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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
聖都オズマの狂想曲 前編
37/114

3節目

 シノーメが見つけた宿も、これまでの旅の宿とは違い、ふかふかとしたベッドだった事に感激した。慣れたとはいえ、これまで横になってきたベッドは固かったり、臭かったり……元の世界が恋しくなることが何度もあった。

「幸い資金はあるから数日はいる事が出来るでしょう。もっとも主がグラマトンを使う御使いだと認めてもらえれば、そんなことに困らなくなるでしょうが」

「ご飯も食べて風呂も入って、明日は王に会いに行くけど興奮して眠れないかも……そういえばここの指導者たちってどういう人たちなんだ?」

「聖教国は教皇と、それを補佐する複数の枢機卿が統治をしています。枢機卿は5名で全員国の各分野での最高責任者。彼らと相談した結果を勅令として教皇が発表するのが聖教国での一般的な統治方法です」

 枢機卿は司祭たちの叙任、派遣を担う至上司祭、大聖堂の内部にある魔術大学の最高顧問、聖教国軍の軍事責任者である十字軍将軍、財政を担う聖櫃宝管理師、そして国内で悪心を持つ者がいないか調べているという審問官を従える傾聴審問官長、その5名からなるという。彼らからの信任と前教皇から直接の任命を受けた者が新たな教皇となるという。

「元々諸侯同盟は、教皇に異議を唱えて破門された王族たちが集まって出来た物なので、私でもそれくらいなら知っているんです」

 事の発端が6代前の教皇グイル6世が、各地の王族や貴族が治める領地の内政にまで口を出すようになり、その干渉にいち早く拒否反応を示したのが現諸侯同盟代表アロンズ王家だった。教皇の振る舞いに以前から難色を示し、教皇は聖主の威光を利用しているだけに過ぎないとその権威を否定し、対して教皇は当時の王に破門を言い渡し、これによって対立は決定的となった。

 初めはアロンズ王家が赦しを請うと思われていたが、逆に教皇に不満を抱えていた他の王族や貴族を集めて団結し、新たな教義と諸侯同盟と言う連合国家を作り上げた。

そして今日に至るまで、聖主の代理人として教皇が頂点に立つ聖教国と、教皇の権威を否定し新たな教義で聖主を奉る諸侯同盟との戦争が続いているという。

「私もかつて所属していた諸侯同盟の教義では、創造主である聖主の代理人はグラマトンを使える者、御使い以外に存在は認めないとしている。実際にグラマトンを使える者はスプリジョンの歴史上これまで存在しなかったため、あくまで直接聖主を崇めるものだというだけの意味合いしかありませんでした。ところが……」

「俺やロッソみたいにグラマトンを使える人間が現れたんだな」

「もし諸侯同盟のお偉方が知ったら間違いなく主を指導者として、より聖教国に強く出ていたでしょう。そういう意味では、聖教国側にいてよかったと思います。より激しい戦争になっていたでしょうから。逆に教皇のいる聖教国なら、代理人である教皇が御使いについて言及をしていないので、下々の者たちには混乱は少なく済んでいるのだと思います」

 御使いと言う存在が自分の想像以上に影響力のあるものだとようやく貝紫は気が付いた。

「何だか途方もない話だな。ついていくのがやっとだ……」

「とにかくグラマトンを使える主はどちらにとっても重要な存在という事です。さ、そろそろ明日に備えて寝ましょう」

 シノーメが明かりを消したが、貝紫は緊張でなかなかな眠れなかった。


***


 翌日眠い目をこすりながら謁見するために服装を整えた後、まずは聖都の城塞で王と謁見することになった。不安だった貝紫だが、シノーメの言った通り王との謁見は意外なほど早く済んだ。城の門番に手紙を渡し、それから謁見の間に連れてこられたが、肝心の王様は妙にそわそわとせわしない様子で、シノーメがこれまでの経緯を簡単に説明し、教皇への取次ぎを願い申すとあっさりと認めてくれた。シノーメの言う通り、オズマの治安維持に務めているだけで、グラマトン使いの少年という存在は自身の手には負えない問題だと判断したのだろう。

 貝紫はなんとなく、元の世界で両親に連れられて行った役所の事を思い出した。色んな受付を行ったり来たり、たらい回しにされる記憶。もっとも、今の場合は王様よりもっと偉い教皇に会えるのだから手っ取り早くて助かった。

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