表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
沼術師レンデルの歌劇曲
21/114

5節目

 しばらく暗闇が続き、やがて身体を縛られても貝紫は諦めず抵抗を続けていた。突然、固い地面の上に

投げ出されて目隠しを外されると、薄暗い洞窟の中にいる事が分かった。

「ようやく会えましたわね。御使い殿」

 村人の一人が明かりをもって立っており、その隣に一人の女性が立っていた。背が高く、

暗闇に溶ける様な黒いローブをまとった陰気な女性だった。

「まさか、本当にグラマトンの力を使える者がいたなんて……それになんて美しい……お会いできて光栄です」

 貝紫のそばに立つ村人が猿轡を外す。この女性はグラマトンの事を知っている。だが、それよりも貝紫は憤っていた。

「お前がここに連れてこさせたんだな! 村人たちがおかしいくなってるのもお前が原因だな!

こんなグルグル巻きにしやがって!」

「落ち着いて、そんな粗野な言葉使いはいけませんよ。せっかくの美声とお顔が勿体ない……」

「落ち着いていられるか! 魔物がいたんだ! シノーメを助けなきゃ!」

「あの従者の事かしら? あの男なら私の人形に倒されてる事でしょう。所詮何の能力もない

ただの人間。お忘れになって」

「私の人形?」

 女の言った言葉を貝紫は聞き逃さなかった。

「ええ、ご紹介が遅れましたが私の名前はレンデル・ウィスパード。グラマトンを研究している

魔術師でございます……」

「そんな事より、沼地の魔物が人形ってどういうことだ!」

 自己紹介が途中で遮られたのが不服だったのか、レンデルは一瞬顔を歪ませたがすぐに平静を装った。

「ええ、ええ私は魔術で土に命を込めて操る魔法が使えるのです。聖都でも優秀な魔術師でしたので……

先述の通り私はグラマトンを研究しておりまして、その邪魔が入らぬよう、土人形を使って邪魔な

者どもを遠ざけていたのです。このドサの村の連中も魔法で手伝いをさせていたんですよ」

 貝紫とレンデルを取り囲むように村人たちが立っているが、彼らは皆うつろな顔をしている。

「土人形を操るのと同じ要領で、村人たちに魔法をかけて好きなように彼らを操ることができるのです」

「ふざけるな! そんなことのためにドサの村や周りは迷惑してるんだぞ!」

「凡俗たちのことなど、どうでもいいではありませんか。それよりも我々には大切なことがあるじゃない

ですか。私の魔法よりもさらに上を行く古代言語グラマトン! その神秘を紐解く研究の方が、

この世界にとって何よりも大切な……」

 沼の魔物は魔術師レンデルの仕業だった。しかし、彼女は身勝手にもその迷惑を顧みることなく

グラマトンの研究にしか目もくれていなかった。その態度が貝紫の怒りに触れた。

「勝手な事言うな! そんなことしてグラマトンの事が分かっても俺は絶対許さないぞ!」

 この世界に来て何も分からない貝紫を助けてくれたのは、ミッカジ村の人々だった。グラマトンが

使える事を知らなくても、レンデルが凡俗と呼んだ普通の人々が貝紫に親切にしてくれた。そんな

人々を無下に扱うレンデルは、貝紫にとって何よりも許せなかった。

「やれやれ、グラマトンが使えると言っても、やはりただの子供か……がっかりです」

「勝手にしろ! 今すぐ村人を解放しろ! さもないと……むぐっ!」

 貝紫は再び猿轡をされて、言葉を発せなくなってしまった。

「グラマトンを使える操り人形がいたら、私の研究も大きく前進するでしょう。私を追い出した聖都の

連中に目に物を言わせてやりましょう!」

 腕を掲げて近づいてくるレンデルに対し、貝紫はなす術がなく、脳裏にシノーメの顔がよぎった。

助けを求める貝紫の心の声が聞こえたのか、二人の間にシノーメが割って入り、レンデルの腕を払い除ける。

「魔術師よ、わが主から離れろ!」

 暗い洞窟の中でシノーメの勇ましい声が響き渡る。突然の闖入者に驚いたレンデルは大きく退いた。

「貴様、何故ここに! 奴をとらえよ人形ども!」

 レンデルが声を上げると村人たちが数に物を言わせて飛び掛かる。だが、シノーメは襲い掛かる彼らを

弾き、受け流し、投げ飛ばす。そして、拘束された貝紫を素早く助け出す。

「ぷはっ、シノーメ無事だったんだな!」

「逃げ足だけは自信がありますから……間に合ってよかった」

 拘束を解いて、ほっと安堵の表情を貝紫に向ける。

「くっ、土人形よ奴らを捕らえよ!」

 貝紫たちの周囲の地面が盛り上がり、巨大な人型となった。貝紫たちを襲った沼地の魔物、これらは

レンデルが魔法で生み出した土塊の傀儡だ。その大きさと力は人間を優に超える。

「今度こそ俺の出番だ!」

 貝紫が声を発する。洞窟中に鈴の様に澄んだ声が響き渡り、光となって周囲へ満ちてゆく。

「リオ アム オーデ!」

 光の波を受けた土人形たちは、あっけなく粉々に崩れていった。魔術の力も神の力の前には敵わない。

「これがグラマトンの力……おのれ!」

 レンデルは背を向けて洞窟の奥へと消えて行った。

「待て! 逃がさないぞ!」

 二人はレンデルを追いかけて駆ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ