1節目
ドサの村の件から貝紫は得意顔でオズマへの街道を歩いていた。聖都に通じる道は様々な人間が行き来していたが、出会う行商人や旅人もグラマトンを使う少年の話でもちきりだった。
その話の中心にいるのは、当然自分自身だからだ。それで気持ちよくならないはずがなかった。
「有名人は身分を隠すのがつらいよなシノーメ!」
「その割には嬉しそうに見えますが」
街道の向こうから話をしている2人の男がやってきた。貝紫は早速耳をそばだてる。
「なあ聞いたか? 例の噂話……」
「ああ、神の言語を使う少年がいるって話だろう? でも……」
一人の男が得意げに話す。
「俺はその少年を実際に見た。リッジ砦へ補給品を届けに行った際にな! まるで天使の様な美少年なのに、とてもしっかりしていて思わず背筋を伸ばすくらいさ」
貝紫の表情が固まる。それもそのはずで、リッジ砦と言う場所には行った記憶はなかった。それなのに、この男の人はそこでグラマトンを使う少年に会ったという。
「そこのおっさん、ちょっといい?」
貝紫がその男に話しかける。シノーメは貝紫が何を考えているか想像がついたが、口を出さなかった。
「おお、どうした少年? そうそう丁度お前さんの様な美少年で、凄い力を持った人間がいるって話をしていた所だ」
「ぜひ、その凄い力を持った美少年って奴に会いたいんだけど、リッジ砦って場所を教えてくれない?」
グラマトン使いを騙る少年が存在する。グラマトン使いである貝紫にはどうしても許せず、直接その少年に会って話をつけようと決心した。
***
「主、あまりこういう戦場に近い場所は危険ですので近づかない方がいいですよ。それに、自分は既に脱走した身とはいえ元々は諸侯同盟の所属でしたから、バレたらただ事じゃないです」
「でも気になるじゃんか! グラマトンを使う少年が俺以外にいるって! もしかしたら偽物かもしれないだろう」
リッジ砦は聖都オズマから南東にある、最も近い諸侯同盟との防衛線の一つだ。ここを破られれば聖都が直接戦火にさらされてしまう。そういう重要な拠点だった。
そのためか、砦周辺は戦闘の跡が未だ残っており、門は固く閉ざされていた。二人が城門前に来ると、城壁にいた見張りの兵士が声を張った。
「何者だ!」
「俺たちはただの旅人です。この砦に神の言葉を使えるを少年がいると聞いてきました。その少年に会わせていただけないでしょうか」
「例えいたとしても、何故お前たちの様な正体もわからぬ旅人に会わせる必要がある!」
やはりただでは会わせてもらえないと思ったが、別の兵士がやってきて見張りの兵士に耳打ちをすると、表情を変えて二人に言った。
「旅人よ、御使い様がお前たちを砦内に案内せよと命令が下った! すぐに城門を開ける!」
見張りの兵士が合図すると重い音を響かせながら門が開いた。二人がリッジ砦に入ると、ずらりと兵士が並んで二人を迎える。
その先に貝紫と同じ位の美少年が一人の兵士をそばに連れて待っていた。意志の強そうなきりっとした目つき、短くて炎が燃え上がっているような赤い髪、背丈は貝紫とそう変わらない。
「どうやら彼がグラマトンを使える少年のようですね。御使いと呼ばれていましたが……どうしました主?」
「な、何でロッソがここにいるんだ!」
貝紫が少年を指さし、そう叫んだ。




