11節目
怒りを表すように純粋な声量だけで、貝紫はグラマトンを放った。
「ギョタン! (斬りおとす!)」
貝紫の放ったグラマトンは大きな斬撃となって一瞬にして聖歌隊のグラマトンを打ち破り、ジョイサムリバー卿の頭部を掠めて大聖堂の壁に巨大な横薙ぎの傷を作り出した。その強さに二人の枢機卿は唖然とする。
「リオ アム オーデ!」
更に貝紫はグラマトンを唱える。光の波動が聖歌隊の間を流れると、少年たちの目に生気が宿り始める。
「あれ、ここはどこ?」
「司祭様、何が起こったんです?」
「これは、彼らの洗脳魔法が解けたの? こんな一瞬で……」
ローレン卿が貝紫のグラマトンの力に驚く。自分たちが作った聖歌隊があっという間に無力化されてしまった。
「行くぞシノーメ!」
混乱する聖歌隊たちと枢機卿の間を縫って、二人は大聖堂から脱出する。
「あれが本当のグラマトンの力……」
「ええい、何故二人を逃がしたローレン卿! 聖歌隊がいなくてもあなたの魔法ならもう少し足止めできたはずでしょう!」
二人が去った後、残された枢機卿のジョイサムリバー卿とローレン卿はその場に残っていた。ジョイサムリバー卿は頭上部の髪が丸ごと剃り落され、それを隠しながらローレン卿を詰る。
「あれほどの力を持つ相手に歯向かった所で割に合わないわ、魔法でもあれほどの力を使うには相当な魔力と精神力を使う」
そう言い放つとローレン卿は聖歌隊を集め出す。
「教皇猊下に言われてこのグラマトンの力を使うのに何年も研究とこの子たちへの実験を行った。それでようやく使えた力を、あの子はたった聞いたのを真似しただけで、こちらの想像以上の力で返してきた。我々には過ぎた力だったのよ。数年前にこの力を悪用しようとして追放になった部下がいたけど、恐らくその者にも手に余ってる事でしょう」
「情けない! 魔法大学の最高顧問がそんな弱気でどうする? こうなったらオズマ中の兵を向かわせて疲弊した所を捕まえてやる!」
「勝手にしなさい。私は他の枢機卿と教皇猊下に報告するわ。それに、この子たちの面倒も見ないと。聖歌隊はこれ以上手を貸せないわね」
まだ状況を呑み込めていない聖歌隊の少年たちをなだめながら、心の内ではローレン卿はグラマトンの真の力に感動を覚えていた。長年研究を行っていながら、自分はまだその力の一端すら完全に理解していなかったことを。真理を追究する者としての知的好奇心が刺激されて、グラマトンへの更なる研究をする必要があると感じていた。例え一生をかけても研究を続ける必要がある。だが、今度はやり方を変えねばならないと、貝紫の事を見て思った。それに、現教皇への不信感もあった。猊下もこのグラマトンの力を戦争の道具程度にしか思っていない。この力にはそれだけじゃないもっと大きな価値と真理がある。戦争だけに使うのは大きな損失だ。この力をもっと知るためにはリッジ砦にいるというもう一人のグラマトン使いに会う必要がある。既にローレン卿は先の事を考え始めていた。
「私は諦めんぞ。このオズマから絶対に逃がさん……こんな時に傾聴審問官長のキュニゲオス卿はどこへ行っているのか。審問官の力も借りられれば、もっとたやすく事が済むはずなのに……」
ジョイサムリバー卿は頭を触った。完全に頭頂部の髪の毛がなくなっていることに気が付くと、羞恥とも怒りともつかない表情をする。
「兵は何処だ! 危険な魔術を使う二人組が大聖堂から逃げたぞ! オズマの門を封鎖し、何としても捕まえるのだ!」




