1節目
貝紫とシノーメが大聖堂を出て、オズマ市内に逃げた頃には情報が王の耳にも届いており、早くも二人は危険な魔術師二人組とされ、街中が混乱としていた。グラマトンを使えば切り抜けられそうだったが、無関係の街の住人たちに被害が及ぶのを恐れ、二人は極力隠れてオズマを脱出する方法を模索した。
「駄目です主、ここの門も既に封鎖されています。主な出入口はこれですべて封鎖されています」
民家の影から城門を覗き込むが、既に門は閉められ、その前で数人の兵士が何かを話し合っている。
「グラマトンさえ使えればな……他に外に出る方法はありそう?」
シノーメは首を横に振る。
「私自身、オズマに詳しいわけではないですので……ですが、宿の方もきっと押さえられているでしょう」
「救世主から一転お尋ね者か。どこか休めて考えられそうな場所は……」
貝紫が考え込んでいると、背後から突然肩を叩かれる。
「うわっ!」
びっくりしてふり向くと、そこには前に出会った片腕の物乞いの老人がいた。
「主曰く、助くべき人を助けよ。他者を愛し、また他者に愛されよ」
「この前の物乞い……言っているのは聖主の訓示か?」
シノーメが警戒しながら呟く。老人は背を向けて歩き出す。ついて来いと言わんばかりに何度もこちらを振り向く。
「あの人、助けてくれるのかな?」
「気を付けて下さい主。罠かもしれませんよ。褒美欲しさに我々を衛兵に差し出すつもりなのかも」
「でも他に当てもないし、ついていこうよ。恩返しのつもりかも」
狭い路地裏を歩いていく老人の後を二人はついていった。
「そういえばさっき言っていた聖主の訓示って何?」
「創造主である聖主が人々に残したとされる言葉です。かつて現れたという御使いや伝説上の英雄たちが残した言葉もありますが、聖主教がそれらを一つの書物にまとめて人々に言い伝えています。大人であれば一つや二つくらいは知っている普遍的な物です」
説明を聞いていると、オズマを流れる大きな運河に沿った通りに突き当たった。。しかし、そこにも二人の兵士が見回りをしている。
「流れる川は人生そのものである。時に干上がり、時に濁り、それでも海へとつながってゆく……」
老人はそう言うと路地裏から出ていき、兵の前へと歩いて行った。
「お恵みを」
「何だお前、さっさとどこかへ行け!」
「御使いは言った、聖主の名の下には人々は平等であり、皆主の子であると」




