5節目
「さて、御使い殿には名乗らなければなりませんな」
「私は至上司祭ジョイサムリバー卿」
口を開いたのは老齢に差し掛かってきたであろう男性だった。まるで横に引き伸ばしたカエルのようにでっぷりと肥え、たるんだ肉を歪ませて微笑んでいる。こういう人間ってあまり信用できないと、貝紫に第一印象でそう感じさせる雰囲気があった。
「最高顧問ハルローレン卿」
ジョイサムリバー卿の反対側にいる女性が簡単な自己紹介をして一礼する。貝紫の想像以上に若く、顔にはメガネの様な装飾品を身に着けている。
「十字軍将軍ドルクア将軍と申す」
中年の厳つい男性が自己紹介をする。大きい鷲鼻に豊かな口ひげ、鋭い眼光はまさに軍人と言った風貌で、威圧感が全身からにじみ出ていた。
「聖櫃宝管理師のレリク卿とおっしゃります。どうかお見知りおきを……」
背丈は貝紫とそう変わりなさそうな小男が首を垂れる。緊張からなのか、それとも別の何か考え事があるのかせわしなく周囲を見渡す様は、神経質な性格を感じさせた。そういう人間だからこそ、財務の管理を任されているのだろうと貝紫は思った。
「この大事な集会にも関わらず、傾聴審問官長キュニゲオス卿は職務で忙しくご不在でおりまして、空席となっておりますがどうかご容赦ください」
5つ目の席は空席でレリク卿がその理由を説明する。慣れた口ぶりからこの枢機卿は度々席を外しているのだろうと貝紫は思った。
「そして私が現教皇、マリーアンデクスです」
教皇が女性だったことに貝紫は内心驚いていた。赤と白の装束に身を包んだ褐色の中年女性だった。御使いと思われる貝紫を見ても落ち着き払った態度で臨む姿は神の代理人として威厳に満ち溢れていた。
「お会いできて光栄です御使い殿。グラマトンを使えるあなたの存在を、我々は何年も心待ちにしておりました」
教皇の威厳溢れる声に思わず緊張する貝紫だったが、自分も御使いと言う救世主であることを思い出して、負けじと声を張って答える。
「おれ……私もお会いできて光栄です。教皇の方々……えと、自分は松下・ヨハン・貝紫と申します」
あまりこういう大人がするような言葉のやり取りは慣れていないため、失礼のないように必死で言葉を選びながら貝紫は答える。
「ええと、自分は神の言葉グラマトンが使える事が分かって、もしかしたらこの力で戦争を止められるんじゃないかと思い、ここまでやってきました!」
貝紫の言葉が部屋中に響く。指導者たちは無言でそれを聞いていたが、ドルクア将軍が先最初に口を開いた。
「風のうわさで聞いている。陥落寸前だったリッジ砦が一人の少年で戦局が変わったという事を……それが御使い殿のお陰なら、力を貸してもらえたらすぐに諸侯同盟を倒すことが出来そうだ」
それに対してジョイサムリバー卿が口を開く。
「ええ、確かに。予言に言われる救世主は神の言葉グラマトンの力を使う御使いに符合する。何よりその力を扱うのは見た目も声も麗しい美少年! 彼が先陣を切ってくれれば兵の士気も上がりますな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」




