11節目
「本当にリッジ砦に残るのか?」
「ああ、諸侯同盟もまたいつ来るか分からないし、ここの兵士たちにとって僕は大切な戦力だからね。だから、聖都には君が行きなよ御使い様」
決闘が終わり貝紫が勝利すると、リッジ砦では盛大な宴が行われた。彼らにとってはグラマトンが使える少年が増えたことの方が重要で、諸侯同盟との戦いがより有利になる事には変わりない。どちらが救世主たる御使いかは二の次だった。
「そう呼ぶなって、こそばゆいな……」
「まあ、この僕に勝ったんだからそれくらいの資格はあるんじゃない? 本当に戦争を終わらせるつもりなんでしょ?」
最初は周りからヒーロー扱いされたいという気持ちは確かにあった。けれども、今は純粋にこの世界で出会った人々のために、長く続く戦争を終わらせたいという気持ちの方が強くなっていた。
「だったら遠慮することないさ。もし力が必要な時はこの僕が力を貸してやってもいいんだぜ?」
「じゃあ、もしそんな時が来たら頼むかな」
二人は手を取って握手を交わした。そんな主人たちを見て、二人の従者も顔を見合わせる。
「決闘での失言、申し訳ありませんでしたシノーメ殿。あなたは立派な騎士です」
「済んだことです。それに、あれは実戦では使えないインチキのようなものです。それを使わなければ貴方ほどの騎士には勝てなかったでしょう」
従者二人のわだかまりも解消されたようで貝紫はほっと安心した。
「リッジ砦は聖都に最も近い砦の一つです。徒歩でも数日で着くことができるでしょう。お元気で」
「じゃあね、頑張れよカイ!」
そう言って、貝紫たちは聖都に向けて出発し、リッジ砦を後にした。
***
貝紫が去った後も、ロッソはまだその場に残っていた。
「ロッソ殿、私が言うのもなんですが、負ける事は決して恥ずかしい事ではないのですよ。だから泣かないでください」
「泣いてなんかいない!」
貝紫の前では取り繕っていたが、負けたロッソは悔しさのあまり涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃになっていた。ゲオルの方を振り向くことも出来ず、嗚咽と鼻をすする事しかできなかった。
「例え負けたとしても生きていれば、やり直すことができるのです。私はそれを貴方から教えられました」
「どういう事?」
「貴方がリッジ砦に来るまで、私は臆病な人間でした。戦争が怖くて、ほとんど砦に引きこもってばかり、眠る事さえできなかったのです」
ロッソが来た時にはリッジ砦は陥落寸前だった。補給もままならず兵士たちも疲弊して次々と倒れていった。実際は諸侯同盟の精強な軍相手に、いつ破られておかしくない状況だったのだ。
「私が生き残れたのも本当は強かったからではないのです。負けて逃げて、砦に隠れながら生き延びるのに必死だっただけでした……」
そんな時にこの世界にロッソが迷い込んできたことで、リッジ砦の兵たちは戦う理由が出来た。ロッソを守るという理由が。
「それだけじゃない。貴方はグラマトンと言う奇跡を起こし、戦況を変えた。その出来事が我らに戦う力と勇気を与えてくれたのです」
ロッソと言う存在がリッジ砦の兵たちに生きる気力を与え、彼らの士気を上げた。
「ですから、貴方は我々にとっては救世主であることに変わりないのです。誰が何と言おうとそれだけは変わりません」
「……そっか、気づかなかったよ。僕は他の人にも認めてもらいたくて、そう思ってくれている人の事が見えていなかったんだね」
「ですから、砦に戻りましょう。リッジ砦の兵があなたを待っています。救世主様」
予言にも救世主は一人だけとは言われていない。それはこの先の未来が決めることだ。




