍵で、鉄格子の鍵穴にぴったりと収まった。
すぐに鉄格子のカギが開き、先へ進む道が出来た。
「鍵まで持ってるなんて、じいさんいったい何者?」
「主、それよりも今は早く行きましょう!」
二人が鉄格子を抜けると、老人はその場に残り鍵を閉める。
「汝こそ救世主。私はきっとあなたの顔を忘れず、その道に常に日が差し続けるでしょう」
どうやら老人の案内はここまでのようだ。名残惜しそうに何度も振り返りながら貝紫は下水道を駆ける。最後に見た時には、老人は兵士に囲まれていた。
「主、光が見えてきましたよ!」
下水道の終わりは外に繋がっていた。それもオズマの外へ、あの老人のお陰でオズマから出る事が出来たのだ。
***
「バカな! 奴らに逃げられただと!」
兵士の報告を聞いてドルクア将軍は叫んだ。複雑に入り組んだ下水道を、オズマに来たばかりの人間が逃げおおせるとは思ってもいなった。何より、外へつながる道にはすべて、封鎖されている事を、彼は知っていた。
「この物乞いが鉄格子前でたたずんでおりましたので、連れてきました。恐らくこの者の手引きです」
そう言って兵士が突きつけた老人を見て、そルクア将軍はさらに驚いた。
「おい貴様、もっと丁重に扱え! このお方は傾聴審問官長キュニゲオス卿であられるぞ! 何故、貴方がこんな場所にいるのだ! まさかあの二人を逃がしたのは貴方だったのか!」
キュニゲオス卿と呼ばれた老人はよろよろとドルクア将軍の前に立つ。この隻腕の物乞いの老人が、傾聴審問官長キュニゲオス卿だと聞いて兵士たちも驚愕する。
「己の役目をお忘れか! 教皇にあだなす者がいないか、調べ見つけ出すのがあなたの役目!」
「我は主の目となり耳となり奉仕をせん。我は意志を持たぬ剣、嘘を言わぬ告発者なり」
追いかけていた御使いとその従者が何故、逃げ切れたか分かった。枢機卿の一人、傾聴審問官長のキュニゲオス卿の助けがあったからだ。下水道でオズマの外に通じる道は枢機卿しか開ける事の出来ない鉄格子によって守られている。
「撤収だ! 奴らは既にオズマの外に逃げた! 馬を飛ばして御使いたちを追いかけよ! この事は教皇にも伝えねばなるまい……言い分はそこで聞こうキュニゲオス卿」
ドルクア将軍に捕らえられたキュニゲオス卿は、初めからそのつもりであったかのように歩き出した。




