9節目
教皇たちの根回しは早かった。既に貝紫たちは捉えるべき相手として他の兵士たちには伝わっており、次々とやってきては二人の行く手を阻んだ。
「サン ノリ クァバー アム オーディ!」
相手の動きを止めるグラマトンで、兵士たちの動きを止める。相手が少数ならば、シノーメが無力化できるが、数が多い時はグラマトンで道を切り開く。
「主、大丈夫ですか?」
「平気さ。それより急ごう。動きを止めてもいつ効果が切れるか分からないからな」
走りながらグラマトンを使うのは予想以上に体力を使った。それでも兵は次から次へとやってくる。一度通ってきた道がとても長いものに感じた。
「出口までもうすぐです。しかしこのまま大聖堂を出ても、恐らく街中も敵だらけでしょう……」
「何とか街の外まで出て、リッジ砦に向かおう。ロッソにもこの事を伝えなきゃ」
そういう二人の前に今度は意外な人物が姿を見せた。至上司祭ジョイサムリバー卿と最高顧問のローレン卿だった。
「いやはやグラマトンの力は素晴らしい。それなのに力を貸していただけないとは残念です」
「分かっているならそこをどいてもらおうか。枢機卿と言えど容赦はしませんよ」
シノーメは話をしながらローレン卿の方を警戒していた。魔法大学の最高顧問、恐らく本人もかなりの力を持った魔法使いだ。どんな手を使ってくるか分からない。
「もっと、大局という物を考えなさい。ここで我々に手を貸して聖教国のために力を奮えば、それだけ戦争の終わりが早まることを……」
「その言葉は時間稼ぎのつもりか? あんたたちとはこれ以上話をするつもりはない!」
貝紫の言葉にジョイサムリバー卿はやれやれとかぶりを振ると、ローレン卿に合図を送る。
「前へ」
ローレン卿の言葉に二人の後方から小さな影が姿を見せた。聖教国のローブを着た貝紫とそう歳が変わらない少年だった。しかし、その表情から性器は感じられず、眼にも光はなかった。
「行きなさい」
ローレン卿が冷たく言い放つと、その少年は貝紫たちに向かって口を大きく開いた。
「ギョタン!」
なんと、少年はグラントンを使ってきた。言葉が衝撃波となって貝紫に向かって飛んでくる。
「主!」
シノーメが前に出て盾をかざす。盾に剣が振り下ろされたような金属音と衝撃が走った。二人は自分たち以外のグラマトン使いを聖教国は抱え込んでいた事に驚いた。
「聖歌隊前へ」
今度は同じ格好をした少年たちが次々と姿を見せる。教皇が言っていたグラマトン使い達とは彼らの事だったのだ。




