6節目
自分たちだけで話を進め始めた枢機卿たちに貝紫は口をはさんだ。
「自分はこの戦争で、聖教国に力を貸すつもりで来たわけではありません」
「それはどういう事か? 戦争を止めると言っていたではないですか!」
「リッジ砦は兵士たちが危なかったから力を貸しただけで……この戦争で自分はどちら側にも属するつもりはないんです。聖教国にも、諸侯同盟にも」
レリク卿の言葉にそう貝紫は返答した。リッジ砦で活躍してるのはロッソの事だが、神の言語を使える御使いが複数いると分かったら混乱するかもしれないという事で、自分のやった事にして話した。これは事前にシノーメと相談して決めた事だった。
「予言を聞いたことがあるでしょう。このまま聖教国と諸侯同盟が争いを続ければ、大きな災いが起こるかもしれないんです。ですから、自分はすぐに両者に戦争を止めてもらいたくて相談しにここへ……」
「そんな事が簡単にできるはずがなかろう! これはただの子供の喧嘩などとはわけが違うのですぞ!」
ドルクア将軍が部屋中に響くような大きな声で怒鳴る。本人も思わず本音が出たらしく慌てて言葉を正す。
「とにかく、この戦いはそう簡単に止めることなどできぬのです。聖教国そのものの在り方が問われているのですから」
確かにそれは貝紫にも分かっている。だが、その上でここに来ているのだ。
「それは十分承知の上です。ですが、自分が御使いだと分かれば、諸侯同盟は戦争を続けることができないはずです」
その根拠は諸侯同盟の教義にあった。諸侯同盟は教皇を聖主の代理人とは認めておらず、グラマトンを使う御使いと呼ばれる存在だけが唯一聖主の代理人たると。つまり、彼らにとって貝紫だけを神の代理人として扱うとなる。
「諸侯同盟との指導者と面会をさせて下さい。そうすれば、向こうも話を聞かざるを得ないはずです」
「それならば、どうして直接諸侯同盟の指導者に会わないのです?」
最高顧問ローレン卿が口を開いた。外見は若々しいが、その声には女教皇に匹敵するほどの威厳が感じられる。恐らく予想以上に実年齢は高いのだろう。
「もし直接諸侯同盟の方へ向かったら、言葉を聞くよりも先に戦争を続ける象徴として祭り上げられる危険性があったからです。でも、聖教国側にいれば諸侯同盟もおいそれと手を出すのを控えるでしょう」
聖教国側に自分たちの祀る存在がいると分かったら、諸侯同盟としても簡単に手出しが出来なくなる。そうして落ち着いたところで面会の申し出を出せば、向こうも話を聞かなければいけない状態になる。そこで和平を持ち掛けるのが貝紫とシノーメの考えた計画だった。
「和平だと? そんな事をしてもいずれまた理由をつけて攻撃してくるに違いない! やつら破門された連中のいう事など信用できるか!」
「しかしこのまま戦争を続けても状況的に分が悪いのはこちら側です。オズマに近いリッジ砦にすら補給がままならない程なんでしょう?」
図星なのか鼻息を荒げていたドルクア将軍が口をつぐんだ。
「確かに聖教国は疲弊しております。長年続けている戦争のせいで財政もままならず……」
「しかしそれは諸侯同盟も同じはず……!」
「諸侯同盟についてる王侯貴族はドルクア将軍が思ってるより多いのですよ。それに税の負担も大きく、聖教国のいろんな場所で不平不満が出ているのです」
国の財政を管理してるだけあってレリク卿は聖教国の現状に詳しそうだった。貝紫は女教皇アンデクスの方へ視線を移した。枢機卿たちの意見を聞いてどうするつもりか考えているのだろう。これまで黙ったままだ。しかし、状況的に貝紫の言い分に分があると分かっているはずだ。




