10節目
「さあ、いくぞ。これで僕の勝ちだ!」
ロッソが大きく息を吸う。貝紫もそれは同じだ。だが、声の大きさで勝負すれば戦場で兵士たちの応援をしていたロッソには勝てない。ならば、自分の従者シノーメが守るために戦う事が本文であるように、自分が取る手段は聖歌隊の本分でだ。
「ヴォイ・ド ア コルダー!」
「リオ アム オーデ!」
ロッソがいつも通り大声でグラマトンを唱えるのに対し、貝紫の詠唱は一回目と大きく違っていた。最初は呟くように小さく、徐々に声量を上げていき、抑揚をつけて唱える。声の大きさでは圧倒的にロッソが勝っているにもかかわらず、その歌うような貝紫の声は砦の兵士たちにも聴こえた。
グラマトンの様子も先ほどとは違っていた、光の波が衝撃波をせき止めるように受け止めていたが、今度の貝紫のグラマトンは全身から強く発光してるかのように強力な光の勢いよく放たれ、ロッソの衝撃波を押し返す。
「そんな!」
ロッソが驚きの声を上げる。自身のグラマトンが無力化されたのもそうだが、貝紫の唱えたグラマトンの変化の方が理由だった。一回目の物とは別物と思う程強さが違った。
「今のは俺の勝ちってことでいいのか?」
貝紫は落ち着き払ってロッソに話す。何かを掴んだかのような絶対的な自信に満ち溢れていた。
「いいさ、次で決着だ!」
ロッソの闘争心に火が付いた。さっきまでは貝紫の安全を考慮して威力を抑えていたつもりだった。しかし、絶対に負けたくないという激情に駆られて、ロッソは全力でグラマトンを唱える。
「ヴォイ・ド ア コルダー!」
喉がつぶれんほどの声量で唱える。威力もこれまでとは段違いだ。大群どころか山をも吹き飛ばせそうな威力の衝撃波が放たれる。
「リオ アム オーデ!」
それを見ても貝紫は不思議と恐怖を感じなかった。より強く、より勇ましく、グラマトンを唱える声に力を込める。
目もくらむ光が放たれて、それを見ていた砦の兵士たちは怯んだ。グラマトンがぶつかり合う衝撃が彼らにも届く。恐る恐る目を開けた時、さらに彼らは驚いた。
あれほどの衝撃があったにもかかわらず、ロッソと貝紫の二人は元の場所に立ったままだった。ロッソは肩で息をしてる程に疲労しているが、貝紫は汗一つかいていない。ロッソの全力のグラマトンを完全に打ち消したのだ。
「俺の勝ちだ!」
歌うことに関してならロッソには負けない自信があった。声量だけでなく、周囲との調和、音程、声の響かせ方。それらを駆使してグラマトンを歌声に乗せて唱えた。そうすることで神の言語であるグラマトンはより強く力を発揮することが分かった。
貝紫の言葉に、最初は半信半疑だった砦の兵士たちも徐々にその勝利を認め歓声を送った。




