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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
ロッソとゲオルの二重奏
30/114

7節目

 騎乗による馬上からの槍の一撃は、騎兵にとって最大の威力を持つ攻撃だ。重騎士の鎧を破るだけでなく、時には盾ごと貫く必殺の一撃。ゲオルが諸侯同盟から砦を守り続けているのも、その騎馬戦の強さが理由の一つだ。

「今更、止めるなどとは言わせんぞ。例え馬に乗らずとも手加減すると思うな」

 一騎打ちの光景にしては異様な光景だった。一方は馬に跨り長い槍を持ち、もう一方は鎧兜を身に着けているものの、肝心の馬にすら乗らず武器もなく、代わりに盾は野戦の時よりも大きく頑丈な大盾を手にしていた。この試合の異様さに砦の兵士たちもざわついている。

「そんな気はさらさらない。もちろん負けるつもりも」

 誰もがシノーメを正気だとは思っていなかった。主である貝紫を除いて。

試合開始の笛が鳴り響く。先の野戦試合とは打って変わって、場は静まり返っていた。ゲオルの馬が歩き出し、徐々にスピードを上げてシノーメに向かっていく。

 シノーメも盾を構えるが、騎兵の一撃を受ければひとたまりもない。むしろ防御だけで、如何に勝つと言うのだろうか。

「おおおおおおお!」

 馬が全速力で駆け、ゲオルは雄たけびを上げながら槍を構えた。一瞬で結果が出る。誰もがゲオルの勝利を確信して見守っていたが、気づいたときにはゲオルが馬から落ちていた。

「いったい何が起こった!?」

 刹那の瞬間、シノーメは攻撃を受けるでも避けるでもなく、自ら前に飛び出してゲオルが振りかぶった槍の穂先に当たりに行った。ゲオルが力を込めて槍を突き出すほんのわずかな直前、タイミングがずれたことでシノーメがゲオルを槍ごと押し出す形になり、反動で馬から押し倒された。この神技ともいうべき行為に、驚愕しつつもすぐに立ち上がろうとするゲオルを、シノーメが組み倒す。

「私の勝ちだ。武器を使うのはあまり得意でないのでね」

 シノーメの兜の隙間から汗玉がこぼれた。今の一瞬で相当な集中力と神経を使ったのだろう。鎧の下のシノーメは全身から汗が噴き出ていた。

「負けていない! いいや突いた私の方が勝ちだ! お前は私の突きを受けた。攻撃を当てたのは私の方だ!」

「今の一撃を受けた私より、むしろお前の腕の方が傷を負っただろう。現に組み敷かれた体勢から身動きがとれまい」

 シノーメの言う通り、本来出すはずだった突きの反動を腕全体で受けたのだ。ゲオルの肩は外れて、その状態で組み敷かれては解くことが出来なかった。

 しかし、この状況に審判の兵も困惑していた。一騎打ちの決闘で槍を突いた方が馬から落ち、受けた側が立っているなど前代未聞の出来事だ。どう判断すればいいのか分からず勝敗を決めかねていた。

「審判!」

 どよめく中から気勢のある声が響いた。その主はゲオルの主人であるロッソだ。

「この勝負、こっちの負けだ。ゲオルの主である僕が宣言する」

 ロッソの敗北宣言は、さらに周囲と審判を困惑させた。

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